The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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シスターフッド

「う、うぅ……」???

 

 

「だ、大丈夫ですか!?お、お怪我は……!?」ヒフミ

 

 

 

教室を飛び出し、ロビーへと到着した皆が見たのは、いつぞやの隆一の如く宙吊りにされる修道服の少女の姿だった。

 

 

 

「きょ、今日も平和と、安寧が……う、うぐ……あなたと共に、痛っ、あ、ありますように……」???

 

 

「まずご自分の安寧を心配して下さいッ!?」ヒフミ

 

 

「あら、マリーちゃんじゃないですか」ハナコ

 

 

「あ、は、ハナコさん……それに──せ、先生っ!?」マリー

 

 

「あっ、ちょ、あの、今はちょっと、こ、此方を見ないで頂けると……!」マリー

 

 

「なんで?」隆一

 

 

「な、何で、って……!」マリー

 

 

「マリー大丈夫か?、安心しろ、俺がロープごと切り落としてやる」隆一

 

 

「な、何を仰っているのですか……!?」マリー

 

 

「せ、先生!?あーっと、えぇっと、と、取り敢えず早く下ろしましょう!あっ、今度はゆっくり、ゆっくりですよアズサちゃん!?先生!?」ヒフミ

 

 

「う、うん……?」アズサ

 

 

 

結局、宙吊りにされたマリーが無事に床へと降ろされるまで、更に数分を要した。ロビーには暫くの間、ヒフミの悲鳴混じりの指示と、コハルの困惑した声が響き渡っていた。

 

 

 


 

 

 

「はい、お水」コハル

 

 

「あ、ありがとうございます……」マリー

 

 

「いや、何と言いましょうか、とてもビックリしました……ロビーの方に踏み入った途端、何かが足に絡み付いて、突然天井に引っ張られたと思ったら、あのような事に……」マリー

 

 

「うん、センサー式のワイヤー射出機だ、遠隔操作も出来る優れものだぞ?肝心のセンサーは少し値が張ったが、残りは廃材でも上手く組み合わせると──」アズサ

 

 

「アズサちゃん?」ヒフミ

 

 

「むぐっ」アズサ

 

 

「その……すまない、てっきり襲撃かと」アズサ

 

 

「え、えぇと?良く分かりませんが、特に怪我もありませんでしたし、お気になさらず……」マリー

 

 

「マリーちゃん、優しい……こんな目に遭ったのに、怒らないんですね」コハル

 

 

「あはは……慣れ、と言いますか、日頃からこういった出来事には……」マリー

 

 

「日頃から!?」ヒフミ

 

 

「ところで、シスターフッドの方が一体何故このような所に……?」ヒフミ

 

 

「えっと、それはですね、此方に補習授業部の方々がいらっしゃると聞きまして……ただ、ハナコさんが在籍しているとは存じておりませんでした」マリー

 

 

「ふふっ、私も、成績が良くないので」ハナコ

 

 

「そう……でしたか、はい」マリー

 

 

「ハナコ、知り合いなの?」コハル

 

 

「えぇ、少しだけご縁がありまして……それより、マリーちゃんは私を訪ねて来た、という訳ではないんですよね、補習授業部には、どういったご用事で?」ハナコ

 

 

「えっと……」マリー

 

 

「本日は補習授業部の白洲アズサさんを訪ねて此方に参りました、伺った所、此処にいらっしゃると聞きまして」マリー

 

 

「うん、私?」アズサ

 

 

「はい、実は先日アズサさんが助けて下さった生徒の方から感謝をお伝えしたいとの事でして──諸事情あり本人が出向けない為、私がこうして代理を」マリー

 

 

「感謝……?悪いけれど、身に憶えがない」アズサ

 

 

「恐らくアズサさんにとっては、何て事の無い出来事だったのかもしれませんね、しかし、当人からすればとても有難い事だったのだと思います──その、クラスメイトの方々から、いじめを受けてしまっていた方がいらっしゃいまして……その日もどうやら突然、校舎裏手に呼び出されてしまったのだと聞きました」マリー

 

 

「え、えぇっ……!?」ヒフミ

 

 

「いじめ!?」コハル

 

 

「……まぁ、聞かない話ではありませんね、皆さん狡猾に、それに陰湿な形で行うせいで、あまり表には出て来ませんが……それにトリニティの体質上、加害者や被害者の地位次第ではそもそもいじめ次第が揉み消されたり、或いはいじめ自体が捏造されるなんてケースも…」ハナコ

 

 

「……そう言えば、ハスミ先輩から聞いた事があるわ。何年か前、いじめを少しでも減らす為に専門の部署を設けたら、すぐに真偽不明の告発だらけになってまわらなくなったって」コハル

 

 

「……ッ」ハナコ

 

 

「──っと、わりぃ、ハナコ……ちょっと、気が緩んでいた」隆一

 

 

「いえ──」ハナコ

 

 

 

一瞬だけ見せた隆一の硬い表情に、ハナコは素早く気付き、静かに声を掛けた。それに気付いたのは、その場ではきっとハナコだけだっただろう。

 

 

 

