ノーブル学園中等部。用務員業務が板についてきた矢先、校門に見覚えのある少女が現れた。モデル業を磨くためにパリへ渡ったハズの少女、天の川きららだった。彼女もまた、用務員姿のカナタに驚いている。
「きらら、どうして」
「なんでカナタ王子がいるの?まさか・・・」
カナタは俯いたまま黙る。
「何があったのか言いなさいよ、トワっちもいるのよね、ねぇ!?」
騒ぎに気づいたはるかが校舎から出てきた。
「きららちゃん、おかえりなさい。カナタと何があったの?」
「カナタ王子がいるってことは、ホープキングダムで何かあったってことよね、そうでしょ?」
「あぁ。国が、眠りについた。比喩ではなく実際に」
はるかは第二生徒会長室へ二人を連れて行き、トワと、プリキュアのことを知る少女、七瀬ゆいを呼び、きららにホープキングダムの事と新種ゼツボーグの事を話した。アロマもパフもクロロも無事であることを話した。
「なるほどねぇ。はるはるもみなみんも驚くわけだ、実はね、パリでも似たようなことがあったの。ゼツボーグだけど、まるで機械のような見た目っていうか・・・」
「うーん。何か忘れてるような」
「はるかちゃん、カインさんのこと話した?」
「そうだった。とっても大きくてとっても強い人がみなみさんと同じ高等部で生徒会の手伝いしてるんだよ。えーっと、たしか・・・」
カナタが助け舟をだした。
「プレインズウォーカーという、違う次元世界から来た、プリキュアと同等かそれ以上の力を持った魔術師がこの世界に来たんだ。彼は紳士的で冷静な男だから、頼りになるよ」
「魔術師というよりも、まるで前線で戦う戦士ですわね」
忘れていると思うが、カインの本業はティムールの戦士である。
「プレインズウォーカー?」
カナタはきららにプレインズウォーカーについて、そして多元宇宙について話してくれた。ついでに、理事長とみなみ以外の海藤家の全員が多元宇宙研究会という秘密組織に所属しており、ミス・シャムールも正式にメンバーになったことも伝えた。
「なんか忙しいなぁ。魔法もいける、殴り合いもいける、果ては違う世界にいける。すごくない、カインって人」
「限られた存在らしいですわ。他にもいらっしゃると伺っていますわ」
「でもこれで、プリキュアもプレインズウォーカーも揃ったってことだよね。今からでもホープキングダムに攻め入ることができそうだよ」
カナタは横に首を振る。
「敵の正体がわからない以上、無闇に突撃してはダメだ。実はカインに頼んでホープキングダムを偵察してもらってる。なんでも、知り合いと捜査するらしい」
カインは知り合いにして、忌まわしき眠りのことを知るウィルとともにホープキングダムの調査を終え、彼をエルドレインへ還し、すぐに高等部へ帰還した。
「報告します。調査の結果、エルドレインの時と同じ、忌まわしき眠りであること。ナイトメアの姿が今までの奴らと似たような雰囲気であったことから、敵の正体がわかりました」
「誰なの?」
「悪夢を具現化するプレインズウォーカー、アショク。奴で決まりです。であれば、罠や伏兵がいると思って行動しましょう」
「プレインズウォーカーね。本当に灯に善悪関係無いのね」
「残念ながら。持っているかなんて、覚醒した時にしかわかりません」
寂しそうだが、彼の心は別の理由で震えていた。まだ見ぬ敵と戦える、いつものスゥルタイやジェスカイとは違う敵と戦える、そして強くなれる。そんなことを考えていた。
「カイン。水を差すようで悪いけど、今回は貴方だけの戦いじゃないわ。正直言うとね、貴方が傷ついて倒れる姿は見たくないの。今回の件は私達が対応するべきだった。でも貴方は積極的に動いてくれて、代わりに手を尽くしてくれた。それだけでも感謝しきれないのに、私は」
みなみの悲しい顔に、ハッと冷静に戻る。
「皆まだ言わないでください。俺も舞い上がっていました、大事な人をそっちのけに盛り上がるなんて、なんとはしたないことか。みなみ様、いえ、みなみ。実は二人で行きたいところがあるんです」
そういうと、懐から2枚のチケットを取り出した。
「アヴィシュカーと呼ばれる次元で次元間レースがあります。グランプリの一つ下のクラス、GPアスタパイアのですが、推しているチームがあるんです。一緒に観に行きませんか?」
「そんなものも多元宇宙にはあるのね。カイン、アショクを倒してから行くわ。私も貴方の見てきた世界を一緒に見たいから」
何やらいい空気になってきたところで、ドアのノックが聞こえた。
「シエル・ド・レーヴです。スイーツの出前に参りました」
注文していた洋菓子の出前が到着したため、どうぞと返事してドアを開けてあげると、そこにはカインより背丈は少し低いが、横幅は広い男性が立っていた。カインは彼を見て怪訝そうな顔をした。
