磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが 作:トルへパ
「フッ!」
「わきが甘いよ」
「イタッ」
交流会からしばらく。俺は珍しく暇だという五条先生に稽古をつけてもらうことになった。正直あまり気乗りしなかったが、半ば強制的に連れてこられてしまった。蒼の瞬間移動を使われたらこちらに勝ち目はないのだが。
種目は単純な格闘戦、虎杖が戻ってきてからは時間がある時に特訓に付き合ってもらっているのである程度できるようになった自信はある。だんだん相手の動きを追うのにも慣れてきた。やっぱり速い動きができるようになると反射神経もよくなるらしい。今まではこんな風に思い通りに体が動くわけじゃなかったから新鮮だ。まあ虎杖には勝ててないが。
「考え事してる余裕があるの?実戦だったら死んでるよ」
拳が眼前に迫っていた。すんでのところで首を傾けて躱して頬にかするだけにとどめる。カウンターで殴ろうとするもいなされそのまま吹っ飛ぶ。この人こんだけ術式とか強くて格闘戦まで強いのは隙がなさすぎるだろ。
「ほらほらもっと頑張ってよ」
「チクショウやってやらぁ!!」
間髪入れずに距離を詰めて攻撃を続ける。足払いや蹴りも組み込みながらなんとか一撃を入れようとするものの、やっぱり入らない。実力差と地力の差はそう簡単には縮まらない。そうこうしている鬱に鳩尾にいい一撃をもらい意識が暗転した。
「だいぶ動けるようになったね」
「結局一撃も入らなかったが?」
「ただ治っただけじゃなく動きにレパートリーができてるのがいいの。僕に攻撃入れようなんて100年早い」
(動きの中に自然に足技を組み込めてるな、悠仁と特訓してるって聞いてるし、動きを参考にしてるんだろう。よく頑張ってるね。言ったら意識しすぎちゃうタイプだから言わないけど)
「だいたい術式使われたら攻撃あたんないじゃんか」
上手くいかなかったのが悔しいのかふてくされる蒼夜に五条は続ける。
「今まで以上に動けるようになってもしかしたらイケるんじゃないかと思ってたのかもしんないけど、そう簡単に経験の差は埋まらないよ。蒼夜はまだ始めたばっかなんだから、今は積み上げるしかないの。そういう油断で、死にかけることだってあるんだからね?」
何かを思い出し苦い顔をする五条を蒼夜が不思議に思っていると、そうだ、という風な顔をする五条先生。すると何か思いついたように
「あと、僕には絶対に攻撃が当たらないわけじゃない。知っての通り領域展開されれば攻撃は当たる。後は術式を無効化、妨害する効果を持つ呪具でも攻撃は通る。他には、
「領域…テンエン?」
「領域展延。領域にあえて術式を付与しないことで相手の術式を流し込ませて中和する技術だ。相手の術式のダメージを抑えるのにも使えるよ」
「空いた容量のところに相手の術式を流し込ませて中和する…なるほどなぁ。って、術式無い俺には使えねぇだろうが」
「……僕が言いたいのは、いろんな方法があるから諦めるのはまだ早いってコト。結界術は得意なんだから知っといて損はないでしょ」
「はぁ」
なんか伸びしろがあるのかと思ったのに、期待して損した。
「これは蓮奈が僕をどうにか殴るために資料を漁って見つけてきたんだけど…そういえば、交流会が終わった後、蓮奈とどっか行ってたみたいだけどどこいってたの?」
「ああ、あれは買い物だよ」
「買い物?」
「なかなか東京の方に来ることないから、いろいろ買って帰るのに付き合えって引っ張られたんだよ。なんでか俺の服も買ってたけど」
「蒼夜がそういうの無頓着だからでしょ?どうせ蓮奈は私服なのに制服で行ったんじゃないの?せっかくのデートなんだからオシャレしないと」
「デートって…」
すごい、正解、なぜわかるといった顔をする蒼夜に五条は呆れたため息をこぼすが、当の本人は全くピンと来ていないようである。人生に一度しかない青春だ。後悔なく過ごしてほしいものだ、などと思いながら、そろそろいい時間だろうと今日の訓練はここまでとお開きになった。
