The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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休息

合宿期間とは言え、毎日が勉強尽くし──という訳でもなく。今日はその休日。

 

 

 

「そう言えば今、トリニティのアクアリウムで、ゴールデンマグロという希少なお魚が展示されているらしいですね」ハナコ

 

 

「あ、それ私もパンフレットで見ました!幻の魚と呼ばれているんですよね?」ヒフミ

 

 

「あぁ、あれか……」隆一

 

 

「あら、先生は既にご覧になっていたので?」ハナコ

 

 

「うーん、見たというか、何と言うか……」隆一

 

 

「?」ハナコ

 

 

「まぁ、色々あってな……皆もそういうのに興味があるの?」隆一

 

 

「私は、まぁ、普通……?」コハル

 

 

「でも、やっぱり幻の魚なんて言われたら、ちょっと気になりますよね」ヒフミ

 

 

「そのゴールデンマグロ、どうやら近くの海で発見されたらしいのですが、見に行こうにも入場料も安くは無いので……」ハナコ

 

 

「なら入場料は俺が出すから、今度皆で見に行こうか?」隆一

 

 

「えっ、良いんですか先生!?」ヒフミ

 

 

「勿論、展示はまだ少し先までやるみたいだし、合宿が終わったらな」隆一

 

 

「む、それは助かる」アズサ

 

 

「ありがとうございます!」ヒフミ

 

 

「あら、先生太っ腹ですね♡」ハナコ

 

 

「ま、まぁ、皆が行くなら……」コハル

 

 

「ふむ、それにしても海か……思い返せば一度も行った事が無いな」アズサ

 

 

「そ、そうなんですか!?アズサちゃん、一回も……!?」ヒフミ

 

 

「うん──いつか見に行ってみたいものだ」アズサ

 

 

 


 

 

 

「水着で街や学園の中を歩くのは別に、そこまで変な事ではないですよ?」ハナコ

 

 

「そんな訳ないでしょ!?勝手に常識改変しないでっ!」コハル

 

 

「ですが、これは私がシスターたちから聞いた話ですが……どうやらキヴォトスのどこかの無法地帯では、水着で覆面を被り犯罪行為を行う集団が居るらしいんです」ハナコ

 

 

「は、はぁ!?水着に覆面……ド変態じゃん!?なにそれ!?っていうか犯罪集団じゃないっ!?そんなの何もしなくたって、見た目からして既に犯罪よ!」コハル

 

 

「そういう集団があるくらい、他の地域では普通なんですよ?ですからコハルちゃん、今度一緒に──」ハナコ

 

 

「いやっ!何言い出すか分からないけれど、とりあえず嫌っ!」コハル

 

 

「あら、振られてしまいました……では、アズサちゃんは──」ハナコ

 

 

「うん?私は別に構わな……」アズサ

 

 

「あ、アズサを変な道に引き摺り込もうとするな!変態!馬鹿ッ!」コハル

 

 

「あ、あはは……」ヒフミ

 

 

 


 

 

 

「そういえば先生、料理の技術はどこで学んだのですか?いつも朝ご飯、とても美味しく頂いていますが……」ヒフミ

 

 

「うん?そりゃあ、まぁ、ここ来るまでは概ね一人暮らしだからな、自然と上手くなるものだよ、最初こそ市販のカプヌやら冷凍モノばかりだったけれど、かといって出費も嵩んだし、後は……親父の指導の賜物かなぁ」隆一

 

 

「えっ、あの朝ご飯って先生の手作りなの!?」コハル

 

 

「わ、私も知りませんでした……先生、いつの間に……!?」ヒフミ

 

 

「まぁ自分を入れて四人か五人分くらいならね?俺の親父はもっと凄かったよ」隆一

 

 

「先生のいうその『親父』って人が、先生に料理を教えてくれた人?」コハル

 

 

「そうそう、まあ魔導養成所…言うなれば、全寮制のクソデカい学校で朝昼晩毎食作ってたさ。それも1000人は下回らないぐらい寮生の分全部」隆一

 

 

「ま、毎食!?1000人!?な、なにそれ……!?」コハル

 

 

「す、凄いですね……」ヒフミ

 

 

