綾小路の友達   作:初期小路おもろすぎて

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初投稿です


1.

 

 何年前だったか。友人に聞かれたことがある。

 そいつは、どこか拗らせている様なやつで、変に哲学的なことを聞いてきた。

 

『お前は、人は平等であると思うか?』

 

 なんとも変な問いだ。少なくとも五、六歳の子供に聞く様な内容ではない。……まあ、俺たちの境遇を考えれば、仕方ないとも言える。

 

 いつもだったら適当に流して終わりだが、聞いてきたそいつの顔が、どうも真剣な様子だったから、こっちも真剣に考えた。

 

 人は平等であるか、否か。

 

 少し考えれば、その答えはすぐに出てきた。

 

『そうだな、人は────』

 

 ────俺はその時、なんと言ったか。

 

 ◇

 

 四月。桜も満開に咲き誇っているこの時期に、俺は友人と共にバスに揺られていた。新入生として、入学式に向かうためだ。

 

 バスの中は人が多く、その殆どが、着こなし方に差はあれど、俺と同じ制服を身にまとっている。恐らく、俺と同じ新入生だろう。

 

 こういう雰囲気は新鮮だ。同じことを思っているのだろう。隣に居る友人も、いつもより落ち着きがなく、身体をゆらゆらと揺らしている。その度に俺に当たっていて、なんというか少しウザイ。

 

「清隆、緊張する気持ちも分かるが、少し落ち着け。さっきから身体が当たってる」

「あ、ああ。悪い。初めての雰囲気だから、ついな」

「気持ちは分かる」

 

 隣に座っている友人、綾小路清隆とは、幼いころから時間を共にした友人と思っている。こいつがどう思ってるかは知らないがね。

 

 特殊な育ち故、何度も競い合い、何度も対立したこともあったが、それも良い思い出だ。

 

「クラス分け、どうなると思う?」

「分かるわけないだろ。運だよ、運」

「それもそうだな。同じクラスになれるといいが」

「ま、そうだなー。俺は兎も角、お前は友達作るの厳しそうだ」

「言ってくれるなよ。それに、お前だって友達ってものを作ったことないだろ」

「最初に話しかけたのはどっちだったっけな〜」

「……い、いや。それでも一人だ。違いはそこまでないだろう」

「ゼロと一は雲泥の差だぜ?」

「……」

 

 ま、こんなこと言ってるが、正直俺も友達ができるか不安だ。こいつの言ってる通り、人と話す機会なんてなかったからな。知識としては持っているが、それを実行に移せるかは全くの別問題だ。

 

 さて、少し気分が下がった様なこいつは置いておいて。気づけば周りの雰囲気は先程とはうってかわり、少々ピリついたものになっていた。

 

 どうやら、誰かが言い合いをしているらしい。見るに、俺達と同じ新入生と、恐らくは社会人であろう女性だ。

 

 優先席を譲るべき、という内容。少し視線をずらせば、女性の傍には老婆もおり、その人の為に言い争っている様だった。

 正直、言っていることは感情的であり、正当性も見受けられない。

 

 極めつけは、若者は席を譲って当然だ、という態度。これが良くない。これでは、譲りたくても態度が気に食わないと思う者が出てきてしまう。

 

 老婆を思うその行動自体は褒められるべきだが、その代わりに若者のことを思えていない。どうにも勿体ない。

 

「譲らないのか? 清隆」

「理由がない。あの老婆に哀れみを覚えないこともないが、それも態々席を譲るというところまではいかない。それに、あと少しで学校だ。そこに着けば必然的に席は空く」

「ふーん、そっか。じゃ、俺が譲ろっかな」

「は、マジかお前」

「ああ。お前はあと何分か、老婆の隣で時間を過ごすといい」

「……はぁ。オレの隣じゃあの人も過ごしずらいだろ。オレも行く」

「よく言った」

 

 清隆にそういうと、俺は先程言い争っていた人達……ついでにもう一人増えてるな。その人達の方を見る。

 

「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。どなたかこのお婆さんに席を譲っていただけないでしょうか? 誰でもいいんです、お願いします」

 

 丁度、いつの間にか参戦していた少女が声をあげていた。なんとも良いタイミングだ。これに乗っかってしまおう。

 

「どうぞ、僕らの座ってた席使ってください」

 

 座っていた座席は、老婆からほど近く、彼女にとっても負担にならない程度の移動距離だった。ここは俺達が譲るのが一番だろう。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 正に花のような笑顔、と言っていい。少女は満面の笑みで頭を下げ、老婆からも何度も感謝を受けながら席を譲る。

