磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが   作:トルへパ

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#3 呪胎戴天

 

「うっ、ぐああ…」

足に激痛が走る、口からは呻き声が洩れ、気合を入れて何とか立ち上がろうとするが力が入らない。いや、そもそも。

 

痛むはずの足も、力を入れようとしている足も、()()()()()()()()()()()()()

あるのはただ、足があったところに開いた2つの大きな穴からドバドバと流れ出る血の光景だけだ。普段思い通りに動かせず、不便にしか思っていなかったが、そんなんでもこうして失ってみると寂しく思うらしい。10年近く向き合ってきたが、こんな風に物理的にお別れすることになるとは予想していなかったな。

 

こんな風に現実逃避して思考している間にも、出血多量によって意識が朦朧としてくる。止血をしようと試みるが、もうこれではやったところで無駄だと諦めた。こんなことなら反転術式が使えればよかったなと思う。五条先生いわく、マイナスである呪力を掛け合わせプラスにする。原理を説明されてできるならこんな貴重な技術になっていない。片や、家入さんの説明はひゅーっとやってひょい。こっちは感覚で最早説明にすらなっていない。まあ、俺の場合は呪力同士が反発するという特性上、かけ合わせるイメージができなかったというのもあるのだが。

 

こんな状況で考えるのは、3人がうまく逃げれたかどうかだった。大して時間稼ぎできず食い止めることもできなかった。こんなところで終われない。まだ死ねない。このまま────────母にも会えずに。

そんな後悔の中、蒼夜の意識は深く沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3時間ほど前、受刑者在院者第二宿舎にて受胎が確認されました」

 

伊地知さんから任務の説明を受ける。今回は緊急で、4人での任務になる。

 

「呪胎が変態を遂げるタイプの場合、特級に相当すると思われます。」

 

 (((特級…!!)))

 

特級という言葉に3人が命の危険を感じる中、虎杖が間の抜けた質問をする。

 

「俺、特級とかいまいちよくわかんねんだけど」

 

釘崎が呆れた表情をする中、伊地知さんがわかりやすく説明し、伏黒と俺が補足する。

 

「任務ってのは呪霊と同等級の術師が当たる。今回みたいのは本来五条先生の担当だ。特級だからな」

 

「ただあの人は多忙で来られない。ちなみに俺は準2級、伏黒は2級」

 

説明を終えると伊地知さんが絶対に戦わないことを念押ししてくる。言われずとも戦闘になったら勝ち目はないだろうから気をつけるしかない。そんな話をしていると

 

「正は、息子は大丈夫なんでしょうか」

 

あれは…受刑者の母親だろうか。…母親、か

 

「………」

 

母親の涙する様子に虎杖は覚悟を決めたようだ。

 

「伏黒、釘崎、蒼夜、助けるぞ」

 

「……」「当然」「…ああ」

 

 

 

 

闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え

 

伊地知さんによって帳が下ろされ、少年院に足を踏み入れる。伏黒が玉犬(白)を出しいざ突入といったところで

 

 (何だ、景色が変わった…生得領域か!あの時(廃ビル)とは規模が段違いだな)

入ってきた扉もなくなってしまい、二人(虎杖と釘崎)が慌てるが玉犬が道がわかると聞くとわしゃわしゃとなで始めた。コイツラ意外と余裕あるな?

 

奥に進むと、おそらく人であったろう丸まったナニカ2つと、かろうじて人型を保っていた死体があった。名札を見ると『岡崎 正』とあり、恐らくは先ほどの母親の息子だろう。俺が3人に黙とうしていると、それに気づいた虎杖が遺体を持ち帰るという。それを聞いた伏黒が、そんな余裕はない、助けた人間が罪を犯したらどうすると揉める。釘崎と俺が仲裁に入ろうとして

 

「お前ら一旦落ち着けよ」  「いい加減にしろ!!時と場所を考え──────」

 

釘崎が沈んでいた。

 

「釘崎!」

 

あたりを見渡すと玉犬がやられている。咄嗟に虎杖を釘崎の方に突き飛ばす。姿は見えないがここにやべえのがいる!釘崎が一人で分断されるのはまずい!虎杖は結構動けるから釘崎と一緒ならある程度はどうにかなるはずだ。ここに居られても守れない、今はどうにか伏黒と逃げる方法を────────

高速の思考の中

ふと前を見ると、呪霊が、目の前に、

 

「蒼夜!」

 

