The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

87 / 87
お気に入りとコメントは励みになるので皆さんお願いします
誤字脱字報告も同じく励みになります


第二次補習授業部試験

「あっ、先生!おかえりなさい!」ヒフミ

 

 

教室に戻った時、隆一を迎えたのはヒフミの爽やかな笑みだった。隆一は胸内に燻る感情を微塵も感じさせず、微笑みと共に片手を上げる。窓の外はすっかり夕暮れに染まり、教室には橙色の光が差し込んでいた。

 

 

「やぁ、ごめんねヒフミ、皆も、遅くなって申し訳ない」隆一

 

 

 

いつも通りの光景、いつも通りの温度感。ただそれだけの事だが、今の隆一には少しだけ、ありがたく感じられた。

 

 

 

「いえいえ、先生がお忙しいのは知っていますし──あら?」ハナコ

 

 

「先生、首元に何か、赤い線の様なものが……」ハナコ

 

 

「あれ、ホントだ」ヒフミ

 

 

「え、どこ、どこ?……あ、ホントだ、何これ」コハル

 

 

 

コハルも身を乗り出す様にして、隆一の首元を覗き込む。

 

 

 

「むっ、先生、まさか背後からカッターか何かで首を切られ──」アズサ

 

 

「なわきゃねぇだろ!?」隆一

 

 

「アズサちゃん、発想がいきなり物騒すぎます……!」ヒフミ

 

 

「でも、確かに気になりますね、先生、一体何があったのですか?」ハナコ

 

 

「これは大した事じゃない、ちょっとした事故みたいなものさ」隆一

 

 

「事故……ですか?」ヒフミ

 

 

「あぁ、ちょっとした不注意でね、大した怪我じゃないから、皆は心配しなくて良いよ」隆一

 

 

 

誤魔化す様に笑う隆一を前に、コハルは尚も納得のいかない様子で首を傾げていたが、それ以上追及する事はしなかった。

 

 

 

「あっと、そうでした!先生、こちらをご覧ください!」ヒフミ

 

 

「うん?」隆一

 

 

「先程受けた模試の結果です!」ヒフミ

 

 

「……あぁ!今日の分を先に済ませていてくれたんだね、ありがとう」隆一

 

 

隆一は差し出された紙を受け取り、目を通していく。

 

 


 

 

第二次補習授業部模試、結果──

 

 

 

ハナコ──40点不合格

 

アズサ──56点不合格

 

コハル──54点不合格

 

ヒフミ──72点合格

 

 


 

 

「……紙一重の差だった」アズサ

 

 

 

アズサは自身の解答用紙を見つめながら、悔しそうに眉を寄せた。

 

 

 

「はい!今回は本当に紙一重でした!あとたったの一問で合格点ですよ!?アズサちゃん、すっごく惜しかったんです……っ!」ヒフミ

 

 

「次こそは、必ず」アズサ

 

 

「アズサちゃんの伸び率も、地味に凄いんですよ、先生」ヒフミ

 

 

「そうだね、この調子なら次は確実だ」隆一

 

 

「ひ、ヒフミ!私のも見て!私だって、結構上がったよ!?」コハル

 

 

「はい、確りと見ましたよ!コハルちゃん、前回は46点だったのが一気に54点まで……凄いです!」ヒフミ

 

 

「ふっ、ふふーん!言ったじゃない、本当は実力を隠していたんだってっ!」コハル

 

 

 

得意げに胸を張るコハルを見て、隆一も思わず頬を緩めた。

 

 

 

「そして、ハナコちゃんは……40点、ですね」ヒフミ

 

 

「あら、私、頑張ったと思うのですけれど」ハナコ

 

 

「え、えぇと、前回よりは上がってはいますけど……ハナコちゃん、大丈夫ですか?」ヒフミ

 

 

「大丈夫ですよ、点数なんて所詮ただの数字ですから」ハナコ

 

 