 

「あ、二席分空いたし、君か、そっちのお姉さん。ここ座ります?」

 

 そう言って、先程まで男子学生と言い争っていた女性の方にも目を向けた。

 

 どうやら、自分に話を振られるとは思わなかったのだろう。驚いた顔でこちらに視線を向けてくる。

 

「え、いや私は……」

「私は大丈夫ですから、お姉さんが座ってください!」

「そ、そう? ごめんなさいね。その、騒がしくしてしまったし……」

「お気になさらず。すぐに譲らなかったこちらも悪いので。それに、あそこで声をあげる行為は中々できるものではありませんよ。誇っていいと思います。……何様だって感じですけどね」

「あ、ありがとう……」

 

 恐らく、褒められるとは思っていなかったのだろう。その顔には困惑と、少しの喜びが見えた。うん、まあうるさくはあったけど、行動自体は素晴らしいものだったからね。褒めたって良いだろう。

 

「あ、そうだ。そっちの君も、ありがとうね!」

 

 と、先程から黙っていた清隆にも声がかかる。声をかけられれば、いつも通りの仏頂面……いや、少し緊張している様子で少女と会話をしている。

 

 俺以外と交流を持つ良いきっかけになっただろう。このまま色々な人と関わっていって欲しいものだ。

 

 それから程なくして、バスは目的地である学校の前に着いた。生徒達は順に降りていき、それに俺達も続く。

 

「はぁ〜、大きいな」

「ああ。聞いていた以上だ」

 

 目の前に聳えるのは校舎。東京都高度育成高等学校という仰々しい名前に負けない程のデカさだった。

 

 ここが、これから三年間を過ごす学校。あそこを抜け出した俺達の────逃げ場所(・・・)

 

「ちょっと良いかな?」

 

 少しの時間、門の前で立ち尽くして入れば、声がかかった。恐らく俺達に向けてだろうと、その声の方を向けば、案の定。声の主は俺達に視線を向けていた。

 

 先程、老婆に席を譲ってくれないか、と声をかけていた少女だ。

 

「さっきの子。何かありましたか?」

「ううん。改めてお礼をしたくって。さっきはありがとう。本当に助かったよ!」

「気にしないでくれ。オレもこいつも、たまたま気が向いただけだからな」

「そうですよ。貴女が気にする必要はありません」

「それでもだよ」

「……そうですか。なら、そのお礼は受け取っておきますね」

 

 そのまま一言二言話をし、一緒にクラス分けを見に行くという話になった。ふむ、掴みは上々。上手く行けば友達にもなれるだろうか。

 

 そう考えていた時、一緒に歩いていた彼女が声をあげる。

 

「あ、そうだ。自己紹介してなかったね! 私は、櫛田桔梗(くしだききょう)。よろしくね!」

「そういえばそうだな。オレは綾小路清隆(あやのこうじきよたか)。こっちは」

沙羅式千聖(さらしきちさと)。好きに呼んでください。よろしくお願いします、櫛田さん」

「綾小路君に沙羅式君だね。うんっ! よろしく!」

 

 特に問題もなく自己紹介を終えたタイミングで前を向けば、丁度人だかりがあった。恐らくはクラス表が張り出されているのだろう。

 

「見えるか? 清隆」

 

 あまり言いたくはないが、俺より清隆の方が身長が高い。というより、俺の身長はあまり高くないのだ。平均はある。絶対、多分、間違いない。

 

「ああ。オレは……櫛田と同じDクラスだな。お前は……どうやら、Bクラスみたいだ」

「お、違うクラスだな」

「……そうだな」

「元気出せって。櫛田さんと同じだから良いじゃん。櫛田さん、二人ともDクラスだったみたいですよ。僕はBですけど」

「あっ、そっか。クラス離れちゃったね」

「そうですね。ただ、クラスが違うからと言ってもう会わないということもないですし、仲良くして頂ければ」

「もちろんっ! 綾小路君も、よろしくね!」

「……ああ」

 

 目に見えて落ち込んでいる清隆へ、櫛田さんは苦笑混じりに挨拶をする。ホントこいつは……。

 

 落ち込んでいる清隆をフォローしながら校舎に入り、それぞれクラスへと向かうため、櫛田さんと清隆とは一度別れ廊下を歩く。……ふむ? 学校ってこんな感じなのか? この監視カメラの量、あそことそこまで変わらないぞ? 

