The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
隆一とコハルが帰宅した暫く後、一先ず不安の種が無くなったという事で夜食を皆で共にし、自由時間となった。
「ふぅ、スッキリしました!」ヒフミ
「ん、もうお風呂に入ったんだ?早いねヒフミ」ハナコ
「うふふ、そうですよね、なにせヒフミちゃんは朝にシャワーを浴びれず、今日一日あるがままの香りで──」ハナコ
「わわっ!そ、その言い方は恥ずかしいです……っ!うぅ、寝坊さえしなければ……」ヒフミ
「でも、それは私達の為に試験を準備していたからだろう?ヒフミ、もし明日の朝も起きるのが辛かったら言って、今度はヒフミの体を洗ってあげる」アズサ
「い、いえ、それは遠慮させて頂こうかと……!?」ヒフミ
「じ、自分で洗えば良いでしょ!子どもじゃないんだから!」コハル
「効率の問題だコハル、皆で洗う事による利点は少なくない、勿論水の節約にもなる」アズサ
「大浴場は無いので、みんなで一心不乱に洗いっこというイベントは少々難しい様ですが……あ、良い事を思いつきました、今度お風呂の代わりに、みんなで
「さらっと何言ってんの!?ダメ!そんな凄いの絶対禁止っ!」コハル
「悪くない案だと思うけれど、それをプールでやるメリットがあるのか?」アズサ
「そうですね、解放感があると思いませんか?青空の下、全てを曝け出して掛け合う様子を想像するだけで……うふふふ♡」ハナコ
「なるほど、そういうのは確かに考えてなかった、解放感……か」アズサ
「バカバカバカ!考えちゃ駄目、想像しちゃだめ、そういうのはだめっ!アズサを変な風に染めるな!トリニティの変態はあんただけで十分だから!」コハル
皆で効率よく水浴びをする、という点にかこつけて只々自身の趣味(と言うより多分性癖)をオープンにした提案をしたハナコは、コハルの全力拒否を受け、少し残念そうな表情を浮かべる。
「あぁ、そういえばコハルちゃんも全裸で泳ぎたい派ですよね?」ハナコ
「脈絡全無視!?無敵なの!?そっ、そもそもそんな事言ってないから!プールでは普通に水着っ、それが普通なの!あんただって昨日は水着だったでしょ!?」コハル
「あら……?」ハナコ
「ふふっ、良く思い出して下さい、コハルちゃん、私が昨日プールで着ていたものを……」ハナコ
「え、あ、あの水着が、何だって言うの……?」コハル
「あれは、本当に『水着』だったと思いますか……?」ハナコ
「っ!?は、はぁ!?み、水着じゃなかったら何なのよ……!?」コハル
「──最近の下着はデザインがかなり充実していますよね、中には防水性のものもありますし、一目で水着かどうかの判断は難しいと思いませんか?或いは、ボディペイントという線も……──」ハナコ
「え、嘘?!って、いう事は……!?あ、あの水着……!?」コハル
「あら、どうしたんですか?あれがもし水着じゃなかったとして、何かが変わってしまうのでしょうか?ねぇ、コハルちゃん」ハナコ
ハナコはコハルの言葉に首を傾げると、妙な威圧を纏いながらおもむろにコハルへと近付き、それに怯えるコハルは及び腰で対応する。
「え、だ、だって……」コハル
「例えば、水着と下着の違い……それはなんでしょう?防水機能でしょうか、それともお肌の保護の有無?或いはデザイン、露出の範囲?コハルちゃんは見た目で分からなかったんですよね?あの場所、あの時は──あれは水着だと、そう信じていましたよね?」ハナコ
「……そ、そう、だけれど」コハル
「実はあれが下着だったとして……その『真実』かもしれない何かは、どうすれば証明出来るのでしょう?証明できない真実程、無力なものはない──そう思いませんか?」ハナコ
「え……っと、な、何を言っているのか分からないけれど……結局、どういう事!?」コハル
「ふふっ──あの水着は可愛かったですよね、というお話です♡」ハナコ
「……はぁ!?全部冗談ってわけ!?」コハル
「──なるほど、五つ目の
「……!」ハナコ
「な、なに、五つ目?」コハル
「えっと、アズサちゃん、何のお話ですか……?」ヒフミ
「………」アズサ
「聞いた話だけれど、キヴォトスに昔から伝わる七つの古則、確か、今の話はその内の五つ目だった筈、『楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事はできるのか』……多分そんな感じだった気がする」アズサ
「つまり哲学……みたいなものでしょうか?」ヒフミ
「多分、そんな感じ……誰も証明できない楽園は存在し得るのか、そういう禅問答みたいなものだったと記憶している」アズサ
