【五感を支配する魔法『■■■■■■■■■』】 作:柿の種研究部
ただいつもより筆が進んだので早めの投稿になります
部活動紹介の準備があるので次は少し遅れるかもしれないです ごめんちゃい(ドブカス風)
「相手は格上も格上、しかも魔族が精巧に人を真似る前から生きてきた大魔族だから、みんな十分気をつけね」
砂利で固めた簡易的に舗装された道上を、勇者一行が進んでいる
しかしその雰囲気は明るいものではなく、まるで死地へと行軍する小隊のように重い空気だった
「本当に受けて良かったのか?魔王城とは反対方向だぞ」
緊張の中で口を動かしたのはアイゼン、 良かったのか? という言動から、勇者ヒンメルはこの依頼を断れたことがわかる
「クヴァールのせいで苦しんでいる人達は沢山いるんだ、それにクヴァールのような大魔族にも立ち向かえない勇者は魔王にも立ち向かえないよ」
「そう言う問題じゃない気がしますけどね」
いつも二日酔いに苦しんでいるハイターもは、珍しくその顔が青くない
それもそうだろう、相手はあらゆる魔法障壁や魔法耐性を持つ装備を貫通する攻撃魔法により、歴史上最も人間の魔法使いを殺してきた大魔族だ
普段は女神の魔法でドーピングしていた魔法耐性も意味をなさない
この戦いで呆気なく全滅してもおかしくないのだ
「近い、いつでも回避できるように準備して」
その言葉を合図に、全員が戦闘態勢に入る
―空気が、軋んだ
魔力が満ちるというのは、ただ濃くなるということではない。空間そのものが重くなり、呼吸さえも異物に変わるような、そんな圧迫だった
「これが……クヴァール」
勇者一行の後方で、僧侶 ハイターは思わず呟いた。眼前に立つ魔族は、あまりにも静かだった
威圧するでもなく、吠えるでもなく、ただそこにいるだけで世界を侵食している
クヴァールはゆっくりと首を傾げる。その動作一つに、周囲の魔力がざわりと揺れた
「ふむ、儂に真正面から挑むとはいい度胸をしている。
だが…ただそれだけだ、貴様らはただ威勢いいだけの塵芥」
低く、乾いた声
次の瞬間、空間が裂けた
見えないはずの魔法陣が、視界の端で歪む。フリーレンは咄嗟に杖を振るい、防御魔法を展開する
……が、漆黒に染まり光を飲み込まんとする一撃が、防御の外側を掠めた
背後の岩壁が ガオン とこの世のものとは思えないような音と共に抉り取られる
「解析も無理か……」
フリーレンが鋭い眼光を魔族に向けたまま歯噛みする
あれはただの攻撃ではない、防御そのものを“理解し、無効化する”魔法だ
「面倒だね」
フリーレンは小さく呟いた
だがその声音に焦りはない。ただ、厄介な課題を前にした時のような、静かな思考があった
クヴァールは再び両手を天へと掲げ、その五指それぞれから
今度は複数。不可視の魔法術式が空間に編まれていく
「散開!」
勇者の声が響くと同時に、一行は左右へ跳んだ
直後、大地が悲鳴を上げるかのように裂けた
何本もの見えない杭が突き立ったかのように、地面が貫かれる
避け損ねれば、身体ごと消し飛んでいただろう
「フンッ!」
アイゼンが踏み込み、大地が ベキッ と陥没すると同時に斬りかかる
龍をも堕とす、純粋な物理の一撃
それはフリーレンが魔族を殺すための魔法を放つ隙を一瞬でも作るため
だが……
「遅い」
クヴァールの指が、わずかに動く
戦士の軌道上の空間が漆黒に染まる
そのまま黒い殺意は物理的にかなりの硬度を持つアイゼンの身体を容易に貫通したように見えた
「クっ……!」
腕をカスリながらも、戦士は踏み込んだ足とは反対の足で地面を破裂させるほどの強力な蹴りで飛び退く
「魔法構築の隙を付いたはず、予想よりかなり場数を踏んでる奴だね」
フリーレンは静かに言う
魔法の構築速度や、魔力感知のレベルの問題ではない
相手の行動を読み、最適解を即座に叩き込む異質さ
「なら、読む前に上回ればいいってことだ」
勇者ヒンメルが一歩、前に出た
それに事前に反応していたクヴァールが剣を振るう隙も与えずに消し飛ばした……かのように思えた
「手応えがない……」
クヴァールの視線が、わずかに揺れた
フリーレンが放った【足音を別の場所に移す魔法】 は、対象に幻聴を聞かせるタイプではなく、足音を移して発生させるタイプで、仕掛ける相手の魔法耐性は関係ない
しかもかなり最近できた民間魔法で魔族は対処に一瞬だけ遅れを取る
「――今」
フリーレンの杖が光る、クヴァールの妨害によって使えなかった魔法がヒンメルの作った隙によって強力な魔法をぶち込むほどの隙ができる
「【
クヴァールは魔力制限によって自身よりも圧倒的に小さな魔力量により、フリーレンの攻撃を見誤る
