The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「ふぅー……大分暗くなってきましたね」ハナコ
「うん、そろそろ切り上げた方が良いだろうか?」アズサ
「そうですね、根を詰め過ぎて明日に響いても嫌ですし……今日は、此処までにしましょう!」ヒフミ
七日目、最後の勉強を終えた補習授業部。教室の中に、安堵の声が漏れる。窓の外は既に暗く、本来の自習時間は既にオーバーしている。それでも誰も、切り上げるのを惜しむ様子はなかった。振り返れば、あっという間の一週間だった。
「これで後は第二次特別学力試験……本番だけ、だよね?」コハル
「はいっ、ですが私達はここまでの合宿で、十分に合格できる程の学力を身に着けた筈です!」ヒフミ
「うん」アズサ
「えぇ♡」ハナコ
「っ、そ……そうねっ!」コハル
「あとはしっかり試験に合格して、堂々と補習授業部を卒業するだけです、今までの勉強が無駄ではなかった事を、きっちりと証明しに行きましょう!そして最後は、皆で笑ってお別れ出来る様に……!」ヒフミ
「──そうか、合格したら……お別れ、なのか」アズサ
「ちょ、ちょっとアズサ!?どうして急にしんみりする訳!?」コハル
「ふふっ、合宿含め、何だかんだで凄く楽しかったですもんね?」ハナコ
「……うん、でも、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある、全ては、虚しいものだ」アズサ
珍しく感傷めいた言葉を零すアズサに、皆は一瞬言葉を詰まらせる。普段は淡々としている彼女だからこそ、その一言には妙な重みがあった。
「──そこまで思い詰める必要はありませんよ、アズサちゃん含めて皆、試験が終わったらどこかに行ってしまう訳ではありません、補習授業部が解散しても同じ学園に居るんですから、逢おうと思えばいつでも会えますよ」ハナコ
「そ、そうよ!ほら!私はいつも正義実現委員会の教室にいるし!ひ、暇な時があったら来れば……!?」コハル
「き、気持ちとしては私も同じなんですけれどね……でも、ハナコちゃんの言う通り、私達は同じ学園に通う仲間です、今生の別れではありませんので……!」ヒフミ
「えぇ、教室でもどこでも、いつでも遊びに来て下さい」ハナコ
「……うん、ありがとう、ヒフミ、コハル、ハナコ」アズサ
アズサの表情が、僅かに緩む。それを見たヒフミも、ほっと胸を撫で下ろした。
「……そういえば、明日の試験会場は前と同じところなのか?」アズサ
「あっ、そうですね、確認は大事ですし……えっと、告知は──」ヒフミ
端末を操作していたヒフミの指が、ふと止まった。
「──えっ?」ヒフミ
「……ヒフミちゃん、どうしましたか?」ハナコ
「ヒフミ?」アズサ
「え、嘘っ!?嘘ですよね……ッ!?」ヒフミ
「ど、どうしたのヒフミ、そんな大声出して……」コハル
「こ、これ──……」ヒフミ
震える手で差し出された画面を、皆が覗き込む。表示されていたのは、見慣れた告知フォーマットだった──それだけに、余計に不気味さが際立つ。
「えっと、『補習授業部、第二次特別学力試験に関する変更事項のお知らせ』……?」ハナコ
「何よ、別に、普通のお知らせじゃ……」コハル
「──試験範囲を、事前に掲示した内容より約三倍に拡大」ハナコ
「は、はぁっ!?」コハル
「また、合格ラインを六十点から九十点に引き上げとする──……」ハナコ
「きゅ、九十点なんて……わ、私も、超えた事なんてないのに……」コハル
「ど、どういう事よ、これ……!?」コハル
「日付を見るに、先程アップされたばかりみたいですね……試験直前になって、こんな──」ハナコ
「──成程、私達の模擬試験の結果を、ナギサさんが何かしらの手段で把握しましたか」ハナコ
「も、模擬試験って、あの全員合格した奴!?」コハル
「でも、あれは私達が作った授業資料で、別にちゃんとした試験じゃ……!」コハル
「……この学園に居る以上、ティーパーティーの目となり耳となる存在からは逃れられません」ハナコ
「露骨なやり方ですねぇ……どうあっても、私達を退学にしたい──と」ハナコ
「──退学?」アズサ
「えっ、た、退学……?ちょ、ちょっと待って、どういう事!?」コハル