「そ、その達観、逆に心配になってきます……」ヒフミ

 

 

「ふふっ、ヒフミちゃんは真面目ですね、でも大丈夫、次はちゃんと結果を出しますから」ハナコ

 

 

「そ、そう仰るなら、信じますけど……」ヒフミ

 

 

 

その言葉とは裏腹に、ヒフミの表情には拭いきれない不安がまだ残っていた。

 

 

 

「皆よう頑張ったな、このペースなら第二次特別学力試験は大丈夫そうだ」隆一

 

 

「は、はい!この調子でしたら、思ったよりも早く目標に届くかもしれません!」ヒフミ

 

 

「うん、必ずや任務を成功させて、あの可愛い奴を受け取ってみせる、それが私が此処に居る理由で在り、戦う目的だ」アズサ

 

 

「え、あ、アズサちゃん!?私達が此処に居る理由は試験と勉強であって、目的は落第を免れる事ですよ!?目的がすり替わっていませんか……!?」ヒフミ

 

 

「ん?……あぁ、そんな事もあったな、ついでにそれもやっておこう」アズサ

 

 

「ついで!?あうぅ……も、モモフレンズファンとしては嬉しくもあるのですが……」ヒフミ

 

 

「ん?何か問題があるのか?」アズサ

 

 

「問題しかないですよぅ!私達、本業は勉強なんですからね!?」ヒフミ

 

 

「大丈夫だ、両立させる、私は優秀だからな」アズサ

 

 

「その自信は、模試の結果と釣り合っていない気がしますけど……」コハル

 

 

「む、耳が痛い」アズサ

 

 

「た、耳が痛いなら、まずは勉強の方を優先してくださいっ……」ヒフミ

 

 

「善処する」アズサ

 

 

 

全く善処する気配のない返事に、ヒフミは深く溜息をついた。

 

 

 

「……?」ヒフミ

 

 

 

ヒフミがふと、廊下の方へ視線を向ける。微かに、足音の様なものが聞こえた気がした。

 

 

 

「あら?」ハナコ

 

 

「来客でしょうか?」ヒフミ

 

 

「みたいですね、食材の配達は頼んでいませんし、一体……」ハナコ

 

 

「あっ」隆一

 

 

「アズサ……」隆一

 

 

「うん?」アズサ

 

 

「あぁ、心配するな先生──侵入者対策に、ちゃんとトラップは仕掛けてあるぞ」アズサ

 

 

「ト、トラップ!?そんなの仕掛けてたの!?いつの間に!?」コハル

 

 

「昨晩、皆が寝静まった後にな」アズサ

 

 

「私達の知らない所で物騒な準備しないでよぉ……!」コハル

 

 

「──えっ?」ヒフミ

 

 

ヒフミが聞き返すのと、扉の外から声が響くのは、ほぼ同時だった。

 

 

「し、失礼致します……あの、どなたかいらっしゃいますか?」???

 

 

「あら、この声は──」ハナコ

 

 

 

その声に、ハナコだけが何かに気付いた様に、僅かに眉を動かした。

 

 

 

「へっ?きゃあぁああッ!?」???

 

 

 

教室の外から、けたたましい悲鳴が響き渡った。あまりの声量に、コハルは思わず肩を跳ねさせる。

 

 

「な、なに今の悲鳴、心臓に悪いんだけど……!」コハル

 

 

「うん、ちゃんと起動したみたいだ、良かった」アズサ

 

 

「あ、アズサちゃん、一体何を!?」ヒフミ

 

 

「前に言われた通り、殺傷性のないトラップにしてあるぞ?前に先生が掛かったタイプと同じ、ワイヤーを利用して足を絡め捕るタイプのものだ、さぁ、鎮圧に行こう」アズサ

 

 

「な、鎮圧って、相手はただの来客かもしれないんですよ!?」ヒフミ

 

 

「安心しろ、鎮圧してから確認すれば良い」アズサ

 

 

「順番、逆じゃないですか!?」ヒフミ

 

 

「こ、これは一体……!?と、取れなっ、う、動きが……」???

