ホープキングダムの玉座に座る、金髪の長い髪を縦に巻いた男。彼の名はシャット、元ディスダーク三銃士の一人であった。放浪の身であったが、アショクの誘いに乗り、忌まわしき眠り事件を招く一因になった。しかし、後悔していた。誰も眼を覚まさないどころか、元同僚すらいなくなり、本当の孤独を現在進行形で味わっていた。
「アショクめ、トワイライト様を呼び戻すと言っていつになったら」
「呼んだかな?」
虚空から現れて思わず驚いてしまう。
「時間がかかる。そう言ったはずだが?」
「音もなく出てくるな!ただでさえ無音なのに、気味悪い!」
「この城も久しく見ないうちに綺麗になったが、宿敵はいない」
「は?何言ってんだ?」
アショクがまるで一度来たことあるような口振りでこの国のことを喋った。もしもトワイライトが戻ってきたらこのように喋るのだろうか。
「なんでもない。仕事してくる」
表情を変えずに霧散した。
「クローズほどではないかもだが、できるって事を証明してやる」
その頃、生徒会室でカインは地図を広げて考えていた。侵攻できる箇所がひとつだけなので、攻撃するだけなら考える必要性は皆無なのだが、彼は犠牲を減らして勝ちに行きたいのだ。そう考えていると、ドアのノックが聞こえる。
「・・・はい、どうぞ」
「失礼します」
はるかだった。かなり困惑していた様子であった。
「どうなさいました?」
「みなみさんには話したのですが、この件はカインさんの方がわかるかもって言われて」
「それは、聞きなれない単語が出てきたのです?」
先日のラザーヴの事を話した。カインは否定せず静かに耳を傾ける。
「なるほど。あのディミーア家のギルドマスターがねぇ。確かに彼なら正体不明で騙し通せるな。しかし、ラヴニカのニヴ・ミゼットがホープキングダムと国交を交わしたいか」
「ニヴ・・・ミゼット?」
「ラヴニカは多元宇宙の次元の一つで、その代表がニヴ・ミゼット。彼は巨大なドラゴンです」
「ど、ドラゴン!?」
「まぁ本人が出るわけないから、代表立てて派遣するだろう。あまりにデカすぎる」
ラヴニカ訪問時に一度だけ謁見したことがある。言葉のひとつひとつは決して威圧的ではないが、どこかいたずらっ子な一面が見え隠れした、凄まじい知恵と知識を持つドラゴンだ。もし、他の次元と交流するための使者を選べるなら、ニヴが信用するイゼット団のラル・ザレックを遣わすと予想した。
「そうだはるかさん、一度変身してみてください。なに、誰も来ませんから」
「?はい、わかりました」
カインの前でキュアフローラに変身する。この時、彼の眼差しは真剣そのものだった。
「・・・変身後に疲労感はありますか?」
「?まぁゼツボーグ相手の後とかは疲れますが」
「ふむ。一度、全員分の変身を見たいのですがね(これはマズイな。変身時に必要分の方のマナをほぼ消費していない、生命力を削って発動している。今後のため、マナの使い方を教えた方がいいだろう。幸い、この次元の土地は豊かで扱い方を身につければ負担を限りなくゼロにできる)」
「あ、あのぅ、何か悪いことしました?」
「プリキュア全員を呼べますか?カナタにも話がある」
はるかにプリキュアメンバーとカナタを呼んでもらった。数十分後、呼ばれた全員が生徒会室に集まった。
「わざわざ来てもらって申し訳ないですが・・・カナタ、変身を解除した時のトワ姫の様子を教えてくれ」
「何って、いつもよりも寝つきがいいしか、わからない」
何かに気がついたきららが声を上げる。
「わたしもだけど、身体が少し重いんだよね。カインさん、だっけ?どうしてそんなこと聞くの?」
