磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが 作:トルへパ
傑が呪詛師になって2年が経った。アイツがいなくなってから、いくら考えてもあの日どうすればよかったのかの答えは出ない。呪術師だけの世界を作る。そのために生きると去っていく背中に、何も言えず、止めることもできなかった。ただ分かったのは自分だけ強くても意味がないこと。だから、強い奴らを育てたいと思った。強く、お互いに支えあっていける仲間を。
そう考えて最初に思い当たったのは、天内を殺した禪院家の男の遺言だった。アイツのガキを探して見つけ出して保護することにした。アイツとそっくりすぎてちょったアレだったな。
次に考えたのは、五条家の中から強い者を探すことだった。五条家は俺みたいな六眼と無下限呪術の抱き合わせ以外はあまり重視していないが、呪術師は才能が強さのほとんどを占める。そして才能というのは多くの場合血筋によって遺伝する。五条家は腐っても御三家だ。俺には届かなくとも、しっかりと鍛えれば強くなる余地のある術師はいるはずだ。
そう思ってすぐ本家に戻った。事前に伝えることなく戻ったからか騒がしい。最初は急に俺が戻ってきたからだと思った。でもそれにしては様子がおかしかった。まるで見られてはいけないものを必死に隠そうとするような。
「悟様、お待ちください!この先は…」
「どけ、邪魔だ」
女中たちを押しのけて奥の方の部屋へ進む。部屋に近づくほど聞こえる声が大きくなる。
「早く来い!悟様に見つかってはならん」
「いや、離して!」
ふすまを開けた先にいたのは、五条家の中で幹部格に属する男(名前は覚えていない)と、そいつに腕をつかまれている白髪の子供だった。年齢は見たところ小学生ぐらいだろう。でも、俺はこんなガキ見た覚えはない。この容姿なら一度見かけたら記憶に残っているはずだ。とりあえず間に入って男を問いただす。
「おい!何してんだ。…コイツは誰だ?なんで俺から隠そうとした?」
「さ、悟様!?これは、その…そう、分家の方の子供なのです。次期当主がおられるのでひっこませようと」
「別にそんなの大した問題じゃねぇだろ。なんで分家のガキをそこまで必死に隠すんだ」
俺に隠さなきゃならない存在で、俺と同じ白い髪。後ろの少女が驚いた顔でこちらを見ている中、なんとなく察しがつきつつも言葉を続ける。
「この子、誰の子どもだ」
「……」
しばらく無言のにらみ合いが続いた後、諦めたのか男が答えを告げた。
「その娘…その方は蓮奈様。現当主の隠し子。あなた様の妹にございます」
蓮奈は俺が生まれてから父がどこかでこさえた子供らしい。恐らくは女中のだれかではないかとは思うが、そこはどうでもよかった。ほとんど顔を見た覚えもないし。
なぜ今まで隠されていたのか理由を聞けば、彼女の持つ術式は雷電呪術であり遠い祖先である菅原道真と同じ術式。五条家の中には少なからず六眼がなければ使い物にならない無下限呪術よりも、雷電呪術の方を重視する者もおり、存在が露呈すれば面倒なことになるからと隠していたとのことだった。
「それは親父の指示か」
「いえ、私の判断です。あなた様が当主となられるのはもはや疑う余地もない。ですが雷電呪術などというものが表に出てくれば必ずや衝突を生む。私はそれを事前に」
「わかったもういい」
俺は男の話を打ち切って蓮奈の方を見る。やり取りを黙ってみていたが、何か言いたそうに見えた。
「あなたが、私のお兄さん?」
「そうらしいな」
実際そう答えるほかない。こちらからすれば、いきなり妹がいるといわれたんだから。向こうは俺のことを知っていたみたいだけど。
「オマエ、これからどうしたい」
「?」
「この家で過ごしたいのか。それとも母親を探すか?少なくとも今までみたいに隠れて生きる必要はないようにする。そのうえで、どうしたい?」
この子がどうしたいのか、それをちゃんと聞いたうえでないと助けてあげられない。救われる気がなきゃ助けになれない。だから、返答は意外なものだった。
