The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
新たに創設された補習授業部──その初集合時の空気は、宛ら地獄のような雰囲気から始まった。
どこか引き攣った笑みを浮べ、ペロロ様バッグを抱きしめるヒフミ。何が楽しいのか周囲を見渡し、満面の笑みを浮べているハナコ。相変わらずガスマスクを被り、「シュコー」と呼吸音を漏らすアズサ。顔面蒼白で絶望に満ちた表情を浮かべるコハル。
個性をダースでキメてる面々だが、それでも尚教卓に立つ隆一の表情は笑顔であった。
「……は、はい、これで何とかみんな集まりましたね、補習授業部……」ヒフミ
「ああ、そうだな」隆一
ヒフミの震えた声に、隆一は懐かしい顔ぶれを見渡しながら頷く。傍から見れば酷い雰囲気だろうが、隆一にとってはそうではない。何せ、彼女達がどのような絆を育むのか、彼は既に知っているのだから。心配など、ひとつもなかった。
「ふふ、それで何をすれば良いのでしょうか?阿慈谷部長?先生?放課後に人気のない教室で、素行の悪い女子高生と大人が集まって……ふふっ、始まってしまいそうですね」ハナコ
「始まる……?まぁ、何だって構わない、因みに私は本気を出せばこの教室で一ヶ月は立てこもれる」アズサ
「シテ……コロシテ……」コハル
「え、えっと……」ヒフミ
どんどんと混沌としていく教室内に、ヒフミは縋る様な視線で隆一を見る。
「先生、その……よろしくお願いします」ヒフミ
「ああ、任せろ」隆一
「ありがとうございます、私も、その、出来るだけ頑張りますので……」ヒフミ
一度深く息を吐いたヒフミは自身の精神に喝を入れ、そっと立ち上がる。
「ひ、一先ず初対面の方が殆どだと思いますし、一旦自己紹介をしませんか?」ヒフミ
「む、自分から素性を明かすのか?」アズサ
「いや、だって一応同じ補習授業部のメンバーですし……」ヒフミ
「──それもそうか」アズサ
アズサはガスマスクの留め具を外し、前髪を軽く払った。
「──私は
「私は
「……
「えっと、
「どうも、先生だ、よろしくな」隆一
「先生……というのは、つまりこの部活の顧問という事だろうか?」アズサ
「…『先生』はトリニティの外でも通る通り名だ。ここに限って厳密に言えば…顧問兼担任って立ち位置かな」隆一
「……そもそも、この補習授業部って何なのよ!」コハル
「ティーパーティーからウチに依頼があった、どうやら此処は成績の振るわない生徒の落第を回避する為に、例外的に設けられた部活だ、物凄く簡単に言うと、放課後に補習授業をするクラスって感じかな?」隆一
「あら」ハナコ
「うぅ……」コハル
「ほう」アズサ
「え、えっと、一応私も事前に説明を受けていまして、何か分からない点とか気になる点がありましたら──」ヒフミ
「大丈夫、大方は理解した、これからは普通の授業に加えて、毎日放課後に特殊訓練があるってだけだ」アズサ
「え、えっと、訓練と言って良いのかは分かりませんが、凡そはその通りです、私達が目指すのはこれから行われる特別学力試験で、『全員が合格』する事ですので……!先生も手伝ってくれますし、皆で頑張って落第を免れましょう!それと…」ヒフミ
「それと?」ハナコ
「特別学力試験は第三次まで、つまり三回あるようですが……その内一度でも全員同時に合格すれば、それで補習授業も終了、皆さんは晴れて落第回避、との事です!」ヒフミ
「うん、成程、理解した、三回のミッションの内、一度でも良いから全員で成功を収める、そのために、ここに毎日集って訓練を重ねる……それ程難しい任務じゃない」アズサ
「そ、そうですよね、頑張りましょう!えっと、アズサちゃんは転校してからあまり時間が経っていないんですよね?きっと以前の試験は学園に慣れていなかったせいもあるでしょうし、皆で頑張ればすぐに何とかなると思います!」ヒフミ
「あら、白洲さんはこちらに転校されて来たのですか?トリニティに転校とは、また珍しいですね」ハナコ
「あ、その、書類上はそう書いてあって……もしかして私、余計な事を……?」ヒフミ
「いや……別に隠す事でもないから気にしないで良い、それに事実だ、こう言われるのは慣れるべきだし、そのための努力もする」アズサ
「成程……それでは私も、アズサちゃんって呼んでも良いですか?」ハナコ
「?別に良いけれど……呼び方に、拘りはないし」アズサ
「では、アズサちゃん、ヒフミちゃん、それからコハルちゃん、それに先生──うふふ、何だか良い響きですね」ハナコ
「………?」アズサ
「あら、そんな憎悪に満ちた目で、どうしたんですかコハルちゃん?」ハナコ
「言っておくけど、私は認めないから……!」コハル
椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった彼女、コハルはそんな言葉を叫ぶ。
