The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

77 / 77
お気に入りとコメントは励みになるので皆さんお願いします
誤字脱字報告も同じく励みになります


愛という嘘

深夜、正義実現委員会の巡回中。

 

トリニティ本校舎、その裏手の資材置き場。巡回任務に就いていた一年生の生徒が、ふと足を止めた。

 

 

 

 

「……ん?」正実モブA

 

 

 

 

隣を歩いていた同僚の巡回員が、怪訝そうに振り返る。

 

 

 

 

「どうした、また野良猫か何かか?」正実モブB

 

 

「いや……そういうんじゃなくて」正実モブA

 

 

 

 

資材の陰、そこに不自然な小包が転がっている。周囲の景観に馴染まない、明らかに人為的に置かれたモノ。巡回員はしゃがみ込み、恐る恐るその表面を確認した。

 

 

 

 

「な、何これ……忘れ物、にしては……」正実モブA

 

 

 

 

隣で覗き込んだもう一人の正実の生徒も、途端に表情を強張らせた。

 

 

 

 

「……おい、待て、触るな」正実モブB

 

 

「え?」正実モブA

 

 

「その形……普通の荷物じゃない」正実モブB

 

 

 

 

配線の様なものが、包みの隙間から覗いている。巡回員の顔から、みるみる血の気が引いていった。

 

 

 

 

「ッ──上に報告を!これ、爆弾……!」正実モブA

 

 

「本部!本部聞こえますか!?資材置き場で不審物発見、至急応援を──!」正実モブB

 

 

震える手で無線機を握りしめる二人の声は、静まり返った深夜の校舎に、やけに大きく響いた。

 

 

 


 

 

 

その一報は瞬く間にトリニティ全域を駆け巡った。

資材置き場に仕掛けられていたのは、精巧に作られた爆発物。信管、配線、時限装置──誰もが一目見て「本物」と判断するに足る作り込み。実際にはDOLUSが用意した偽物、爆発する事のないハリボテであったが、その完成度は本物と見紛う程であった。正義実現委員会とティーパーティーは即座に厳戒態勢を敷き、爆発物処理班を招集。他の場所にも同様の仕掛けがないか、深夜にも関わらず総出で校内を捜索する事態となった。

 

 

 

 

「ど、どうしてこんな……!」マシロ

 

 

「落ち着きなさい、まずは他の設置箇所の有無を確認するのが先決です」ハスミ

 

 

「で、でも、もし本当に爆発したら……生徒達が……!」マシロ

 

 

「だからこそ、冷静に動く必要があるのです。パニックは、状況を悪化させるだけです」ハスミ

 

 

 

 

ハスミの声は普段と変わらぬ落ち着きを保っていたが、その手元の端末を操作する指先は、僅かに震えていた。

本部は混乱の極みにあった。エデン条約の締結を目前に控えるこの時期、爆弾テロという事象は──たとえ未遂であれ──爆発の威力以上の意味を持つ。トリニティの治安が脅かされているという事実そのものが、条約への機運に暗い影を落とすのだ。

 

 

 

 

「これは……単なる愉快犯とは思えません」ハスミ

 

 

「ええ、私も同感です。愉快犯にしては、あまりにも作りが本格的すぎる」マシロ

 

 

「間違いなくイタズラの類ではありません。あまりにも手が込みすぎている。ここまでくると、爆発しなかった事が奇跡としか…」ハスミ

 

 

 

 

誰もが、そう直感していた。そしてその混乱に追い打ちをかける様に、深夜のうちにトリニティ全土の通信網へ、一つの音声が流された。

 

 

 

 

──我らは、トリニティ友愛連合」???

 

 

 

 

突如として鳴り響いた放送に、校内は水を打ったように静まり返った。

加工された声、性別も年齢も判別不能な、機械的な響き。校内放送のシステムに侵入し、強制的に流されたそのメッセージは、瞬く間に生徒達の間に恐怖と混乱を広げていく。

 

 

 

 

角の生えた悪魔には、死以外の道はなし」???