「脹相、君には別のお願いがあるんだ」
「なに?」
袈裟を着た頭に縫い目のある男が、ボードゲームをしていた弟2人がいなくなった後でそう切り出した。自分はここで待機だと思っていただけに、意外だった。
「君には五条蒼夜の相手をしてほしいんだ」
「誰だそいつは。なぜ俺がそんなことをしなければならん」
「調べたところ、彼は五条家に養子に取られていてね。あの家は六眼と無下限呪術さえあれば他はどうでもいいようなところだから少し気になって。少し探ったらどうやら400年くらい前に没落した土御門家の筋らしく─────」
「長い。端的に言え」
しびれを切らした脹相が話を遮る。これからだったのにと肩を落とす夏油は話をまとめる。
「まぁ要するに得体が知れないからどの程度か確かめてほしいんだ。計画に支障はないだろうけど、万が一ということもある…殺せるなら殺して構わないよ」
彼は偽の任務で○○に来ることになってるからと続けるのを最後まで聞かず、脹相が立ち上がり去っていくのを笑顔で見送る。そんな中、話しそびれた先程の続きについて考える。
(しかしなぜ彼を養子に取ったのか…彼の父親についてはわかったが母親についての情報は全く出てこなかった。上層部からの情報だと突出した強さではないようだけど。それにしても土御門家とは。あの
「一体何者なのかな?五条蒼夜」
「さて、このあたりか」
今回の任務はとある山で行方不明者が出ているとのことで俺にお鉢が回ってきた。虎杖たちは3人で別の任務とのことだった。本当なら一緒にそっちの任務に行きたかったが、人手不足の現状でそんな贅沢を言うわけにもいかない。まあいつか一緒に任務をする機会も来るだろう。
「それにしても、なんでこんな山に入るのかねぇ」
聞いた話によると、この山はかなりの急こう配で登山にも向かず、普段人が入るような観光地でもないというので、呪霊が生まれそうな土壌もなさそうであり、また操られているパターンだろうか。などと考えていると背後から声をかけられる。
「おい、お前が五条蒼夜だな?」
「…!誰だ!?」
そう振り返った瞬間、血がレーザーのような速度で迫っていた。咄嗟に躱して相手を見ると、顔の鼻のあたりに一本線がある男が両手を体の前で構えている男の姿があった。見覚えはない。俺の名前を知ってることからすると、俺への刺客ってことなんだろうが…
「アンタ…何者だ」
「答える義理はないな」
そのままもう一度血を発射してくる。血を使う術式ってことは赤血操術…でも加茂家には先輩しかこの術式持ちはいないはず。何者なんだ?
相手の正体を探っている間も相手の攻撃を躱すので精一杯だ。攻撃の手数が多すぎる、穿血での攻撃に加えて刈払いが高速回転して周囲の木を切断しながら迫る。喰らったら真っ二つにされておしまいだ。これだけの勢いじゃ呪力の反発で防げないし、かといってこのままではやられる…
「どうした、その程度か。来ないのなら死ぬだけだぞ」
再び男が血を圧縮する。この状況を打開するには、真正面から躱して接近戦に持ち込むしかない!穿血を最小限の動きで避ける、顔に少しかすったが関係ない。そのまま呪力で強化した拳を、両手を構えているせいでガラ空きの腹に叩き込む。咄嗟に呪力で強化したようだが、それは俺には逆効果だ。反発により相手の体はピンボールのように跳ね背後の木に叩きつけられる。
「…やってくれたな。だが」
意味深に言葉を区切った男の言動を怪しく思った直後、俺は吐血していた。
「おぇ…ごほっ」
何だ?大したダメージは食らってないはず…血に毒が混ざってたのか!厄介だ。反転術式での毒の治療なんて高度な芸当はまだできない。クソッ
「終わりだな」
そう言うと男がに血を圧縮していく。圧縮しているだけだというのに音が聞こえる。さっきまでは全然本気じゃなかったって言うのかよ…どうせやられるなら、せめて一撃入れてやる!
