The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「ようやく着きましたね、ここが私達の……」ヒフミ
「はい、合宿場です、随分遠かったですね──」ハナコ
トリニティ校舎より歩き通し、一時間と少し。漸くトリニティの辺境にある合宿場へと到着。宿泊部屋を見渡した補習授業部の面々は、安堵の息を漏らした。
「暫く使われていない別館の建物と聞いていたので、冷たい床に裸になって寝ないといけないのかと思っていましたが……」ハナコ
「は、裸っ!?」コハル
「ふふっ、結構広いですし、きちんとしていますし、可愛いベッドもあって何よりです!これなら皆で寝られそうですね、裸で♡」ハナコ
「さっきから何でちょいちょい裸を強調するの!?」コハル
その、時だった。
「──お邪魔しまーす!」???
元気な声と共に、部屋の扉が勢い良く開く。そこに立っていたのは、活発そうな瞳を輝かせる、見覚えのない少女だった。
「えっと……どなたですか?」ヒフミ
「初めまして!私、
敬礼するレイナに、補習授業部の面々は互いに顔を見合わせる。
「ボ、ボディーガード……?」ヒフミ
「はい!先生って結構危ない目に遭ったりする事が多いって聞いたので、この合宿中はずっと私が守らせて頂きます!それに、補習授業部のみんなとも仲良くなりたいなって!よろしくお願いします!」レイナ
満面の笑みで手を差し出すレイナ。その姿は──何の裏もない、ただの元気な護衛にしか見えなかった。
「あら、可愛らしい方ですね、よろしくお願いします」ハナコ
「よ、よろしく……」コハル
「──ふむ、ボディーガードか、専門的な訓練は?」アズサ
「え、えっと、それはその……秘密です!」レイナ
アズサの問いに、レイナはやや慌てた様子で誤魔化すのだった。
「駄目!エッチなのはダメ!死刑!」コハル
「折角の合宿ですし、そういうお勉強も必要ではないでしょうか?」ハナコ
ハナコが鼻歌を歌いながらベッドを確認し、そんな事を口にすれば、コハルが空かさず突っ込みを入れる。相変わらずの二人のやり取りを、レイナは興味深そうに見守っていた。
「あの、これから一週間寝食と勉強を共にするので、皆さん仲良く……」ヒフミ
「って、あれ?アズサちゃんは……」ヒフミ
「あら?先程までは一緒に居たのですが……」ハナコ
部屋を見渡すも、アズサの姿がない。そんな折、扉が開いて、向こう側からアズサが顔を覗かせた。
「あ、アズサちゃん、今まで何処に──」ヒフミ
「偵察完了だ」アズサ
その手には愛銃、表情は真剣そのもの。
「て、偵察……?」ヒフミ
「うん、トリニティ本校舎からはかなり離れているし、流石に狙撃の危険は無さそう、外からの入り口が二つだけというところも気に入った」アズサ
「わ、私も色々調べてみようかな!?」レイナ
場の空気に呑まれた様に、レイナも意気揚々と手を挙げた。
「うん──まぁ、他にも幾つかセキュリティ上の脆弱性も確認出来たけれど、改修すれば問題ない範囲だ」アズサ
「えっと……」ヒフミ
「うん、分かっている、一週間の集中訓練だろう?外出禁止、自由時間なし、二十四時間一挙手一投足まで油断する事は許されない、ハードなトレーニングだ」アズサ
「きちんと準備もしてきたんだ」アズサ
背嚢を降ろすアズサ。次々とベッドの上に持ち込んだ物品を広げる。
「体操着や細かい着替え、衛生面の歯ブラシや歯磨き粉、石鹸、非常食、毛布に水筒……」アズサ
「流石はアズサちゃん、用意周到ですね」ハナコ
「当然だ、徹底した準備こそ成功への糸口だから」アズサ
「避難するつもり?」隆一
「うふふっ、みんなで一緒に食欲を満たし、睡眠欲を満たし、そしてみんなが欲する目標へ向かって脇目も振らず手を動かす……良いですね、合宿」ハナコ
「……うん、そうだね」アズサ
ハナコの言葉に、アズサはふっと柔らかな笑みを零す。しかし、その笑顔はものの一瞬で引っ込んでしまう。
「あ、でも任務は確実に遂行する、きちんと勉強をして、第二次特別学力試験にはどうにか合格するつもり、その目標の為に此処に来たんだから、その……迷惑は、掛けたくない」アズサ