 

 さて、あいつの心配ばかりしていたが、俺だって余裕かと聞かれればそうではない。緊張なんて当たり前の様にしている。

 

 自分のクラスの前で立ち止まり、扉の前で一息。意を決して自分のクラスの扉を開ける。中を見れば、クラスの半分程が既に登校していた。

 

 音が鳴ればそちらの方に目が行くのも当然。中に居た人間の視線は一斉にこちらへと向く。少しこそばゆいが、仕方ない。そういうものだ。

 

 座席を確認するため、真っ直ぐ歩き教卓へと向かう。席は……どうやら、一番後ろの窓際。当たり席、というやつだ。ラッキーだな。

 

 席へと向かう途中も視線はこちらへと向けられている。理由はよく分からない。何か珍しいものでもあるのだろうか? 

 

 一先ず自分の席へと鞄を置けば、既に登校していた隣の席の生徒が話しかけてきた。

 

「よ。席近いし話しとこうと思ってな。俺は柴田颯(しばたそう)。よろしく!」

「僕は沙羅式千聖。よろしくお願いしますね、柴田君」

「な、なんかムズムズするな。颯で良いし、敬語なんてやめてくれよ」

「そう? ならそうするよ。よろしく、颯」

「おう! よろしくな、千聖!」

 

 話していれば分かったが、どうやら颯は俗に言う陽キャ、というやつみたいだ。初対面でも楽しく話せたし、明るく活発。以前本で見た内容と合致している。

 

 ふむ、席も窓際、それに周りの人間にも恵まれているとは。どうやら、今回のクラス分けは俺にとって良いものだったようだ。

 

「そうだ千聖。お前って彼女居んの?」

「彼女? 恋人関係の人のこと?」

「そうだけど、それ以外にあるか?」

「……いや、ないね。生まれてこの方、そういった話には運がなかったんだ」

「え〜ホントかよ? お前が? 告白とかは?」

「残念ながら」

「へぇ〜」

「なんの話をしているんだ?」

 

 颯と話していれば、彼の前の席に荷物を降ろした男子生徒がこちらに話しかけてきた。容姿はかなり整っている。俗に言うイケメンというやつか。なるほど。

 

「ああ、えーっと」

「神崎だ。神崎隆二(かんざきりゅうじ)

「そっか、よろしく隆二。俺は柴田颯」

「沙羅式千聖。よろしくお願いします、神崎君」

「よろしく頼む。ああ、俺にも敬語は要らない。楽に接してくれ」

「そう? 分かったよ、神崎」

「ああ。それで、話は戻るんだが」

「あ〜それな。いやさ、千聖のやつこの見た目で彼女も居ねぇし告白すらされたことねぇんだと」

「そうなのか、意外だな。こう言ってはなんだが、沙羅式の見た目なら一度や二度の告白くらい受けていると思ったが」

「なぁ〜。珍しいよな」

「あはは、まあそういう事もあるよ。────っと、そろそろ先生が来るみたいだね。座った方がいいかも」

 

 俺がそう言ったタイミングで、教室の前側のドアが開き、恐らく教師であろう人間が中に入ってきた。

 いつの間にか登校していた他の生徒も、それを見て自分の席へと戻っていく。

 

「その様だな。では、また後で」

「うん。颯も前向きな」

「あいよ〜」

 

 全員が席に座ったことでようやく見えるが、クラスの人数は四十人。一般的な一クラスの人数と相違はないだろう。

 

 しかし、やはり気になるところは監視カメラだ。教室内にも複数存在しており、様々な角度からこの教室を見ることが出来るようになっている。

 

 先程改めて調べたが、普通の学校に監視カメラは殆ど無いらしい。あって昇降口付近で不審者を警戒する為にだとか。

 

 つまり、この学校は普通ではない。そして、俺達生徒、もしくは教師を監視しなければならない理由がある、と思われる。

 ……ま、この辺は清隆がなんか調べるだろ。俺は良いかな。

 

「一年Bクラスのみんな、おはようございます。私はこのクラスの担任の星之宮知恵(ほしのみやちえ)っていいます。この学校には学年毎のクラス替えは無いから、基本的には三年間君たちの担任になるかな。よろしくね」

 

 その発言に合わせて、何人かの生徒が挨拶を返す。それに続く様に、殆どの生徒が星之宮先生に挨拶を返した。返さなかった生徒? 多分俺だけじゃない? ……しょうがないだろ、慣れてないんだ、こういうの。

 

