The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
眩い光を乗り切り、三人が目を開けたところにあった光景は…
「ウチの部室じゃん!」モモイ
「懐かしい光景だな」隆一
精神世界は本人にとって縁の深いもの、思い入れの強いものが中心にプロットされるらしい。最初の部屋はゲーム開発部の部室。ゲーム開発部はアリスにとって彼女達は無くてはならない人生の一部。何よりも大切な最初に結んだ縁なのだから。
「アリスちゃん、この部室の事、覚えていてくれたんだ……」ユズ
本音を言うと、少し不安だったのだ。もしアリスが本心から『戻りたくない』と言った場合が。だが、その可能性は彼方へと消え去った。あとはアリスを根気よく説得して、彼女の本心を引き摺り出すだけだ。
ゲーム開発部の部室から出ると、一本の長い道が続いていた。真っ白な一方通行の道を進んだ先にあった場所は大エンジニア部の部室。アリスが愛用する勇者の証ことスーパーノヴァを受け取った場所だ。
「この場所が、アリスが刻んで来た道筋なんだな」隆一
場所は流転する。理路整然としたミレニアム校内の空間から打って変わって、寂れて朽ち果てた建物が点在する廃墟へと。
ここまで来れば自ずと分かる。遡っているのだ。アリスのこれまでを。彼女の居場所である部室から、勇者の証を貰ったエンジニア部の部室。そこまで来たら、次は廃墟。そう、アリスの元居た場所へと至る道となる。
「ここが……アリスちゃんの、最初の場所……」ユズ
ひと目見ただけでも分かる。投入されている技術のレベルが他の工場と一線を画していた。それ程までに工場を作った誰かにとってはアリスは重要で、何か役割があった。
「随分と、手の込んだ場所だ」隆一
「アリスは……ゲーム開発部の仲間だよ、それだけで十分でしょ」モモイ
そんな事を考えながら、少女達は進む。忘れもしない衝撃的な出会いの場所に。だが、今度の目的は出会いではなく再会。勝手にいなくなってしまったお転婆なお姫様を連れ戻すために。
記憶を頼りに進んだ先に在ったのは、監視カメラと──扉が二つ。この後の展開が読めていた……というか、実際に味わった経験があるモモイは迷わず隆一にしがみついた。
「ユズ、おいで」隆一
「え?は、はい……」ユズ
この場所に訪れた事の無いユズも確りと彼が抱き締め、次に訪れる半ば出オチのようなドアの開閉に備える。
「えっと……これは……?」ユズ
「落ちるぞ」隆一
「落ち──」ユズ
ユズの言葉は途中で遮られる。身体を襲った浮遊感は水中で感じるようなものではなくただの自由落下。彼女はぎこちない動作で下を向くと──床が無くなっていた。
「ひゃぁぁぁぁぁ──!」ユズ
彼女の悲鳴は物静かな廃墟によく響いた。
モモイ、ユズ、そして隆一を乗せた落下の先にあった空間は一本道。細い道を歩く三人、非常灯の明かりだけが唯一の光源。足音と呼吸音が三人分、あの日の再現、しかしあの日とは違う。目的も、人数も。口数も少なくなり、周囲に緊張感が蔓延する。
「……この先に、アリスちゃんがいるんですか?」ユズ
「ああ」隆一
暫く歩いた先にあったのは開けた空間。陽の当らない工場の地下だというのに木漏れ日が差し込んでいるかと錯覚するほど麗らかで暖かい空間にはポツンと存在する機械仕掛けの椅子。
「──此処だ」隆一
ごくり、と誰かが息を呑む音と同時に皆は再び歩き出した。椅子に座り、眠る少女を見つけたのだ。
「アリスッ!」モモイ
「アリスちゃん……ッ!」ユズ
「アリス!」隆一
