The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
補習授業部、放課後の自習時間。前半に隆一が用意したテスト対策、後半が生徒各自の自習時間。自習時間に於いて隆一は教卓で明日の授業資料を用意しながら、皆の様子を横目に眺めていた。
「ハナコ、この問題はどう解けば良い?」アズサ
「どれですか?──あぁ、成程、こういう時はですね、倍数判定法を用いて、このように……」ハナコ
「──そっか、うん、理解した」アズサ
「本当に理解出来ましたか?もう一度、ご自分で解いてみます?」ハナコ
「大丈夫、次はもっと難しい問題を出してくれ」アズサ
「あらあら、随分と自信たっぷりですね、それでは……」ハナコ
アズサとハナコの二人は机をくっつけ、真剣な面持ちで問題集を捲りながら学習を進めている。ヒフミはそんな二人を見つめながら、教室の片隅で自習しているコハルに目を向ける。丁度、コハルが表現し辛い瞳でハナコ達を見つめているところだった。
「えっと、コハルちゃん?何か分からない問題でもありましたか?」ヒフミ
「い、いやっ、別に?」コハル
「因みに今見ているそのページ、今回のテスト範囲ではありませんよ?」ハナコ
「やっ、ちが……っ!し、知っているし!?今回の範囲は余裕だから、先のところを予習していただけ!」コハル
「予習、ですか……にしては、随分と手が止まっていましたけれど」ハナコ
「う、うるさいなぁ!集中してただけ!」コハル
「あ、あはは……」ヒフミ
「はい、ハナコちゃんが何だかとっても凄くって……!それにアズサちゃんも、学習意欲たっぷりです!コハルちゃんは実力を隠していたそうですし──これなら、余裕で合格出来てしまうかもしれません……!」ヒフミ
先生の座る教卓と最前列のヒフミの席は近く、彼女は心の底から嬉しそうに隆一へとその感情を吐露した。
「本当に良かった……!実は、結構心配していたんです」ヒフミ
「──と、言うと」隆一
「実は、もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をして下さいとティーパーティーから言われていまして……」ヒフミ
「合宿かい?」隆一
「はい、そうなんです、それに、もし三次試験まですべて落ちてしまったら……あぅ」ヒフミ
「……何か、不味い事に?」隆一
「い、いえ!なんでもありません……!心配は杞憂で終わりそうですし、暗い話はこの辺りにしましょう……!兎に角、試験は問題なさそうです!」ヒフミ
「そう言ってもらえると、こっちも少し安心するよ」隆一
「はい……!皆さん、本当に頑張っていますから」ヒフミ
「……そう言えば、ハナコちゃんは凄く勉強が出来る感じなのですが、どうして落第してしまったのでしょうか?」ヒフミ
「うーん、ほら、テストの日に偶然風邪に罹ってしまったとか?」ハナコ
「──水着を着用していましたし、強ちそれが正解な気も……あ、あはは」ヒフミ
「風邪の日に水着ねぇ……体調不良と言うには、随分と活動的な体調不良だな」隆一
「せ、先生まで乗っからないで下さい……!」ヒフミ
瞬く間に時は過ぎ、第一次特別学力試験──当日。会場はいつもの補習授業の教室。しかし、皆が纏う雰囲気だけはいつもと異なる。隆一はコンシーラーで隠した隈を指先で軽く叩きながら、そっと息を吐き出した。
「──時間だ、ノートやら教科書の類は鞄に仕舞い、机の中は空っぽに」隆一
「……っ!」コハル
「うぅ……」ヒフミ
「ふふっ」ハナコ
「………」アズサ
「健闘を祈るぞ?」隆一
「え、エリートの力を見せてやるんだから!」コハル
「あ、あはは……頑張ります」ヒフミ
「ふふっ、はい」ハナコ
「準備は完璧」アズサ
「コハルちゃんは、随分と気合が入っていますね」ハナコ
「わ、私はいつも通りだし!」コハル
「……深呼吸、深呼吸……」ヒフミ
「アズサも、そこまで気負う必要はないぞ」隆一
「……分かってる。でも、緊張はする」アズサ
「皆、問題用紙と解答用紙に不備は──ないな?んじゃあ……」隆一
