The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「こっちだよ、ヒマリ部長」エイミ
「ふふっ、まさかエイミ……あなたが私を助けに来て下さるとは」ヒマリ
隔離部屋内部、周囲に漂う粉塵を手で払いながらヒマリを車椅子ごと引き上げたエイミは、爆破を敢行した部屋より素早く撤退を開始する。隔離室上部の天井に空いた穴、かなり強引な方法ではあったが上手くいったらしい。
ヒマリの車椅子を背後から押しながら駆ける姿は実に手慣れたもので、暗がりの廊下を二人は素早く駆け抜ける。
「一応これはリオへの背信行為になると思いますが、大丈夫なんですか?」ヒマリ
「うーん……さぁ?でも、先生がちょっと悲しそうだったし、個人的に冷蔵庫のプリン、皆で一緒に食べたかったし──これで良かったんだと思う」エイミ
「ふふっ……後輩がどうやって助けに来てくれるのか、想像しながら待つと言うのも中々、存外楽しいものですね」ヒマリ
ヒマリは自身の唇に指先を当てながら、クスクスと忍び笑いを零す。
「お陰様でリオの面白い表情が見れました、大変満足です」ヒマリ
「部長、悪趣味〜」エイミ
「あら、悪趣味だなんて失礼な、超天才病弱美少女ハッカーの高尚な趣味と訂正して頂けませんか?」ヒマリ
「はいはい」エイミ
「それにしてもエイミ、良くリオに勘付かれず此処まで来れましたね?もう少し手古摺るか、少々騒がしい方法での救出を予想していましたが……」ヒマリ
「先生の手助けもあったし、割と簡単だったよ?此処の警戒網とか感知システムの類って大体ドローンかカメラ、レーザーだったし、アナログな方法が無い分内側に入っちゃえば楽だった」エイミ
「あら、先生がお手伝いを──」ヒマリ
「うん、それと……見つけ辛かったり、どうしても排除しなくちゃいけないAMASは先生が手早く撃破してくれたから。それと……部長、電力が残っているなら先に言ってよ!」エイミ
「万が一に備えて節電は大切ですよ、エイミ?まぁそうでなくとも、数日程度は連続稼働出来る容量がありますけれど、ふふっ、どんな状況でも見越して対策出来るのは超天才清楚系美少女にして全知の称号を持つこの私くらいなものでしょう……!」ヒマリ
「はぁ、まぁ何でも良いけれど……それで、これからどうするの?」エイミ
「どうする、とは?」ヒマリ
「このままじゃ多分負け戦になるよ?今から私達が加勢しても互角に持ち込めるか──いや、ちょっと厳しいかも」エイミ
ヒマリの救出には成功したが、状況を考えれば決して良好とは言えない。リオ会長の持つ手札はどれも強力で、それに真正面から挑むとなると聊か戦力が不足している様に思う。エイミが特に懸念しているのは、現在トキが身に着けている武装、その奥にある『切り札』についてだった。
しかしエイミの懸念に対しヒマリは、「何だ、そんな事か」と言わんばかりに肩を竦め言った。
「それなら心配無用ですよ、エイミ」ヒマリ
「ん?もしかして何か作戦でもあるの?」エイミ
「えぇ、こうしてみんながエリドゥに居るという事は先生が動いて下さったという事でもあり、既に事は済んでいるでしょう」ヒマリ
「……?」エイミ
「ふふっ、分かりませんか?エイミと皆さんがこうやって私を助けに来て下さったように──」ヒマリ
そうとも、ヒマリは思う。エイミがこうやって自分を助けに来てくれた様に、形は違えど異なる学園の生徒が、先生の手助けによってこの場に現れた様に。有形無形の想いが、繋がりが、自分達には存在している。
「──私達には頼れる後輩が、たーくさんいるんですから!」
「このPCは駄目、あっちも……マキ、そっちは!?」ハレ
「こ、こっちも駄目、エラーコードが返って来ちゃう……!こ、これどうすれば良いの、ハレ先輩!?回線が完全に駄目になっちゃっているよ!?」マキ
「……ネットワークは完全に沈黙してしまいました、これでは手の打ちようがありません」コタマ
「っく……!」ハレ
