The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
ティーパーティーとの面談の後、
補習授業部──割り当て部室。
トリニティ総合学園の本校舎、普段使用されない予備教室。そこで隆一と一人の生徒が向き合っていた。
「あ、あはは……えっと、初めまして先生」ヒフミ
「おお、初めまして〜」隆一
待機していたのは隆一の良く知る生徒、ヒフミだった。ペロロ様バッグを抱きしめたまま座っていた彼女は、隆一の入室と共に立ち上がり、愛想笑いを浮かべている。隆一はヒフミを頭から爪先まで眺め、胡乱な目付きで見つめた。
「補習授業部……補習、ねぇ~?」隆一
「あぅ……あ、あの、そんな目で見ないで下さい、これにはその、やむを得ない事情がありまして」ヒフミ
「──聞こうか」隆一
隆一は教卓の前に立つ。阿慈谷ヒフミという生徒は赤点を取る様な生徒ではないと記憶している。
「えぇと、こうなったやむを得ない事情というのは、ですね……」ヒフミ
「うん」隆一
「その、ペロロ様のゲリラ公演に参加する為に、テストをサボってしまいまして……」ヒフミ
「………もう一度聞こう。その『已を得ない事情』は一体なんだ?」隆一
「……ペロロ様のゲリラ公演に参加する為に、テストをサボって…」ヒフミ
隆一は小さく溜息を吐き、額を押さえる。
「已を得ない理由、だよな?」隆一
「は、はい、已を得ない理由、です」ヒフミ
「──…… 『已を得ない』の意味を勉強し直そっか。国語苦手?」隆一
「うぅ……!ち、違うんです先生……!ちゃんと試験の日程は確認していた筈なんです、何かの間違いと言いますか、手違いと言いますか……!」ヒフミ
「手違い、手違いとは……?そもそも、ゲリラ公演の為に学校を休むのは駄目でしょう……?」ハナコ
「あぅ……ご、ごめんなさい……」ヒフミ
「うん、いや、まぁ、俺に謝る事じゃないんだけれどな」隆一
「あの、それで、ナギサ様に先生のサポートを頼まれていまして……」ヒフミ
「サポート?」隆一
「は、はい」ヒフミ
頷き、ヒフミはこの場に立つまでの経緯を説明し始めた。
隆一がティーパーティーへの招待状を受け取る前夜。ヒフミはテラスでナギサと二人きりで向き合っていた。
「──という訳でヒフミさん、先生をお手伝いすると共に、補習授業部を導いて下さいませんか?」ナギサ
「はい!?わ、私がですかっ!?」ヒフミ
「はい、そもそもヒフミさんの様な優等生でないと出来ない事ですから」ナギサ
「わ、私はそんな、優等生という程でもありませんし、そもそも成績も平均位で……それに今は落第の危機なのに──」ヒフミ
「ふふ、私はヒフミさんの『愛』を高く評価しておりますから、それに、今度はヒフミさんから私に『愛』をお返しして頂く番──ですよね?」ナギサ
「あ、あぅ……」ヒフミ
「ふふっ、そういう事ですので、宜しくお願いしますね、補習授業部の部長さん」ナギサ
「──んで、補習授業部の部長に?」隆一
「は、はい、あくまでも臨時の──ですが、補習授業部は特殊な形で限定的に作られた部活ですし、全員が落第を免れたら自然に部はなくなると思うので……」ヒフミ
「なので、えっと、その時まで宜しくお願いします、先生!」ヒフミ
「うん、分かった──こちらこそ、宜しくな」隆一
「い、いえいえ!それに、こんな状況ではありますが……担当の方が先生で良かったです!あ、そういえば、補習授業部のメンバーには、まだ会われていないんですよね?」ヒフミ
「ああ、まだな、現状ヒフミ以外とは誰とも会えてねぇ」隆一
「名簿を確認したところ、メンバーは私を含めて四人みたいですが……ひとまず会いに行きましょうか」ヒフミ
