悪しきファイレクシア人が率いる機械兵団の進軍から半年後、多くのプレインズウォーカーは灯を失い、残っているのはわずかになった。その代わり、領界路と呼ばれる違う次元通しを繋ぐ道が多次元で多く確認された。次元を渡る存在であるプレインズウォーカーでなくても、違う次元に旅立つことができるようになったのだ。今でも僅かではあるが、灯が灯りプレインズウォーカーになるものもいる。
さて、龍の次元とも呼ばれる、ここタルキールにも灯が灯った者がいた。厳しい環境で半遊牧民的な生活を営むティムール氏族のこの青年は、物語りと呼ばれる、一種の口談の、とある話に興味があった。ティムールの、ひいてはタルキール外の世界から来た、プレインズウォーカーの物語りだった。元々冒険好きで外の世界へ行きたがっていた。先の機械兵団により、今のままではティムールが滅びる可能性を感じ、故郷を守る力と知識と知恵が必要と考えた彼は、氏族の女族長、エシュキに相談していた。
「言いたい事はわかる、アイツらは特に危険だったし、最近じゃ龍の嵐も頻繁だ。だが、ここに帰って来れなくなるかもしれんぞ?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、です。ですが、全て変えろとは言いません」
幼い頃から物怖じしない性格を知っている族長の女性、エシュキは、頭をかきながら
「わかってる、オレもスーラクとアルニウルと一緒に雨とばりの森の一件でそう思うだが・・・」
「精霊龍ですよね、裏切りと見られるかもと」
「そうだ、オレとしては裏切りでもなんでもないが許してくれるとは思え」
その時だった、外で大きな声が聞こえる。空を見ると、緑色の鱗を持つ山を思わせる巨大なドラゴンが現れた。
「ウレニ・・・」
「話は聞いた。ティムールのため、各次元を旅して知見を得るのだ。戦士カインよ、お主ならば召喚術を用いて我を召喚する事も許そう。ただし、困った時に呼ぶのだぞ」
思った以上に早く旅の許可を得た青年、カインは、旅支度を始めた。彼が最初に向かう先は、ファイレクシアに操られた罪悪感で一人で暮らすレオニンのプレインズウォーカー、隻眼のアジャニの家だった。最初は断られたものの、極寒のなか頭を下げたまま行う彼の粘り強い懇願に折れ、プレインズウォークの基本中の基本、そして多元宇宙のなんたるかを教えてくれた。そして、自らの過ちを赤裸々に話してくれた。
「私は、あの忌まわしい油に触れたとはいえ、仲間を売るような真似をしてしまった。カインよ、この先どこへ行くかわからないが、仲間を裏切るな。必ず、守り、共に戦うのだ」
「ありがとう、アジャニ。俺に灯の使い方を教えてくれただけじゃなくて、次元について、ひいては久遠の闇について教えてくれて」
数ヶ月ずつ、様々な次元を渡り歩き、力を着実につけていった。次元の中には、ならず者の集まった荒野の次元、うっかり入り込んでしまった悪意に満ちたデーモンが支配する次元など、決して安全ではない次元もあったが、そのおかげでカインは力の使い方を覚え、そして、親友とも呼べる仲間もできた。そして今日、何回目かわからないプレインズウォークをする。そこは、月が綺麗に見える夜の海岸だった。辺りを見渡すと、タルキールはおろか、ラヴニカよりも遥かに科学技術が発展しながらも、木々の多い山々とも共生していた、カインにとっても興味深い場所だった。最も、魔法の魔の字も無さそうな次元だったが。
「・・・少し風が冷たいが、ティムールのためだ、散策をするか」
すると、こちらに近づいてくる人影に気づく。月明かりに照らされたその人物は、大人の女性になりつつある、とても美しい少女だった。彼女との出会いが、カインの運命を大きく変えていくのであった。
『あぁ、俺が産まれてきて出会った最も美しい女性だ。これも運命だと言うのか』
人生で初めての一目惚れをした、カインであった。
ところ変わって、カインが訪れた場所とは違う次元、ホープキングダム。絵本の王国のような世界観で、似たような次元であるエルドレインとは違い城は一つだけあり、王族一般人問わず夢を持っていることも大きな違いがあった。しかし、国中で起きている奇妙な現象に、頭を悩ませていた。人が急に眠り、二度と起きないが操られたかのように襲いかかることもある、呪いのような現象だ。解決策を探そうと、あれやこれやと試したが、どれも徒労に終わった。国の王と妃も眠りに襲われ、彼らの子供達及び、彼らの従者しか動ける者がいなかった。
「恐ろしい呪いだ。ディスダークの時よりも、遥かに解決策がない。絶望の森に兆しがなかった。にもかかわらず、ほぼ全員に降り掛かる。初めてのことだ」
褐色肌の王子、カナタは焦りを覚えた。かつては妹を失い、さらには国の滅亡寸前にまで不幸の連続だった彼。違う世界に住む少女達と共に、妹と国を救ったものの、今度は国の内側から蝕む呪い。初めての事例だった。