 

 

「さぁ、標的が逃げる前に続け!」アズサ

 

 

「あ、アズサちゃんんんッ!?」ヒフミ

 

 

「せ、先生、止めなかったの!?」コハル

 

 

「いやぁ、駄目って言うと露骨にしょんぼりするからさ……」隆一

 

 

「──うん、先生、生徒の笑顔には弱いんだよね」隆一

 

 

「いや、今そういう話してないから!?」コハル

 

 

「ま、まだ動けているという事は、大した怪我ではなさそうですけれど……先生、本当に良いのですか、あれ?」ハナコ

 

 

「まぁ、いつもの事だから」隆一

 

 

「先生がそう言うなら、そうなんでしょうね、多分」ハナコ

 

 

「いつもの事にしていいレベルじゃないと思うんですけど……」コハル

 

 

「まぁまぁ、コハルちゃんも慣れると案外楽しいものですよ?」ハナコ

 

 

「慣れたくない……」コハル

 

 

 

コハルの呟きに応える者は、もう誰もいなかった。教室の外では、アズサが嬉々として駆け出し、ヒフミがその後を慌てて追いかけていく足音が響いていた。残されたハナコは、くすくすと笑いを堪えながら、その様子を眺めている。夕暮れの教室に、賑やかな声だけが、いつまでも響き続けていたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

銃社会を、吸血鬼は生きる(作者:MIKAZUKIN2525)(原作:ブルーアーカイブ)

体は子供。記憶はなし。そんな状態でキヴォトスに転生してしまった主人公。▼つらくても、苦しくても、めげずに生き抜いてやる。▼本編は0章からになります。


総合評価:243/評価:5.46/連載:82話/更新日時:2026年08月16日(日) 06:00 小説情報

自由自在に反転できる男(作者:天叢シャマク)(原作:ブルーアーカイブ)

転生してから反転できる何でもありな男がキヴォトスで生きる話▼尚、元の世界でもチートだった模様


総合評価:361/評価:5.07/連載:25話/更新日時:2026年08月12日(水) 23:40 小説情報

探究者の為の世界樹(作者:ロングコート)(原作:ブルーアーカイブ)

これは色彩が去り、キヴォトスに平和が戻った後の物語。▼ゲマトリアに属し、黒服と共に行動していたこの物語の主人公"ユグドラシル"。黒服から下された指令「キヴォトスの学園に属すること」を遂行する為に「智神ジル」として過ごす事になった彼女に待つ出会いと事件、そして過去の因縁、それらが織り成し待ち受ける終極とは……


総合評価:-4/評価:3.33/連載:56話/更新日時:2026年08月12日(水) 19:14 小説情報

楽しい銃社会の生き抜き方(作者:WEVE)(原作:ブルーアーカイブ)

ミレニアムサイエンススクールに所属するキヴォトス唯一の男子生徒『居待(イマチ) ウツキ』がなんやかんやありながら学園生活を満喫(?)する話▼今後必須以外タグ追加の可能性があるので苦手な方はブラウザバックを推奨してます▼大体許せるよって方は是非読んでいってください!▼現在の進捗▼アビドス編1,2章 完結▼ミレニアム編1章 完結▼エデン条約編1,2章 更新中


総合評価:510/評価:6.89/連載:48話/更新日時:2026年08月16日(日) 15:30 小説情報

都市の住人、透き通る世界へ(作者:一般通過市民X)(原作:ブルーアーカイブ)

都市にいるとある一人の住人がキヴォトスへ行って何を見、何を思うのか▼都市で一人の特色にまで上り詰めた人間の透き通る学園生活▼とてもとても下手な文章ですがどうか頑張って読んでください


総合評価:55/評価:-.--/連載:15話/更新日時:2026年07月17日(金) 15:25 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>