「・・・結論を言うと、プリキュア達は変身時に身体に備わった生命力を消費しています。それは一戦一戦寿命を削り、夢を叶える前に亡くなる可能性が高くなります。今度のアショクとの戦いで、戦いの最中に突然死なんてことが無いように、マナの使い方を俺が指導します。パフュームについて調べたところ、必要なマナ総量を変身時に消費すれば、皆様の生命力を使わないで同じ効果を発揮できると思います」
「ねぇ聞きたいのだけどいいかしら?何年後に身体に響くか、わかる?」
「10年は元気でしょうが、その先は分かりかねます。プリンセスパフュームは確か、先代から継がれていくものだったはず。カナタ、前のプリンセス達は何歳に亡くなったかわかるか?」
「それが、わからないんだ。正式な資料が一切無い。カインがいなければ意識していなかったよ」
納得したカインは元の話に戻す。
「幸い皆様方はコツさえ教えれば今までのポテンシャル以上のものを発揮できそうです。ほぼ全ての呪文はマナを消費せずに使えない、逆に言えばマナを使いこなせばプリキュア変身時や戦闘時に起こる身体の負担を限りなく軽減できます。以前、マナとは何かを教えたはずなので急ピッチで仕込みます」
この物語には書かれていないが、キララと直接会った際に彼女のプリンセスパフュームを持ってみたことがある。不思議なことに、対応するマナの組み合わせが4つともバラバラだったこと、マナの総量は一緒だったことに気がついた。
『みなみ様は青と緑のマナを使って、トワ様は赤のマナ、きらら様は青と赤、そして・・・』
はるかを見ると、緑のマナをだけを使って変身の練習をしていた。彼女のパフュームのみ、少し特殊なマナ配分であった。
『はるか様は緑と白の混成マナか、一人だけ混成マナとは珍しい。彼女はエンチャント呪文に対してのメタファーなのかもしれない。だがしかし・・・』
カナタはカインに問いかける。
「まだ生命力を消費していると、言いたそうだな?」
「あぁ。魔法に馴染みが無いのもあるが、それは4人とも同じ。問題ははるか様は真面目に考えすぎる一面がある。全力なのはわかるものの、あまり気を張りすぎると倒れる原因になる」
カインは心配していた、はるかがあまりにも不器用であるのだ。マナを取り出すまではいいが、そのマナをパフュームに入れず、間違えてアロマに向かって解呪を唱えたり、もしくはマナが足りなかったりで、なかなか覚えが悪い。
「はるかさん落ち着いて。マナは逃げませんし、時間と土地がある限り出ますから」
「うぅ〜マナってすぐ消えるって言うから急いじゃうんです。もう少し時間があれば良いのに・・・」
「俺も最初に呪文唱える時もそうでした。紅蓮地獄が不発になって、ゴブリンどもに倒されかけたりもしました。そこで、間合いを意識して唱えるようにしたのです」
「間合いを?」
「呪文の中にはすぐに効果が出るものと、少し遅めに出るものがあります。紅蓮地獄は後者なので、相手と離れている時に使い、アロマ達に教えた下支えは前者なので、間合いを詰められていてもいけます。パフュームに捧げるマナはどうでしょうか?」
理解するのに時間がかかるはるかに代わり、きららが答えた。
「相手が攻撃してこないうちに変身するから、少し遅めよね。何で攻撃しないのかわからないけど」
「変身時に周りの時間だけが止まっているからでしょう。俺目線だと、素早く変身できていますから」
この作品はメタ要素などは割愛しているが、多元宇宙的考察だと思って読んでいただきたい。
「さて、はるかさん。だいぶ脱線しましたが、参考になりましたか?」
「焦らないでマナをパフュームに入れれば良いんですね」
「その通りです。今後変身時に参考にしていただければ」
数時間後、はるかはマナをほぼ完璧に使いこなせるようになった。海藤家のプライベートビーチに集合し、静かに領界路の門が開くのを待った。
