The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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断裂

「周辺一帯に反応なし、オールクリアだよ」ヒビキ

 

「ふぃ~、中々数が多かったね……!」モモイ

 

「うん、最初は三体だけだと思ったけれど、後から沢山来ちゃったし──」ミドリ

 

「ま、まだバレてない、よね……?」ユズ

 

「此処は地下だし、戦闘音も地上に聞こえる程派手には出ていなかったと思うけれど」ウタハ

 

「爆発物は控えめにしましたから!」コトリ

 

 

地下通路に転がる幾つものAMAS、破損したそれらを前に言葉を交わすゲーム開発部とエンジニア部。最初は三機だけだったAMASも、偶然か必然か、後から後からと僅かずつ増援が重なっていき、最終的には十二機のAMASを撃破するに至った。幸運なのはこれらが纏めて出現したのではなく、三機ずつ四度の戦闘を繰り返した事。

ヴェリタスの言葉通りならば今此処で撃破したAMASも、リオ会長たちからすれば依然変わりなく稼働状態のままに見えている筈だった。ずっと構えていた愛銃を下ろし、ゆっくりと息を吐き出すモモイの耳に通信が届く。

 

 

皆さん、C&Cから合図を受信しました、コールサイン・04(飛鳥馬トキ)との交戦を開始したとの事です」コタマ

 

地上のドローンも大体C&Cの方に向かったみたい!」マキ

 

地下通路を出るなら、今のタイミングだね」ハレ

 

 

通信はC&Cが行った陽動に本命であるトキが釣られたと云う報告。それを聞いたゲーム開発部は作戦通りの展開に表情を明るく変化させ、ウタハは耳元のインカムに指先を添えながら小さく頷く。

 

 

「よし、なら急ごう」ウタハ

 

 

「良いタイミング、だね」ヒビキ

 

 

「や、やっと地上……!」ユズ

 

 

薄暗い地下通路を只管進み地上を目指す一行。手にした端末からホログラムが表示され、マップを表示し皆の行くべき方向を指し示す。

 

 

「作戦通りC&Cが囮として活動している第三区画、中央通りからは離れた位置に出ます、通路番号は十六番です、間違えないように」コタマ

 

 

立体的な赤い矢印を動かし告げるコタマ。全員が彼女のガイドに従い通路の出入り口、その一つへと辿り着く。地上への階段はセキュリティによって封鎖されていたが、ヴェリタスの協力を得た今殆ど素通りに近い。階段を駆け上る一行、徐々に明るさを取り戻す視界に胸を高鳴らせ、外界へと飛び出す。

瞬間、刺す様な痛みが瞳に走った。眩い夕焼けが彼女達を照らし、暗闇から一気に世界は彩を取り戻す。

 

 

「わっ、眩し……っ!」モモイ

 

 

「も、もう陽が沈み始めているの?」ユズ

 

 

「ビルに夕焼けが反射して、綺麗──」ミドリ

 

 

エリドゥを囲う高壁、その周辺を囲う様に隆起した山脈に隠れ行く光。その陽光を反射したビルの光は儚くも幻想的であった。望外の景色に一瞬我を忘れ、思わず見入るゲーム開発部に反し、エンジニア部は周囲のビル群や街道、設備などをじっくりと観察する。

 

 

「映像で見た時とは少し印象が違うね、まるで大都会そのものだ──まぁ技術的にも、そう引けはとらないのだろうけれど」ウタハ

 

「ミレニアム中央区画の一ブロックと云われても信じてしまいそうです……!」コトリ

 

「自分の目で見てみると、本当に凄い」ヒビキ

 

「……情報通り、ドローンは何処にも居ないようだね」ウタハ

 

流石C&C、陽動は抜群だ」ハレ

 

「ほ、本当に一機も居ない何て、ちょっと怖い、かも」ユズ

 

「それだけ私達の作戦が上手くいっているって事でしょ!それで、此処からはどう動けば良いの?」モモイ

 

