The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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ようこそ、████様。情報はこちらにございます
エリドゥ攻略作戦から一週間後。
ミレニアム生徒会、臨時記者会見。
壇上に立つのは生徒会役員のノア、ただ一人であった。本来並ぶべきリオの姿はそこにない。
「──この度は、要塞都市エリドゥ建設に伴う一連の混乱により、多くの部活動、及び独立連邦捜査部の皆様に多大なるご迷惑をおかけした事、心よりお詫び申し上げます」
壇上に立つノアは、淡々と、しかし誠実な口調で頭を下げる。彼女の背後には、セミナーの旗が静かに掲げられていた。
「生徒会長・調月リオは今回の一件の責任を取り、当面の間謹慎処分と致します。実質的な運営はこの私、生塩ノアが暫定的に担う事となりました」
カメラのフラッシュが幾つも瞬く。集まった記者達は一様にペンを走らせ、その一言一句を書き留めていく。
「併せて、被害を受けた各部活動、及び独立連邦捜査部シャーレに対し、セミナーとしての見舞金を供出させて頂きます」
その発表は、その日の内にミレニアム内外のニュースを賑わせた。生徒会長の謹慎、真摯な謝罪と補償──表向きには、そう伝えられた。
そう、表向きには。
■
深夜、ミレニアムタワー
執務室でひとり、経理データを確認していたリオの指先が、ふと止まった。
「……これは」リオ
画面に表示された数字、その内訳。独立連邦捜査部へと供出された『見舞金』──その額は、かつて自身がエリドゥ建設の為に横領した金額を、明確に上回っていた。
「私が、決裁した数字と違う……いえ、これは──」リオ
差分。何処かで、上乗せされている。ノアの決裁を経由した数字ではあるが、その根拠となる稟議書、承認フロー、あらゆる書類を辿った先に、リオは一つの結論へと辿り着く。
「まさか──」リオ
震える指先でコンソールを叩き、独立連邦捜査部への振込履歴を洗い出す。その承認印の連なりの中に、見覚えのない──しかし確かに正規の手続きを経た形跡が、幾つも刻まれていた。
「……先生」リオ
その名を呟いた瞬間、リオは椅子を蹴り立ち上がっていた。
深夜、シャーレ執務室
息を切らせながら駆け込んだリオは、エレベーターも待たずに階段を駆け上がり、廊下の奥──明かりの漏れる扉の前で、足を止めた。
「先生ッ!」リオ
扉を開け放ち、彼女は叫ぶ。しかし、そこにあったのは想定していた光景とは、些か異なるものであった。
「──あぁ、リオ」先生
執務机の傍、寛いだ様子で佇む先生。その周囲を囲む様に、見慣れた顔ぶれが四人。
「アスナ、カリン、アカネ……ネル?」リオ
C&Cの面々、しかしトキの姿だけがない。彼女達はいつも通りのメイド服を纏いながら、しかしその瞳には普段とは異なる、冷ややかな光が宿っていた。
その隣に、見覚えのない二人の女性が立っている。一人はセミナーの廊下で何度か見かけた事のある、地味な立ち回りの生徒。もう一人は──記憶を辿っても、思い当たらない顔だった。
「……あなた達は!?」リオ
「随分と、遅かったですね、会長」アカネ
アカネが一歩前へと踏み出す。その手には、既にサイレントソリューションが構えられていた。
「これは、一体……先生、これはどういう事なの!?」リオ
問い詰めるリオの声に、先生は静かに視線を上げた。その瞳に、リオが知る優しさは、もう何処にも見当たらない。
「見ての通りだよ、リオ、俺がただ、独立連邦捜査部の資金力を増強する為に、手を回した。それだけの事だ」隆一
「な──何を、言っているの……?」リオ
「エリドゥの件、アンタは都合よく孤立していた。生徒会は形骸化、セミナーの実権はノア一人。
淡々と語られるそれに、リオは信じられないという表情のまま、後退る。
「なぜ、こんな卑怯な事を……!」リオ
その問いに、先生は僅かに肩を竦めた。
「生徒のそれと、キヴォトスのそれとでは、大きく異なるからだよ」隆一
「……何、を」リオ
「アンタは、アリスを殺すことすら躊躇っただろう?」隆一
その言葉に、リオの喉が引き攣った。
「俺は違う。必要とあらば、自分の生徒相手であろうと躊躇わない。それがシャーレの先生としての役目、君とは違う。ほんの些細な黙認が、キヴォトスの興亡を左右する重大な出来事になりかねない、だからこそ、
時に生徒を蹴落とす覚悟も必要だ」隆一
その一言に、リオの背筋が凍りつく。理解した。目の前にいる存在は、あの日リオが到達しかけた合理の、遥か先にいる。自身が良心の呵責に苛まれ、涙を流し、それでもと絞り出した『合理』──その全てを軽々と踏み躙った場所に、この男は立っていた。
「……ッ!」リオ
「御伽話は控えてください」アカネ
銃口が、リオへと向けられる。しかし、彼女はそれでも一歩、踏み止まらなかった。
「トキは呼べば来る!先生が起こした出来事も、全て白日の元に晒せば、あなたのキャリアは潰えるわッ!」リオ
その叫びに、先生はゆっくりと首を横に振った。
「仮にこれを流したところで──独立連邦捜査部を使えば、記事の書き換えも隠蔽も、あるいはタチの悪いフェイクニュースとして処分する事も、朝飯前だよ」隆一
その言葉が意味するもの──独立連邦捜査部の裏に潜む、巨大すぎる諜報網の存在。それを暗に示唆され、リオの顔から血の気が引く。
「そんな、まさか……あなたは、一体──」リオ
「──さようなら、会長」アカネ
最後まで言葉を紡ぐ事は、許されなかった。
背後から放たれた、静かな一撃。首筋に走る痺れと共に、リオの視界が急速に暗転していく。崩れ落ちる身体を、アカネが冷静に受け止めた。
「……」隆一
意識を失ったリオを見下ろし、先生は小さく息を吐く。
「エム、頼めるかな」隆一
「はい、閣下」M-247
地味な立ち回りの生徒──彼女は静かに歩み寄ると、懐から一本の注射器を取り出す。針先には、透明な液体が微かに揺れていた。
「───」M-247
迷いのない手つきで、その針がリオの首筋へと刺し込まれる。ニューライザー──記憶と人格を保ったまま、忠誠だけを塗り替える薬液が、彼女の血流へと静かに溶けていった。
「これで、ミレニアムに関しては……」R-1616
「ああ、これでもう、ミレニアムは俺ら独立連邦捜査部のパペットだ」隆一
告げる先生の声に、感情の色はなかった。彼は倒れたリオを一瞥する事もなく、窓の外──夜のミレニアムへと視線を向ける。
この執務室で行われた出来事を、知る者は誰もいない。
目撃者はC&Cの四人と、M-247、そしてR-1616のみ。彼女達が『独立連邦捜査部』の一員として振る舞い続ける限り、この事実が表に出る事はない。
そして──先生とM-247、R-1616の三名は、最後までその口から一つの単語を語る事はなかった。
OMNIS。
“老紳士”率いる、独立連邦捜査部の裏に潜む諜報組織。その存在も、自らがその一員である事も、諜報活動という本当の役目も──彼女達は誰にも明かさぬまま、ただいつも通りの日常に紛れ込んでいく。
ミレニアムは、キヴォトスは何事もなかったかのように日常を迎える。
何も知らない無垢な生徒達は笑い合い、部活に励み、友と語らう。
そんな日常の裏側で、独立連邦捜査部は静かに、しかし確実に、その版図を広げていた。