The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「よし、皆、解答用紙と問題用紙は行き渡ったな?」隆一
先生が机に座り、自信に満ち溢れている皆を見渡す。これで模擬試験も三度目、最初と比較すると随分慣れたものだった。
「──試験開始!」隆一
「っ!」ヒフミ
宣言と同時に、補習授業部の面々は一斉にペンを取り、問題用紙を裏返す。以前は基礎問題ですら躓いていた彼女達だったが、そのペンは所々ぎこちないながらも、すらすらと解答用紙の上を滑って行く。頭を抱えて唸っていた頃とは、正に雲泥の差だった。
「ん〜〜〜?(え〜っと、ここの問題の公式なんだったっけ…?)」コハル
「フムフム(ここは一次不等式か…次の問題は…)」アズサ
「(こういう事ですね♡)」ハナコ
──ヒフミはそんな彼女達を横目に、確かな手応えを実感していた。
「(──皆さん、以前と比べて手の動きが早くなっています……!これなら、もしかすると!)」ヒフミ
「よーし……んじゃあ、試験結果発表すんぞ?」隆一
「は、はい、お願いしますっ!」ヒフミ
採点を終えた先生が、結果を見つめながら声を張る。
第三次補習授業部模試、結果──
ハナコ──69点、合格
アズサ──73点、合格
コハル──61点、合格
ヒフミ──78点、合格
その言葉を聞いた瞬間、教室から音が消えた。全員の視線が先生の手元に注がれる。そして次の瞬間、ヒフミが震える拳を突き上げ叫んだ。
「やりましたぁッ!?」ヒフミ
「ほ、本当っ!?嘘ついてない!?」コハル
「あらあら♡」ハナコ
歓喜の爆発を皮切りに、先生の元へと群がる補習授業部。何度紙面を見つめようが、赤いペンで示された数字は変わらない──それは、自身の合格を如実に物語っていた。
「夢なんかじゃねぇ、これは皆が頑張った結果だ」隆一
先生の言葉に、コハルは涙目になりながらも拳を突き上げた。
「……あはっ、あははっ!そ、そうよ!これが私の真の実力なんだからッ!」コハル
ハナコもまた、手渡された解答用紙の『69』の文字を見て、嬉しそうに笑みを零す。それを見たヒフミは、彼女の手を掴むと、俯き、小さく震えながら声を絞り出した。
「よ、良かった……!本当に、良かったです……っ!」ヒフミ
ハナコの手を掴んだヒフミは、笑いながら涙を流していた。元来、情に厚いヒフミにとって目下一番の問題は、アズサでもコハルでもなく、目に見えない傷を抱えたハナコだった。点数を取れない理由があるのなら、それを強要する事がどれだけの苦痛になるか──彼女はただ、それだけが心配だったのだ。元々ハナコの学力そのものを疑った事は、一度もなかった。
「は、ハナコちゃんに以前何があったのか、まだ分かりません、けれど……それでも、良かったです……!皆で笑って合格点を取る事が出来て……ッ!」ヒフミ
「ヒフミちゃん、そこまで──」ハナコ
鼻を啜り、涙を流しながら笑いかけるヒフミを見て、ハナコは思わず言葉に詰まった。他人の為に涙を流せる、それがどれだけ尊い事か──きっと彼女はそれを知らないのだろう。
「……ごめんなさい、ヒフミちゃん、そしてありがとうございます」ハナコ
そう言い、そっとヒフミを抱き締めるハナコ。両腕から伝わる暖かさと震えに、彼女は静かに瞼を閉じた。
「という事で、約束通りモモフレンズグッズの授与式を始めます……っ!」ヒフミ
準備していた大量のぬいぐるみを見て、アズサの目が輝き、コハルとハナコの表情が引き攣る。密かにラインナップを増やしていたヒフミだったが、案の定アズサ以外には不評で、二人はやんわりと辞退を告げた。
「ど、どうしよう、私は……この中から選ぶなんてそんな難しい事……!あの黒くて角の生えたのも良いし、眼鏡のカバも……!」アズサ
「か、カバではなく、ペロロ様は鳥なのですが……」ヒフミ
頭を抱えて蹲るアズサ。貰える品物は一つだけと言われたその言葉を、彼女は真剣に受け止め、本気で悩み抜いていた。最終的に、彼女は選択の全てをヒフミに委ねる事にした。
「私には、無理だ……頼むヒフミ!私の代わりに選んで欲しい……!」アズサ
