The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
合宿宿舎から大分離れた場所にある本校舎までは、それなりに時間が掛かる道のりだった。宿舎が若干地理的に孤立しているのも相まって、本校舎に着く頃には夕刻も過ぎ、数日前の爆弾テロ未遂事件で未だ厳戒態勢を崩さない正義実現委員会やティーパーティーを除く殆どの生徒は帰路についている。隆一とコハルはそんな生徒たちを横目に、正義実現委員会への道を歩く。
「そ、その、先生……」コハル
「ん?」隆一
「い、言っておくけれど、こればっかりは、その、本当に間違いだから!」コハル
「ん?本の事?」隆一
「そ、そう!いつものはちゃんと隠……じゃなくて、あんまり持ち歩いたりしないし……」コハル
「──バレない様、上手く取り繕うんだぞ?」隆一
「っ~!?な、何言ってるの!?それ、バレなきゃ持っていても良いって言っているのと同じじゃん!?先生なんでしょ!?エッチなのは駄目!死刑!」コハル
「お?じゃあコハルも俺と同罪だな?」隆一
「え、や、ちがっ……!わ、私の、は、その……ッ!こ、これについては本当に間違いだから!つまり、ノーカン!」コハル
「──まあ
「っ!?な、何それ!大人の余裕ってわけ!?」コハル
コハルのどこか唸るような言葉に、隆一は空を見上げる。日の落ち込んだ空は既に夕暮れから夜に切り替わりかけ、ぽつぽつと本校舎にも明かりが見えていた。
「大人の余裕っていうか……俺は立場上そういうのを見つけたら注意しないといけないからさ、大っぴらに所持されるのは困るよ?でも、別にそういったものに興味を持つ事自体は悪い事じゃないと思うんだ、俺は」隆一
「え……?」コハル
「無理に縛られる必要なんてない、例えば、好きなものを好きだ!って言えない、或いは言ったら鼻で笑われたり陰で叩かれたりする世界なんて、窮屈だと思わねぇのか?勿論、ある程度マナーだとか倫理云々は必要だが……TPOだったっけ?それを守っている限り、誰かにとやかく言われる筋合いはない」隆一
「で、でも……」コハル
「俺は、コハルもそうだし──生徒達には、自分らしく居て欲しいんだ」隆一
「自分、らしく……?」コハル
「そう、好きな事を好きと言えて、必要以上に我慢したりしない、そんな自然体で生き生きとした生徒の姿こそ、独立連邦捜査部顧問としてでなく俺個人としての理想だ、だからコハルは、コハルらしく在れば良い。そんだけだ」隆一
「ど、どんな趣味でも……?」コハル
「勿論だ」隆一
「……分かったような、分からない様な…で、でも……先生が私の事をちゃんと考えてくれているって事は、少しだけ……分かった──その……ありがと、せんせ」コハル
「こちらこそだ」隆一
「じゃ、じゃあ、お返しに、その……ひとつ、私の秘密を教えてあげる!」コハル
「うん?コハルの秘密?」隆一
「………」コハル
「……?」隆一
「さ、さっきみたいに屈んでッ!」コハル
「あぁ、ごめん、ごめん」隆一
「実は、私……」コハル
「うん」隆一
「──補習授業部が上手く回っているかを監視する為の、スパイなの……!」コハル
「……うんうん…ん?」隆一
「──つまり秘密のミッションを遂行中の身って事、だから今は私が馬鹿みたいに見えているかもしれないけれど、これも全部フェイクって訳!」コハル
「へぇ~……因みに、それはどこからの指示で動いているんだい?」隆一
「え?あ、えっと……だ、誰って、その……んと、は、ハスミ先輩!そう!ハスミ先輩はトリニティの中でもすっごい強くて、正義実現委員会の副委員長だし!あ、あと、そう!つ、ツルギ委員長だっているんだから!」コハル
「──成程、ツルギが、ね」隆一
「つ、ツルギ委員長はその、えっと、委員長だし……そう、何でも出来るの!ぶ、文武両道……?だから、多分!な、何回かしか会った事はないけれど……と、兎に角凄いの!」コハル
「うんまぁ、ツルギは凄いよね、うん」隆一
「だから、そういう事!私は別に、本当に勉強が出来なくて補習授業部に入った訳じゃないの!その事、憶えていて!──私はスパイとして大事な任務を任されているエリートなんだから!」コハル
「ほうほう、それは凄い」隆一