「うん! 元気があってよろしい! さて、あと少しで入学式だけど、その前にある程度の説明は終わらせちゃうね」

 

 彼女から説明されたのは、大きく分けて三つ。

 

 一、配られた学生証は身元の証明の為だけではなく、学内の施設を使用する為にも必要だから無くさないように。

 

 二、学校では現金は殆ど使用せず、学校独自のシステムであるポイントを使用する。このポイントは先程の学生証に蓄えられるため、そういった意味でも無くしてはいけない。また、このポイントで買えるものに制限はなく、文字通りなんでも買えるらしい。

 

 三、ポイントは毎月の一日に支給される。俺達にも既に支給されており、その額十万ポイント。確認したが、本当だった。一ポイント一円のレートであるため、俺達新入生には一人十万円が支給されたことになる。また、この額は現在の俺達の価値を示しているらしい。実力、可能性を考慮して今回は全員に一律十万ポイントが支給されている。

 

 というのが、星之宮先生から説明された事だ。

 

 俺達の価値。随分曖昧な言い方だが、この学校は実力で人を判断するらしい。実力=その人間の価値、と言って良い。前時代的だ、と感じないこともないが、その方が分かりやすくて良い。

 

 つまり、俺達はこれから、実力を証明し続けなければならない。そうしなければ、俺達の価値はどんどんと下がっていく。実力=価値、価値=ポイントの額。今現在の俺達へと向けられている教師からの評価、それを下回れば今貰えている程のポイントは貰えない。

 

 なるほど、確かに星之宮先生も毎月十万ポイントとは言っていなかった。この事実に気がつくかどうか、というのも自分の価値を証明することに繋がるのだろうか。

 

「……うん。こっちからの説明はこの位かな。どう? みんなからは何か質問とかある?」

 

 質問、質問か。現状、気になることと言えば二つ程度だが……。どうやら、他の生徒からの質問は特に無いようだ。であれば、ここは遠慮する必要もないだろう。

 

 静寂を破るように、俺は右手を天井に向けて挙げる。

 

「お、君は〜沙羅式君だね。何かあった?」

「はい。二つ程よろしいでしょうか」

「いいよいいよ〜。遠慮なく聞いてね!」

「ありがとうございます。ではまず、先程の星之宮先生の説明から、実力=価値、価値=毎月支給されるポイントの額の等式が成り立つ、ということは間違いないと思ってよろしいですか?」

「うん、それで問題ないよ。それが一つ目?」

「いえ、これは前提の確認です。質問としましては、自分達の価値が現在下されている評価より下がった、と認識される行為としては、どの様なものがあるのか。また、その評価は個人個人で下されるのか。というものになります」

「……う〜ん、ごめんね。それはちょっと答えられないかな」

「なるほど。分かりました」

 

 ふむ、少しの動揺? いや、ただ面白がっているだけか? 随分とこちらに興味を持った様だ。まあここは良い。あんな説明をしているのだから、どうせ答えてもらえないとは思っていた。

 

 重要なのは二つ目だ。

 

「では二つ目です。先程の説明で、学年毎のクラス替えはなく、基本的に三年間このメンバーで過ごす、と言われていましたが、例外的にであれば、メンバーが入れ替わる、またはメンバーが減る様なことがある、と思ってよろしいですか?」

「……ごめんね、それにも答えられないかな」

「そうですか。いえ、大丈夫です」

 

 答えられない、そう言った彼女の顔を見れば答えは分かる。先程よりも強い興味、そして少しの驚愕。どちらもマイナスの面ではないため、少なからずこの予想は当たっていると思っていい。

 

 ……なるほど、ポイントで買えないものはない。つまり、物品はもちろん、学校生活に関わる権利すら買える可能性がある。

 

 それなら良かった。清隆と同じクラスになるのも不可能なことではなさそうだ。この学校は少しきな臭い。あいつと同じクラスになれば、特段問題なく学校生活を送ることができるだろう。

 

 努力をしたくない、という訳ではないが、わざわざ好き好んで困難な道に進むことはない。のらりくらり、楽に過ごせればそれでいい。

 

「他の子は質問とか……無いみたいだね。じゃあ、ここで説明は終わり。入学式が始まるまではゆっくりしてていいから〜」

 

 そう言い残し、星之宮先生は教室から出ていく。それを見届けた少し後、溜まっていたものが流れ出す様に一斉に会話が始まる。

 