「領界路の門は、開いて数秒のものから、数時間開くものがあります。今回のものは十数秒ほどでしたので、全員が駆け込んでも間に合います。そろそろです、行きますよ」
領界路の門が開いたことを確認すると、一斉に駆け出し、ホープキングダムへ向かった。降り立った場所は、枯れ木がたくさん生えた森の中。そこは、かつて魔女が住んでいたという、絶望の森と呼ばれる場所だった。
「絶望の森からスタートか。全くの偶然だ、ここからスタートだったからね」
「カナタ。油断するなよ、奴は手強い」
斧を握りしめ、絶望の森から市街地を目指す。そこから門をくぐり城内へ進むつもりであった。何故、カインは隠密に潜入ではなく、正面から突破するのか。こちらの人数が多く、パフやクロロといった幼い面子がいるため、下手に隠密には動けないためだ。
「襲ってこないな。前と違う」
城門前に着くと、自然と門が開く。そこには主人の帰還を喜ぶ兵士ではなく、兵士を模ったナイトメア、ゼツボーグの群が待ち構えていた。
「プリキュア達、すぐに変身しろ。薙ぎ倒しながら王座へ向かう!」
先陣を切ったのはカインだった。相手の攻撃を捌きながら必殺の一撃を叩き込む姿はまるで、物語に登場する豪傑そのものであった。呆気に取られそうになったカナタも、ロッドを手にゼツボーグに応戦する。
「前のわたしとは違うぞ、受けてみろ」
人間よりも一回り大きいゼツボーグに、赤の攻撃魔法、『稲妻の一撃』を放った。耐え切れずに霧散する様子を見て、修行の成果を実感する。
「プリキュア達、雑魚は我々に任せて先に行け!アショクから、ホープキングダムを取り戻すんだ!」
「僕達もすぐに駆けつけるロマ、だから大丈夫!」
「みんな・・・。行こう、希望を届けに」
プリキュア達は違和感を感じていた。城門以外にゼツボーグと遭遇していないことに。4人は緊張感を持ちながら、玉座の間の扉を開いた。そこには、玉座に座り、白目をむいたまま狂ったように大声で笑うシャットの姿があった。
「何これ、本当にあのシャット?壊れてない?」
きららこと、キュアトゥインクルが思ったことを口にした。
「もしかして、悪夢を見てるのかしら?私も、オバケが夢に出たらこうなってたってカインが言ってたの」
「!?何か来ますわ!」
漆黒の闇から黒い霧を纏う、上半分顔の無い悪魔が現れた。かつて戦った、パワーアップしたクローズよりも遥かに上回る重圧が支配し、シャットの声が一切聞こえなくなった。
「黙って従っていれば、こうはならなかったのに。全くの出来損ないだったな」
悪魔は、そう思わないかと言わんばかりにプリキュア達に顔を向ける。
「まぁそうだろう。アレは、私の作品が作った存在だ。あと一つも独立したアーティファクトになった。意思のない悪夢が作った、模倣品に過ぎない」
「どういうこと?クローズも、ロックも、シャットも、ディスピアも、あなたが作ったって言うの!?」
「ディスピアは確かに私が作った存在だ。だが、他は違う。まぁ、それよりもこの退屈な次元に、私はあるものを作ったのだ、この次元中に住む人々の心の闇を元にね」
トワは最悪の答えが頭によぎる。
「まさか、絶望の森って・・・」
もしも、アショクに表情というものがあれば、満面の笑みで答えたであろう。
「えぇ。私の最高傑作のひとつだ、絶望も悪夢の一種。このアショクの得意分野だ」
青と黒のマナを大量に消費して、4人の影を作り出した。プリキュアに似せた、力量も全く一緒の影。
「どうするかね、まさか悪夢にそのまま飲まれるとは言うまいな。そうそう、ドアには護法を掛けておいた、そう簡単には破れまい」
逃げ場のないなか、プリンセスプリキュアの、絶望的な戦いが始まる。
緑単上陸はシンプルに強い