「試験開始ィ!」
宣言と共に、一斉にプリントを捲る補習授業部。此処に、第一次特別学力試験が開始された。
「(──え、あれ、この問題……)」ヒフミ
ヒフミは、まず問題全体の把握に努めた。目にする問題の前半、その殆どは補習授業の内容をそのまま張り付けたような問題ばかりだった。
「(──やっぱり、これ、補習授業でやったところです……!)」ヒフミ
後半まで問題を確認したヒフミは、思わず笑みを零した。ペンを握る手に力が籠り、憶えている限りの解答を次々と空欄に埋め込んでいった。
「こ、これは……え、えぇっと……」コハル
「ふふっ」ハナコ
「……ふむ」アズサ
コハルは問題用紙を睨みつけたまま、ペン先を宙で彷徨わせている。何度も消しゴムを使う音だけが、静かな教室に響いていた。
「(うぅ、これ、本当にやったやつ……?)」コハル
一方のハナコは相変わらず余裕の笑みを浮かべながらペンを走らせているが、その解答欄には度々空白が目立った。もう一方のアズサは眉間に皺を寄せ、時折天井を仰ぎながらも、着実に解答を埋めていく。
「……ふむ、これは、こう、か」アズサ
第一次特別学力試験──終了後。 テスト終了後、解答用紙を回収しスキャン、そして採点担当に解答を送信してから──凡そ十分程。隆一の端末に、第一次特別学力試験の結果が送られて来た。
「──おぉっ、今丁度、採点結果が届いたぞ?やっぱキヴォトスの技術すげーな」隆一
「み、みなさんお疲れさまでした……!え、えっと、百点満点で六十点以上でしたら合格だそうです!──では、結果発表と行きましょう!先生、お願いします!」ヒフミ
「んじゃ、結果発表タイムだ。じゃあまずヒフミ…」隆一
「──七十九点、合格だ」隆一
「あ、ありがとうございます!何だか無難な点数ですが、一先ず合格出来て良かったです!では、次に……」ヒフミ
「アズサ──四十八点、不合格」隆一
「え、は?──はいぃ!?」ヒフミ
「ちっ、紙一重だったか……!」アズサ
「ま、待って下さい!何でそんな惜しいって感じの雰囲気出しているんですか!?紙一重って点数じゃないですよ!?」ヒフミ
「まあ12点だ。記述はさておき問題3問分、点数じゃ全然紙一重じゃないが、問題の数で換算すれば一応紙一重ではあるな」隆一
「そ、そうなのですね…」ヒフミ
「……次は、必ず」アズサ
「コハル──三十七点、不合格」隆一
「!?」コハル
「コハルちゃんんんッ!?ち、力を隠していたんじゃないんですか!?」ヒフミ
「えっ、や、その……!か、かなり難しかったし……」コハル
「すっごく簡単でしたよ!?毎週やる小テストみたいなレベルでしたよアレ!?」ヒフミ
「うぅ……エリートの名が、泣いてる……」コハル
「あらあら……」ハナコ
「う、うぅ……そんな、これは合格したのは私とハナコちゃんだけ、という事でしょうか……?」ヒフミ
「ハナコ──三十二点、不合格」隆一
「さ──……」ヒフミ
「あらら」ハナコ
「32点、32点ですか!?と言うか待って下さい、ハナコちゃん物凄く勉強が出来る感じでしたよね!?」ヒフミ
「確かに私、そういう雰囲気があるみたいですね、まぁ成績は別なのですが」ハナコ
「雰囲気!?雰囲気だけだったんですか!?」ヒフミ
「はい、雰囲気だけです」ハナコ
「そんな堂々と言われても……!う、あ、ああぁ……!」ヒフミ
「ヒフミ、ヒフミ!気を確かに!」隆一
「せ、せんせぇ~……」ヒフミ
「ヒフミ、緊急用のペロロだ、これをキメて落ち着くと良い……!」隆一
「あ、ありがとう、ございますぅ……」ヒフミ
「よし、よし、そうだ、良い子だね、ヒフミ」隆一
明らかに色々とおかしいヒフミと、それに順応している隆一の様子を眺めながら、コハルとハナコ、アズサの三人は互いに顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らした。
「──駄目だったか」隆一
第一次特別学力試験結果
ハナコ──32点、不合格
アズサ──48点、不合格
コハル──46点、不合格
ヒフミ──81点、合格