「そうしようか、なら近い順に行こう」隆一
「──……此処、みたいですね」ヒフミ
辿り着いた場所は正義実現委員会、本部。建築物全体から威圧感が放たれ、ヒフミは二の足を踏んでいた。
「あ、あぅ、あんまり来たくはなかったのですが……」ヒフミ
「まぁ、一般生徒からするとな」隆一
「えっと、失礼します……どなたかいらっしゃいますか?」ヒフミ
恐る恐る受付を覗くと、小柄なピンク髪の少女が座っていた。
「あっ、こ、こんにちは」ヒフミ
「……何?」コハル
「うぅ、えっと、凄く警戒されているみたいなんですが……私、何かしてしまったのでしょうか……?」ヒフミ
「大丈夫、多分人見知りなだけだと思うよ」隆一
「だ、誰が人見知りよ!?」コハル
コハルは憤慨し、デスクを叩きながら椅子を蹴飛ばして立ち上がる。
「た、ただ単純に知らない相手だったから、警戒しているだけなんだけれど!?」コハル
「それを人見知りって言うんだ語彙の勉強するか?」隆一
「うぐっ……そ、それで?正義実現委員会に何の用!?」コハル
「えぇと、実は探している方が居まして──」ヒフミ
「はぁ、何それ!?正義実現委員会に人探しの依頼をしに来たって事?私達の事、便利なボランティアか何かだと勘違いしているの!?」コハル
「い、いえ、そうではなく、此処に閉じ込められているって聞いて……」ヒフミ
「閉じ込め……はぁ?」コハル
「ですから、えっと、その、良くない事をした方が此処に──」ヒフミ
「え、それって──」コハル
不意に背後の扉が独りでに開く。学校指定のスクール水着を身に纏った生徒が現れた。
「──こんにちは、もしかして、私の事をお探しでしたか?」???
「はっ!?」ヒフミ
「えぇっ!?」コハル
「おぉ」隆一
「え、は、何で!?ハナコ、あ、あんたどうやって牢屋から出たの!?ちゃんと鍵は閉めたのに……!?」コハル
「いえ、鍵は掛かっていませんでしたよ?私の事を話されている様な声が聞こえたので、こちらに来てみました、何か御用でしたか?」ハナコ
「ああ、ちょっと部活の件でな」隆一
ハナコを一通り眺め、深く頷いた隆一は真面目腐った表情でそう告げる。
「あら、大人の方、という事は……先生ですね、改めましてこんにちは、部活という事は──もしかして補習授業部の?」ハナコ
「ああ、俺が顧問──言うなりゃ担任になった、宜しくな」隆一
「あらあら、それは──」ハナコ
「ま、待って!
「?何か問題でもありますか、下江さん」ハナコ
「問題しかないでしょ!?何で学校の中を水着で徘徊するの!?」コハル
「ですが、学校の敷地内であるプールでは皆さん普通に水着になられますよね?ここもあくまで学校の敷地内で、これも学校指定の水着です……あ、もしかして下江さんは、プールでは水着を着ないタイプですか?」ハナコ
「えっ、はァ!?」コハル
「そうでしたか、下江さんは全裸で泳ぐのがお好きなんですね、流石は正義実現委員会、そういった分野まで網羅されているなんて」ハナコ
「ばっ──馬鹿じゃないの!?着るに決まっているでしょ!?そ、そんな事するわけ……!」コハル
「それにしても裸こそが正義とは……かなり前衛的ですね、あまり考えた事はありませんでしたが、成程、試してみるのもまた一興ですか──」ハナコ
「や、やめてッ!こんな所で脱ごうとしないで!?兎に角早く戻って、はやく!もうすぐ先輩達が来ちゃうからぁ!」コハル
「あら、しかし先生たちは私に用事が……」ハナコ
「うるさいうるさいッ!この公共破廉恥罪!早く戻れっ!」コハル
「あらら、すみません先生、どうやら色々と混乱している状況のようですので、また後程お会いしましょう」ハナコ