三者ともそれぞれ彼女の名前を呼び、駆け寄る。モモイが付けた名前。皆が愛を持って呼んだ名前。彼女の為だけの名前。それを聞いたアリスの頭上に青のヘイローが浮かび、純真無垢な空色の瞳が薄っすらと開かれる。
「……だれ?」アリス
「忘れたの!?ゲーム開発部だよ!」モモイ
「アリスちゃん、会いに来たよ……!」ユズ
「久しぶりだな、アリス」隆一
光を灯したアリスの視界いっぱいに映る三人。見知った顔。見知った声。見知った温度。涙が出るほど帰りたくて、涙と共に見送った──大切な友達。その姿を見て、今まで錆びついていたかの如く動かなかった心臓が動き出す。
最初は自分が作り出した浅ましい、お誂え向きの夢だと思った。だが、何度瞬きしても消えずにそこに在り続けて。精巧に作られた偽物ではなく、紛れもなく本物。
その温度に引かれるように、アリスは手を伸ばす。触れたい。触れられたい。温度が、暖かさが、人肌がほしい。だから──そう思って、伸ばそうとしたアリスの小さな手。しかし、彼女は思い留まり手を下した。まるで今の自分は触れる事すら許されないと言わんばかりに。代わりに零れたのは声だった。
「モモイ……ユズ……先生……どうして、此処に……?」アリス
「そりゃ、勝手に家出したアリスを迎えに来たんだよ!」モモイ
「アリスちゃん、早く此処から出よう……!」ユズ
「帰ろう、アリス。皆、待っているぞ?」隆一
「あ……」アリス
三者三様の言葉。言っている事は違うものの、その本質と本心はどれも同じ。アリスと一緒にあの部室に帰りたい、唯それだけ。
でも。
「アリスは……アリス、は……」アリス
伸ばされた手を掴めるような純真無垢な
思い出すのは今までの事。何かを守るために戦い続けた少女達の向こう側に立つアリス自身の事。
では、アリスは何かを守れたか。いや、寧ろ逆だ。何か壊してばかり、誰かを傷つけてばかり。
──一瞬でも、本心から『救われたい』と思った罪深い自身をアリスは恥じた。
「──帰れません」
首をゆっくりと横に振りながら、アリスは羽音のような小さな声でそう呟いた。
「アリスが皆の傍に居たら、皆はその分傷ついてしまいます」アリス
「アリスちゃん、違う!そうじゃない!」ユズ
「ユズの言う通りだよ、アリスちゃん。私達はそんな事……」モモイ
「そうだよ!私達はアリスが大切だからここまで来たの!だから──」ユズ
「モモイ……ユズ……でも、アリスの所為で皆怪我をしてしまいました。モモイも、先生も……ネル先輩も……全部、アリスの所為です」アリス
言い逃れはできない。元よりするつもりもない。アリスの意志は関係ない。誰が何と言おうが、アリスの体が誰かを傷つけたのは純然たる真実だ。でなければ、この掌に残る鮮明な感触がこんなにも気持ち悪くて恨めしい筈がない。
脳裡に過るのは記憶。アリスとは異なる人格に記されたセーブデータ。
彼女はエリドゥで起きたこれまでの事を否応なく全て見せられていた。
モモイが駆け抜けた光景を。エンジニア部の三人が戦い続けた光景を。ヴェリタスの四人が勝負を仕掛けた光景を。ヒマリとエイミが孤立無援で戦っていた光景を。ノアとコユキが叛逆を承知で己の為に戦ってくれた光景を。
全て、全て。アリスの為に捧げられたもの。痛みも傷も、悲しみもアリスを助けるために伴ったものと知れば素直に喜べるわけもない。アリスはそんなものは見たくなかった。それなのに突き付けられたのは願いとは真逆の現実ばかりで、もう嫌になってしまいそう。
そんな現実ばかりがある理由も分かり切っている。それは。
「アリスは……世界を救う『勇者』ではありません。単なる偽りの勇者に過ぎません。…いえ、勇者ですらありません。アリスは世界を滅ぼす『魔王』ですから。いつか世界を……キヴォトスを滅ぼす魔王として、