「料理自体は凄く美味いし味付けも調理もジャストだしで、スジだらけの肉だろうが青臭い魚だろうが見た目がゲテモノっぽい野菜だろうが『親父の作ったもんなら何でも食べれる』なんて奴も山ほどいたよ……」隆一

 

 

「え、えぇ……」ヒフミ

 

 

「それ、本当に人なの……?」コハル

 

 

「ちゃんとした人だ。ただ、俺がキヴォトスに行く前に亡くなってる」隆一

 

 

「…あっ、そうなんですね…」ヒフミ

 

 

「…まあ、俺が小さい時から病気がちだったし、むしろガンやら大病何回患っても60半ばまで生きてたってのが奇跡なぐらいだ」隆一

 

 

「あら、悲しいですね……」ハナコ

 

 

「むぅ、それ程の腕を持った料理人だった……という事か?」アズサ

 

 

「ああ……そうだな。」隆一

 

 

 


 

 

 

「──つまり、ペロロ様の魅力はそこに詰まっていると言っても過言ではないんですよ!」ヒフミ

 

 

「え、えぇ……よくわかんない……」コハル

 

 

「ヒフミちゃん、モモフレンズが本当に好きなんですねぇ」ハナコ

 

 

「うん、あれは実に良いものだ、ヒフミの気持ちは良く分かる」アズサ

 

 

「先生!先生はモモフレンズの中で誰が一番好みですかっ!?」ヒフミ

 

 

「俺かい?俺はな……うーん、やっぱり王道のペロロかなぁ」隆一

 

 

「せ、先生っ!」ヒフミ

 

 

「……先生もあの変な鳥、好きな側なんだ」コハル

 

 

「好きって言うか、何か憎めない顔っていうのかなぁ、愛嬌のある顔だと思うよ?」隆一

 

 

「ふふっ、でもちょっと分かりますね」ハナコ

 

 

「き、来ていますよアズサちゃん!モモフレンズブームがっ!徐々に、受け入れられている気がします!」ヒフミ

 

 

「うん、この調子でどんどんモモフレンズの良さを広めていこう」アズサ

 

 

 


 

 

 

「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠った方が良いと思いますよ?」ハナコ

 

 

「……うん、今朝は寝坊して迷惑を掛けてしまった、すまない」アズサ

 

 

「い、いえ、そんな」ヒフミ

 

 

「慣れない場所で寝坊なんて、これまで殆どなかったのに……ふむ、もうここは、慣れない場所ではないからかもしれないな」アズサ

 

 

「確かに、私達もう此処に一週間近く居ますから……」ヒフミ

 

 

「兎に角、もっとしっかり眠らないと、深夜の見張りは減らして頂いて」ハナコ

 

 

「見張り……?なにそれ」コハル

 

 

「あぁ、毎晩夜中にちょっと見張りを──」アズサ

 

 

「何かあったら俺の方に通知が来るし、アズサも少し休んで欲しいな……ハナコも、みんな、アズサの事を心配していたよ?」隆一

 

 

「そう、なのか……?」アズサ

 

 

「それは、やっぱり同じ部活の仲間ですし……」ヒフミ

 

 

「そうか……ごめん──実は、見張りは言い訳で、ブービートラップとかを設置していたんだ」アズサ

 

 

「ブービートラップ?」ハナコ

 

 

「それは……どうして、また?」ヒフミ

 

 

「ん、心配しないで、此処に悪意を持って侵入しようとするルートだけに設置しているから、普通に生活する上では安全面に問題はない」アズサ

 

 

「アズサ、そのトラップって──」隆一

 

 

「大丈夫、殺傷性はない」アズサ

 

 

「……成程、ですがそれならそれで教えて頂けると嬉しいです、どうしても心配しちゃいますから」ハナコ

 

 

「……そうか、うん、これからは気を付ける──私のせいで、先生とみんなが被害を受けるのは望むところじゃないから」アズサ

 

 

「やっぱり、アズサは優しい子だね」隆一

 

 

「なっ、こ……子ども扱いしないで、先生、別に私は──」アズサ

 

 

 

不意に、アズサの言葉が詰まった。先程まで何時間も流れる様に続いていた会話が、ふと止まる。薄暗い体育館の中で、アズサの表情が陰に覆われ見えなくなった。俯いた彼女はただ、小さく、絞り出すような声色で言葉を紡いだ。