コハルに背中を押され、ハナコは扉の向こうへ押し戻されていく。
「えっと、な、何だか、凄い方でしたね……」ヒフミ
「うん、中々個性的だね……しかし野外で水着か、…キヴォトスじゃなかったらしばらく留置所入りだな」隆一
「せ、先生……?」ヒフミ
ハナコを押し込み終えたコハルが肩で息をしながら戻って来る。
「はぁ、はぁ」コハル
「え、えっと……ハナコさんは、この後一体どうなるんですか?」ヒフミ
「そんなの当然死刑よ!エッチなのはダメ!死罪!」コハル
「死刑というのは流石にないと思いますけれど……」ヒフミ
「水着で学校を歩き回ったんだよ!?真昼間から!生徒が沢山いる、広場のど真ん中で!」コハル
「で、ですが、校内では校則で決められた服を着るものですよね?ですからきちんと学校の水着を……」ヒフミ
「どうしてそこで水着なの!?制服を着れば良いでしょう!?っていうか話に入って来るなッ!」コハル
「せ、先生、どうしましょう、今ちょっとハナコさんとお会いするのは難しそうですが……別の生徒に会いに行きますか?」ヒフミ
「あ〜、取り敢えず他のメンバー探すしかない感じか……」隆一
「次のメンバーは……えっと、えっと──『白洲アズサ』さん、ですね」ヒフミ
「──ただいま戻りました」マシロ
「任務完了です!現行犯で『白洲アズサ』さんを確保しました!」ハスミ
両開きの扉が開き、マシロとハスミの二名が顔を覗かせる。
「え……白洲アズサさん、って──」ヒフミ
「──あ、ハスミ先輩、マシロ」コハル
「コハルさん、お疲れ様です……って、あれ?」ハスミ
「先生?」マシロ
ハスミが小走りで隆一の元へ駆け寄る。
「先生が此処に居らっしゃるなんて、珍しいですね……何かご用事ですか?」ハスミ
「うん、ハスミ達の顔が見たくなってな」隆一
「まぁ……!」ハスミ
「ってのは冗談。補習授業部の担任になったから、そこの生徒集めって感じだ。丁度ここに残りのメンバーが集まってるからな」隆一
「……成程、先生が補習授業部の担任の先生になられると」ハスミ
「そゆことそゆこと」隆一
隆一がハスミとマシロの背後に視線を向ければ、ガスマスクを装着した不審者の様な生徒が佇んでいた。
「シュコー、シュコー……」アズサ
「………」ヒフミ
「……惜しかった、弾丸さえ足りていれば、もう少し道連れに出来たのに」アズサ
「み、道連れって……」ヒフミ
「──もう良い、好きにして、ただ拷問に耐える訓練は受けているから、私の口を割るのはそう簡単じゃないよ」アズサ
「………」ヒフミ
「……と、いう訳で、あの二人を預かっても良いかな?」隆一
「はぁ!?ダメに決まっているでしょ!?絶対ダメ、凶悪犯なのよ!?」コハル
「コハル、先生は独立連邦捜査部として、ティーパーティーから依頼を受けて此方にいらっしゃったのです、規定上は何の問題もありません、補習授業部の顧問、担任の先生になるのですから」ハスミ
「え、えぇ、でも──……ま、まぁ、先輩がそう言うなら……ふ、ふん!でも良いザマよ!こっちはこんな凶悪犯たちと一緒にいなくて済むし、そもそも補習授業部だなんて、恥ずかしい!そう、そうよ!あははっ、良いんじゃない、悪党と変態の組み合わせ!そこに馬鹿の称号だなんて、私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」コハル
コハルの人を露骨に見下すような態度と、この後彼女に待ち受ける運命を知っている隆一は、右手で頭を抑えて呆れるしかなかった。
「ふぅ……コハル?えっと、その……非常に口にし辛いのですが」ヒフミ
「うん?」コハル
「最後の一人は──下江コハルさん、貴方、です」ヒフミ
「………………えっ」コハル
まあ、乙。