「アズサちゃん、どうしてそれを……」ハナコ
「でも、七つの古則なんて、普通は知らない話ですよね……?」ヒフミ
「学院の図書室で偶々目にしただけだ、それだけの事」アズサ
「へー、意外と物知りなんだ、アズサって」コハル
「その話を、知っているのは──もしかしてアズサちゃん、セイアちゃんに会ったことがあるんですか……!?」ハナコ
「………」アズサ
「……セイア?」コハル
「それって、ティーパーティーのセイア様の事ですか?」ヒフミ
「……この話はただ、何処かで聞いた記憶があるだけだ、それ以上でも、以下でもない」アズサ
「──そう、でしたか……そういえばアズサちゃんは転校生、でしたね」ハナコ
「『
「………?」アズサ
「え、な、なんの話?ヴァニタス……なんだって?」コハル
「ハナコちゃん、その、何か気になる事でも……?」ヒフミ
「──いえ、何でもありません、もう遅い時間ですし、そろそろ眠った方が良さそうですね」ハナコ
そうして今日も、補習授業部の夜は──更けていく。
その日の夜、隆一の部屋にて。
隆一が資料整理をしていると、控えめなノックの音と共にヒフミが顔を覗かせた。
「先生、少しお時間よろしいでしょうか」ヒフミ
「おぉヒフミか、どうした?」隆一
先生の姿はデスクにあった、しかしいつもより声が少し小さい。
「そ、その…どうしたので…」ヒフミ
彼女がそう言い終わる前に、彼は己の唇に自らの人差し指を当てながら、そっとソファを指す。そこには、炬燵のネコのように丸まり、すやすやと寝息を立てているレイナの姿があった。
「…すみません先生!」ヒフミ
「問題ない」隆一
「先生、その、ハナコちゃんの事なのですが……」ヒフミ
「うん?」隆一
ヒフミは緊張した面持ちで、手にしていた紙の束をそっと机の上に広げた。
「……これは?」隆一
「模範解答と、とある生徒の解答用紙です──その解答用紙は、模範解答を探している途中で見つけたのですが、昨年の試験、一年生から三年生までの全試験に於ける解答用紙がその生徒の分だけ纏まっていました、どういう訳か、その全てを回答した様でして……」ヒフミ
「へぇ」隆一
隆一は紙面に目を通し始めた。捲る手が、次第に緩やかになっていく。
「全て満点、か」隆一
「……はい」ヒフミ
「──浦和ハナコ」隆一
「………」ヒフミ
「一枚や二枚じゃない……本当に、全部か」隆一
「はい、間違いありません、何度も確認しました」ヒフミ
「マジカ」隆一
「昨日見つけた一年生時の成績に引き続き、盗み見る形になってしまったのですが……ハナコちゃんは去年、一年生の段階で三年生の秀才クラスでも難しいとされる学修課程を含めて、【すべての試験】で満点を叩き出しています……完膚なきまでに秀才、と言えるレベルです」ヒフミ
「……飛び級、どころの話ではないね、一年時で三年、それも特進のテストを満点でパス出来るのなら、学内のテストに限って言えば朝飯前だろうな」隆一
「はい……一年生時の試験結果を見て、ハナコちゃんはきっと今年になって急激に成績が落ちてしまったのだと思っていました、でも、この結果を見る限りは、そうではなく──」ヒフミ
「わざと点数を取らず、試験に落ちている──としか考えられない」隆一
「……はい──ハナコちゃん、どうして……」ヒフミ
ヒフミは膝の上で拳を握り締め、俯いた。
「先生……ハナコちゃんは、何か理由があって補習授業部に……いえ、私達の所に来たのでしょうか」ヒフミ
「今は、まだ分からない」隆一
隆一は静かに紙の束を纏め直しながら、窓の外へ視線を投げた。
「けれど、少なくとも──偶然じゃない、という事だけは、確かだろうね」隆一
「はい……」ヒフミ
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深夜──合宿所、ロビー。
寝静まった建物の中、非常灯だけが淡く廊下を照らしている。
「………」アズサ
アズサは今日も一人、制服を着込み合宿所を音もなく抜け出す。足音一つ立てず、まるで訓練された動きの様に、扉の隙間をすり抜けていった。
「……アズサちゃん、また見張りを──?」ハナコ
物陰から、その背中を見送るハナコの声は、誰にも届く事なく闇に溶けていく。
「………」ハナコ
彼女は暫くそこに立ち尽くしたまま、アズサの消えた扉をじっと見つめ続けていた。
彼女が口ずさんだ古則、その五つ目。そして転校生と言う特性。セイアの名前を出した時の反応、最後に──彼女の口にする、『Vanitas』の意味。 このトリニティに於いて、その教義を持つ一派はただの一つ。
(──確信に、変わりつつある)ハナコ
──運命の分岐点は、すぐそこまで迫っていた。