「ですが、古い書庫に変わった本がありましたわ。グランドプリンセスと、プレインズウォーカーという、強大な力を持った魔術師がディスダークのような相手と対峙した記録ですわ」
兄王子と違い色白で、縦巻きロールの赤い髪を持つ姫、トワ。物心つく前に誘拐され、トワイライトと名乗り、異世界で悪事に加担していたが、異世界の少女達の活躍により元の優しい性格に戻り、ついに国を取り戻した苦労人である。
「魔法には色々あって五つのマナと呼ばれる力?難しいことばかりですわ」
「はるか達の世界とも違う世界か。この本には、ドミナリア?ラヴニカ?エルドレイン?タルキール?聞いたこともない世界があるようだね」
「王子、姫様。プレインズウォーカーは誰もがなれるわけではありませんわ。生まれつき灯と呼ばれる因子がなければ、どんなに努力されても意味がありません」
そう言ったのは二人より年上の女性。彼女はミス・シャムールと呼ばれ、王族はもちろん、従者達への教育も行う縁の下の力持ちと言える人物だ。
「でもプレインズウォーカーはもちろん、グランドプリンセスも揃っていないロマ」
「あと4人を呼ばないといけないパフ・・・」
紫色の鳥の姿をしているのはアロマ、少し桃色の毛色をしている犬がパフ。二人は従者見習いであり兄妹、本来は人間の姿をしているが、この姿を気に入っているため、鳥と犬の姿に変身しているが、決して、シェイプシフターではない。
カナタはある提案をする。
「実は考えがあるんだ。絶望の森近辺に青い門のようなものが見つかったんだ。もしかしたら、そこに飛び込めばグランドプリンセス達と会えるかもしれない。ここにいても事態が良くならないなら、全員ではるか達の世界へ行って、再起を図るべきだ」
彼の思い切った提案に驚くも、それしか方法がないならと決意を固めた。カナタを筆頭に、黒き荊と枯れ木しかない場所、絶望の森へ向かう。その途中、先程の青い門を見つける。門の先には自分達も知っている少女と場違いな格好をした大男が映っていた。
「行こう、国を救うための一時退却だ」
決心のついた5人は一斉に門を潜った。途端、門は消え最初からなかったかのような殺風景になった。
「・・・・・・領界路の門を潜り、別次元へ渡ったのか。賢い選択をしたな」
虚空から黒い霧を纏った、人間のように見えるが口から上が無い、まるで悪魔のような存在が現れる。
「だが、こちらも打つ手がないわけではない。悪夢からは逃れられない」
カナタ達がくる十数分前、プライベートビーチを散歩する少女がいた。名は海藤みなみ、地元で有名な資産家、海藤家の令嬢にしてトワと共にホープキングダムを救ったプリンセスプリキュアの一人である。そんな彼女はなぜ散歩しているのか、数日後には高校が始まり、最後の春休みを満喫するためである。
「あ、あなたは一体、誰なの?」
虚空から突如現れた男に驚き、何者か尋ねた。
「俺はカインと言います、脅かせてすみません。泥棒とかではないので」
「いえ、その、大丈夫よ、私もあなたみたいな人を知ってるから。申し遅れたわ、私は海藤みなみと言います」
「え、プレインズウォーカーがこの次元に来ているのですか?」
みなみはキョトンとした。
「プレインズウォーカー?聞いたことないわね、その言葉」
カインも首を傾げた。次元によって違うものの、プレインズウォーカーの認知度がゼロという次元は非常に少ない。この次元もまた、そのようなものだろうと納得することにした。
「そう、ですか。しかし貴女には強い魔力を感じます、もしや崇高なウィザードでしようか?」
「ここじゃ魔法使いって名乗ったら頭変って言われるわ。魔法は存在しないもの」
魔法はないが、代わりに科学技術が発達していることを知る。カインは改めてこの次元のことを知りたくなった。そして、複数の気配を感じる。振り向いた先に、青い門のようなものが見える。
「これは、領界路!?ここはコレがしょっちゅう現れるのです?」
「見たことないわ、でも誰かくるわ」
彼女の盾になるように前に出て腰に帯びた斧を抜き、構える。途端、5人ほどの人物がなだれ込んできた。あまりに勢いがあったのか、先頭の人物が他4人の下敷きになる形でころんでしまった。
「いてて・・・み、みんな無事か?」
「だ、大丈夫ですわ、ちょっと勢い余って・・・」
彼らが何者か分かったみなみは、カインに斧を収めるよう頼む。
「カイン、あの人達は私の友達よ。お願い」
「?先程は領界路を知らないと」
「その領界路は知らないけど、さっき言ってたあなたみたいな人って言うのが彼らなの」
納得して斧を収めた。
「なるほど、事情を話してください。俺も自分の事を教えましょう」
カインは簡単な自己紹介を終え、自分が何者であるかを教える。