「現在地からルートを算出しました、左手にある大通りを真っ直ぐ北に向かって下さい」コタマ

 

アリスが居ると予想される中央のタワーには、そこから遠くない筈」ハレ

 

「此処から全力で走れば三十分──いや、二十分程度かな?」ヒビキ

 

「今の内にガンガン進んじゃおう!GO、GO~ッ!」モモイ

 

拳を突き上げ駆け出す彼女に、ゲーム開発部とエンジニア部が続く。エリドゥを照らす暁の中、六人の影が真っ直ぐ伸びていた。しかし…

 

 

 

 


 

 

 

 

はっ、ひっ、はふっ……!」ユズ

 

「ゆ、ユズちゃん、大丈夫?」ミドリ

 

う、うん、なん、とか……!」ユズ

 

 

案の定全員体力不足であった。全力疾走を繰り返す彼女達は時間と共に体力を削られ、部室に籠りがちで最も体力の少ないユズが悲鳴を上げ始めた。しかし一方のモモイやミドリは存外平気そうだった、彼女達はダンスゲームやリズムゲームをアーケード筐体でプレイする為、一応人並み程度には体力がついていたのである。

 

 

インドア派、にはっ、中々、堪える運動量、だ……!」ウタハ

 

ひーっ、は、はふっ……!は、走るのは、まだマシって、思って、いたけれど……!」ヒビキ

 

う、運動の、重要性はっ、高くっ、け、健康の為にも、推奨……ゴハッ!」コトリ

 

 

エンジニア部の面々が死にかけている、振り返って後続を見たモモイは思わず表情を引き攣らせた。それでも足は緩めない、心意気だけならば正にマイスターであった。

 

 

「ふ、ふふっ、だがこの程度で倒れる、私達ではないよ……!自身の苦手な分野だからこそ、時には乗り越える、その熱情が私達を、成長させるんだ──!」ウタハ

 

色々限界が近いみたいだけれど、出来ればもうちょっと頑張って、中央のタワーまで後もう少──……」ハレ

 

 

端末越しにナビゲートを行っていたハレ、しかしその投影されていたモデルが不意にざらつく、まるで砂嵐の様に掻き乱される映像。それは明確なノイズだった、先頭を行くモモイが違和感を覚え徐々に足を緩める。

 

 

「あ、あれ、何だろう……?」モモイ

 

「お姉ちゃん、通信にノイズが入っていない?」ミドリ

 

「うん、急に通信状態が──」モモイ

 

モモイ?何か、通信──……悪化し―……」ハレ

 

これは、まさ──……カウンタークラッ──……!」コタマ

 

マズいよ!皆、気を付け──……!会長──勘付か……ッ!」マキ

 

 

まるで出来の悪い粘土細工の様に引き延ばされ、攪拌される投影映像。それを呆然と見つめる事しか出来ないゲーム開発部の三名。その背後からエンジニア部が追いつき、荒い息を繰り返しながらホログラムに目を向ける。

 

 

「はぁっ、ハッ……一体どうした、ハレ?コタマ?マキ……?」ウタハ

 

「な、何?も、もしかして、通信が……?」ミドリ

 

「ひっ、ふっ、ま、まさか、此処に来て通信エラー、ですか?」コトリ

 

 

大量の汗を流しながらも異変に気付いたエンジニア部は、それぞれが自身の端末を確認する。だがやはりヴェリタスとの通信は繋がらない。何かが起こっている、そう確信すると同時に端末とインカム、両方から凍える様な声が響いた。

 

 

──えぇ、やはり貴女達だったのね」リオ

 

 

 

 


 

 

 

 

その声を耳にした瞬間、全員の身体が跳ねる。乱れたホログラム映像は再び形を取り戻し、そこには先程とは異なる人物が佇んでいる。タブレットを片手に、何処までも冷徹な瞳で以て一行を見つめる生徒──リオ