「──私達も、その方から相談を受けて漸く知ったのですが……呼び出されてしまった日に、そこを偶然通りかかったアズサさんが彼女を助けてくださったとの事です」マリー

 

 

「そ、そうなんだ……アズサ、凄いね」コハル

 

 

「ん──そういえば、そんな事もあったな、ただ数にモノをいわせて弱い対象を虐げる行為が目障りだっただけだ」アズサ

 

 

「それだけで、助けようと思えるのは……凄い事だと思いますよ、アズサちゃん」ヒフミ

 

 

「しかし、その後アズサさんに怒られた方が、正義実現委員会と連絡を取られて……どこで情報が捻じ曲がったのかは分かりませんが、何やら正義実現委員会とアズサさんの間で大規模な戦闘に発展してしまったとか……」マリー

 

 

「そ、そう言えばアズサちゃん、初日に正義実現委員会で……」ヒフミ

 

 

「連行されていたね、確か」隆一

 

 

「そうしてアズサさんが催涙弾の倉庫を占拠し、正義実現委員会を相手にトラップを駆使して三時間以上交戦を続けたと──」マリー

 

 

「そ、それって、やっぱりあの時の事じゃん!?」コハル

 

 

「うん、何がどうあれ売られた喧嘩は買う、あの時も弾薬さえ不足しなければもっと長く戦えていたし、もっと道連れも増やせた」アズサ

 

 

「み、道連れですか……」ヒフミ

 

 

「それで、その方が報告を兼ねて私達の元を訪れて下さり、アズサさんに感謝をしたいと……ただ、学園内では見つけられず、此処に辿り着いたという次第です」マリー

 

 

「……そうか、だが別に特別感謝される事でもない、結局私も最終的には捕まった訳だし」アズサ

 

 

「つ、捕まったのは余り関係ないんじゃ……」ヒフミ

 

 

「む、しかし敵に捕まっては元も子もないだろう」アズサ

 

 

「いや、何でそうなるのよ……」コハル

 

 

「──それに気の毒だけれど、いつまでも虐げられているだけじゃ駄目、たとえそれが虚しい事であっても、抵抗し続ける事をやめるべきではない」アズサ

 

 

「……そうかもしれませんね、その言葉、確りと伝えておきます」マリー

 

 

 

その静かな一言に、その場の空気が一瞬だけ引き締まった様に、ヒフミには感じられた。

 

 

 

「アズサさんは、暴力を信奉する氷の魔女……そんな噂がありましたが、やはり噂は噂ですね」マリー

 

 

「うん……?」アズサ

 

 

「ふふっ、それはそうですが、アズサちゃんは意外と氷の魔女らしいところもありますよ?ほら、他の方からするとちょっとだけ表情も読みにくいですし♪」ハナコ

 

 

「むっ、そんな事はないぞ、ハナコ」アズサ

 

 

「あー、でも、確かに、いつも仏頂面だし」コハル

 

 

「む、む……?そう、だろうか」アズサ

 

 

「ペロロの真似でもすりゃ」隆一

 

 

「せ、先生、流石にそれは……」ヒフミ

 

 

「……つまり、白目を剥いて舌を出せば良いのか?」アズサ

 

 

「──さぁな」隆一

 

 

「先生!?」ヒフミ

 

 

「ただ、やったらやったで俺はほぼ確でそこのコハルに首チョンパされるから」隆一

 

 

「く、首チョンパって!?そんな事しないもん!」コハル

 

 

 

場が和やかな笑いに包まれる中、マリーはその様子を微笑ましそうに見つめていた。しかし、その笑みの奥に一瞬だけ差した影を、その場の誰も気に留める事はなかった。

 

 

 

「……マリーちゃん、元気そうで良かったです」ハナコ

 

 

「はい、私は……ですが──」マリー

 

 

「ふふっ、続きは後で……玄関まで送りますよ、さぁ、一緒に行きましょう」ハナコ

 

 

「あ……はい」マリー

 

 

「では、私はマリーちゃんを見送って来ますね」ハナコ

 

 

「みなさん、お邪魔いたしました、先生も、急に訪ねて来てしまってごめんなさい」マリー

 

 

「ううん、またいつでも歓迎するから」隆一

 

 

「ありがとうございます……──あぁ、それと」マリー

 

 

「マリー?」隆一

 

 

 

マリーは一度、周囲を確かめる様に視線を巡らせた。その所作は、先程までの慌てふためいた様子とは、まるで別人の様に静かだった。

 

 

 

「……"チャリントン"より、言伝を」マリー

 

 

「言伝?」隆一

 

 

天網恢恢───疎にして漏らさず」マリー

 

 

………皇天親無く───惟徳を是輔く」隆一

 

 

 

その言葉を聞き届け──隆一は、そっと目を伏せた。それが、今出来る精一杯の返事であった。短い沈黙が、二人の間にだけ流れた。

 

 

 

「……?マリーちゃん?」ヒフミ

 

 

「すみません、少し──先生の肩に埃が」マリー

 

 

「それでは、また──先生」マリー

 

 

 

深く頭を下げた彼女の表情は、影になってしまい良く見えなかった。

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