「アズサちゃん……」ヒフミ
「大丈夫、試験を妨害してくるような敵襲に備えて対人地雷も用意してきた、後は即席爆発装置の材料になりそうなもの一式と、対戦車地雷も多少──」アズサ
「あ、アズサちゃん!ですから、そういうのは……!」ヒフミ
その耳に──カラン、カランという音が届く。開けた窓の向こう側、施設の入り口付近からだった。
「むっ……!?」アズサ
「えっ、な、何の音でしょう……?」ヒフミ
「侵入者だ!」アズサ
「わ、私も行きます!」レイナ
告げるや否や、アズサとレイナは部屋を飛び出した。
「あっ、ちょ、アズサちゃん、レイナさんも!?」ヒフミ
「先程仕掛けたブービートラップに何者かが引っ掛かった、先手必勝、遅れるなっ!」アズサ
「ちょ、ちょっと!?ぶ、ブービートラップって……!?と、取り敢えず追い掛けましょう!」ヒフミ
廊下を駆け抜け、外へと飛び出すアズサとレイナ。カラカラと軽い音を鳴らす缶の元へ駆け寄る。
「動くなっ!──うん?」アズサ
「あっ!」レイナ
見上げた視線の先には、片足をロープに絡め捕られ、無様にも逆さ吊りとなった隆一の姿があった。
「……何だ、先生だったか」アズサ
「せ、先生ぇえっ!?大丈夫ですか!?」レイナ
「……あぁ、おはよう、アズサ、レイナ」隆一
「うん、おはよう、先生」アズサ
「せ、先生、今すぐ助けます!」レイナ
レイナがロープに向かって駆け寄り、慌てて解こうとするが──結び目が予想外に複雑で、逆に自分の腕まで絡めてしまう。
「あ、あれ、あれれ……!?解けない……!?」レイナ
「──ボディーガード、大丈夫か」隆一
「だ、大丈夫です、多分……!」レイナ
遅れて補習授業部の皆がやって来る。
「アズサちゃん、一体何を──って、せ、先生ぇえっ!?レイナさぁぁん!?」ヒフミ
「は!?ちょ、お、下ろさないと、早く!?」コハル
「あら、後から合流するという話でしたから、まさかとは思いましたが……」ハナコ
「うん?別にこのロープを切れば……」アズサ
「ま、待って下さいッ、あんな逆さ吊りの状態で切ったら……!」ヒフミ
「ふんっ」アズサ
即断即決のアズサはナイフでロープを素早く切断。
そして、見事にジャーマン・スープレックスを喰らった様な姿勢で地面と衝突した。
「せっ、せんせええぇええ!?」ヒフミ
「先生ぇえ!?大丈夫ですか!?」レイナ
「わ、わわっ、どど、どうしよう!?えっと、えっと……!」コハル
「……凄い落ち方をしましたが、先生、御無事ですか?」ハナコ
「まあこれぐらいの怪我は慣れてる」隆一
「む、むぅ……これは、もしかして私のせいだろうか」アズサ
「…多分」隆一
「……という訳で、改めて。遅れてすまんの、皆」隆一
合宿施設、宿泊部屋。隆一が朗らかに挨拶を口にする。
「……先生、頭の傷は大丈夫なの?」コハル
「あぁ、一応な」隆一
「先生、ごめんなさい」アズサ
「あぁ構わん、ただ、合宿の間は許可を得ずにトラップの類の設置は禁止な、今回は逆さ吊りで済んだが、ダイナマイトとか使われたら俺の内臓がハローエブリワンするから」隆一
「先生は私達と違って、少しの爆発でも致命傷に成り得ますから、確かにトラップ一つでも大事ですね」ハナコ
「む、むぅ……分かった、トラップを仕掛ける場合は事前に許可を取る」アズサ
「……まずは仕掛けないという思考を持とうかな?アズサ?」ヒフミ
「ま、まぁ良いです、いえ、良くはありませんが──先生も大事なかったという事で、取り敢えず話を合宿に戻しましょう!」ヒフミ
「ナギサ様から言われた通り、第一次特別学力試験には残念ながら落ちてしまったので、この別館で合宿を行う事になりました、私達は第二次試験までの一週間、此処に滞在する事になります」ヒフミ
「長い間放置されていたそうですが、少し掃除すれば全然使えそうですし、体育館やシャワー室なども充実しています」ヒフミ
「うん、そう言えば外にプールもあった、此処と同じく暫く使われていない様だったけれど」アズサ
「プールですか、良いですね、皆で入ったら楽しそうです、勿論──」ハナコ
