The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「うふふっ……♡」ハナコ
「あはは……き、来ちゃいましたね」ヒフミ
「うぅ……」コハル
「うん」アズサ
トリニティ都市部、商店街。街灯に照らされ、人も疎らな風景へと姿を変えた夜の街を、補習授業部の面々は楽しさ半分、不安半分と言った様子で歩いて行く。合宿中の外出は本来禁じられている──その背徳感が、一行の足取りをどこか浮つかせていた。昼間とは違う、少しくすんだ様な街並みの色さえも、今夜は妙に新鮮に映った。
「どうですか?もう既に楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感、そしてそれを同時に行っている仲間がいるという安心感、この二つが合わさって、もう……!」ハナコ
「ふむ、なるほど、深夜の街はこんな感じなのか……想像していたよりも活気があるな」アズサ
ハナコは道すがら、二十四時間営業の店の多さや、モモフレンズの限定グッズを扱う隠れた店の存在を嬉々として語って聞かせた。ヒフミがその情報に食いついたのは、言うまでもない。二人の間では、既にグッズショップへの寄り道計画が着々と進み始めていた。
「け、結局乗って来ちゃったけれど、こんなところ万が一ハスミ先輩に見られたりしたら、すっごい怒られそう……」コハル
「コハル、こういうのはね、寧ろ堂々としていた方がバレないんだ、だからきょろきょろせずに、胸を張って」隆一
「そ、そうなの……?というか、何で先生がそんな事……」コハル
「──財布を握られるって、そういう事なんだ」隆一
「それにしても、ハスミさんは後輩たちに優しい方だと聞いていましたが……そんなに怒ったりするんですか?」ハナコ
「も、勿論優しいわよ!それに文武両道で、品もあって、すっごい先輩なんだから!で、でも怒る時は本当に怖くて……」コハル
「そう言えば、最近、何か荒れるような事があったんだっけ」隆一
「う、うん……前に一回、私もその場にいたんだけれど……」コハル
コハルはぽつぽつと、少し前に起きた出来事を語り始めた。皆が静かに耳を傾ける中、彼女の口調は次第に真剣なものへと変わっていく。
正義実現委員会本部で、ハスミは激しい怒りの後、突如としてダイエット宣言を叫んでいた。原因は、その直前に行われたゲヘナ、万魔殿での会談にあるらしい。普段の落ち着いた副委員長からは想像もつかない剣幕に、周囲の部下達は誰一人として口を挟めずにいた。
「これから私が一日に二回以上食事をしたり、おやつを口にするところを発見したら、その場で指摘してどうか叱って下さい!」ハスミ
部下達は困惑を隠せぬまま、ただ頷くしかなかった。
コハル曰くその会談は、そもそも最初から噛み合っていなかった。万魔殿の主を名乗るマコトは、来訪したハスミを委員長のツルギだと勘違いした挙句、体格についての失礼な発言を連発。同席していたイロハが幾度となく訂正を試みるも、マコトの暴走は止まらず、「出会い頭のインパクト」だの「規格外」だのと的外れな威嚇を続けた挙句、最終的には「デカ女」呼ばわりするに至った。
「──デカ女?」ハスミ
その一言が引き金だった。静かに立ち上がったハスミの拳が、何を意味するのか──イロハはいち早く察し、「私は逃げますね、じゃ」とだけ告げて姿を消したという。取り残されたマコトがその後どうなったのかは、語られないままだった。会談は決裂したが、その『マコト』なる女の行動や発言を鑑みれば残当とすら言える。
「それで、その会議自体駄目になって、それ以来ハスミ先輩、あんまりご飯も食べてないから心配で……」コハル
「そんな事が……ゲヘナの方々に怒るのも分かります、その様な事を面と向かって口にされては、無理もありません」ヒフミ
「で、でも、ハスミ先輩は色んな意味で強いから大丈夫!あれからずっと、自分との約束を守って頑張ってるし……!」コハル
