磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが   作:トルへパ

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初投稿です


#1 プロローグ

 

 「あれ、今日俺が一番乗り?」

 

 寝坊したため慌てて着替えて高専の寮から教室の扉を開けると、唯一の同級生である伏黒恵はおらず、そういえば今日は仙台の方に呪物回収に行くといっていたことを思い出し、とりあえず自習でもするかと席に着く。しばらくすると教室の出入口から声がかかる。

 

 「おはようございます。五条(・・)準二級術師、早速で申し訳ありませんが任務です」

 

声のした方を向くと、伊地知さんが相変わらず20代には見えない疲れた顔で立っていた。この顔を見るたびに補助監督も楽ではないのだろうと思ってしまう。

 

「おはようございます伊地知さん。あと、名字で呼ぶのはやめてくださいよ、ややこしいので。名前の蒼夜でお願いします。今回の任務はどこですか?」

 

 「そうですね。気を付けます。今回の任務ですが────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「あああああぅぅぅぅ」」」」

 

場所は東京某所の廃ビル。もともとは商業ビルだったらしいが不況で入っていたところがそっくり移転してしまい、そんなだから新たに入ってくることもなくそのまま放置され、今では肝試しに使われている──────そんな割とどこでも聞くようないきさつを持った建物だった。

俺が建物の中に入ったのを確認して伊地知さんが帳を下ろす。建物の中では人の言葉ともつかない不気味な声が響いていた。四級程度の呪霊がそこかしこに沸いている。建物自体は放置されてから長いのか荒れているが、その割に崩れているところは見受けられなかった。

 

「今んとこは普通の廃墟だな」

 

 伊地知さんの報告によれば、この廃ビルでは1カ月ほど前から男女10人ほどが行方不明となっており、ビル内を捜索したところ4階に3級相当の呪霊が確認されたため、3級術師を3名ほど派遣したが連絡が途絶えた。今回の任務はそこにいると思われる行方不明者と術師の捜索と救出となる。

 

 階段を上るのも面倒だとダメ元でエレベーターのボタンを押してみるが、当然動くことはない。仕方ないので足を引きづりながら階段で4階まで上がる。襲われるかと思っていたが、攻撃されることはなく、上に行くほど呪霊の数自体が少なくなっていることに違和感を覚えながらも、目的地に着く。

 

4階には呪霊は見当たらず、行方不明者も術師もいなければ、食べ物といった人がいた痕跡すら見当たらなかった。ただし

ただの廃ビルにはあるはずもない、直径3mほどの黒い球体が異様な気配を漂わせている。呪霊が少なかったのは、恐らくこの先にいる呪霊が廃ビルの主であり、追いやられたためだろう。

帳の方を見ると、どうやらただの帳ではないようだった。そもそも呪霊が帳を張るなんてことはないはずだから、だとすればこれは。

 

 「これまさか生得領域か?だとしたら絶対3級じゃない。俺の手に余る急いで戻らな──────

 

生得領域を持つ呪霊など並大抵ではない。もっと強い術師を要請すべきだ。そう判断し慌てて離れようとしたとき、結界から手が伸び、体を鷲掴みにされ

 

 「オマエモハタラケェ!!!!!」

 

そのまま結界に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

「クソッ、出られねぇ」

 

 抵抗むなしく相手の領域に引きづりこまれた。結界を破ろうと思っても外殻がない。どうやら内と外で広さが違う…これなら人がいなかったのも納得である。

 

周りを見渡すと廃墟であるにもかかわらずデスクが並んでおり、行方不明者たちがうつろにパソコンを操作していた。顔にはクマができており何日もこの状態であることがうかがえる。中には倒れており意識のないものも見られ、あまり猶予がないことは明らかだった。

(これは…仕事させられてんのか?不味いな、あれ相手にこの人数を守りながら脱出は無理だ。そもそも動ける状態じゃなさそうだし)

 

俺が来たことに気づいていないのか、その余裕すらないのか、ただパソコンをカタカタと打っている。どう考えても彼らは正気を失っている。ふつうこんな状況だったら逃げようとするなりおびえているなりといった風になると思うが、何にも反応していないことを考えると、このまま逃げたところで意味はないだろう。出口も把握していない。