「なぜアブザンがここにいる?菓子屋の出前になったのか?」
「ほぅ。ティムールの戦士がお勉強か?今度は女とイチャつくとは、なかなか隅に置けないな」
二人の間にある空気に戸惑うみなみ。
「知り合いなの?」
「奴はアブザンの戦士で、俺と同じプレインズウォーカーです。まさか出前持ってくるとは思わなかった」
「ここがタルキールだったら小競り合い確定だな。自己紹介まだだったな、オレはサイードと言うんだ。今後ともどうぞよろしく」
アブザンのサイード。元はアブザンの長、フェロザーの近衛兵だったが、ファイレクシア戦争時に灯が灯ったことにより旅をするよう、全族党会議で決められたプレインズウォーカー。カインとほぼ同時期にプレインズウォーカーになり、いがみ合いながらも互いの強さを認めている、いわゆるライバル関係でもあった。
「っで、今はお菓子屋で働いていると?」
「あの子の作ったスイーツ、なかなか心に響くよ。俺も食って救われたからな」
オカモチからペガサスを模ったデザインのパフェを二つ取り出す。
「しかし驚いたな、姉弟フェアリーが人間に変身して社会に馴染むどころか有名な菓子職人か。おかげで太っちゃったぜ」
みなみが反応する。
「どうして知ってるの!?秘密のはずよ!?」
「おかわりが欲しくてドアを開けたとき、変身した瞬間を見たんだ。オレは気にしないし秘密にしとくって伝えたら、大人しくなったよ」
カインは彼が嘘はついてないとわかった。しかし、すぐに秘密を話すのはマズイとも思ったが、あえて言及しなかった。
「用事が終わったら帰れ。代金はもらったろ」
「冷たい奴だな、そんなところが勘違いされるところだぞ」
「 うるさい焼くぞ」
「・・・お前たちも、問題を抱えているようだな。しかも激しい戦いになりそうだ。お嬢さんもシエルと似たようなものだろ、大きいものを抱えてる。困ったらカインに頼りな、すごく強いから」
「あなたはどこまで・・・」
「勘違いするな、好敵手の絶不調を見たくないだけだ。カイン、今度戦うときはオレが勝つからな」
サイードはノーブル学園をあとにすると、誰もいないことを確認して、一度タルキールへプレインズウォークした。アブザン最大の都市、アラシンにいるフェロザーに謁見し、自分が出会った不思議な少女戦士、プリキュアについて報告する。
「10代の少女がアーティファクトで特殊な衣装に身に纏って変身し、謎のスピリットやナイトメアを相手に肉弾戦や呪文で戦うのか・・・少し心配になりますが、領界路が安定してアラシンに来てくれたら、ちょっとした安息を贈りたいですね、サイード?」
「彼女達も喜ぶと思います。それよりも、ティムールのカインもプリキュアと接触し、友好関係を築いています。いかがしますか?」
「わざわざ小競り合いする必要もないですから、友好的に振る舞いましょう。それに、サイードの注目しているシエルってフェアリーにも興味が湧きました。あなたもそちらで大変なのですよね?」
「まぁそうですね、早く帰ってシエル達を心配させてはいけませんから」
「正直なっても良いんですよ。本当はあなたがシエルのことを心配してるのですよね?」
意地の悪い質問にバツの悪い顔をする。
「家族が出来たような気がしたんですよ、あの子とオレ、すごく共通点がありますし」
「早く良い話を聞けるといいですね。さぁ行きなさい、もう言うことはありませんから」
一礼してサイードが去ったことを確認すると、静かに呟いた。
「サイードも、もっと素直になっても良いんですがね」
再びノーブル学園。放課後、生徒会長室でみなみにある呪文の使い方を教えていた。青の十八番である打ち消し呪文のひとつ、『否認』の使い方についてである。
「否認の打ち消しは、召喚術以外の呪文に対して発動できます。例えば、赤のダメージ呪文や黒の生命を奪う呪文などを空振りさせることができます。ですが、打ち消し呪文もまた、打ち消し呪文によって無効化されますので、ここぞと言う時に使ってください」
「なかなか難しい呪文。青が知性を重んじる色だとわかる呪文よね」
「打ち消した呪文が囮で、実は本命がって事も多いです。読み合いになりますが、実戦では素早く判断しなければなりませんから、経験も必要です」
彼女の飲み込みは早かった。コツを教えると、カインの放つ魔法を防ぎ切ってみせたり、相手や乗り物に触れずに弾く魔法、『跳ね弾き』を会得してみせる。これならと安心するが、カインはあることに気がついた。彼女は青のマナを取り出す際に追加で緑のマナも精製していたのである。
「なるほど。みなみ、次は緑呪文の『蛇皮のヴェール』を教えますね」