黒紫色に迸るイカヅチにより魔力を塊にして防御したにも関わらず、クヴァールの半身が真っ黒に焦げる
「……グァ…!」
クヴァールが呻く
その一瞬
勇者が踏み込み、ホンモノの勇者の剣が振り下ろされる
強大な魔力の奔流に晒されたクヴァールの指が動く――が、あまりのダメージに対処が遅れた
が、浅いが、確かに刃は届いた
黒い血が地に落ちる。
「調子に乗るな」
クヴァールは自らの傷を見下ろし、淡々と言う
ただその言葉の中には油断したがために傷を負ってしまった自身への怒りとフリーレン達への憎悪が顔を見せる
次の瞬間に魔力の気配が変わる
辺りにドス黒い殺意の流れが満ち、生きとし生けるもの全てを消し炭へと還さんとするほどの魔力がクヴァールから放出される
「まず…」
その手から放たれた【
「フリーレンッ!」
勇者が必死に叫ぶ
が、放たれた黒い殺意は攻撃範囲が広すぎるがために勇者が庇う暇もない
防御しようにも、相手が相手でハイターの強化防御もフリーレンの
フリーレンはこの後自身に降りかかる運命を理解し、静かに目を閉じる
轟 と世界を深淵へと堕とす魔法が、エルフを跡形もなく消し飛ばし、この物語は始まることすら無く幕を閉じたかに思われた
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…………………………
………………
…………
……
…
「完成しただと?」
「ああ、これが私の魔法だ」
「魔法?この奇妙な杖がか?」
「杖じゃない、これは刀と言うんだ」
「ほう、カタナ……か。形状からして剣に似ているな」
「まぁ概ねあっているよ、主に使う手段は違うけどね」
「……で、どういう魔法なのだ?アズール、貴様の魔法は」
「見た方が早いかな…… 【砕けろ 鏡花水月】」
「これは……霧か?」
「私の魔法の有する能力は発生させた霧に巻かれた生命の感覚器官を混乱させて幻を見せ、同士討ちさせる というものだよ」
「これはなんとも……貴様らしいな」
「……それは褒めているのかい?」
「貴様がそう思っているのならそうなのだろう」
「なるほど、貶してるんだね」
「それとはまた違う、貴様らしくないと思ったんだ」
「フフッ」
「…何が可笑しい?」
「いや?何も」
「ただ、楽しみだな と思っているだけだよ」
「……そうか、期待しておこう」
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……………………
…………
……
「……え?」
その言葉が誰の口から出たかは分からない、もしかすると全員から出たかもしれない
困惑、それはフリーレン達勇者一行が抱えた感情だった
【
しかし、クヴァールはまるで厄介な敵を殺しきったかのように満足そうな顔を浮かべていた
「さて、次は貴様らだ」
がら空き、まるでこちらを警戒していない
あまりの無警戒さにフリーレンは罠の可能性を疑う、しかし罠ならクヴァールが完全に隙を見せている理由がない
困惑しながらも、フリーレンはその背中に向かって攻撃魔法を放つ
「【
それは呆気なく、しかし確かにクヴァールの身体を容易に貫いた
「…………なッ!?」
クヴァールは完全に貫かれた身体が塵に変わり始めた頃に、自身の異常に気づいた
膝をつき、体から迸っていた魔力が霧のように霧散する
「……急にボケた?クヴァール」
表面上は冷静を保っているが、フリーレンは内心ハテナマークだらけだった
さっきまで油断しながらも反撃の隙も見せなかった大魔族が、急に何も無いところに向かって魔法を放ったかと思えば、確実にフリーレンに当たっていないというのに完全な隙を見せたからだ
「儂は確かに……待て、まさか…」
クヴァールは塵になりながら何かブツブツと独り言を喋っている
「負け惜しみ?大魔族の名が知れるね」
勝ち確だからなのか、もうクヴァールが反撃の手段を持たないと分かったからなのか、フリーレンはここぞとばかりに煽りまくる
しかしそれはクヴァールの事を貶したい訳ではない、むしろ凄まじい魔力量と魔法精度を持っているクヴァールがあのような隙を見せると思っていないからだ
だがクヴァールはフリーレンの罵声を気にもとめない、考えているのは、ただ1人の魔族
「………そうか」
クヴァールは残された力でフリーレンを見る。死ぬ間際だからかいつもよりも見える魔力感知でフリーレンに懐かしい感覚を見る
「
「……?」
が、その言葉はフリーレンに届くことはない
いや、
クヴァールの身体の殆どが崩れている
もう半分もなく、間もなく無に帰るだろう
