The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
時はちょうど1日戻って、
トリニティ総合学園、ティーパーティー会場、テラス。
中央の巨大なティーテーブルには菓子とティーポットが並び、控えめな生花が添えられている。
「こんにちは、先生……こうしてお会いするのは初めて、ですね」???
「初めまして、かな?」隆一
淡い桃色の髪の少女と、凛とした佇まいの少女。共に白い翼を持つ、この
「一先ず紅茶をどうぞ、客人をもてなすのはホストの務めですので」???
「んじゃ、一杯だけもらうわ」隆一
差し出された紅茶に、隆一は内心で舌を巻く。香りが違う。普段飲んでいるC&Cの紅茶と比べる話でもないのだが、どうしても比較してしまう。一口含む。甘く、高貴な味。素直に、美味い。
「では──改めまして、ティーパーティーのホスト、
「──やっほ〜!先生!」ミカ
隆一の座る椅子の横から顔を出す生徒。溌剌とした笑みには見覚えがある。聖園ミカ。
「へー、これが噂の先生かぁ、あんまり私達と変わらない感じなんだね?」ミカ
薄桃色の髪を靡かせ、周囲を歩き回りながら鼻を鳴らすミカ。隆一は特に止める事もなく、好きにさせていた。
「へー、なるほどー、ふーん……うん、私は結構良いと思う!ナギちゃん的にはどう?」ミカ
「……ミカさん、初対面でそういった行動はあまり礼儀がなっていませんよ」ナギサ
「あー、うん、それはまぁ……確かに?」ミカ
気まずそうに頬を掻くミカ。
「先生、ごめんね?……まぁ取り敢えず、これからよろしくって事で!」ミカ
「おう、よろしくな」隆一
差し出された手を取る。奔放で、一線がなく親しみやすい。それは時折無遠慮とも取れるが、隆一はそんな彼女に何の含みもなく笑って応えた。ミカとナギサは、微かな驚きと感心を覚える。
「……トリニティ外部の方が、このティーパーティーに招待されたのは、私の記憶では先生が初めてです」ナギサ
「へぇ、第一号って訳か、そりゃ光栄だな」隆一
「あー、何それナギちゃんちょっとイヤラシイ〜、恩着せがましい感じ~!」ミカ
「……んんっ、失礼しました、先生──ミカさん?」ナギサ
「え?あー……うん、大人しくしているね?出来る限り、たぶん」ミカ
ナギサが咳払いを一つ挟み、両手を膝に組んで隆一を見据える。
「──こうして先生をご招待したのは、少々のお願い事がありまして」ナギサ
「俺に願い事?」隆一
「はい、とても大切な事です」ナギサ
「おぉ~……ナギちゃん、いきなりだね!?もうちょっとこう、アイスブレイクとか要らないの?」ミカ
「──ミカさん……?」ナギサ
「そんな綺麗な目で睨んでも、これはティーパーティーとしての在り方の問題なんだからダメー!」ミカ
「ミカさん、そういった事はあなたがホストになった際に追求して下さい」ナギサ
「ぶーぶー」ミカ
「そのヤジはおやめなさい」ナギサ
ナギサは溜息を零し、肩を落とす。
「まぁ、お客様の前でこのような論争を広げるのもまた、望ましい姿ではありませんね……なら、少し話の方向を変えましょうか」ナギサ
「あー、それなら……このトリニティだとこのティーパーティーが生徒会の役割を担っているから、ナギサが生徒会長なのかな?」隆一
「おぉ、先生の方から空気を読んでくれた!ほら、ナギちゃん見た!?」ミカ
「……はい、仰る通り、私達がトリニティ総合学園の生徒会長『
「……?」隆一
「生徒会長達、というのは耳慣れない言葉かもしれませんね……昔、各分派の代表たちが紛争を解決する為にティーパーティーを開いた頃から、この歴史は始まりました。パテル、フィリウス、サンクトゥス……それらの三つの学園の代表を筆頭にティーパーティーを開き、和解への流れが生み出されたのです」ナギサ
「え、無視?ひどくない?……うんひどいよね、うぇ〜ん先生〜!ナギちゃんがいじめる〜」ミカ
「なるほどな…じゃああのトリニティの校章の逆三角形ってそう言うアレか?」
「えぇ。また、その後から、トリニティの生徒会はティーパーティーという通称で呼ばれるようになり、各派閥の代表から順番に『ホスト』を──」ナギサ
「えーん、うわーん、ひえーん」ミカ
「──あぁ、もう五月蠅いですわねェッ!?」
バン、と机が鳴る。茶器が跳ね、皿の上の菓子が数秒宙を舞った。
「ひぇっ」ミカ
「今、私が説明をしているんですよ!?どうしても黙れないと言うのでしたら、
その小さな口にロールケーキをぶち込みますよッ!?」
隆一はロールケーキを見つめ、テーブルクロスを汚す前にとフォークを伸ばす。取り分けて口に頬張った。
「………」ナギサ
「………」ミカ
「美味ぇなこのロールケーキどこ産だ?」隆一
数秒後、我に返ったナギサは咳払いを一つ、紅茶を一口流し込み、いつもの笑みに戻した。
「……あら、私ったら何という言葉遣いを、失礼しました先生、ミカさんも」ナギサ
「怖い怖い」ミカ
「美味ぇなこのロールケーキどこ産だ?」隆一
仕切り直し。三人が席に着き、改めて向き合う。
「……さて、そろそろ本題に入りましょうか、私達が先生にお願いしたいのは、簡単な事です」ナギサ
「簡単だけれど、重要な事だよ」ミカ
「──補習授業部の、顧問になって頂けませんか?」ナギサ