 

 

我らはこれより先も、蛮族の幻惑(エデンの妄言)を許さぬ、平和という名の欺瞞を、断じて許さぬ。

 

次は──ハリボテでは、済まさぬ」???

 

 

 

放送は、ものの数十秒で唐突に途切れた。

後には、静寂と、拭い難い恐怖だけが残された。

 

 

 


 

 

 

ティーパーティー、緊急対策室。

 

ナギサは端末に流れる録音データを繰り返し再生させながら、険しい表情でそれを聞き続けていた。

 

 

角の生えた悪魔には、死以外の道は…」録音音声

 

 

「……角の生えた悪魔、ですか」ナギサ

 

 

「ゲヘナの生徒の事、ですよね……悪魔の角って」マシロ

 

 

「えぇ、間違いありません、これは──反エデン条約を掲げる過激派の犯行声明です」ナギサ

 

 

「でも……こんな、いきなり……一体何がしたいんでしょうか」ハスミ

 

 

「目的は明確です。エデン条約の締結を妨害する事、そしてトリニティ内に不安と分断の種を蒔く事──そのどちらもが、この声明の狙いでしょう」ナギサ

 

 

思想は、あまりにも明確だった。しかし、それ以外の情報が──何一つとして掴めない。

 

 

「発信源の特定は?」ナギサ

 

 

「そ、それが……複数のVPNを経由しており、辿ろうとする度に経路が変わって……」情報班

 

 

「まるでこちらの追跡を予測しているかのように、要所要所でジャミングと思しき電波干渉も確認されています」情報班

 

 

「……こちらの手の内を、読まれているという事ですか」ナギサ

 

 

「はい……申し訳ありません、現状ではこれ以上の追跡は困難かと」情報班

 

 

ナギサは奥歯を噛み締めた。

トリニティの情報局が総力を挙げても、尚この程度か。

 

 

「(──これは、単独犯の仕業ではない)」ナギサ

 

 

ナギサの脳裏に浮かぶのは、疑念という名の確信。

 

 

「(トリニティの裏切者は、あの補習授業部の中に、確実にいる……でも、こんな技術力……)」ナギサ

 

 

この声明の加工技術、通信経路の隠蔽、ジャミング──これらは、トリニティ内部だけで完結出来る代物ではない。生徒個人の悪意やイタズラだけでは、到底届かない領域の技術力だ。

 

 

「(外部との繋がりが、ある……?)」

 

 

その考えに至った瞬間、ナギサの脳裏を過る一つの人物。

 

 

「(──まさか、先生!?)」

 

 

いや、そんな筈がない。彼は今、あの部活の顧問として、生徒達の為に奔走している。あの先生が、こんな凶行に手を貸す道理がない。

だが──同時に、拭えない疑念もあった。

 

 

「(けれど、独立連邦捜査部という組織の裏には、一体どれだけの力が眠っているのか、私は本当に理解しているのでしょうか……)」ナギサ

 

 

ナギサは端末を手に取った。今すぐにでも、先生に相談すべきだ。この事態を、彼にも共有し、指示を仰ぐべきだと。

しかし──指を止める。

 

 

「(……いえ、無理でしょうね)」ナギサ

 

 

先生は今、補習授業部の合宿準備で手一杯の筈だ。恐らく今頃連絡どころではないだろう。事実、送ったメッセージへの返信は、既に数時間途絶えたままだった。

 

 

「(連絡が取れない、という事は……つまり、先生が今回の件に直接関与していないという証左にも、逆に、都合が良過ぎる不在にも見える)」ナギサ

 

 

ナギサは静かに端末を伏せ、腕を組んだ。

 

 

「(──補習授業部の中の誰か、あるいはそれ以外に潜む裏切者、その人物と……外部の勢力が結託している)」ナギサ

 

 

トリニティ内部だけでは説明のつかない技術力。それを可能にする外の存在。

 

 