気づいた時には壁に叩きつけられていた。沈んでいる最中の虎杖が叫んでいる。伏黒は動けずにいる。

呪霊は嗤っている。どうやら手も足も出ないのを見て楽しんでいるらしい。

 

(反応できなかった…二人がかりでも死ぬ気しかしない。となれば最善は)

 

「伏黒、二人を探せ!俺が食い止める」

 

「馬鹿言ってんじゃねえ!どうにかして二人で離脱す───」

 

伏黒には式神がいる。二人を見つけるには俺は必要ない。

 

「この状況じゃ俺は足手纏いになる。それにお前がやられたら全員死ぬ」

 

「……ッ」

 

伏黒が拳を握り締め奥歯を噛みしめる。伏黒がやられれば出入口はおろか虎杖と釘崎の救出もできなくなる。あいつもそれがわかっているのだろう。

 

「死ぬなよ…鵺!」

 

伏黒が鵺で離脱する。呪霊はそれを追撃せずにただ眺めている。逃げれないと思ってなめているのだろう。そのうちにここら一帯に帳を下ろす。帳には外からは自由に侵入できる代わりに、内側の人間は出れないように設定する。これで少しは時間が稼げるはずだ。痛む体に鞭を打ち立ち上がる。

 

「これで二人きりだな。かかって来いよ」

 

呪霊はおもちゃを見つけた子供のように歓声を上げる。こんなところで死んでやる気はない。

 

「イイイィィィッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虎杖、釘崎、無事か!」

 

「「伏黒!!」」

 

伏黒が玉犬(黒)で虎杖と釘崎を探し出し、扉を開けると複数の呪霊に囲まれ追い詰められていた。しかし外傷はあまり見受けられず、うまく立ち回っていたようだ。すぐに蝦蟇で二人を回収する。

 

「カエル苦手なんスけど…」

 

「うわっ、飲み込まれた!」

 

「時間がない。すぐに脱出するぞ!」

 

虎杖は蒼夜がいないことに気づく。

 

「待てよ、蒼夜はどこにいんだよ?先に脱出したのか?」

 

「……」

 

伏黒が言葉に詰まる。

 

「おい、答えろよ伏黒!」

 

「あいつは……俺たちを逃がすために、一人で特級を足止めしてる。たぶん、もう」

 

そこで言葉は途切れ、伏黒が下を向く。

 

「…だったら、俺が助けに行く」

 

それを聞いた伏黒が虎杖に掴みかかる。

 

「ふざけんな!俺たちを逃がすためにアイツは残ったんだぞッ!俺たちにできるのは一刻も早くここを出ること────」

 

「宿儺に代わる」

 

「!」

 

「二人が脱出したら合図してくれ、そしたら俺が宿儺に代わって奴を倒す」

 

「じゃあ、釘崎頼んだ」

 

「おい待て、」

 

伏黒の反論を待つことなく、虎杖は伏黒の制止を振り切り走り出した。

 

『オマエは強いから人を助けろ』

 

祖父の言葉が頭の中で何度も繰り返される。ここで助けに行かなかったら、俺は一生後悔する。助けに行けるのに行かないなんて、俺には選べない。

 

(待ってろよ、蒼夜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

隙だらけの特級に攻撃を入れようと接近する。しかしその前に呪力の放出によって吹き飛ばされ、無防備な体めがけて弾丸のように圧縮された呪力弾が飛んでくる。自身の呪力の反発によって軽減されているにもかかわらず、かすったわき腹からは血が出ている。ど真ん中に食らえば貫通するだろうことは想像に難くない。

 

(近づけずにちょっとずつ削られてる。このままじゃジリ貧だ。)

 

相手の方はというとこちらを歯牙にもかけず、ケタケタと嗤っている。こちらをまるで脅威と思っていない。

それなら好都合と、足を中心に全身を呪力で強化し、地面と壁にも呪力を流す。特級は何をしているのかと疑問に思ったのか首をかしげている。片足を上げ、その状態から地面を思いっきり踏み背中を壁に押し付ける。すると、

 

「!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

突然の超スピードに動揺している呪霊の頭に、加速の勢いが乗った蹴りを入れる。

死と隣り合わせの緊張感が、呪力の精密なコントロールと合わさって、黒き女神の微笑みを見る。

呪力と打撃の誤差0.000001秒。空間は歪み、呪力は黒く光る。その現象を───────

 

黒閃

 