「ぜ、全裸は駄目!変態ッ!」コハル
「……いえ、普通に水着で、ですよ?」ハナコ
「うぐぅ──!?」コハル
「あ、あはは……それと、私達が此処に滞在する間、先生もずっと一緒に居てくれる予定ですので、何かあっても大丈夫だと思います!」ヒフミ
「うん、何かあったら遠慮なく頼ってね」隆一
「わ、私もずっと近くにいますから!何かあったらいつでも呼んで下さい!」レイナ
「ありがとうございます!えっと、通路を挟んで向かい側にもお部屋があるのですが、先生は──」ヒフミ
「あら、先生、どうせなら……──」ハナコ
「駄目っ、絶対ダメ!同衾とかエッチじゃん!死刑ッ!」コハル
「えっと、コハルちゃん、私、まだ何も言っていませんが……?」ハナコ
「何を言い出すか位大体分かるわよ!駄目だったら駄目!そういう事はさせないんだから!」コハル
「コハルちゃんは厳しいですねぇ……」ハナコ
「私は先生も一緒で構わないけれど?ベッドも余っているし、無駄に部屋を幾つも使う事もない」アズサ
「わ、私は──先生の護衛として近くにいるのが任務ですから!同じ部屋でも……!」レイナ
「レ、レイナさんまで!?」ヒフミ
「うむ…」隆一
「あら、先生も結構ノリ気ですか?」ハナコ
「っ!?」隆一
「──いや、法的に大丈夫かなぁと思って」隆一
「だ、駄目っ!エッチなのは駄目ッ!」コハル
「寝顔ってエッチなのですか……?」レイナ
「まぁ、確かに惜しいけれど、俺は向かい側の部屋で寝泊まりするさ、何かあったらすぐ呼んでな?」隆一
「わ、私は先生の部屋の前に立って警備します!」レイナ
「あ、それも……別に良いけど、寝るのは?トイレは?飯は?24時間立ちっぱか?」隆一
「え、あ……そ、それは……」レイナ
言葉に詰まるレイナに、隆一は苦笑を浮かべた。
「無理はするなよ、な?幸い俺の部屋にもう一つベッドはあるし」隆一
「は、はい……頑張ります!」レイナ
「で、では、一旦そういう事で……荷物を片付けて早速勉強を──」ヒフミ
「あら、でもその前にやる事があると思いませんか?ヒフミちゃん」ハナコ
「えっ、やる事、ですか……?」ヒフミ
「成程、やはり敵襲を想定したトラップの設置を──」アズサ
「アズサ?マジでやめろ?俺の中身ハローエブリワンすんぞ?」隆一
「む、むぅ……」アズサ
「いえ、そうではなく──お掃除、ですよ♡」ハナコ
「お、お掃除……ですか?」ヒフミ
「はい、管理されていた建物とはいえ、長い間使われていなかった事もあって、埃なども多いように見えませんか?」ハナコ
「……ん、確かに、そうかな」隆一
答え、隆一はベッドの縁を指先でなぞる。指の色が若干灰色になるぐらい、埃が付着した。
「このまま此処で過ごすと言うのも健康に良くなさそうですし、今日はまずお掃除から始めて、気持ち良い環境で残り一週間を過ごす──と言うのは如何でしょう?」ハナコ
「なるほど、確かにそうですね……身の回りの整理整頓から始めるのは定石ですし」ヒフミ
「もしかしてヒフミって、勉強の時部屋の汚さが目について先に掃除始めちゃうタイプ?」隆一
「せ、先生、何故それを……?」ヒフミ
「──うん、衛生面は大切、実際の戦場でも凄く士気に関わりやすい部分だ」アズサ
「わ、私もお掃除得意です!お手伝いします!」レイナ
「お、お掃除……?えっと、まぁ、普通のお掃除なら……」コハル
「た、確かにハナコちゃんの言う通りです、私達がするのは一夜漬けではなく、きちんと用意された期間の中での試験勉強……つまりは長距離走の様に順番やペース、作戦も考えないといけません」ヒフミ
「えぇ、どうせなら良い環境で、そうでしょう?」ハナコ
「うん、賛成する」アズサ
「わ、私も……」コハル
「──分かりました、それではまず、大掃除から始めるとしましょう!」ヒフミ
「それなら俺も参加しよう」隆一
「わ、私も!」レイナ
「それでは、汚れても良い服に着替えてから十分後に建物の前に集合で良いですか?」ヒフミ
「分かった」アズサ
「はい♪」ハナコ
「よ、汚れても良い服……た、体操着で良い……?」コハル
裸じゃなければ何でもいいだろう*1