 さて、目下確認するべき問題は先程の質問で解消された。後は、清隆への共有くらいか。あいつの場合、気づいていても質問とかはできないだろうし、裏をとった事実は欲しいだろう。

 

 メッセージ……は、送れないんだったな。学校から支給された端末にあいつの連絡先なんてあるはずもない。あったら寧ろ恐怖でしかないだろう。

 

「千聖〜、さっき聞いてた一個目のやつってどういうことよ」

 

 そんな事を考えていれば、いつの間にか身体ごとこちらに向けていた颯が話しかけてくる。

 

「俺も聞きたい。あれはどういう意図で質問をしたんだ?」

 

 次いで、神崎もこちらに来た。正直説明なんてめんどくさいからしたくはないが、まあ入学祝い、ということで良いだろう。出血大サービスだ。

 

「まず疑問に思ったのが、星之宮先生の説明のやり方だね。もちろん説明に不備があったとかではないけど、わざと誤解される様な言い方をしてた気がしてね」

「誤解?」

「まず、十万ポイント、つまりは十万円だね。それを貰えるって聞いて、どう思った?」

「う〜ん、太っ腹だな、って思ったかな。月十万なんて、多分普通にバイトしてもそうそうもらえないだろ」

「そうだな。毎月それ程の額を……。ん?」

 

 どうやら、神崎は引っかかった様だ。顎に手を当て、少し考える様な素振りを見せる。話が早くて助かるよ。

 

「神崎は気づいたみたいだけど、颯。星之宮先生は、毎月十万なんて一度も言ってないんだ」

「え〜? ホントにか? 正直浮かれててあんま話聞いてなかったからなぁ」

「……沙羅式の言っている通りだ。星之宮先生は、毎月ポイントが支給されるとは言っていたが、それが十万ポイントだとは言っていない」

「そうそう。十万ポイントが基準って考えて良いと思うんだけど、多分そこから何かしらの要因でポイントが減る、もしくは増える様なことがあるんじゃないかなって思ってさ。後はまあ、どうやって貰えるポイントが減るか、って考えた時に、今の評価を下回るような評価をされれば必然的にそうなるって分かったから、どうやったらそうなるのか、っていうのが気になったんだよね。個人か個人じゃないかは、まだ分からないかな」

「……なるほど。先生の話はなるべく自分の中で咀嚼していたんだが、どうやら俺はまだまだだったらしい」

「あはは、仕方ないと思うけどね。急に十万円をポンと渡されて動揺するな、って方が難しいし。それに、先生は貰えるポイントが減る、って実際に言ってる訳でもなかったしね。そこまで重要に考えなくてもいいんじゃないかな?」

「いや、その理論には筋が通っている。恐らくだが、ここで生活する上で重要なことになってくるだろう。どうやら、俺はクラスメイトに恵まれたらしい」

「俺も俺も! すげぇな千聖。俺じゃ一ヶ月経っても思いつかなかったぜ」

「そこまで褒めることでもないよ。多分他の子も、数日くらいすれば分かるんじゃないかな?」

 

 そこで、ふと周りの生徒の様子を見てみれば、先程まで話していた様子だったのが一変。全員が俺達の方へと視線を向けていた。

 

 な、なんだろうか。そこまで見られると少し困るんだが……? 

 

「え、えーっと。皆さんどうかしました、か?」

 

 そう聞けば、比較的近くに居た男子生徒が、少し申し訳なさそうに声をあげる。

 

「あーいや、悪い。ちょっと話が聞こえててな。盗み聞きするつもりはなかったんだが、思わず聞き入っちまった」

「あ、ああ。すみません、大きな声で喋ってしまって」

「そ、そんなつもりじゃなくてな。純粋に凄いと思って……」

 

 彼がそう言えば、こちらを見ていた生徒達もうんうんと頷いている。

 そ、そういうものなんだろうか。しかしこう、まだ見てくるのは困るというか……。

 

「はいはい! そんな見てても沙羅式君困っちゃうから!」

 

 そうやって、教卓の前に立ち声を上げたのは一人の女生徒。可愛らしい顔立ちをしており、男子生徒からの人気は高くなりそうだ。

 

 実際、颯も彼女の方を熱の篭った視線で見つめている。一目惚れ、というやつか? 