「(先生、あるいは彼が所属する独立連邦捜査部──もしそこに、何らかの繋がりがあるとしたら)」ナギサ

 

 

ナギサは、そこまで考えて──静かに首を振った。

 

 

「(いえ、飛躍しすぎです、まずは事実の積み重ねから……)」ナギサ

 

 

それでも、拭い切れない違和感が、彼女の胸の奥に小さな棘として突き刺さっていた。

 

 

「──ハスミさん、マシロさん」ナギサ

 

 

「はい」ハスミ

 

 

「引き続き、爆発物の残留物の解析と、声明音声の技術的な分析を急いで下さい……それと」ナギサ

 

 

「それと?」マシロ

 

 

ナギサは、暗い窓の外──トリニティの夜景に視線を向けた。

 

 

「──補習授業部に関する、追加の監視体制を整えます」ナギサ

 

 

「……補習授業部、ですか」ハスミ

 

 

ハスミが、僅かに驚いた様子で聞き返す。

 

 

「はい、あくまで念の為です。誤解しないで下さい、疑っている訳ではありません」ナギサ

 

 

その言葉とは裏腹に、ナギサの声には、確かな緊張と、拭い去れない疑念が滲んでいた。

 

 

夜は、まだ長い。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

探究者の為の世界樹(作者:ロングコート)(原作:ブルーアーカイブ)

これは色彩が去り、キヴォトスに平和が戻った後の物語。▼ゲマトリアに属し、黒服と共に行動していたこの物語の主人公"ユグドラシル"。黒服から下された指令「キヴォトスの学園に属すること」を遂行する為に「智神ジル」として過ごす事になった彼女に待つ出会いと事件、そして過去の因縁、それらが織り成し待ち受ける終極とは……


総合評価:-5/評価:3.33/連載:51話/更新日時:2026年07月26日(日) 13:00 小説情報

銃社会を、吸血鬼は生きる(作者:MIKAZUKIN2525)(原作:ブルーアーカイブ)

体は子供。記憶はなし。そんな状態でキヴォトスに転生してしまった主人公。▼つらくても、苦しくても、めげずに生き抜いてやる。▼本編は0章からになります。


総合評価:212/評価:5.36/連載:72話/更新日時:2026年08月06日(木) 06:00 小説情報

自由自在に反転できる男(作者:鬼猫 優真)(原作:ブルーアーカイブ)

転生してから反転できる何でもありな男がキヴォトスで生きる話▼尚、元の世界でもチートだった模様


総合評価:363/評価:5.36/連載:24話/更新日時:2026年07月27日(月) 12:00 小説情報

BLUE QUEST 〜青春を駆ける戦士〜(作者:松花 陽気)(原作:ブルーアーカイブ)

ブルーアーカイブの世界に転生した少年『瀧本ルイ』が、ドラクエの特典を持って、原作の知識を基に青春を救う物語。▼これは……一人の少年がキヴォトス中を駆け回る、青春の物語!▼ドラクエ9の宝の地図があり、そこからいろんな武器防具を調達。何故か『不思議なすごろく屋』を発掘することも……。すごろく券は洞窟で拾える。▼悪い魔物は、洞窟の中と夜の街中、薄暗い路地や無法地帯…


総合評価:233/評価:7.75/連載:29話/更新日時:2026年08月05日(水) 11:47 小説情報

巡る探索者、青き青春の果てを見る(作者:抹茶3939)(原作:ブルーアーカイブ)

自分から首を突っ込んだり、勝手に巻き込まれたり、探究心、はたまた死した人を蘇らせる為に、狂気の世界へと足を踏み入れる者「探索者」▼彼らは狂気から逃れる事は出来ない、世界はそれを許してはくれない▼そしてその果にある物は凄惨な死である。▼そんなクソったれの世界で平穏な暮らしを求め、狂気を追い、狂気に抗い続ける。そうすれば何もしないよりも少しは良い結末になると信じ…


総合評価:828/評価:7.88/連載:60話/更新日時:2026年08月06日(木) 06:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>