磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが 作:トルへパ
土御門家に呼ばれて一夜明け、俺はなぜかお狐様と戦うことになってしまった。正直とても嫌な予感がするので戦いたくない。だってお狐様って話を聞く限り少なくとも400年は生きていることになる(人間じゃなさそうだけど)。
勝てる気がしない。それとなく断って帰ろうとしたが普通に無理だった。
「遠慮するな、悪いようにはせんよ。せっかく式神も作ったんじゃろう?試していけ」
「…そういうことなら」
昨日夕飯をいただいた後、燈陽に教えてもらいながら簡易的な式神を作った。紙で手のひらサイズのを作ったので大量に持ち運べて便利だろうと思ったからだ。まあ試運転の必要はあるだろうと思っていたからちょうどいいか。自分より強い相手にどこまでやれるか試してやる。
俺が了承すると燈陽とともに神社の奥の森に連れられ、稽古場のようなものが見えてきた。だいぶ寂れているが結構な広さがあり、20人くらい入っても余裕がありそうなのを見ると、昔はこれでちょうどいいくらい栄えていたのだろうか。
中に入り位置につく。燈陽が審判を務めるらしい。
「それでは、始めッ!」
合図とともにお狐様が距離を詰め鳩尾に政権付きを放ってきた。咄嗟にガードした腕が痺れている。どんな威力してんだ。こっも攻勢に出るが最低限の動きで避けられる。
「ほれほれ、そんな生ぬるい攻撃では当たらんぞ?」
「チッ!」
巫女服のような恰好にもかかわらず、格闘戦もいけるらしくこっちが攻める隙がない。五条先生と組手した時もそうだったが、やっぱりまだ慣れない。体が動かせるようになってから数か月、早く動けるようになって相手の動きも目で追えるようになったものの、防ぐのがせいぜいだ。多少努力した所では差はそうそう埋まらない。スタートがみんなと違うのだから当然といえばそうなのだが。本気ならこれに呪力強化と術式が乗ってくるんだから最強は次元が違う。攻撃をどうにか捌きながらそんなことを考えていると
「よそ見とは感心せんのぉ」
「やべ」
捌ききれなかった拳が頬をかすめる。無理に避けたせいでバランスを崩したところにお狐様が口の前に手を添え火を吹きかけてきた。狐火ってことか。化けるだけじゃないのね。
崩れた勢いそのままにバク転することで距離をとる。腕は焼けて熱いが反転で治せるからいい。
「思ったより動けるではないか」
「てっきり遠距離型かと思ってましたよ」
「強い術師ほど肉弾戦が強いものじゃ。術式が近距離向きならもちろん、遠距離なら隙がなくなる。式神使いなら術師本人が戦えた方が強い。領域展開などによって術式が使えない状況でも、そのままやられるようでは話にならん」
「それは確かに」
実際強い術師を思い返してみると説得力しかない。五条先生に蓮奈、七海さん、冥冥さん、日下部さん。あとは…東堂とか。俺が知っている中で一級以上の人たちは体術が(も)強い。宿儺に関しても、少年院の時は体術だけで特級呪霊を圧倒していた。術式は確かに重要だが、それに頼っていてはその域には届かないのだ。
俺がうんうんと頷いていると
「おぬしの場合術式はないそうじゃからその呪力で戦うしかあるまい。呪力の扱いはうまいから後はそれを動きに組み込む練習じゃな。三次元的動きというやつじゃ。ほれほれ、どんどん行くぞ」
「押忍」
それから数時間ほど、式神をポインターにした移動と体術を組み合わせた戦い方を練習した。最初は式神のコントロールに意識が行きすぎ殴り飛ばされ、移動に慣れて飛び移れるようになってきたら今度は式神を燃やされて落ちてきたところをアッパーされ、刀で攻撃する余裕が出てきたころには普通に躱されて吹き飛ばされた。殴られすぎじゃねえかな。
「そろそろ最後にするかの。ほれ、かかって来い」
「ふう…」
集中し、勝つ方法を模索する。今出せる速度では上からだろうが見切られる。となれば奇襲しかない。ここに遮蔽物はないから式神で壁を作るしかないが、全方位を覆えるほどの量はない。となると…あれ使ってみるか。燈陽の方を見ると頷きを返してくれた。
「それじゃ、いきますよ!」
お狐様に向けて駆ける。攻撃はやはりいなされてしまう。正拳突きの構えをとったと認識したと同時、正の呪力を背中に込め、後ろに漂わせておいた式神に引き寄せられる形で距離をとる。すんでのところで躱したが息つく間もなく火を吹きかけ飲み込まれそうになる。今度は上にある式神で自身を引っ張り上げる。同時に相手から俺が見えないよう壁として式神を展開する。
「上に逃げたのはいいが式神ごと燃えるだけじゃ」
お狐様は火を圧縮し俺めがけて吹きかける。しかし
(式神が燃えていない!どういうことじゃ?)