 

「そうだね〜、せっかくだし、みんなで自己紹介とかしてみない?」

 

 彼女がそう言うと、様々なところから頷きや声があがる。なるほど、クラス単位での自己紹介か。新しいクラスになった時や、新入生の時はよくあることだという。

 

 しかし、これと言って特技がない身からすれば大問題だ。あの空気を遮ってくれたことには感謝するが、それはそれとして、中々困る。

 

 どうするのが正解か。そう頭を捻っていれば、存外順番が回ってくるのは早く、次は俺の番、といった具合だった。これはマズイ。神崎や颯のやり方を参考にしようと思っていたのに、聞き逃してしまった。

 

「じゃ次! みんな気になってるであろう君の自己紹介、頼んでいいかな?」

「分かりました。皆さん、先程はお騒がせしたようですみません。星之宮先生もおっしゃっていましたが、沙羅式千聖と言います。これと言って特技はなく、面白みのない人間ではありますが、皆さんと仲良くなれれば、と思っていますので、どうか気軽に話しかけて頂ければ」

 

 そう言って、最後に一礼を付け加える。すれば、そこそこの数の拍手が返ってきた。どうやら、掴みとしては悪くない様子だ。大失敗、とならなくて良かった。

 

「うん! ありがとう沙羅式君。じゃ、最後になるけど。私、一之瀬帆波(いちのせほなみ)って言います! 特技とかは……パッと思いつかないけど、みんなと仲良くなれたらな! って思ってます。良ければ連絡先とか交換してくれると嬉しいな! よろしくね!」

 

 俺と同じくらい、それより少し多いか、といった具合にあがる拍手。う〜ん、彼女も陽キャ、というやつなのだろうか。まさか全員に連絡先の交換を申し出るとは。

 

 いや、これは建前というやつか? 本当は連絡先の交換なんてしたくはないが、話題作りの為に言っているだけという説も……。いや、最初から人を疑うのは良くない。ここは学校なんだ。反省反省。

 

「千聖、そろそろ行こうぜ」

「ん? ああ、入学式だね。行こうか」

「おう。隆二も、早くしないと遅れるかも」

「それは困る。もしかしたらそういう事でも評価は下がるかもしれないからな。少し急ごう」

 

 多少駆け足にはなりながらも、入学式の為に体育館へと向かう。そして、その道中。

 

「千聖」

「ん?」

 

 ふいに、後ろから声をかけられた。清隆だ。まだ時間はあるのを確認した後、神崎達に断りを入れ、人混みから少し離れたところに移る。

 

「どうだ? そっちは」

「まーボチボチって感じだな。それなりに話せる奴もできた」

「そ、そうか。……そうか」

「その様子だと、そっちはダメみたいだな」

「ああ。隣の席の生徒とは多少話しはしたが……正直、手応えはない。それに、クラスメイトがどうにも騒がしくてな。教師の説明すら静かに聞こうとしない。あまり反りが合わないかもしれないな」

「あ〜まあそういう時もあるだろ。……っし、お前どうせ放課後暇だろ。少し付き合えよ」

「告白か? 悪いがオレはノーマルなんだ。他を当たってくれ」

「消し炭にするぞお前」

「お前に俺が葬れるのか?」

「言ってくれっじゃねぇか。……ま、ふざけはなしだ。少し気になることがある」

「分かった。放課後にこっちの教室まで来てくれ」

「なんで俺が」

「不満か? ならいつも通りだ」

「ちっ。ジャンケンだな。言っとくが、負けねぇぞ?」

「どうだろうな」

「舐めやがって。吠え面かかせてやるよ最高傑作」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 時間は進み、放課後。俺は清隆を呼びに行くため、Dクラスの方まで来ていた。開け放たれている前側の扉から中を覗けば、後ろの方で清隆と女生徒が親しげに話しているのが見えた。

 

 なんだあいつ、あんなこと言っといて仲良さそうじゃん。結構結構。

 

 扉の前でうんうんと唸っていれば、こちらに気づいたのか清隆は鞄を持ってこちらの方まで歩いてきた。

 

「よ、待たせたか?」

「いや、特に待ってはいない」

「随分仲良さそうだったじゃん?」

「どこをどう見たらそうなるんだ」

「ん〜、普通にそう見えたけどな」

「だったら、貴方の目は随分と節穴の様ね」

 

 凛とした声が響く。見れば、先程まで清隆と話していた女生徒が目の前に居た。俺より少し低いくらい。一般的な女生徒、といった身長だ。

 

 顔は可愛いというより美人、といった感じで、少し冷たいような印象を覚える。

 