「えっと……?」ヒフミ
「あら、何の事ですか?」ハナコ
「わ、私は正義実現委員会のエリートだし!私の方が年下だからって、あんた達を先輩だなんて呼ぶつもりはないから!」コハル
「それにそもそも、こんな部活さっさと抜けてやるんだからっ!あんまり慣れ慣れしくしないで貰える!?」コハル
「なるほど……確かに補習授業部の中でまで、先輩後輩なんて扱いにする必要はないと思います、私としては何も問題ありません」ハナコ
「私も別に、そもそもそういう文化は不慣れだし、仲良くする為に集まってる会じゃない、あくまでお互いの利益の為なんだから、親しいフリをする必要もない筈、違う?」アズサ
「あ、あうぅ……」ヒフミ
「じゃあ決まり!それに、そもそもの話なんだけれど、私が試験に落ちたのはあくまで……あくまで!飛び級の為に、一つ上の二年生用のテストを受けたせいだからっ!」コハル
「あら、飛び級?どうしてそんな事を……?」ハナコ
「ど、どうしても何も……!私は、正義実現委員会の
「でも、それで落第してしまったんですよね?一度試しにチャレンジするという事であれば理解出来ますが、何故それを三度も──……?」ハナコ
「うぐっ……う、うるさいうるさい!私が言いたいのはそういう事じゃなくてっ!私は、今まで本当の力を隠してたって事!」コハル
「………?」ハナコ
「今度のテストはちゃんと、一年生用のテストを受けるから!そうすればちゃんと優秀な成績を収めてはい終わりって訳!分かる!?」コハル
「は、はぁ……」ヒフミ
「それで、直ぐにこんなのなんて辞めてやるんだから!」コハル
「いや、えっと、個人で優秀な成績を出したとしても、それでこの部を卒業出来る訳ではなくて、ですね……」ヒフミ
「成程、経歴を隠していた訳か、因みに私も今は、前の所と学習進行度の違いが大きかったから、一年生の試験を受けている」アズサ
「あ、じゃあ同じ……い、いや!どうせすぐに関係なくなるけれどっ!?それに、短い付き合いで残念だったけれど、あんた達はそういう感じじゃないみたいだし?あははっ!じゃあね、精々頑張って!」コハル
「えっ、あ、ちょ……!」ヒフミ
「先生もこんな連中の面倒見せられて可哀そ──えっ」コハル
コハルが最後に、隆一をもこき下ろそうと視線を向ければ──無言で涙を流す、隆一の姿が視界に映った。
「せ、先生!?」ヒフミ
「むっ、どうした先生、もしかして催涙ガスか?」アズサ
「いえ、流石にそれは──」ハナコ
「ど、どうしたの先生?な、何で泣いているの?もしかして、どこか痛いの?わ、私、痛み止めとかならポーチに入っているけれど──」コハル
「──終わったぁ」隆一
「えっ、先生!?」コハル
「全部白紙ダァ」隆一
「先生!?」ヒフミ
「え、あ、いや、で、でも……」コハル
「レクリエーションやら、アイスブレイクのあれやこれやを考えて来たんだけれどなぁ……水泡に帰すのはヤダヨォ…」隆一
そう言って隆一が取り出したのは、無数のテーブルゲーム。なぜか教卓の裏から次々と出現するそれらに、補習授業部の面々は己の目を疑った。
「せ、先生、いつの間にこんなものを……」ヒフミ
「シャーレから持ってきたブツの数多だ、やはり仲良くなるには一緒に遊ぶのが一番だと思って」隆一
「シャーレからとなると……これ、全部先生の私物でしょうか?」ハナコ
「ああ、まぁ生徒達の忘れ物とかも混じっているかもしれないけれど…」隆一
「べ、別に仲良くなる必要なんて……」コハル
「──あんまふざけた真似するとハスミ達に報告して正実から外すよ?」隆一*1
「わ、分かったからぁ!や、やれば良いんでしょう、やればっ!?」コハル
「ふふっ、面白そうですし、私も勿論参加しますよ」ハナコ
「ふむ、これは……勉学や訓練に関係あるのだろうか?」アズサ
「勿論あるとも、アズサ、先生である俺が信じられないかい?」隆一
「むっ──いや、先生の評判は聞き及んでいる、先生がそう言うのであれば、従おう、きっと何か意味のある事の筈だから」アズサ
「え、えっとじゃあ、私も……」ヒフミ
「良し、皆席についてくれたね?それじゃあ──ヒフミ部長」隆一
「えっ?」ヒフミ
「号令をお願い」隆一
「わ、私ですかっ!?」ヒフミ
「部長が号令というのは自然な事です、是非お願いします」ハナコ
「うん、部隊長が先魁を取るのは別に変な事じゃない」アズサ
「……やるなら、早くしてよね」コハル
「あ、あぅ……わかりました、そ、それじゃあ、えっと、僭越ながら……」ヒフミ
立ち上がり、皆を見渡す。ハナコ、アズサ、コハル、隆一──そしてヒフミ。
「そ、それでは……!補習授業部、第一回レクリエーションを開始します!」ヒフミ
「あ、わりぃ忘れてたことあったわ」隆一
「…?どうしました?先生」ハナコ
「実は俺な…」隆一
「先生が?」ヒフミ
「数学で赤点以外取ったことないんだ」
「「「「ゑ?」」」」全員