俺が展開した紙の式神は燃えることなくそれどころか火の勢いを減衰させていた。これが燈陽の術式か。磁力を流すだけで術者本人じゃなくてもここまで効果あるとは、凄いな。
お狐様がカラクリに気づく。
(そうか、燈陽の術式を式神に刻んでおったか!水の気を込めることで凌いだ。だが)
「所詮は紙じゃ、そう長くはもたんぞ」
火の勢いが増す。さすがに耐えきれず、紙が黒ずみ始めた。このままでは焼かれて終わりだろう。ここまでは想定通り。
(ここからだ)
火を遮ったことで生まれた影から刀を取り出す。そして式神を壁ではなくお狐様のところまで筒状に展開する。隙間があっていい、届いてさえいれば問題ない。当然身体が焼けるが、数秒喰らったところで死にはしない。空中で居合の構えをとり、式神を足場に呪力を反発させ加速する。
(一回の加速で足りないなら、もっと加速すればいい!)
式神に近づくために正の呪力をまとい引き寄せられることで加速し、通常の呪力をまとい反発することでも加速。これを直線距離にして10mのうちに繰り返す。こうした加速方法はリニアモーターカーと似たような方法である。そうして先程よりも格段に速くなった状態で、さらに鞘の中で2つの呪力により加速させた抜刀の一撃は
「・・・見事」
回避は間に合わないと判断し防御した右腕を切り裂いた。
そろそろ夕方になろうかという頃、陽明さんと燈陽、お狐様の三人が見送りに来てくれた。
あの後腕を切ってしまい冷や汗が止まらなかったのだが、お狐様の腕はすぐ再生していた。反転ではなかったようだからやはり呪霊に近い存在なのだろうか。それとなく聞いてみようとしたがはぐらかされたので聞かれたくないのだろう。気にするどころか、今のはよかったとほめられてしまった。
「お世話になりました」
「また来るといい。こちらでも兄のことについて何かわかったら伝えさせてもらう」
そういうと陽明さんは何かが包まれた風呂敷をこちらに差し出してきた。これは?
「兄の着物だ。形見として君が持っているのがいいだろうと思ってな。今の君だと少し大きいかもしれないが…まあすぐに合うようになるだろう。兄も私もちょうど今の君ぐらいの年に一気に伸びた。」
そんなやり取りを横にお狐様がスマホを取り出して何か探している。燈陽が横からサポートしている。スマホにしてみたはいいけど使えなくて孫に教えてもらってる図だなこれ。画面とにらみ合うことしばし。
「ほれ、陽坊と夜坊の写真じゃ」
写真を見ると着物を着た二人が仲良く映っている。20代くらいだろうか。こうして見ると燈陽に陽明さんの面影がある。そして父の方はというと…180後半くらいはありそうなんだが…そう思ったのが顔に出ていたのか写真を燈陽が横からスマホの画面をスクロールしていく。
「で、こっちが高校生ぐらいの時のお父さんたち」
「いや伸びすぎだろ」
写真には160後半ぐらいの二人が写っている。こっから20㎝も伸びんの?もはや怖えよ。
「納得してもらえたかな?」
上から見下ろされる形で声が掛けられる。今の陽明さんは190くらいあるんだから納得するしかない。ていうかあそこからまだ伸びたの?
「私の術式は占いなどもできるのだが、その結果君に出た結果は成長痛に注意、だ。間違いなく背は伸びるぞ」
喜んでいいのか怯えればいいのかわかんないな。そんな顔をしていると
「あとは…炎に注意とも出ているな。火の元には気をつけなさい。そして…」
「長いぞ陽坊。そのくらいにせい。蒼夜、これからも頑張るんじゃぞ」
「はい、ありがとうございました」
「蒼夜くん、またね」
俺は燈陽に手を振ることで返し、もう一度頭ぞ下げ礼を言って帰路についた。
蒼夜が返ってその日の夜。
稽古場には狐の姿があった。
「さて、のぞき見している虫に出てきてもらうかの」