「……そのお話も、そろそろお伝えしようと思っていましたが──その前に、他にも変更された部分がありますね」ハナコ
「試験会場と時間……会場はゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟一階」ハナコ
「ゲヘナ……?」アズサ
「げ、ゲヘナで試験を受けるんですか!?」ヒフミ
「な、何でよ!?どうしてトリニティの試験をゲヘナで受ける訳!?い、意味わかんないッ!?」コハル
「しかし、行かなければ未受験扱いで不合格、ですね……」ハナコ
「そ、それもそうだけれど……~ッ!」コハル
「一体何が起きているの!?退学って何!?私達、どうなっちゃうの!?」コハル
「………」ヒフミ
ヒフミとハナコは互いに目を合わせ、これ以上隠し通す事は出来ない事を悟り──ヒフミはそっと口を開いた。
「実は、皆さんに言わなくちゃいけない事が……この試験の変更点も、恐らくそれと繋がっていて」ヒフミ
「わ、私達がこの部活動に集められた本当の理由は──」ヒフミ
言葉を続けようとした、その時だった。
「ま、待って、待ってください……!」レイナ
教室の扉が勢い良く開き、肩で息をするレイナが飛び込んで来た。額には汗が滲み、その表情は蒼白だった。
「レイナさん……!?どうしたんですか、そんなに慌てて」ヒフミ
「せ、先生が……!」レイナ
「先生……?」アズサ
その一言に、皆の視線が一斉にレイナへと集まる。教室の温度が、一段と下がった様に感じられた。
「先生が、ティーパーティーに……捕らえられました……!」レイナ
「──え?」ハナコ
「な、なに、それ……!?捕らえられたって、どういう事!?」コハル
「わ、私も詳しい事は……ただ、テラスで先生がナギサ様に拘束されるのを、通信越しに聞いてしまって……!」レイナ
「そ、そんな……!」ヒフミ
絶句する補習授業部。信じられないという表情のまま、皆が言葉を失う中、再び教室の扉が開いた。廊下の照明を背に、静かにその人影が姿を現す。
「──失礼致します!」ミヅホ
現れたのは、土方ミヅホ。隆一の補習授業部での手伝い役として、これまでにも何度か顔を合わせていた生徒である。その表情はいつも通り落ち着いていたが、彼女の纏う空気だけは、明らかに普段と違っていた。
「ミヅホさん……!」ヒフミ
「一体何が……先生に何があったんですか!?教えて下さい!」ハナコ
ハナコが詰め寄る様にミヅホへと迫れば、他の皆も次々と彼女を取り囲む。
「お、お願いします、知っている事があれば……!」ヒフミ
「先生は、何の容疑で……」コハル
その勢いに気圧されながらも、ミヅホは静かに口を開いた。
「……申し訳ありません、私も、詳しい経緯までは把握しておりません」ミヅホ
「そ、そんな……!」コハル
「ただ、拘束の際に告げられた容疑だけは……『大規模テロ攻撃首謀容疑』、と」ミヅホ
「テ……テロ……?」ヒフミ
その言葉に、教室の空気が凍りついた。誰かの息を呑む音だけが、静寂の中に微かに響く。
「テロなんて、そんな、先生がそんな事する筈ないじゃない……!」コハル
「はい、私もそう思います……先生は、そんな人じゃありません」ヒフミ
「うん……先生は、いつも私達の為に、時間を割いてくれた、噓や偽りなんて、感じた事は一度もない」アズサ
「……きっと、ナギサさんに騙されたのでしょうね」ハナコ
「あの人は、目的の為ならば手段を選ばない方ですから」ハナコ
誰もが、先生の潔白を疑わなかった。だが、それを証明する術は、今の彼女達には何一つない。無力さだけが、じわりと教室に広がっていく。それぞれの脳裏に、いつも笑いかけてくれた隆一の顔が浮かんでは消えていった。
「ど、どうしよう……先生が捕まって、しかも試験まで無茶苦茶にされて……!」コハル
「………」ヒフミ
お先真っ暗な現状を前に、補習授業部の面々はただ、頭を抱える事しか出来なかった。窓の外の暗闇が、今の彼女達の心情を、そのまま映し出しているかの様だった。
「私達、これから、どうすれば……」ヒフミ
その問いに、答えられる者は──誰一人としていなかった。頼るべき先生が居ない今、彼女達の前には、あまりにも大きな壁が立ちはだかっていた。