「おや、違いましたか? 随分と親しげに話してると感じましたが」

「ええ、全く違うわ。私は彼に話しかけられてうんざりしていたもの」

「そうでしたか、それは大変失礼しました。清隆にはしっかり言っておきますので」

「お前はどの立場なんだ?」

「……驚いた。彼と仲がいいのね、貴方は。彼みたいな人に親しい人間が居るなんて思わなかったわ」

「言い過ぎだろ、ホントに」

「あはは、まあ腐れ縁ってやつでして。あ、僕は沙羅式千聖って言います。よろしくお願いしますね。えーっと……」

「貴方とはクラスメイトという訳でもないし、特段名前を教える必要性を感じないわ。自己紹介は拒否しても構わないかしら?」

「こいつは堀北鈴音(ほりきたすずね)だ」

「……綾小路君。貴方に友達が居ない理由がよく分かったわ」

「清隆、それは流石に引くぞ」

「俺が悪いのか?」

「悪いわ」

「悪いな」

「悪いのか……」

 

 うん、流石に勝手に名前を言うのは無いわ。まあ、それにしても、随分性格のキツイ子だな。なんというか、Bクラスの雰囲気との温度差で風邪をひきそうだが、まあこれだけ人数が居るんだ。こういう生徒が居ても不思議じゃない。

 

「それで、そろそろそこを退いてもらえると有難いのだけれど」

「ああ、すみません」

 

 俺と清隆は扉を塞いでいる感じで立っている。確かに、これは邪魔だろうと思い廊下に出る感じで道を開ければ、彼女はこちらに一瞥するでもなく、そのまま去っていってしまった。

 

「なんつーか、個性的、だな」

「否定はしない。というかできない」

「ま、さっきも言ったがありゃ良くない。人が嫌がることはするな、ってのは常識だぜ?」

「うぐっ。……気をつけよう」

「そうしとけ。さて、そろそろ行くか。とりあえず、上の階に行こう」

「分かった」

 

 並んで歩き、一先ず二年生のフロアへと向かう。放課後ということもあり、殆どの生徒が部活動か、帰宅を済ませているのだろう。閑散としていた。

 

 人が多いより、こちらの方が有難い。

 

「どうせ気づいてるとは思うが、一応共有しておく。先生への質問で裏は取れたしな」

 

 各教室の扉から中を覗いたりなんだりしながら、清隆に星之宮先生への質問や、現状の考えを伝えておく。

 

 態々考えた理由などを説明する必要もない。こいつならそこも分かる。

 

「なるほど。ここに来たのは、退学者がどれ程出ているのかを確かめる為か」

「そ。退学者が出ているとも限らないけどな。ただ、この様子だとそれも無さそうだ」

 

 先程から覗いて確かめていたが、明らかに俺達のクラスにある机より数は少なかった。もちろん、二年生に限った話ではなく、三年生も同じだ。

 

 そして、二つの学年を見て気づいたこともあった。

 

「なあ清隆」

「ああ。気づいてる」

「だろうな」

「────お前達、そこで何をしている」

 

 確認の為にも、気づいたことを共有しようという時。後ろから声がかかった。この声、先程聞いた。入学式の時に話をしていた生徒会長だったはず。名前は確か───

 

「────堀北学(ほりきたまなぶ)

 

 おっと、意外にも清隆の方が覚えていたらしい。

 

「ほう、仮にも先輩。それも生徒会長を呼び捨てとはいい度胸だ」

「……これはこれは。連れが失礼しました、堀北学生徒会長。ここに居るのは、少々確認したいことがありまして」

「ふむ。……内容を話してみろ。学校の風紀を乱す様な内容であったら、俺はお前たちに処罰を与えなくてはならない」

 

 う〜ん、これは困った。いや、内容を聞かれることについては別に良いのだが、この生徒会長、どうにも面倒くさそうだ。目をつけられるのは勘弁願いたい。

 

 よし、清隆に押し付けよう。

 

「清隆、行け」

「絶対に嫌だ。お前から誘ってきたんだろう? 自分で説明しろ」

「俺も嫌だ」

「じゃあいつものだ」

「クソが」

「何をしている?」

「申し訳ありません、生徒会長。少々お待ち頂ければ」

「……まあ良い。なるべく早くしろ」

「はい。……一回勝負だぞ」

「当然だ」

「よし。じゃあ行くぞ、じゃんけん────ぽいっ!」

 

 俺が出した手はグー。あいつは……パーだった。

 

 そんな馬鹿な。こんな事が……。

 

 悔しさに震えていると、肩に手を置かれる。そっちを見れば、清隆が憎たらしい笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。

 

 こいつ、絶対殺す。

 