「ふふん!」コハル
「──んじゃあ質問だ。自分の任務を拷問でも自白剤でもないのに曝け出すスパイは果たしてスパイとしてどうなのか?」隆一
「……あっ………せ、先生は生徒の秘密をやたらに言い触らしたりしないでしょ!?しないよね!?」コハル
「……そうだな、うん」隆一
「じゃ、じゃあ大丈夫!先生の事は、一応、い・ち・お・う!!信じているからっ!ほ、ほら、もうちょっとで部室だし、早く行こ、先生!」コハル
正義実現委員会、押収品管理室。
部室の出入り口、そのすぐ横合いにある押収品管理室は、同時に落とし物などを管理する部屋としても機能している。また、押収品の中でも爆発物などの特に危険性の高いものや重要な品物は壁沿いの特別押収品管理保管庫と呼ばれる貸金庫のような頑強な保管庫に保管されており、それらの鍵は正義実現委員会でもほんの一握りのメンバーのみが所持している。
「えっと、押収品管理棚の、書物分類だから、D-24、D-24──……」コハル
「……コハル、終わった?」隆一
「い、今目録で収納場所を探しているから、もうちょっと待って……!」コハル
「あった!」コハル
「取り敢えず、これでひと安心──」コハル
そう漏らすと同時、正義実現委員会の部室、その出入り口の扉が開いた。向こう側から顔を覗かせたのは──正義実現委員会、副委員長のハスミ。
「──あら?」ハスミ
「おぉうまぁいがぁあ……」隆一
「先生?こんな時間に、こちら正義実現委員会に何か御用時ですか?特に連絡などは受けていませんが……もしかして、また何か仕事の要件で?」ハスミ
「あー、うん、まぁ、それも無きにしも非ずと言うか、何と言うか」隆一
「先生、終わったよ──!」コハル
「……コハル?」ハスミ
「えっ……は、ハスミ先輩!?」コハル
「たしか合宿で別館に居ると……成績が良くなるまで、ここへは出入り禁止になっている筈ですが?」ハスミ
「あ、えっと、そ、その、違うんです……!」コハル
「……コハルが移動中に押収品を拾ってな。此処にそいつを片しに来たんだ」隆一
「押収品、ですか?」ハスミ
「ああ、正義実現委員会が集めているらしい?押収品をしまいにきただけだ。ただ、幾ら独立連邦捜査部の顧問だろうと、
「まぁ、そうでしたか。そういう事なら、寧ろ喜ばしい事です、コハル、きちんと先生のお役に立てているのですね、大変結構です」ハスミ
「は、はい……っ!」コハル
「そうですね、コハルが此処に来てくれたのはある意味、丁度良かったです、コハルに改めて伝えておきたい事がありましたし……」ハスミ
「え?わ、私に……ですか」コハル
「えぇ」ハスミ
「先生、申し訳ないのですが少し席を外して頂けますか?正義実現委員会としてお話したい事、と言いますか──」ハスミ
「……分かった、終わったら呼んでくれるかな?」隆一
「えぇ、勿論です、態々すみません、ありがとうございます」ハスミ
「せ、先生……」コハル
「大丈夫、きっと悪い話じゃないさ」隆一
正義実現委員会、部室前廊下。時計の針が動く音が良く響く廊下、隆一は自身の二の腕を小さく摩り、そっと息を吐き出す。
「──コハル……本来███を████でください」ハスミ
「でも─先生を██████て…」コハル
「コハル…本来の██を───」ハスミ
扉の向こう側に見える二人のシルエット。隙間から、途切れ途切れではあるが微妙に声が漏れていた。
「でも█には、██なんて、いくら██も─あまりにも……!」コハル
不意に、ハスミらしからぬ怒鳴り声が響いた。それは、まさに雷鳴の如き一喝であり、思わず隆一の肩も震える程。
「──なさい──トリ███の為にク███ファーと█がる██を──」ハスミ
「………はい、██まし…」コハル
それから少しして、そっと扉を押し開けコハルが顔を覗かせる。彼女は中に居るハスミに向けて小さく頭を下げると、そのまま先生の元へと駆け寄って来た。
「お、お待たせ……先生」コハル
「………」隆一
「先生?」コハル
「……帰らないの?」コハル
「──いや、帰ろうか」隆一
「コハル、大丈夫?」隆一
「え?う、うん、別に、大丈夫だけれど……?ど、どうしたの、先生」コハル
「……いや、別に?」隆一
隆一の声は廊下に響き、やがて消えていった。