「……うーん、俺としては余り無理はして欲しくはないのだけれど」隆一
「本人の心持ち次第ですし、難しい話ですね」ハナコ
話の合間、アズサが良い匂いを嗅ぎつけたのを機に、一行は近くのスイーツ店へと足を向ける事になった。
「んじゃ、ここにするか」隆一
「え、えっ……!?」ヒフミ
「うぅ……だ、誰も見ていないよね……?」コハル
「いらっしゃいませ~」店員
真夜中のスイーツ店という非日常に、ヒフミは緊張と興奮を隠せない様子だった。店内は思いのほか明るく、甘い香りが漂っている。だが、目当ての限定パフェは、既に別の客が買い占めた後だった。
「ふむ、一歩遅かったか……こんな時間まで狙われているなんて、侮れないな」アズサ
「まぁ、ないものは仕方ない、ヒフミ、他におすすめのメニューはある?」隆一
「……あら?」ハナコ
「──せ、先生?」ハスミ
視線の先には、両手に限定パフェを三つも抱えたハスミの姿があった。
「あら……もしかして、それが限定パフェですか?何やら沢山……」ハナコ
「先生、それに補習授業部の皆さんも、こんな時間に一体──」ハスミ
「ハスミさん、奇遇ですね♡真夜中にパフェを三個も……確か、ダイエット中と伺いましたが?」ハナコ
「えっ!?な、何故それを……こ、これはですね……──」ハスミ
しどろもどろになるハスミを、ハナコは面白がる様にからかい続けた。
「まぁ、夜中ってお腹が空くよねぇ……あ、ハスミ、お隣良いかな?」隆一
「え、あ、はい……ど、どうぞ」ハスミ
「んんっ、せ、先生?その、自分の事を棚上げするようですが、補習授業部の皆さんはそもそも、合宿中の外出が禁じられていた筈では……?」ハスミ
「うん、そうなんだけれどね、息抜きは大事かな~って思って」隆一
「……ここはお互いに、見なかった事にするとしましょうか」ハスミ
「そういう事で、ひとつ」隆一
互いの後ろめたさを飲み込む様に、二人は静かに頷き合った。パフェを頬張るハスミの横顔は、いつもの委員会での凛々しさとは違う、どこか年相応の柔らかさを見せていた。話題は自然と、コハルの近況へと移っていく。
「コハル、お勉強は頑張っていますか?」ハスミ
「あ、えっと、それは……──」コハル
「コハル、最近は成績が凄い伸びているよ」隆一
「は、はい、そうです!コハルちゃんはこのままいけば合格圏内に届く位、頑張っていて……!」ヒフミ
「それは何よりです、言ったではありませんか、コハルはやれば出来ると」ハスミ
「は、ハスミ先輩……えへへっ、は、ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから……」コハル
「えぇ、引き続き応援していますよ、コハル、早く正義実現委員会に戻って来て、一緒に任務が遂行出来る時を心待ちにしていますから」ハスミ
「は、はい!頑張ります……っ!」コハル
穏やかなその空気を破ったのは、不意に鳴り響いた電子音だった。
「?失礼、私の端末の様です──」ハスミ
「はい、イチカ?どうかしましたか」ハスミ
「すみません先輩、こんな時間に……ちょっと問題が発生しちゃいまして」イチカ
イチカの報告によれば、学園近郊にゲヘナと推測される生徒が無断侵入し、施設を襲撃しているという。その一報だけで、ハスミの纏う空気が瞬時に張り詰めた。
「──誰であれ、恐らく狙いはエデン条約の妨害でしょう、直ぐに向かいます……!」ハスミ
「落ち着いて聞いて欲しいっす先輩、確認されているのは四名だけで……襲撃された場所は、アクアリウムみたいっす」イチカ
「あ、アクアリウム……何故、その様な場所を……?」ハスミ
「展示中だった希少種の【ゴールドマグロ】を強奪して逃走中との事で……それと、どうやら相手はゲヘナのテロリスト集団、【美食研究会】らしいっすよ」イチカ
「美食──まさか、食べるつもりですか!?」ハスミ
「首謀者は会長の【黒舘ハルナ】、ゲヘナの中でも要注意人物とされている例の奴っす」イチカ
その言葉に、ハスミの端末を握る手から、ミシリと軋む音が響いたのだった。