呪霊が声にならない声を上げる。足での攻撃だが今のは相当効いたらしい、顔が半分ほど欠けている。顔を抑えながらもだえる特級の胴体にアッパーで追撃する。黒閃によって呪力出力が上がったためか、特級は殴られた勢いのまま天井に叩きつけられそのまま落下してくる。怒り狂いながら起き上がった八の体にはところどころ穴が開いている。パイプか何かでも刺さったか。しかしそれもすぐ再生してしまう。血走った目でこちらをにらみつけながら、無数のの呪力弾を発射してくる。しかし弾は先程とは違い届くことなく横に逸れてしまう。呪力出力が上がった────だけではない。

 

「結構いいの入れてやったからなぁ、知ってるか?磁石ってのは置いてあると近くの金属も磁力を帯びるんだ」

 

ニッケルやコバルトといった強磁性金属に磁石を近づけると一時的に磁石となる性質を持つ。同じように蒼夜の呪力による攻撃を受けるほど、個人差はあれど同じような性質を持ってしまう。お互いに同じ性質を持っているため、より磁石のように同じ極同士では近づけなくなる。

 

(これで呪力弾は脅威じゃなくなった!強化してれば接近戦のダメージ時も軽減できるはずだ。後はコイツをどうにかして行動不能にする!)

 

そのままシン・陰流簡易領域による抜刀で足に攻撃を入れようとし─────

 

「キェェェェッ!!!」

 

「ッ!しまっ」

 

ゼロ距離で放たれた呪力放出によって体勢を崩され、右足を根元から捥がれそのまま地面に叩きつけ、先ほどのお返しとばかりにがら空きの胴体を蹴飛ばされ壁に激突する。

 

「ごふっ」

 

内臓が傷ついたのか吐血する。奴は怒り心頭といった様子で、人が丸々隠れられそうなサイズのコンクリの塊を思い切りこちらに向けて投げつける。呪力のないものは防げず、グチャッと嫌な音がした。左足が潰された。

 

「ぐああああッ!!!」

 

あまりの痛みに叫ぶ。そのまま特級は再び蹴りをお見舞いし、俺の体は壁を貫通し、自分で下ろした帳にぶつかって落ちた。帳は維持できず解除されてしまい、俺が死んだと判断したのか、特級はそのまま去っていった。伏黒たちを追うのだろう。俺は何とか動こうとするが、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

虎杖は先程特級がいた場所を探して走っていた。領域内の構造は入り組んでおり、闇雲に探してもたどり着くのは困難だった。

 

(クソッ、どこなんだ。無事でいてくれ、蒼夜)

 

そうして虎杖が走っていると、特級が反対側からやってくるのが見えた。

 

(アイツは!まずい、ガード)

 

しかしガードは意味をなさず、左手首が持っていた呪具ごと切り飛ばされる。そのまま虎杖の首をつかみ、遠くまで投げ飛ばす。虎杖の体はは瓦礫の上に不時着した。

 

(こんなに手も出ないのか…チクショウ)

 

追撃に少しでも対応するため、体を起こす虎杖の視界に移ったのは

両足を失って倒れている蒼夜の変わり果てた姿だった。

 

「おい、嘘だろ…蒼夜!起きてくれ!なぁ」

 

虎杖の悲壮な叫びも届いた様子もなくうなだれていると、特級が戻ってくる。虎杖の様子を見て、イタズラが成功したかのような笑みを見せる。

 

「何嗤ってんだ、テメエッ!!!」

 

怒りに震える虎杖が殴ろうとするが、呪力のバリアに弾かれ、逆に殴られてしまう。そのまま指が削られていき壁に叩きつけられる。死への恐怖、祖父の遺言、自分の弱さへの失望、すべてを乗せた一撃も、片手で止められてしまう。その時

 

アオーーォォン

 

鳴き声が響き渡る。それは脱出の合図だった。

 

「つくづく、忌々しい小僧だ」

 

 

 

 

 

玉犬の鳴き声で目を覚ます。視界が霞む中あたりを見渡すと、特級と虎杖が戦っていた。虎杖が呪霊を圧倒している。あれでは戦いというよりは蹂躙だが。

 

(あれは…虎杖じゃなくて宿儺か!何でここにいる?)