唐突なパスに驚きつつも、ヒフミは真剣な眼差しで吟味し、物知り設定の「ペロロ博士」を選び出した。今まさに勉強を頑張るアズサに、ぴったりの一体だった。
「実は、このペロロ博士は物知りで、勉強も出来るという設定なんです、まさに今、凄い成長をしている真っ最中のアズサちゃんにぴったりかなと!」ヒフミ
「──うん、気に入った!ふわふわで、本当に可愛い、好き、えへへ……」アズサ
「ありがとう、ヒフミ、これは一生大切にする!友達から貰った、初めてのプレゼントだから」アズサ
アズサにとってそれは、ただのぬいぐるみではない。大きな、意味のあるプレゼントだった。
「……良し、それじゃあ、俺からも皆にプレゼントがあるんだ」隆一
先生が取り出したのは、補習授業部の五人が横に連なった、掌サイズの人形だった。一人ひとりが指先より少し大きい程度で、特徴を捉えたデフォルメが施されている。キーホルダーの様にストラップが付いており、鞄に付けられる仕様だった。
「これを自作したんですか!?」ヒフミ
「まぁね、全部手作りだから店の品みたいにとはいかなかったけれど」隆一
自分も貰って良いのかと戸惑うアズサに、先生は迷わず四人分を差し出す。仲間外れになど、する筈もなかった。皆は口々に人形の感想を語り合い、教室には賑やかな笑い声が広がっていく。
「ふふっ、アズサちゃんのこの顔、そっくりですね♡」ハナコ
「ヒフミは相変わらずあの気持ち悪い鳥を抱えているんだ……」コハル
「こ、コハルちゃん!気持ち悪い鳥ではなくペロロ様です!」ヒフミ
ハナコの人形が抱えていた小さな品物の正体を尋ねられ、先生が「こないだ没収された例の本だよ」と告げると、ハナコはどこか照れた様に笑うばかりだった。
やがて皆は、それぞれの方法で人形を身に着け始める。ヒフミはバッグに、ハナコはポーチに、コハルも見様見真似で鞄にストラップを結んだ。アズサだけは少し悩んだ末、絶対に失くさないという理由で、制服の胸元にそれを括り付けた。制服は毎日着用するし、着替えの度に外すのは手間だが、逆に言えば絶対に失くす事もない──そんな彼女なりの理屈だった。
「流石に胸元だと、ちょっと邪魔じゃない……?」コハル
「問題ない、バリスティックベスト*1と比べれば全然軽いし」アズサ
比較対象のおかしさに、ハナコは苦笑を零すしかなかった。それでも本人が満足そうなのだから、それ以上何も言うまい。
「と、ともあれ、これでやる気は十分です!この調子で成績を上げて、皆で補習授業部を卒業しましょう!」ヒフミ
「「「おーっ!」」アズサ/ハナコ/コハル
「……いよいよ、明日です」ヒフミ
「う、うん」コハル
補習授業部──合宿、七日目。いつも通り教室に集合したヒフミとコハルは、どこか緊張した面持ちで呟いた。先生の姿はなく、今日は各人の苦手分野を克服する為の、個別自習時間である。教室に漂う空気は、これまでの日々とは少し違って感じられた。
「第二次特別学力試験──か」アズサ
「はい……一週間という短い時間でしたが、私達はきちんと努力を積み上げました、模試の結果も良かったですし、今の私達であれば十分に合格出来る筈です!」ヒフミ
一週間前とは比べ物にならない程、積み重ねてきた努力への自負があった。直近の模試は全員が合格。難易度も特別学力試験の基礎問題と同等なのだから、決して不可能な目標ではない筈だ。それでも、油断だけはしてはならない──そんな緊張感が、ヒフミの声には滲んでいた。
「ですが慢心する事無く、最後まで頑張りましょう……!あと一日、最善を尽くすんです……!」ヒフミ
「当然だ、何なら百点を目指して頑張る」アズサ
「わ、私も!」コハル
「あら、では私もそういう事で……ふふっ」ハナコ
「「「「おーっ!」」」」一同
声を揃える四人の表情には、確かな自信と、僅かな緊張が入り混じっていた。運命の第二次特別学力試験、それは、直ぐ傍まで迫っていた。
──そして、破滅の時も。
新学期始まりそうで荷物やら課題やらなんやらまとめたり片付けてたら投稿が遅れてしまいました。申し訳ございません。