「補習授業部、ねぇ」隆一
「はい、落第の危機に陥っている我が校の生徒達を救って頂きたいのです、顧問というよりも『担任』と言った方が良いかもしれません」ナギサ
「(──補習授業部、ねぇ)」隆一
隆一は内心で、静かに笑う。
"老紳士"から既に届いている情報がある──ナギサがこの部を、トリニティ内部の裏切者探しの網として利用しているという事実。集められる生徒はきっと『成績不振』というだけではない、盗み出したテストの成績含め、不自然な点が多すぎる。何らかの疑いを持たれた者達なのだろう。
だが、それを口にするつもりはない。
「トリニティ総合学園は、文武両道を掲げる歴史ある学園です、だというのにこの時期、成績が振るわない方が『
「私達としてはちょっと困ったタイミングで……エデン条約で今はバタバタしていてね?人手も時間も足りなくって…でも──その時にちょうど見つけたの!新聞とかニュースに載っていたシャーレの活躍っぷりを!このシャーレになら、きっと面倒事を任せられそうだなって!」ミカ
「そりゃ、また」隆一
「……面倒事なんて言ってはいけませんよ、ミカさん」ナギサ
「うっ!ま、まぁでも、ある意味では本当だし……それにほら、先生なんでしょ?困っている生徒は助けなきゃ!」ミカ
「まぁ、それに関してはその通りだな」隆一
困っている生徒は見過ごせない。それは
「噂では、尊敬という言葉が合うかどうかについては、意見が割れている様ですが──」ナギサ
「え?あー……そうだったね、報告書によって全然違うというか」ミカ
「う〜ん……トリニティでは特に問題を起こした記憶がないんだけどな」隆一
「そこは──まぁ、他校の方から流れている噂などもありますので」ナギサ
「情報元はミレニアムかゲヘナあたりかな」隆一
「………」ナギサ
「まあ人の意見なんて千差万別。俺の成功を誇りに思ったり、偉大に思う人間もいれば、
「……」ナギサ
「──自分にとって厄介な組織と独立連邦捜査部、その友好に楔を打つべく、敢えて荒唐無稽な悪評を流す、倫理的道徳的な是非は兎も角、有効な手だよな」隆一
「……確かに、条約前とは云えあのゲヘナであれば或いは──」ナギサ
「個人に充てた噂じゃないだろ、当たればボロ儲け、その程度だよ」隆一
「えっ……じゃあ何、あの報告書の内容って嘘なの……?」ミカ
「少なくとも鵜呑みにするべきじゃーないな──君達から見て、俺がミレニアムを操って金を搾り取る人間に見えるか?」隆一
紅茶を片手に、悠然と北叟笑む隆一。
「……いいえ、全く」ナギサ
「なら、自分の目を信じるんだな、人を見る目ってのはそうやって涵養させる」隆一
「──成程、流石先生というべきですか」ナギサ
「おぉ、これが大人……!」ミカ
──否定した訳でもないし、聞いただけだから嘘は言っていない。尤も、今回ばかりは荒唐無稽な噂が偶然にも
「──まぁ兎に角!そういう事で、是非先生にこの子達を引き受けて欲しいの!」ミカ
「本質は
「まぁ、俺に出来る事なら別に構わないぞ」隆一
「やった!ありがと〜先生っ!」ミカ
「……ふふっ、きっと断らないでしょうとは思っていましたが」ナギサ
ナギサがファイルを差し出す。トリニティの校章が描かれた表紙。
「受けて頂き、ありがとうございます──では、こちらを。対象の生徒達、その名簿と生徒情報です」ナギサ
「つまりトリニティの厄介──」ミカ
「その表現は愛が足りませんよ、ミカさん、こう言いましょうか、トリニティに於ける『
「……まぁ、呼び方は何でも良いけどね~」ミカ
隆一は静かにファイルを受け取り、中を覗く。丁度四名分の資料、その名前をそっと目でなぞる。
二度、三度、確認した隆一は一つ頷き、ファイルを閉じた。
──既に知っている名前ばかりだ。"老紳士"から渡された情報と、寸分の狂いもない。
「詳細に関しましては追ってご連絡致します、他に気になる点は御座いませんか?」ナギサ
「そうだな……」隆一
隆一は二人に視線を配り、空席になった四つ目の椅子を見る。
「ティーパーティーって確か、三人で一つなんだろ?なら──もう一人はどこに?」隆一
「………」ナギサ
「あ〜……」ミカ
ミカは悲しそうに目を伏せ、ナギサは思い詰めた表情でその色を濁らせた。
「セイアちゃんは今、トリニティにいないの、入院中で……」ミカ
「本来であれば、今のホストはセイアさんだったのですが……そういった事情で不在の為、私がホストを務めているところです」ナギサ
「ん、そっか……早く良くなると良いな」隆一
告げながら、隆一は小さく息を吐く。──今の反応で、知りたい事は凡そ知れた。未来の差異は、重要だ。
「ありがとな、聞きたい事はこれで全部だ」隆一
「……では、準備が整い次第、先生にはトリニティ総合学園に派遣と言う形で来て頂く事に出来ればと」ナギサ
「またお茶会しようね、先生!」ミカ
「そうだな、その内な」隆一
互いに言葉を交わし、笑顔を見せる両名を眩しそうに見守りながら、隆一は静かに席を立った。
「……んじゃしゃーない、一旦補習授業部?だっけ?の生徒に話をつけて来るわ」隆一
「えぇ、これからよろしくお願いいたしますね、先生」ナギサ
「私も暇な時は手伝うから、いつでも呼んでね~!」ミカ
「おう、こちらこそよろしくな」隆一