「どこの誰かもわからない母様なんてどうでもいい。強くなりたい。気に入らないやつぶっ飛ばせるくらい」
「・・・ハハッ、いいじゃん!なら僕に任せなさい!」
それからは早かった。親父に蓮奈を正式に認知するよう了承させて、雷電呪術にごちゃごちゃいう連中を黙らせて、五条家の当主になってといろいろ忙しかった。そのついでに素質があるやつも探したが、どれも蓮奈には及ばなかった。呪力操作もロクに使ったことがなかったという術式も、少し教えたら1週間後に顔を出した時にはかなりものにしていた。昔の自分を見ているようで、少し懐かしくなった。あの時はただ強くなるのが楽しく、試せば試すほどできることが増えていった。でも、少しずつ相手になるやつが減っていった。そこらのやつじゃ相手にならなくなって退屈だった。だから高専に行って少しでも強い奴を探そうと思った。そこで見つけた親友にも、置いて行かれてしまった。果たしてこの子は、自分と並び立ってくれるような親友に、出会うことができるのだろうか。それとも、一人になってしまうのだろうか。
そんな時に、あの人はやってきた。
蒼夜を引き取ってほしい。開口一番、あの人はそう言った。私の研究に付き合わせれば危ない目に合わせてしまう。この子が安全に過ごすには、ここが一番だ、とも。うちは託児所じゃねぇよ。やっと蓮奈のことが落ち着いたところに面倒ごとを持ち込まないでくれよ。
「うちじゃなくていいでしょ。他をあたってくださいよ」
「私の息子だよ?どう考えても出自がバレたら面倒なことになる。他のところも考えたがここが一番マシだ。断るようなら殴り飛ばすよ、五条君。」
「脅さないでくださいよ」
この人ならやりかねないのが怖いんだよな。でも、今のうちに子供を預かる余裕は…
そう断りを入れようとして、子どもを見て言葉が止まった。
「その子ども…」
6歳ほどだろうか。そのガキは足を引きづって歩いていた。だがそんなことよりも
「蒼夜というんだ。私のミスで呪霊に襲われてしまってね。後遺症で足が少し…事故のショックか父親のことも覚えていない」
「違う。そいつの呪力と
すると向こうが驚いた表情の後、何か考える素振りを見せる。
「なに?いったいどんな」
「特殊な術式ですね。細かいところまではしっかり見ないとわからないけど、これなら
「だが、術式の自覚は遅くとも6歳までだ、この子はもう6歳。なんとなくでもわからないとおかしいじゃないか」
「術式によっては本人が自覚できないタイプもありますよ。たぶんこのままだとアンタの事も忘れる。そこが一番問題だ」
「それ本当なのか!?じゃあ定期的に会いに来ても」
「あんまり意味ないです。あなたに関しての記憶が消えて穴だらけになりますよ」
一方的に預かれって言ったくせに、顔出す気でいるのかよ。本当に託児所と勘違いしてるんじゃないのか。
「アンタ海外ぶらついてるだけでしょ?そんなに嫌ならそれやめれば危ない目に合うことはないでしょ。この子の術式はすぐにに記憶がなくなるっていうタイプじゃないですから、それまで一緒に過ごすっていうのも手ですよ。僕はお勧めしませんけど」
「だめだ。私はこの研究をやめるわけにはいかない。私としても苦渋の決断だよ、この子をちゃんと育てたいさ。でも、ここまでの怪我をさせてしまった以上、無理に引き連れるわけにはいかないだろ」
そんなにいやそーな顔するなら研究中断するなりすりゃいいのに。…まぁこいつ鍛えがいありそうだし、引き取ってやってもいいか。強い仲間は多く育てたいからね。
「なら最低でもアンタについていけるぐらい強くしないとだめだな。記憶に関しても、縛りなりで工夫すればどうにかなるかもだ」
「やけに乗り気じゃないか。さっきは渋っていたのに」
「そいつ呪力も面白いし、僕が鍛えてあげますよ。あなたと一緒に居れるように」
僕のように、一人になることがないように。
「あとはお前次第だ。どうする、■■■蒼夜君?」
個人的に五条家って割と才能あるけど発掘されない人とかいるんじゃないかと思ってます。