 

 

 

「だって、この世界は全てが無意味で、虚しいものだ、だから、もしかしたら……」アズサ

 

 

 

──もしかしたら、私は。

 

 

 

「私はいつか裏切ってしまうかもしれない……皆の事を、その信頼を、その心を」アズサ

 

 

「──………」アズサ

 

 

「アズサちゃん?」ハナコ

 

 

「……?」コハル

 

 

 

彼女の境遇を知っているか否か、それが皆の反応を分ける。ハナコは真剣な瞳でアズサを見つめ、ヒフミはその態度に違和感を覚え、コハルは何の事だとばかりに疑問符を浮かべる。そんな彼女達を、ふっと、光が照らした。

 

 

 

「あ、電気が──」ヒフミ

 

 

「直ったみたい、ですね」ハナコ

 

 

再び光に照らされた時、アズサの表情には陰の欠片も残ってはいなかった。

 

 

「うん、じゃあ第一回水着パーティーはここで閉幕か、二回目も楽しみにしている」アズサ

 

 

「に、二回目とか無いから!こんなの最初で最後だから!」コハル

 

 

 

そんな言葉と共に、その休日は洗濯をして、幕を閉じた──とはならないのが補習授業部である。

 

 

 

「──いいえ、まだです!このまま一日が終わりだなんて、そんな勿体ない事はさせません!」ハナコ

 

 

「は、はい……?」ヒフミ

 

 

「?」アズサ

 

 

「な、なに?!急に飛び上がって、ビックリした……」コハル

 

 

「突然の事でしたが、折角のお休みじゃないですか、みんな裸で交わったのに、このまま、はい、おやすみなさいだなんて──」ハナコ

 

 

「勝手に記憶を捏造しないで!裸じゃないからッ!」コハル

 

 

「それは兎も角、このまま寝てしまうのは勿体ないです、まだ火照っているといいますか、物足りないと言いますか……」ハナコ

 

 

「具体的には?」アズサ

 

 

「うふふ♡合宿といえば、やはり合宿所を抜け出す事……それも一つの醍醐味だと思いませんか?」ハナコ

 

 

「え、えぇ……?」ヒフミ

 

 

「さあ!今から皆でこっそり外に出て、お散歩しましょう♡」ハナコ

 

 

「何ならトリニティの商店街は夜遅くまで営業している御店も沢山ありますし、食べ歩きとか、ショッピングも出来ますよ!」ハナコ

 

 

「そ、そんなの校則違反じゃん!駄目ッ!」コハル

 

 

「細かい校則は把握していませんが、結構皆さんこっそりやっていると思いますよ?意外とそういう方、周りに居ませんか、ヒフミちゃん?」ハナコ

 

 

「あ、あはは……そ、そう、ですね……」ヒフミ

 

 

「で、ですが普段であればまだしも、今は補習授業部の合宿中ですし……良いんでしょうか?」ヒフミ

 

 

「遠出する訳でもありませんし、直ぐそこですよ、コハルちゃんも如何ですか?きっと楽しいと思いますよ」ハナコ

 

 

「ぅ……え、っと、正直、その、きょ、興味はある、けれど……」コハル

 

 

「──という事ですが、どうでしょうか先生?」ハナコ

 

 

「別に良いんじゃね?」隆一

 

 

「……せ、先生!?」ヒフミ

 

 

「毎日勉強勉強勉強じゃ疲れるだろ?楽しそうだし、まあ許可するさ」隆一

 

 

「ふふっ、ありがとうございます♡」ハナコ

 

 

「えっ、良いの!?」コハル

 

 

「──準備は出来ている、直ぐにでも出発出来るぞ」アズサ

 

 

「アズサちゃん!?もう着替えたんですか!?」ヒフミ

 

 

「先生も準備万端、財布も完備、カードもあるよ!」隆一

 

 

「せ、先生……?」ヒフミ

 

 

「では、決定ですね♡さぁ、準備していきましょう!楽しくなってきましたね、深夜に裸で散歩だなんて……!」ハナコ

 

 

「さりげなくすり替えないでッ!服は着てッ!?」コハル

 

 

 

こうして、補習授業部の夜のお出掛けが始まったのだった。

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