 

 

「こ、これって、通信が乗っ取られたの……!?」モモイ

 

「……これは、そういう事になるのかな」ウタハ

 

 

顎先を伝う汗を拭い、険しい視線でリオ会長のホログラムを見つめるウタハ。作戦段階で云えば序盤も序盤、最低でもタワー内部に侵入を果たしてから発見されたかったが──どうやら向こうの方が上手であったらしいと、ウタハは内心で臍を噛む。

 

 

予想はしていたけれど、本当に此処まで来てしまったのね……やはりあの時の言葉だけで、貴女達を説得する事は出来なかった」リオ

 

「…私達に、何をするつもり!?」モモイ

 

──貴女達は、トロッコ問題をご存知かしら?」リオ

 

「と、トロッコ問題……?」ユズ

 

 

えぇ、至って簡単な話よ──故障し、暴走し続けるトロッコが、大多数を生かす為に一人を犠牲にするのか、或いは一人を生かす為に大多数を犠牲にするのか、そういう選択を迫る問題──これの答えは明白よ、どちらにせよ、誰かがレバーを引く役割を担わなければならない……私はただ、その役を引き受けようと…」リオ

 

 

「難しい話は分かんないよッ!そういうのは良いから、さっさとアリスを返してッ!」モモイ

 

「お、お姉ちゃん……」ミドリ

 

 

ホログラム、リオへと向けられる余りにも明瞭な叫び。リオへと指を突きつけたモモイは、胸を張って言葉を続けた。

 

 

「そもそもずっと思っていたけれど、あの時は云えなかった事があるの!キヴォトスの脅威だとか何だとか理由を付けて、会長はアリスを誘拐した挙句、先生に手を出そうとして…けれど、そんなのスケールが小さすぎるんだよ!普段私が書いているシナリオの規模の方がず~っと!ずぅ~っと大きいしッ!」モモイ

 

 

「お、お姉ちゃん……」ミドリ

 

 

「それこそ『世界を救う』何て壮大な事を言うなら、宇宙に宇宙戦艦でも飛ばして、敵の本拠地に突っ込んで最終決戦位派手な演出してみせてよッ!私達ゲーム開発部の物語はいつだって鮮烈で、ド派手で、夢と希望に溢れているんだからッ!こんなお先真っ暗で、物悲しい展開なんて嘘だよ!認められない!それに、アリスの居ない未来なんて──絶対に嫌だッ!」モモイ

 

 

それは合理的判断ではない。リオは何かを口にしようとして、やめた。自身を見つめる瞳が余りにも強く、輝きを放っていたからだ。

 

 

「……ちょっと横から失礼するよ」ウタハ

 

 

不意にモモイの肩を掴む手があった。額に汗を滲ませたウタハがモモイの肩越しにホログラムを覗き込む。

 

 

「私達エンジニア部がこうして協力する事も、想定していたのかな、リオ会長」ウタハ

 

……そうね、選択肢の一つとしては考えていたわ」リオ

 

「そうか、流石は──と云っておくべきなのかな」ウタハ

 

 

「私も工房でモノばかり作っていたから、会話は苦手なのだけれどね、ただ今回の一件についてはどうにも黙って居られなくて付いて来てしまった」ウタハ

 

 

「……アリスの事も、先生の事も」ヒビキ

 

 

「しかし、言葉を交わさなければ分からない事もあります!説明はいつだって疑問を氷解させる第一歩です!」コトリ

 

 

「リオ会長、今回の一件、何故こうも性急に事を運んだ?強引に事を進めれば、こうして反発が起きるのは目に見えていただろうに」ウタハ

 

 

……そうするべきだと思ったからよ、それ以上でも以下でもないわ」リオ

 

 

「ミレニアムだけの話じゃない、もし会長の話が真実であるのならば尚更、他の学園──それこそ連邦生徒会に掛け合う選択もあった」ウタハ

 

 