 

さらによく観察すれば、デスクに向かっている人間からは一般人にもかかわらず目に見えるほどの呪力が確認でき、その呪力はフロアの奥に鎮座している2mほどの巨体の小太りな人型をした呪霊に集まっている。特徴的なのはアンバランスに肥大化した、俺を捕まえるときも使っていた腕。そして人型であるにもかかわらずあらゆる箇所にある口である。聞き耳を立ててみれば暴言らしきことを叫んでいる。

 

(この状況から考えると呪霊はさしづめ上司ってことか。迷い込んだやつに仕事させて呪力を集めてる?恐らくは建物に入った人に作用する洗脳…術式か。窓の人が情報を持って帰れたってことは呪いに耐性があればかからないか、他に条件があるか…どちらにせよ祓わないと脱出も困難か。)

 

どうするべきかと思考に集中していると、奥にいた呪霊が巨大な腕を振り上げる。咄嗟に全身を呪力で強化する。

 

「オマエモォ…ハタラケェ!!」

 

そう叫びながら殴り掛かる拳は、触れることはない。呪霊はさらに力を籠めるものの、まるで()()()()()()()()()届かない。

 

「当たらねえよ」

 

そのまま呪霊を人のいない方へ全力で殴り飛ばすと、壁を何枚か突き破って止まった。苛立ちとともに困惑している呪霊にに対し、種明かしをしてやる。

 

「俺の術式はな、自分の呪力に相手の呪力と反発するっていう性質を付与するんだ。お前ら呪霊は呪力の塊だろ。だから攻撃は弾かれる。逆にこっちが殴る時は反発を利用して遠くまで吹き飛ばせるってわけだ。」

 

 術式の開示を聞くこともなく呪霊がたちあがる。激高した様子で、先程は様子見していたのか速度も威力も上がったパンチを受ける。勢いと合わさって反発力を上回ったそれは体に届き、吹き飛ばされ頭から血を流す俺を見て先程のお返しとばかりに醜悪な笑みを浮かべている。

 さらに追撃に来る呪霊に反撃するが悉く躱される。いびつな巨体に対し動きが俊敏なため腕で防御することしかできずダメージが増していく。強く殴れば攻撃が通るのに気付いたためか、ひたすら高速で動いている。そのうえ足を集中的に狙われ、よろけたところに背後から殴られ床に叩きつけられる。

 

(やっぱり報告にあった3級の強さじゃない!なんでこんな強いんだよ!こっちはあんまり近接線得意じゃないってのに。それにこいつ俺が体の動き鈍いことにも気づいてやがる。スピードで翻弄してそのまま殺すつもりか。なら────)

 

すぐに立ち上がると、呪霊は距離をとっていた。どうやら息切れしているらしい。集めた呪力があるとはいえ、アンバランスな巨体で動くのは消耗するのだろう。こちらも息を整える。武器になるものはないが、準備は整った。呪霊はもう防ぐ気力もないと踏んだのか、真正面から向かってくる。それを─────

 

シン・陰流簡易領域  抜刀!!

 

手刀で迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

蒼夜は幼少期の事故により脳にダメージを受け身体、特に足について麻痺のハンデを抱えている。そのため体術は不得手であり、戦い方は必然的に遠距離かカウンター主体となる。幸いにも結界術の素養が高かったため、シン・陰流を見るだけで真似て習得していた。

 

「オラァ!!」

 

「ギャアァァァ!!」

 

呪力で強化した手刀で放った抜刀により片腕を肩から切断され呪霊が悲鳴を上げる。

 

「オレニサカラウナァ!!」

 

激昂した呪霊がデスクの方を向く、視線の先には無理やり働かされている人たちがいる。

(ッ!人質にする気か!)

そうはさせるかと食い止めようとするものの、深手を負っても尚相手の方が早く人質として意識を失っている一人を持ち上げ力を籠める。このままでは潰されてしまう。

(あれじゃこっちの攻撃より先に殺される。しくったな)

こちらが躊躇して動けずにいると

 

『コイツヲ助ケタケレバ契約シロ』

 

複数の口からそんな場違いな言葉を発する呪霊。

(呪霊が流暢にしゃべった?そして契約?)

