The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
生徒達と別れ、自室に戻った隆一。乾き始めたシャツを軽く煽りながら、軽く部屋を一瞥する。弄られた痕跡や誰かの侵入した様子は──ない。
「──さて」隆一
その事に安堵の息を吐き、タブレットに充電コードを差し込むとそっとベッドに置く。
「……流石に、プールではしゃぎ過ぎたかもな」隆一
ソファに座りながらテーブルに資料を広げた隆一は、レイナと共に生徒たちの成績に目を向けていた。
「先生、こちらが第一次試験の全生徒分の答案データです」レイナ
「ありがとう、助かるよ」隆一
レイナが端末を操作し、次々と資料を映し出していく。しかし、
「うっ……」レイナ
「レイナ?」隆一
「あ、その……ちょっとお腹が……ト、トイレに行ってきます……!」レイナ
冷や汗を浮かべながら腹部を押さえるレイナ。慌てた様子で立ち上がると、部屋の隅にある扉──据え置きのトイレへと駆け込んでいった。
「(防犯上の都合、なんだろうけどな……)」隆一
どうもデスクから扉までの距離が絶妙に短い。彼は軽く苦笑しながら、一人で資料の確認を続ける。それから数分後──部屋の廊下側の扉に、ノックの音が響いた。
「──ん?」隆一
僅かに開いた扉の前には、どこか申し訳なさそうな表情のヒフミが立っていた。
「あ、えと、先生……」ヒフミ
「ヒフミ?どした?もう12時回ってるぞ?皆と寝たんじゃ──」隆一
「その、夜中にすみません……ちょっと寝付けなかったというか、あれこれ考えていたら、その……あうぅ」ヒフミ
「……立ち話もなんだし、入って構わないぞ?」隆一
「お、お邪魔します」ヒフミ
備え付けのマグカップにココアを入れる隆一。
「あ、先生、そんなお構いなく……!」ヒフミ
「良いから、良いから。
「……ありがとう、ございます」ヒフミ
「どいたしまして」隆一
「今日はお疲れ様でした、先生」ヒフミ
「もう『昨日』になるのかもしれんが……まあ、兎も角、ちゃんと部長として立ち振る舞えていたからヨシとしよう」隆一
「あ、あはは、そうですかね……?明日からいよいよ本格的な合宿ですが……私達、このままで大丈夫なのでしょうか?」ヒフミ
「大丈夫、というのは?」隆一
「……もし、一週間後の二次試験に落ちてしまったら次は三次試験になります、そして、万が一それにも落ちてしまったら──」ヒフミ
「……全員退学?」隆一
「……やっぱり、先生も知っていたんですね」ヒフミ
「うん、まぁ──俺の場合は、後から聞かされたんだけどな。完全にナギサの術中に嵌ってしまった」隆一
「ナギサ様からは、えっと、その……」ヒフミ
「──……どうした?」隆一
「えっと、ナギサ様から、誰にも言わないようにと念を押されていたのですが……私の手に負える様な話では……」ヒフミ
「──トリニティの裏切り者を探して吊れ」隆一
彼の発言に、ヒフミはきょとん、という言葉が一番似合うような顔をする他なかった。
「ッ!もしかして、先生も……?」ヒフミ
「ああ、そう依頼された。まるで面倒な汚れ仕事を押し付けるかのように」隆一
「そう、ですか……その、私も、ナギサ様とお話をした時に──」ヒフミ
合宿出発前。ティーパーティー、テラスにて。
「ヒフミさん、補習授業部にいる裏切り者を、探して頂けませんか?見つけ次第、私たちの元に連れて来てください」ナギサ
「えっ、えぇ!?」ヒフミ
「正直なところを話しますと、今あの補習授業部について試験の結果など特に気にしてはいません」ナギサ
「え、えぇ……」ヒフミ
「ヒフミさんには、出来る限り
「その、どうして……私が?」ヒフミ
「その答えはヒフミさんが、独立連邦捜査部の、それも顧問の先生と一際強い繋がりを持っていたから、ですね」ナギサ
「私が、ですか?」ヒフミ
「えぇ、第三勢力である『独立連邦捜査部』が一緒にいる限り、裏切り者は無暗に動く事が出来ません、ゴミが、ゴミ箱から溢れ出さない為の蓋のようなもの──でしょうか」ナギサ
「ご、ゴミ箱……?わ、私はその、そういう事は……!」ヒフミ
「──ヒフミさん、他に選択肢はないのです」ナギサ
「っ、ぅ……!」ヒフミ
「それに已を得なかったとはいえ、失敗してしまった場合はヒフミさんも
「………」隆一
ヒフミの話を一通り聞き、険しい表情を浮かべる隆一。
「わ、私はその、裏切り者だなんて、そんな話……皆、同じ学校の生徒じゃないですか、昨日だって、皆でお掃除をして、一緒にご飯を食べて、一緒に笑って……これで、誰が裏切り者なのか探れだなんて、そんな、そんな事……」ヒフミ