その時クヴァールの目の前にいたのはフリーレンではなく、穏やかな顔をした茶髪の隙間から角の生えた男、アズールだった
「一体どういうことだ?……アズール」
「すまないねクヴァール、私にとって君は強くなりすぎた」
「……そうか」
「怒らないのかい?」
「怒って欲しいのか?」
「そんなことはないけど……とんでもない勢いで貶されても不思議じゃなかったしね」
「儂に限ってそれはないだろう……で、なんなんだ?」
「なんなんだ……とは?」
「最期の時だ……聞いてもいいだろう。貴様の言っていた
「あぁ、そう言えば言ってなかったね」
「私の目標は悪いね君たちにはまだ見せられないよだよ」
「……フッ」
「何か可笑しい事でも?」
「可笑しいだろう、そんなことが出来るのか?」
「私の力なら出来る、クヴァールにもやって見せたようにね」
「なるほどな」
「……そろそろ時間だ」
「そうみたいだね」
「地獄とやらで待っている」
「ああ、きっとまた会えるさ」
静寂が戻る
クヴァールの体は魔力の残骸となって、ようやく流れた風に乗って跡形もなく消えていった
アイゼンが膝をつき、息を吐く
「こんなのが魔王軍には後7人もいるのか?」
ヒンメルは剣を下ろし、大の字で寝転んで空を見上げた
「今は無事に生きていることを喜ぼうじゃないか」
ハイターが2人に回復魔法をかけながら言う
「そうですよ、後のことを考えても仕方ないですし…酒でも飲んで忘れましょう!」
そこにクヴァールが塵になりきるところを見届けたフリーレンが杖をしまい、服に着いた土埃を軽く払いながらやってくる
「生臭坊主……」
それを見たヒンメルは体を起こし、フリーレンへと顔を向けた
「すまないフリーレン、もう少し踏み込んでいれば君が危険に晒されるのを防げたのに……」
その言葉にアイゼンが反応するよりも先に、フリーレンはその事をすぐさま否定する
「いや、踏み込んでればヒンメルが死んでた」
アイゼンが遅れてフォローに入る
「全員生き残ったんだ、どうでもいいだろう」
その喋り方に悪意は無いが、それがアイゼンなりのフォローの仕方なのだろう。フリーレン同様に不器用だ
「どうでもいいって……」
「それより聞くことあるじゃないですか!」
ヒンメルの言葉を遮って、ハイターが言う
「
アレ……と濁してはいるが、それが何を指すかはここにいる全員が分かっている
「確実に演技では無いよね…」
ヒンメルの言った事は合っている
実際クヴァールはアズールの 【 鏡花水月】 にかかってはいたが、それを確かめる手段はヒンメル達にはない
「分からない、ただ言えるのは……ナニカの影響を受けてたとしか…」
「ナニカとはなんだフリーレン、お前でも分からなかったのか?」
アイゼンが言っているのは、優れた魔力感知を持っているフリーレンでさえ、クヴァール精神魔法の影響を受けているのか分からなかったか ということだろう
「……ごめん、分からない」
空気が重くなったことが気に入らなかったのか、ヒンメルが ガバッ と立ち上がり、フリーレン達を見て言う
「まぁいいじゃないか!みんな生きてた、クヴァールも倒した!それでいいじゃないか」
ハイターもその言葉に続く
「その通りです!早く街に帰って宴といきましょう!」
その言葉を皮切りに一気に空気が明るくなる
「ハイター、お前は早く酒が飲みたいだけだろう……」
「珍しく昨日から飲んでなかったからね」
ハハハ と、フリーレン以外の全員が笑いに包まれる、フリーレンはまだ何か考え込んでいるようだ
「さて、じゃあ凱旋に行こうか」
各々が立ち上がり、街の方へと歩き出す
「行くよフリーレン」
まだ立ったまま考え込んでいたフリーレンをヒンメルが手招きをする
「ん…ああ、ごめんすぐ行く」
ヒンメルの言葉を聞いたフリーレンは、直ぐにヒンメルの後を追う
ヒンメル、ハイターが二列で駄べり歩いていたが、アイゼンが足を止めフリーレンに歩を合わせる
それは何か聞きたいことがあったからみたいだ
「フリーレン」
「……何?」
フリーレンは目線をアイゼンへとは向けず、ハイターに ニーブラするヒンメルとの戯れを見ながら、アイゼンと一緒に歩く
「最後、クヴァールと
それを聞いたフリーレンは目線だけアイゼンに向けた
「何って……クヴァールが何であの行動をしたか聞いてただけだよ。まぁ、
「……そうか」
アイゼンはその言葉に違和感を覚えるが、ヒンメルの言った それでいいじゃないか という言葉にモヤモヤが頭から消えた
この時、言及していたら未来は変わっていたのか……それは女神にしか分からないのだろう
展開考えなきゃ……大変だべ