 

「我々は共に特級という等級に分類されているらしい。俺と、(オマエ)虫がだぞ」

 

宿儺が呪霊に語り掛ける。ボロ負けしたやつを全盛期には程遠いにも関わらずこうも簡単にあしらう姿に驚愕する。これが呪いの王なのか。

宿儺がさらに続ける。

 

「オマエもこの小僧も、そこの死に損ないも呪いの何たるかをまるで分っていないな。いい機会だ。教えてやる」

 

そういうと宿儺が両手で掌印を結び

 

「本物の呪術というものを」

 

領域展開 伏魔御厨子

 

(嘘だろ!?外殻がない領域なんて、そんなことがあり得るのか)

宿儺の神業に、結界術に自信がある蒼夜の常識が崩れ去る。そうして細かく観察している間に、特級はまるでチーズのように切り裂かれていた。宿儺がその中から指を回収する。あいつ指を持ってたのか。急に受胎が発生した原因はそれか。

 

「おい、そこの死に損ない」

 

「!?」

 

宿儺が目の前に立っていた。宿儺は俺に手を伸ばすと、頭を鷲掴みにし持ち上げられる。何かを流し込まれる感覚がある。

 

(なんだ?家入さんに直してもらうときみたいな…)

 

俺が困惑していると、宿儺が退屈そうな顔で言う。

 

「これが反転術式だ。お前の呪力は反発し合うのだろう?とすればほかの方法があるはずだ。術式に限らず呪力も、デメリットが発生する場合は大抵それを補うため代替手段があるか、あらかじめ備わっているものだ」

そういうと宿儺が手を放し蹴りを入れる。意識が飛びそうになる。

 

「どうした?手本まで見せてやったのだぞ。俺を愉しませろ、できなければ殺す」

 

「ぐはっ」

 

攻撃を受ける中必死に方法を模索する。このままでは助からない。

(呪力の、代替手段…あらかじめ備わっている…呪力を、()()()()()?)

電磁石のSとNは、電流の向きによって切り替えることができるらしい。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないだろうか。そう思い立ち、意識を呪力に向け、残った呪力を絞り出す。すると

 

(体が再生していく!これが反転術式)

 

黒閃による潜在能力の開放もあり、蒼夜の目論見は成功する。上手くいったことに高揚し、残った呪力を足を中心に全身に回す。

 

宿儺はその様子を見て、及第点だな、とこぼす。

 

(かなり大規模な反転術式だがその割に消費が少ない。こいつの呪力量が多いのもあるが…出力がそこまで高くないな。なるほど、呪力がそのまま正の呪力に切り替わっているのか。かけ合わせていない分出力は元来より落ちるが、それはつまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。面白い)

 

宿儺が何やらこっちを見ているが、冷や汗を流しながらここからどうするかと思考を巡らせる。

(何とか体は再生できそうだが、もう呪力が底を尽く。そんな状態じゃ逃げるなんてできるはずがない。どうすればいい)

 

そうして睨み合っていると、地響きが起こる。生得領域が主を失って閉じ始めたようだ。

 

「ここまでか。小僧、代わるなら代われ」

 

宿儺が虎杖に呼びかけるが、代わる様子がない。すると宿儺が笑みを浮かべ

 

「どうやら俺を利用したツケだな。変わるのに手間取っているらしい」

 

そしてこっちに目線を向け

 

「であれば…あの式神使いと遊ぶとするか。急げよ?そのままでは助けるどころかここに取り残されるぞ?」

 

そういうと宿儺の姿が一瞬で消える。なんて移動速度だ。あれがただの呪力操作だっていうのか!?

さらに地響きが酷くなる。もう時間がない!

 

治ったとはいえ重たい体を無理やり動かす。全力で出口に向けて走る。出口までの道は途切れており、10mほど飛ぶ必要があった。普段であれば絶対に届かない距離だが、今はやるしかない。なけなしの呪力で足を強化して飛ぶ。なんとか出口に手が届き、脱出すると同時に領域が消える。

 

「あっぶねえ、ギリギリだった」

 

助かった安心感と疲労感で意識が朦朧とする。最後の力で伏黒はどこだと見渡した蒼夜の目には、

心臓の位置から血を流し倒れる虎杖と、ボロボロの状態で立ち尽くす伏黒の姿が映った。

俺の視界はそこで今度こそ完全に意識を失った。

 





呪力特性;磁力
呪力に対して反発する性質を持つ。

呪力を持つ者に対して攻撃を加えると、相手の呪力も性質が一時的に磁力に変化する。
(どの程度影響を受けるかは個人差あり。秤のように呪力特性を持っている場合、影響を受けにくい傾向にある。)

呪力のない物体や攻撃には影響がなく普通に当たる。

反転術式を通常の方法で習得するのは難しく、呪力を切り替えることで正の呪力を生み出す。切り替えているだけなので出力の差は発生しない。
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