連邦生徒会に事を相談した所で事態は好転しない確率の方が高いわ、現在の連邦生徒会の醜態は、エンジニア部である貴女達も知っているでしょう」リオ

 

 

「それは──」ウタハ

 

 

もしこの話が通ったとしても、連邦生徒会が非常対策委員会を設置して、実際に防衛都市やそれに準ずる設備、計画の為に動き出すのはいつになるのかすら不明瞭……ましてや連邦生徒会長が失踪中の今、総括室もその統制力を失いつつある」リオ

 

 

「………」ウタハ

 

 

シャーレの先生が赴任する直前まで連邦生徒会直轄地区であるD.U.シラトリ区がどんな状態にあったのか、忘れたとは云わせない」リオ

 

 

「……だから、単独で事を起こしたと?」ウタハ

 

 

えぇ、そして私は唯一協力体制を取れる相手──連邦生徒会()()()()、独立連邦捜査部、そしてその長たる先生に協力を要請した。そうして穏便に事を起こす、これが最も合理的な判断であった、私はそう考えているわ」リオ

 

 

「……それは、独善だよ会長」ウタハ

 

 

えぇ、だから──今は、力で以て退かせて貰うわ」リオ

 

 

 

 

 

 

「──アバンギャルド君、発進‼︎」

 

 

瞬間、鳴り響く轟音──その場に居た全員が思わず身を跳ねさせ、周囲を見渡す。

 

 

「お、お姉ちゃん!」ミドリ

 

「なにこの音!?て、敵襲!?」モモイ

 

「も、モモイ、ミドリ、固まって……!」ユズ

 

「皆、警戒を……!」ウタハ

 

「コトリ!」ヒビキ

 

「わ、分かっています!」コトリ

 

 

瞬間、ビルの隙間を縫って出現する巨躯──甲高い走行音、地面を擦りながらドリフトを敢行する彼の者は巨大な盾を地面に叩きつけ、強引に機体を旋回させた。

 

 

「な、何あれ、すっごくダ……──!」モモイ

 

「も、モモイ!」ユズ

 

 

これこそがリオの用意したもう一つの切り札戦闘用ロボット──『アバンギャルド君』である。しかし見た目に関して言うなれば、控えめに言ってクソダサい。頭に関してはもはや幼稚園児の工作。腕は何故か4本。その他諸々…おっと、これ以上言うとリオが可哀想なのでやめておこう。

 

 

「ま、まぁ、確かにあんまり可愛いデザインじゃないけれど」ミドリ

 

 

少し怪しむような目でその『アヴァンギャルド君』とやらを見るゲーム開発部とは対照的に

 

「お腹痛い……」ヒビキ

 

「何だか、気分が悪くなってきたよ……少し…ウプッ」ウタハ

 

「と、突発的な激しい運動を行おうと、吐き気や腹痛、下痢等を伴う事も……ウグッ」コトリ

 

「ウタハ先輩、これ…」モモイ

 

 

エンジニア部の3人はお腹や口を押さえて明らかに気分が悪そうな顔をしていた。おそらくマイスターとしての性分がアヴァンギャルド君のクソダサボディを細胞単位で拒否したのだろう。先生が居ればトイレに誘導されるゲロ袋の一つや二つ、いや、三人分差し出されているかもしれないが、生憎連邦生徒会とのミーティングと重なってしまい今日はミレニアムにはいない。

 

 

「……見た目は、関係ないわ……理解されないのなら、もう良いわ、そのままでも構わない、重要なのは機能と実力だもの──さぁ、彼女達を撃退しなさい、アバンギャルド君」リオ

 

「く、来るよ!?」ユズ

 

「あわわっ……!」ミドリ

 

「オrrrrrrrrrrrrr…はあっ、はぁっ…くっ、見た目は…何とも言えんが──油断はしない方が良い!」ウタハ

 

 

 

 

 

「さぁ、本戦開始だ……!」

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