呪霊は驚くコチラを無視してそのまま続ける。

 

『契約ヲ結ベバコイツハ助ケテヤル、逆ラエバココニイル全員殺ス』

 

そういわれては抵抗できない。呪術において契約、縛りは重要な意味を持つ。それがわからない蒼夜ではないが、この状況では飲まざるを得ない。

 

「・・・内容は」

 

『ココニイル間()()()使()()()。ソノ代ワリコイツハ殺サナイシ、ナンナラコイツラモ解放シヨウ』

 

「・・・いいぜ、その条件飲んでやる」

 

『契約成立ダ』

 

 そう呪霊がつぶやくと同時、呪霊へ流れていた呪力が止まり、デスクにいた人たちが次々と倒れていく。限界を超えて動かされていたため疲労で倒れたのだろう。そして彼ら一人一人の体から一枚の紙が現れ、自分もいつの間にか紙を持っていることに気づく。

(契約書か。大方今みたいに脅して強制されたんだろう。契約として双方の合意を得たうえで行動を強制する術式ってことか。契約書が出るのも効果を成立させるための縛りの一環か?)

呪霊は勝ち誇ったように嗤う

 

『コレデオ前ハ術式ヲ使エナイ。見タトコロ足モ悪イヨウダシココデ死ヌマデ呪力ヲモラッテクレルワ。術師ハ呪力ガ集メヤスイ。ダガマズハ、抵抗デキヌヨウ半殺シニシテヤル!!』

 

 呪霊の術式は蒼夜の推察通り相手に特定の行動を強制させるものである。術式効果を強固なものにするため、双方の合意があること、契約前に口頭で内容を確認すること、契約内容を目に見える形で用意する縛りが術式そのもの組み込まれている。集めた人間から殺さない代わりに呪力を提供することで契約を結んでおり、非術師は労働を強制することで呪力を捻出させ集めていた。また、この状態が2週間以上経過すると契約書に取り込まれ、契約以外の行動がとれなくなる。そして文言の追加が可能となり、命令が増え続けるため実質的に傀儡と化す。

 

呪霊は術式が使えなくなり、先ほどの攻撃で動けない蒼夜にゆっくりと近づき腕を振りかぶり───────

 

 呪霊の誤算は二つ。一つはかなりダメージを受けていたとは言えまだ余力が残っていることを見抜けなかったこと。そして2つ目は

 

振るわれた拳は反発によってあらぬ方向に逸れ当たらなかった。

 

『ッ!術式ハ使エヌハズダ!』

 

「ああ、術式(・・)は、な」

 

これは術式ではなく、()()()()だと気づけなかったことだ。

 

失策に気づき動揺している胴体に、全力の一撃を叩き込む。自身よりも強い強敵、命のかかった緊張感が彼の集中力を引き上げ放たれた一撃に、呪力は黒く光る。

 

黒閃

 

「ふぅ、呪術師はブラフ混ぜてこそだろ。つーか俺術式持ってないし」

 

昔に五条先生に術式持ってないのかって聞いたら、使えないもののこと考えてもしょうがないよ。まぁ僕は術式も六眼もあるけどと言われ殴ったことを思い出した。殴れなかったが。

 

「にしても随分しゃべる呪霊だったな…そういや人質はどうなった」

 

人質が危険な状態だったことを思い出し、確認しようとあたりを見渡すと、呪霊が消失した後に何かが落ちていることに気づく。

 

「なんだこれ?人の…指?」

 

2018年6月某日  呪いの王の受肉による呪い合いの火蓋が切られようとしていた。

 





五条 蒼夜(16)

・身長 172cm
・呪力特性 磁力
・得意分野 結界術
・使用武器 弓
事故で脳にダメージを負っており、足に麻痺があるため体術は苦手。だが異常なほどの腕力から、弓での狙撃を得意とする。今回は建物内であったため持ち込まなかった。
とある事情から10年ほど前に五条家に養子に取られている
本人は何があったか覚えていない
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