手本を見せ、それを真似するように発動した。今度は緑のマナを取り出す際に、青のマナを精製したのだ。
「蛇皮のヴェールは強化と同時に相手の呪文から守る、呪禁を一時的に付与する呪文です。味方が危ない時に助けになりますよ」
一時休憩し、淹れたての紅茶をゆっくり飲む。
「いろいろな呪文があるのね・・・ところで、呪禁以外にもキーワードがあるのかしら?」
「ありますよ。例えば、使った呪文より多くのマナやライフを使わないと打ち消してしまう護法、特定の色の呪文は一切効かないプロテクションなど、たくさんありますね」
カインは気配を感じ、窓の外を見る。窓を開けた途端、下から服らしきものが彼を襲うが、動きを見破り回避した後、一瞬で掴み、隠し持っていた短刀で服を壁に刺し停めた。
「殺気を隠しきれていないぞ。テメェアショクの手先か?」
「ぐっ、アイツを見失って探してたらお前の姿を見たんだ。クロロはどこだ、教えろ!」
「クロロ・・・彼なら無事だ、海藤家で執事見習いとして訓練中だ。だが、貴様は何者だ。ただのアーティファクトではあるまい」
「俺はロック。そのわからないことばっかり言いやがって、アショクって誰だよ?」
「しらばっくれやがって、貴様を消し炭にする呪文ならいつでも撃てるぞ」
赤呪文『削剥』を放とうとしたその時、みなみが制止する。
「待って、ロックの話を聞きましょう。彼はもう無害のはずよ」
「・・・わかりました」
服のアーティファクト・クリーチャーこと、ロックの話を聞くことにした。なんでも、顔のない悪魔が現れて住民が眠ろうとした時、偶然にも逃げるクロロを見つけて追いかけた結果、領界路に入ってこの次元に来たそうだ。カインは半信半疑ながらも解放することにした。
「コイツは何が得意で?」
「洗脳よ。ロックはクロロに被さって悪さをしてきたの」
「やはりコイツを削った方がいいのでは?」
「待て待て待て!もうやってないしクロロとも仲直りしたよ!アンタと力の差がありすぎるから、許して!」
「にわかに信じられないな。今なら久遠の闇に放り込んで消すって方法もあるが、どうしようか?」
「何それ、めちゃくちゃ怖い!?アンタ何者だよ!?」
「答える義理はない。だが、あの子に会わせてやらん訳でもない。条件は裏切らないこと、そして、人様に迷惑をかけないこと。約束しろ」
ロックは震えながら了承した。そして理解した、プリキュアだけなら説得できる可能性があるが、目の前の大男がいる限りは不可能であることを。
後日、海藤家に行き、アロマ達年少組の様子を見に行った。実は時間がある時に少ないマナで唱えられる呪文を教えている。青呪文の『下支え』を練習として、ロックを使って洗脳される前に身を守る実戦トレーニングをしてみた。3人とも筋が良く、覆い被さるタイミングで呪文を唱えられていた。
「うぅ・・・前よりも強い」
「そう言って、隠し玉があるだろ?俺が見抜けないとでも」
「あるけど、出した瞬間に斧で叩き割られるよ」
「まぁ呪文でも倒せるけどな」
彼がまだ本気を出していないとわかるものの、それでも敵わないと思うと歯痒く感じる。かつて敵対していたプリキュアではないカインだからこそ、恥をかかずに人探しを頼めるかもしれない。
「実はさ、もう一人相方みたいな奴がいるんだ。シャットって言うんだ」
「お前みたいなアーティファクトなのか?」
「うーん、人間に似た生き物だよ。ナルシストだけど、今までずっといたんだ。よかったら、探してくれる?なんでか知らないけど、軽口叩ける相手がいないと張り合いなくって」
「人探しが多いな。まっ、頭の片隅に入れておくよ」
ローアン、シャット。違うタイプの人物を探すよう言われたカインは、少しため息をつく。
「どうしてこうも、頼られるのやら」
夢ヶ浜にある春屋と言う和菓子店にて、久しぶりに帰ってきたはるかは実家の手伝いをしていた。特に問題はなかったが、ある客が来て空気が変わる。そう、敵として現れたログが来店して名物のどら焼きを買いに来たのだ。
「ほぅ、君は・・・ふむ」
「な、なんですか、興味ある顔をして」
「なるほど。今回はアショクの負けだな、君達は時としてプレインズウォーカーに匹敵する力を発揮する」
姿形が目の前で変わる。西部劇に出てきそうなテンガロンハットを被った白髪の老人に姿を変えた。
「私の本当の名はラザーヴ。ディミーア家のギルドマスターだった男だ。訳あって各地を周って放浪している。私は君達とはもう対峙しない」
「へ?」
「近いうちにラヴニカ側から友好関係を結びに来るだろう。領界路を渡ってな」
意味深な事を言ってその場を立ち去った。はるかは気持ち悪い感覚を覚えてみなみにメッセージを送った。
次回、アイツが出る