影から刀を取り出し、シン・陰流簡易領域を展開し、範囲を広げて相手の男を入れる。その直後
腹に穴が開くのも気にせず距離を詰め、極限まで呪力を込め反発した抜刀で相手の胴体を切る。かなり出血してる。これなら俺が殺されてもこいつも助からないだろう…そう思っていたところに
「ぐあっ!!」
背後で何かが爆発した音がする。血が破裂?そんな技があるとは。
反転術式で体を治癒しようとするが、毒のせいかうまくいかない。目の前に立つ男は、今も尚血が大量に流れているにもかかわらず、失血死する様子がない。どうなってるんだコイツ。
「残念だが俺は呪力が尽きん限り失血死することはない。刀を隠していたのには驚いたが、俺の血が体内に入った時点でお前の負けだ」
男は血を刃物のように固め振りかぶる。もうここまでか、そう思ったその時
「…!壊相、血塗?」
突如相手の動きが止まる。男は驚いた顔をしてあらぬ方向を見たまま動かない。
「オラッ!」
「ぐッ」
動きが止まったところをブン殴る。ここで倒さなきゃこっちがやられる、距離をとられてもアレが飛んでくる、なら…離れる隙を与えないほどのラッシュを叩き込む!!
(なんだ、あいつに引っ張られる!?)
蒼夜は脹相から受けたダメージの回復、距離をとるという行動を封じるため、
黒閃
「ぬぁぁッ!!」
黒閃によって呪力出力が上がり、回復速度も上がる。近接戦の経験がない脹相は攻撃を捌けておらず抜け出せずにいる。蒼夜も経験は少ないが、虎杖との戦闘経験による差がこの状況を作り出していた。しかし、これも長くは続かない。
「邪魔だぁ!どけ!」
「!?」
身体が回復しても、血液による毒の成分は解毒できていない。毒により動きが鈍った瞬間に、脹相は自身から出た血液すべてを壁のように展開し、蒼夜を押し返す。脹相の血を全身に浴びてしまい、血を固められたことで完全に動けなくなる。
「弟たちよ、無事でいてくれ」
そのまま脹相は蒼夜にとどめを刺すことなく去っていった。
その後、なんとか血の拘束を解いて脱出はできたものの、山道の途中で倒れているのを連絡がなく探しに来ていた補助監督に発見され、家入の治療により回復した。
目を覚ますとベッドの上だった。周りには三人がいる。つい数か月前もこんなことがあったような気がする。
「あ、目ぇ覚めた?」
「おはよう」
「もうお昼よ」
「マジ?」
窓を見ると、確かに朝という感じではなかった。思ったより寝てしまったらしい。
「何があったんだ?血まみれで倒れてたって聞いてるが」
何があったのかを話すと、虎杖と釘崎が驚いた様子を見せる。どうやら2人はあの男の弟たちと戦っていたらしい。なるほど、アイツが突然去っていったのは2人が弟たちを追い詰めていたからか。
「ありがとう、おかげで助かった」
そういうと虎杖が複雑そうな顔をする。…そうか、人を殺したんだもんな、感謝されても困るか。虎杖はそういうやつだってわかってたのに、俺は気が回らなくてダメだな。
「ごめん。それでも言わせてくれ、2人のおかげで、俺は死なずに済んだ。あらためて、ありがとな」
「…おう!」
虎杖が拳を突き出してくるので俺も合わせる。俺たちがそんな男の友情を確かめ合っていると
「アンタも目が覚めたことだし、お昼食べに行きましょ。五条、アンタのおごりよ。」
「はぁ!?なんでだよ」
「アンタが私たちに心配かけたからよ。お腹も空いたしガッツリ食べるわよ虎杖」
俺がいいとも言っていないのにもう何を食べるかを話し合う2人。これはもう拒否できなさそうだ。そんな風にあきらめていると、伏黒が
「あんまりにも高くなったら少しは出してやるよ」
「さすがだぜ心の友よ」
「そんなんになった覚えはない」
こういう時の伏黒は意外と優しい、昔からつんけんしているが、こうやって助け舟を出してくれる。…そういえば
「なあ、さっきの話からすると伏黒は少年院のときみたいなやつと戦ったんだよな?どうやって勝ったんだよ」
「…領域展開を使った」
「マジかよ!?随分と置いてかれた気分だ、後で詳しく聞かせてくれよ」
「不完全なんだよ、あんまり話したくねえ」
「まぁまぁそういわずに」
いや本当に驚いた。俺もうかうかしてられない、頑張らないとな。
そんな風に思いながら、まずは自分の財布を守る戦いに繰り出すことになる。
──────平和な日々が崩れ去る、数ヵ月前の出来事だった。