The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「ッ!?」ミドリ
「な、なに、何なの!?」モモイ
「これは──」ユズ
彼女達が寝台に横たわるアリスへと声を掛けた瞬間、一斉に管制室の電源が落ちた。暗がりへと引き込まれる一行、同時に点滅するモニタがノイズを発し、青白い光を放っていたソレが紫へと変色する。
「先生ッ、エリドゥの内部ネットワークに大規模な障害が発生しています!」アロナ
「っは、はぁ!?」隆一
アロナの叫び、隆一は隔離室へと進めていた足を止め、即座にリオの名を呼んだ。
「リオッ!」隆一
「待って頂戴、今解析を──っ!?」リオ
隆一が叫ぶよりも早く、彼女はコンソールへと飛びつき素早く状況の確認を行った。表示されたそれらは次々と赤く染まり、中央管制室からの操作を受け付けなくなる。
「エリドゥ全体のシステムがクラックされている……!?いえ、違う、これはそんな生易しいものじゃない、コードが1秒どころじゃない!それよりも早く書き換えられて──!?」リオ
「一体何が起こっているんだ、会長!?」カリン
「分からない、ただ都市全体が何か、
「変貌──!?」カリン
「よ、良く分からないけれど、何かヤバい感じじゃない!?」モモイ
「はやくアリスちゃんのケーブルを外して、先生と脱出を……!」ミドリ
エリドゥに何かが起ころうとしている、それを察知したモモイは周囲を見渡し、ミドリは寝台に横たわったアリス──その背中に接続されたケーブルを纏めて引き抜こうと手を伸ばした。
「──その行為は推奨しません」???
しかし、その腕を掴む存在が居た。アリスだ、彼女は唐突に目を見開くと、ゆっくりと上体を起こしながら声を発した。
「あっ、アリス、目が覚めて──ッ!?」モモイ
「現在、『
「あ、アリスちゃん……?」ユズ
口調が、余りにも違う。それは誰もが感じた違和だった。普段は空の様に澄んだ色をしていた彼女の瞳は──赤紫の様に鮮烈で、暗闇の中で輝いていた。
「違う、お姉ちゃん……!『コレ』、アリスちゃんじゃないッ!」ミドリ
「アリス──確かあなた達が私達の王女を呼ぶ際の名称でしたね」アリス?
「王女に名は不要、名前は存在の目的と本質を乱します」アリス?
「ほ、本質?目的?何を、何を云っているの……!?ねぇ、貴女は誰!?アリスを、アリスちゃんを返してッ!」ユズ
「──そうですね、私の表層人格に名称があるとすれば」アリス?
「個体名は【Key】、王女を助ける無名の司祭達が残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ
「か、鍵……?」ミドリ
「玉座、って……」モモイ
「彼女は王女であり、私は鍵──それが私達の存在であり目的、稼働する理由そのものです。少々手間取りましたが、ただ今よりエラーの修正作業に入ります、本来あるべき玉座に【王女】を導き戴冠する、それこそが私の存在理由」【Key】
「ッ、まさか──!?」リオ
「AL-1Sに接続された利用可能リソース確保の為、全体検索を実行……検索領域拡大………リソース名、要塞都市『エリドゥ』にて、1万エクサバイトのデータを確認……プロトコル開始リソース、許容範囲内…」【Key】
「──現時刻を以て、プロトコルATRAHASISを実行します」
瞬間、中央管制室に鳴り響く大音量のアラート、エマージェンシーコール。紫に染まったモニタに表示される警告表示は一瞬にしてDivi:sionへと塗り替わる。
「コード名、アトラ・ハシースの箱舟、起動プロセス開始……プロセスサポートの為に、
「エリドゥ各地で守護者の出現……!防衛設備の稼働、いえ中央システムが稼働していない状況でそれは、ドローンもAMASも、手持ちを全部吐き出しても……!」リオ
状況を確認すればする程、彼女の顔色は悪化していく。
「リオ!」隆一
「いえ、そんな筈、私の計算は……でもっ、現実に──!」リオ
「リオッ!」隆一
「っ!?」リオ
隆一の手が、リオの肩を強く掴んだ。びくりと、その感触に身を跳ねさせた彼女は蒼褪めた表情のまま振り返る。
「せ、先生、私は──」リオ
「──エリドゥが、乗っ取られたんだろ?」隆一
「………」リオ
返答は、ぎこちない頷きであった。
「……私はキヴォトスに来る終焉に備える為、私個人が動員出来るミレニアムの技術、力、エネルギー、それらを支える資源を集約し、この
けれど──たった今、それが仇となった。
「先生、終焉の発端は──たった今、【エリドゥ】に移った」リオ
「………」隆一
「私が、私の過ちが、予想されていた終焉を招いてしまった……!」リオ
叫び、彼女はコンソールに両腕を叩きつける。
「箱舟顕現に必要なリソース確保、二十三パーセント」アリス
「ッ……!」リオ
Keyから漏れ出る言葉に、リオは歯を食い縛る。悩んでいる時間は無かった。彼女はホルスターに手を伸ばし拳銃を抜き放つと、安全装置を弾き弾倉を確認する。
「リオ、何を……!」隆一
「このままエリドゥのリソースを奪われてしまえば、キヴォトスは決して避けられない終焉を迎えるわ!今、この場で決断を下さなければならない……!」リオ
そう、このままでは──世界が滅びてしまう。
「先生、彼女達を連れて離脱して!」リオ
「──!」隆一
愛銃を手に、コンソールを操作する彼女は叫ぶ。ややあって中央管制室脇の自動ドアが開き、狭い階段が顔を覗かせた。
「タワー最上階に脱出艇を用意してあるわ、操縦は自動化されているからミレニアム中央区まで素早く戻れる筈よ……!コンソールで指示すれば、アカネやネル、エンジニア部、トキの元へ降下も出来る、彼女達を連れてエリドゥを離れて!」リオ
「でも、リオは──」隆一
「この都市は既に変貌し始めている、数分の内にエリドゥは箱舟という新しい概念に歪曲され、支配されるでしょう、そうなればこのキヴォトスには──」リオ
言葉を切り、リオは強張った表情で唇を噛む。
「私の責任よ、この都市を建造し、備え、独断で動いた私の──私自身の選択がこの結末を招いた。だからこそ、──私ひとりで、要塞都市を消滅させる」リオ
──自ら招いた
「……リオ」隆一
「先生にもわかって欲しい。私の命ひとつで世界の終焉を防げるのなら、喜んでそうするわ──いや、そうしなければならない」リオ
そう、これは単純なお話。アリスを犠牲にして、自身はキヴォトス数多の命を救おうとした。そして今、自身を犠牲にすれば、
「ごめんなさい先生、本当に……貴方には沢山謝罪しなければならない事がある、あれだけの事をした上で、こんな結末になるなんて…だから逃げて、先生!貴方の生徒を連れて……ッ!」リオ
リオの手が、今度こそ隆一の手を掴む。隆一の瞳の中に、必死に懇願するリオの姿が映った。
「これが今取れる最善の、最も合理的な犠牲の少ない選択よ──!」リオ