ヴェリタス部室内、デスクにずらりと並んだモニタすべてに表示されるエラーコード、アクセス権限無しの表記。険しい表情のままモニタを睨み付けたハレは、椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がると振り返り、マキに向かって叫んだ。
「マキ、予備のノートPCは!?」ハレ
「えっ!?えっと、確かこっちに──あ、あった!」マキ
「サーバー室に走るよ!」ハレ
「っ、了解……!」コタマ
サーバー室、その単語を耳にした瞬間、マキとコタマの二人は頷きを返しヴェリタスのサブルームを飛び出す。マキは指紋認証装置へと自身の指先を押し付ける。
「はやくっ、はやくッ……!」マキ
『──認証完了、窒素ガス噴射装置を自動から手動に切り替えます』
「開いたっ!って、あれ!?ネットワーク管理サーバーって、どれだっけ!?」マキ
「こっちです、マキ!ケーブルを──っ!」コタマ
「コタマ先輩、これを使って!」ハレ
「ありがとうございます……!マキ、PCをッ!」コタマ
「う、うん!お願いっ……!」マキ
一縷の望みを賭けた祈り、両手を合わせモニタに向かって拝み込む。ややあって表示された予測復旧時間に、マキはその表情を一気に蒼褪めさせた。
「っ、駄目だ、解析に必要なスペックが全然──ノートパソコンじゃ全然足りない!これじゃアクセス権限を取り返すのに、何日も掛かっちゃうよ!」マキ
「っ……!」ハレ
「か、考えなきゃ、まだ皆戦っているのに、どうすれば──……!」マキ
「このまま此方の支援が完全に途切れてしまえば、最悪実働部隊全滅の可能性も──」コタマ
「チッ……!」ハレ
顔を歪め、組んだ両腕を指先で叩くハレは重く、響く声で以て呟く。
「相手の対応を舐めていた……!」ハレ
「……ハレ」コタマ
「最初からどんなルートで行くにせよ、ジャミング対策は完璧にするべきだったんだ、そうじゃなくても大掛かりな中継器じゃなくて良いから、せめて私のアテナか外周にドローンを飛ばしていれば、リレーして別の方法だって……!」ハレ
「──ハレ、落ち着いて下さい。今は悔やんでも仕方ありません、私達が取り乱しても事態は好転しない──具体的な対策を練りましょう」コタマ
「っ、ごめん、コタマ先輩……」ハレ
「で、でも、どうするの?ネットワークを潰された以上、電子上で私達に出来る事は限られちゃっているし……」マキ
「えぇ、こうなると再度ネットワークに接続する為に、暗号化されたシステムを無理矢理突破するしかない訳ですが……」コタマ
「この予備PCだと突破にどれだけ時間が掛かるか分からない、一日、いや数日で済めば良い方だね」ハレ
「えっと、なら今から私達がエリドゥに直接乗り込むっていうのは……!」マキ
「それで物理的にアクセスするって話?それとも戦力として手助けするって話?前者ならその間の護衛の問題がある、全員が端末と睨めっこしながらタイプしている間、会長が放置してくれるとは思えない、後者ならそもそも私達は戦力として力不足だよ、悔しいけれどね」ハレ
「それにエリドゥへと繋がる路線は見つけたとは言え、次の貨物列車がいつ来るか、そもそも今から全速力で出立したとしても到着は何時間後になるか──恐らく到着した頃には、既に戦闘は終了しています」コタマ
「あ、そ、そっか、そうだよね……」マキ
「悔しいですが、打開できる策がありません……現状ですと打つ手なし、私達だけでは此処までなのでしょうか?」コタマ
「そ、そんなの嫌だよ!アリスちゃんの事、諦めるなんて絶対に──ッ!」マキ
「何か、何でも良い、方法は──……?」ハレ
懸命に思案するハレの視界、そこにふと過るウィンドウ。それはマキの持ち込んだ予備PCのモニタから。操作していない筈の彼女のPCが独りでに動き始めていた。
「……ちょっと待って、マキ、コタマ先輩」ハレ
「マキのPC、モニターにコマンドが……」ハレ
「えっ」マキ
「まさか、これもクラックされたの!?」マキ
「いや、これは──」ハレ
モニタに走る文字列、コマンドプロンプトに表示される──白い羅列。その中に彼女達は、見覚えのある単語を見つけ出す。
「……!」ハレ
外部からの遠隔操作、そして表示されるそのコマンドに──彼女達は息を呑んだ。
「──OMS、起動!」