「みなみにはもう教えたのですが、俺はこの次元の人間ではありません。タルキールという、ドラゴンが多く生息し、ここよりも遥かに自然環境の厳しい次元の出身です」
「まぁ、そうでしたの。この本の書いてあるとおりの次元なのですの?」
トワはカインに持参した本を渡す。ランタンに火を灯し、ページをめくる。
「うーむ、だいぶ古いですね。ドラゴンは既に支配者としてでなく、あくまで共に生き抜く者という存在です。野生のドラゴンを飼い慣らして戦力としても使う時がありますよ」
「危険ではないかな?」
「無論、失敗すれば命は無いですね」
「ぼくタルキール出身じゃなくてよかったロマ」
カナタはカインに質問する。
「ところでカイン殿、ひとつお尋ねしたいのだが、人が眠りにつき無意識に襲い掛かる魔法はないのかな?」
「俺が訪れた次元のひとつ、エルドレインに、忌まわしき眠りという強大な魔法があります。3人の魔女と妖精王の4人で発動し悪しきファイレクシア人に対処したと聴いています」
「忌まわしき、眠り」
「しかし、魔女達は死んだり改心したり、はたまたプレインズウォーカーに連れられて別次元へ逃げたりで、もう不可能のハズ」
これは無法者と荒野の次元、サンダージャンクションで出会ったハーフフェイの少年、ケランから聴いた話である。
「ところでカイン、君は何者だ?歳も変わらないと思うのだが、色々知識もあるし勇気もあるとみた」
彼の勇気ある質問に敬意を称して答える。
「俺はプレインズウォーカーだが、他の面子には伏せてほしい。この次元では魔法はないらしいから」
カインはみなみに懇願した。
「よろしければ彼らに拠点を提供してほしい。オレは野宿に慣れてる」
翌朝、海藤家の庭の片隅に張ったテントの向こう側から声が聞こえる。
「カイン君、海藤家当主の海藤つかさだ。ちょっと話がある」
垂幕を開けると、壮年のスーツを着こなした男がいた。
「つかさ様。俺に話とは?」
「私についてきてくれ、後で話すから」
言われるがままついていくと、地下室へ案内された。鍵を使ってドアを開けると、そこには老年の貴婦人と、他の次元で見たことのある品が棚に整頓された状態で置かれていた。
「これはいったい・・・」
「我々は長年、秘密裏に研究していたのだ。多元宇宙の存在についてね」
「海藤夫妻だけじゃないの。他にもたくさん、私達の仲間がいるわ。みんなあなたに興味あるの」
カインは思わず棒立ちになる。
「最近ね、増えてるの。青い三角形の異世界への扉が。何かご存知で?」
「俺が知っている範囲で良ければ、喜んで」
自分の故郷や他の次元で起きた大戦争、ファイレクシアとの戦いを語る。故郷を守るために槍と弓を用いて前線に立ち、ドラゴンにも跨って戦ったことも話した。
「ファイレクシア人は恐ろしい連中でした。機械の身体を持ち、身体から流れる油に触れたものはたちまち洗脳され、さっきまで味方だった者達が一瞬で寝返るのです。プレインズウォーカーもその限りではありません、不用意に触れて洗脳された者もいました。最高の親友が油に触れ、そいつに殺されかけた時、俺は知らない場所に飛びました。俺の中の灯が点火し、プレインズウォークしたのです」
出された緑茶を飲み、喉を潤す。
「幸いですが、この次元にファイレクシア人が侵攻してきていません。彼らとて全ての次元に赴いていないのでしょう」
「カイン君、あの青い門はなんだと思う?」
「我々がファイレクシア戦争に勝利後、多くのプレインズウォーカーが灯を失いました。そのかわり、青い門こと領界路が大量発生したのです。プレインズウォーカーでない者も、次元間移動ができるようになりました。最も、素早く移動しなければ無に帰りますがね」
「ふむ。何か注意点がありますかな?」
「もしも不自然な場所に木の扉があれば開けてはいけません、ダスクモーンと呼ばれる、恐ろしいデーモンの支配する次元に迷い込み、2度と帰ることが出来なくなります」
思い出したかのように貴婦人が話しかける。
「そうだカインさん。あなた、明後日からウチの高校に通わないかしら。タルキールにない文化を学べますよ?」
「コウコウと言うのは学校の一種ですか?通いたいのですが、学びに追いつけるかどうか・・・」
「心配ならみなみの使っていた教科書を借りてみたらどうかな?君なら大丈夫だろう」
「ありがとうございます、期待に応えてみせます」
その晩、カインはみなみの協力のもと、必要な事はほぼ全てマスターしたのだった。彼の飲み込みの早さ、記憶力、生存術の高さにみなみは今までにないトキメキを覚えたのだった。
カイン
知識欲と屈強な肉体を持つ、タルキール次元のティムール所属の戦士。ファイレクシアとの戦いの最中に灯が灯りプレインズウォーカーになる。
族長候補だったが、自分には重すぎると言って辞退した。
青・赤・緑の呪文を得意とする。