The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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アバンギャルド君を退け、中央タワーへと足を進める隆一と生徒達。夜のエリドゥ、街灯とビルの光だけが頼りの街道を、一行は足早に駆けていた。
「中央タワーまで、もう少し……!」ユズ
「先生、この調子で行けば十分もかからないと思います!」コトリ
「うん、皆頑張ろう……!」ミドリ
声を掛け合いながら駆ける生徒達、その先頭に立つ先生は険しい表情のまま前を見据えていた。アリスを、そしてトキと相対しているであろうC&Cの事を思えば、一刻も早く事を進めたい──そんな焦燥が胸中にある。
「──ん?」隆一
その時だった。
腰に挿していた黒い杖──ラブドス、そのグリップの先端に嵌め込まれたアメジストが、不意に淡い光を放った。
「せ、先生?」ユズ
「……?」隆一
足を緩め、無言のまま自身の腰元へと視線を落とす隆一。ユズが異変に気付き声を掛けるが、彼は暫し杖の輝きを見つめたまま答えない。まるで心臓が脈打つ様な光の明滅、その間隔は決して規則的ではなかった。──短く、強く、また短く。まるで心臓の鼓動が乱れる様な、そんな光り方だった。
「先生、どうかしたか?」ウタハ
「……杖が」隆一
「杖?」ウタハ
「11…氷…か。なるほど?」隆一
告げ、隆一はゆっくりと杖を引き抜く。手にした瞬間、伝わってくる微かな振動──光の色は、先程までの淡い紫から、僅かに赤みを帯び始めていた。
「色が、変わっている……?」ヒビキ
「うん、これは──」隆一
言葉を濁し、隆一は目を細める。この杖、ラブドスは彼自身の神秘と密接に結びついた代物だ。何の意味もなく光る事など、一度としてなかった。光る間隔、その光度、色の濃淡──それら全てが、何らかの情報を彼に伝えていた。
「うわ〜何これ!綺麗!」モモイ
「モモイ、皆──一旦、静かにしてくれ」隆一
「え、あ、うん……ごめん…!」モモイ
全員が息を潜め、その様子を見守る中、隆一は杖を握り締めたまま目を閉じる。集中する彼の耳に届くのは、遠く微かな街の喧騒、そして自身の鼓動。
──近い。
感覚として理解する。この光と振動、そのパターンには覚えがあった。それが指すのは…
「……戦闘が、起きている」隆一
「戦闘って、それってまさか──」ミドリ
「別働隊、恐らくC&Cの身に、何かがあった」隆一
その言葉に、生徒達の間に緊張が走った。トキと交戦しているであろうC&C、彼女達の身に異変が起きた──そう隆一は結論付けた。杖に伝わる感覚は苦痛にも似た波長を帯びており、それも一人や二人のものではない。複数の光が重なる様に、明滅していたのだ。
「せ、先生、大丈夫なんですか、C&Cの皆……!?」ユズ
「杖づての情報じゃ安否までは分からない、ただ──あまり良くない事が起きたのは確かだ」隆一
隆一は杖を強く握り締め、視線を街道の先──中央タワーの方角と、杖の指し示す方角、その二つを見比べる。方向としては、決して同じではない。しかし、迷う時間は惜しかった。
「皆──すまないが、俺は一旦、此処を離れる」隆一
「えっ……!?」モモイ
「せ、先生、それって、まさか」ウタハ
「ああ、C&Cの元へ向かう、彼女達に何かあったのなら、放ってはおけない」隆一
真剣な瞳と共に告げる隆一の言葉に、生徒達は思わず顔を見合わせた。アリスの救出、それは間近に迫っている。しかし、この場を離れるという事は、その歩みを止める事にも繋がりかねない。
「で、でも、アリスちゃんは……!?」ミドリ
「アリスの事も心配だ、けれど──今この瞬間、C&Cが本当に危険な状況にあるのなら、一分一秒でも早く駆けつけなければいけない」隆一
「……」ユズ
隆一の声に迷いはなかった。それは決して、アリスを見捨てるという選択ではない。ただ、今この瞬間、より切迫した危機がどちらにあるのか──その判断を、彼は下したのだ。
「中央タワーへは、皆で向かってほしい、ウタハ」隆一
「私達だけで、か」ウタハ
「うん、チヒロも通信で支援してくれる、それにアリスを助け出すという目的そのものは、皆でも十分に成し遂げられる」隆一
告げながら、隆一はモモイ、ミドリ、ユズへと視線を移す。
「モモイ、ミドリ、ユズ、ウタハ、コトリ、ヒビキ──アリスを、頼めるかい」隆一
「……うん、分かった」モモイ
「私達で、絶対にアリスちゃんを助け出す!」ミドリ
「先生は、C&Cの皆の所へ……」ユズ
三人の瞳には強い決意が宿っていた。隆一はその表情を確かめると、深く頷き返す。
「ありがとう、皆を信じているよ」隆一
「あぁ、任せてくれ、私達も彼女達に負けないくらい、ちゃんとやり遂げるよ」ウタハ
「はい、御武運を!」コトリ
「気を付けて、先生」ヒビキ
エンジニア部の三人も力強く頷き、隆一の背中を送り出す。彼はもう一度、杖に灯る光を確かめた。
──やはり、赤みは、増している。近づいている証左だ。
「……間に合ってくれ」隆一
呟き、隆一は身を翻す。中央タワーへと向かう道とは真逆、光の伝わって来る方角へ──彼の足は、迷う事なく地を蹴った。
夜のエリドゥ、ビルの合間を縫う様に駆ける影が一つ。
その先に何が待っているのか、まだ誰も知らない。