「……」隆一
「あぅ……せ、先生?」ヒフミ
「──それで良い、ヒフミ。その優しさを、どうか大切に」隆一
「え、えっ……?」ヒフミ
「この件は気にする必要もない。俺がどんな手を使っても解決するから、だから──ヒフミは、ヒフミが出来る事を精一杯頑張れば良いまでだ。だから…」隆一
その時だった。トイレの扉が開き、レイナがふらつきながら戻って来る。
「た、ただいま戻りま……あっ」レイナ
ヒフミの姿に気付いた瞬間、レイナは一瞬固まり、それから右手をお腹に当てながら口を開いた。
「……ちょっとお腹が痛くて」レイナ
「レ、レイナさん、大丈夫ですか……?顔色、すごく悪いです」ヒフミ
「はい……ちょっと、下しちゃったみたいで……」レイナ
「お、お大事に……」ヒフミ
同情の色を浮かべるヒフミに、レイナはやつれた笑みで頷き返す。
「……話を戻すが、本当にヒフミの言う通りだ、『仲間を疑い、挙句吊し上げろ』なんて、正気の沙汰だとは思えない。魔女狩りかって話よ」隆一
ヒフミに頷きながら、隆一は改めて手元の資料へと視線を落とす。
「──それとヒフミ、少し見て欲しいものがある」隆一
「え?」ヒフミ
隆一はタブレットを操作し、幾つかのファイルを開いてヒフミの前に差し出した。
「これは……補習授業部の皆の、テストの成績表と問題……ですか?」ヒフミ
「ああ、見せられる範囲でだけどな」隆一
「ずっと引っ掛かっていたんだ、コハル、アズサ、ハナコ──三人とも、二年生の問題を受けていた」隆一
「二年生の……あれ、でも、コハルちゃんは一年生ですよね?」ヒフミ
「本人は飛び級のつもりだったらしいがな。ただ、おかしいのはそこじゃない」隆一
隆一が指を差した箇所、そこには過去問らしき問題と、明らかに他学年の内容が入り混じった設問が並んでいた。
「よく見てくれ、配点も、問題自体も、同じ2年生の他の生徒と統一性がない。過去問と他学年の問題が継ぎ接ぎになってる、それに──まだ授業で習っていない単元まで出題されてる」隆一
「え……そ、それって……」ヒフミ
「加えて、コレだ」隆一
隆一が示した資料には、教科ごとの成績が一覧になっている。
「そうして操作された数学一科目、それだけで補習が決まってる。現文や化学、公民で赤点を回避してる生徒がいるのにも拘らず、だ」隆一
「そ、そう言えば、アズサちゃんやハナコちゃんも化学や現文は結構良い点数だったって……」ヒフミ
「ああ、これは──もう一つ」隆一
隆一が最後に取り出した紙、そこには全生徒の成績が一覧になっていた。だが、補習授業部の四人以外は──全て名前と成績がマーカーで黒く塗り潰されている。
「これ、何ですか……?」ヒフミ
「トリニティの、全生徒の成績表だ」隆一
「え、じゃあ、他の生徒の名前と成績は……」ヒフミ
「消した。余り他所に見せるモノじゃないから、補習授業部の四人分だけ残してな。」隆一
隆一は資料を指でなぞりながら、静かに続けた。
「順当に考えれば、成績が悪い生徒を集めるなら、最下位から順番に四人選ぶ筈、或いはボーダーライン前後の四人、ボーダーラインと最下位の中間の四人…と言った具合だ」隆一
「でも……」ヒフミ
「見ての通り、規則性が一切ない。バラバラだ。ハナコみたくギリギリ赤点だったパターン、アズサやコハルみたくボーダーを大きく下回ってるパターン──まあ、ヒフミは抑試験を受けてないから成績の欄が『-』になってるがな」隆一
「ほんとだ…これじゃあ…」ヒフミ
「これじゃまるで、成績不振という理由は継ぎ剥ぎの数学の問題で作った表向きの理由だ。ここまで証拠が揃えば、おそらくテストの段階で補習授業部に対する何らかの嫌疑を抱いていたに違いない」隆一
「まるで、成績とはまた別の理由で、この四人が選ばれたみたいに…」ヒフミ
ヒフミは資料を見つめ、震える声で呟いた。隆一はゆっくりと頷く。
「せ、先生、これって……」ヒフミ
「まだ確証は持てないが──少なくともナギサが、俺ら補習授業部に対し、何か良からぬ事を企んでる可能性は、かなり高い…と思っておいた方が身の為だ」隆一
「わ、私も……そう、思います」レイナ
いつの間にか隣に戻っていたレイナが、まだ少しやつれた顔のままそう呟いた。
「次の試験、ただの試験にならない可能性が高い。油断しない方が良さそうだな」隆一
「はい……皆にも、それとなく気を付ける様に伝えておきます」ヒフミ
夜の窓の外、月がハッキリと見える中で──三人はそれぞれの想いを胸に、来るべき第二次試験への備えを固めるのだった。