 まあしかし、負けてしまったものは仕方がない。責任を果たすとしよう。

 

「お待たせしました、生徒会長」

「……お前たちは随分とユニークな生徒の様だな」

 

 そんな、呆れた様な物言いに少し恥ずかしさを覚えるが、一旦置いておこう。

 

「確か、このフロアにいる理由、でしたね」

「ああ。ここは上級生のフロア。本来ならお前たち新入生が立ち入るべき場所ではない」

「なるほど、それは失礼しました。何分ここのルールにはまだ詳しくなく。それで、本題ですが。特にこれといって特別な理由はありません。この学校で過ごす上で、退学者がどの程度出るのか、ということを確認したかっただけです」

「ほう? 何故そんなことを確認する必要がある?」

「何となく、ですよ。ただでさえ教師に重要なことを話させない学校です。その上で退学者も出ているなら、ある程度警戒しておくべきだと思いまして」

「ふむ……」

 

 そう言って、押し黙る生徒会長。何かしら悩んでいる様子だったが、それは数秒で終わる。

 

 意を決した様に、こちらへと目を合わせながら

 

「この学校について、お前達はどこまで把握している?」

 

 そう尋ねてきた。……どこまで、どこまでときたか。ふ〜む、どうしようか。もうここに来た理由は話した。そして、確かめたいことと、新たに気づく事もあった。収穫は十分だが……。いや、待てよ? 相手は生徒会長。おそらく、生徒の中で最もこの学校に詳しい人物。確かめるなら今じゃないか? 

 

 ……多少目をつけられるかもしれないが、疑問をそのままにしておくのも気持ち悪い。仕方ないか。

 

「どこまで、と言われましても。今分かっていることをお教えすれば?」

「ああ、それでいい」

「分かりました、では────」

 

 話したのは、現状での俺の予想。

 

 月の初めに配布されるポイントは一律ではない。基準は分からないが、これ自体は俺達の評価によって左右される。現状で下されている評価を下回ることがあれば十万より減り、寧ろそれを超えることがあれば十万より増える。個人で判断されるのか団体で判断されるのか。それ自体はまだ分かっていない。

 

 というものだ。

 

 説明し終われば、生徒会長は納得した様に頷いた。

 

「なるほど、お前達は随分と優秀な生徒らしい。……だが、まだあるだろう? 気づいていることが」

「……まあ、ありますが。聞いたら答えを教えて頂けますか?」

「ものによるが、なるべく善処しよう」

「……分かりました。では、このクラス分けですが、メンバーはランダム制度、という訳では無いと考えています。恐らく、優秀さから決まっているのではないか、と」

 

 そう、これが先程気づいたこと。AからDクラスは、普通の学校のクラス分けの様な感じではなく、明確な理由、その者がどれだけ優秀かによって分けられているのではないか、というものだ。

 

「なぜそう思う?」

「理由としては、退学者の数です。二学年も三学年も、AからDクラスにかけて、徐々にクラス内の机の数が減っていっているようでした。単なる偶然、とも考えましたが、それにしてはできすぎている。あと、これは一学年の話になってきますが、先程の入学式、C、Dクラスは少々騒がしく、Dに至っては寝ている者も居ました。あまり言いたくはありませんが、幼稚と言わざるを得ません。……と、こんな具合ですかね」

「……なるほど、面白い。まさか初日でそこまで至るとはな。明確な回答は控える。それで分かるだろう?」

 

 おっと、確証は無かったが、AからDのクラス分けについては予想通りの様だ。安心安心。……いや、だとしたら俺がBクラスで清隆がDクラスなのが気になるが、まあそこは帰りにでも聞こう。

 

「いいだろう。上級生のフロアに居た件は不問とする。それと、お前達、名前を教えろ」

「沙羅式千聖です」

「綾小路清隆」

「沙羅式に、綾小路だな。端末を確認してみろ」

 

 言われるがまま、清隆と共に自分の端末を確認する。丁度その時、入金を知らせる通知が鳴った。額は……百万。見れば、清隆にも同じ額が振り込まれていた。

 

 これは、流石に予想外だ。

 

「……えーっと、これはどういう?」

「なに、初日でそこまで辿り着いたお前達へのご褒美というやつだ」

「オレ、なんも言ってないんスけど」

「お前のことは少し前から知っていた。入試の点数を全て五十点で揃えた生徒だろう?」

「お前マジか?」

「偶然って怖いっすね」

 

 確信犯だ。こいつやってる。

 

「それに、もし本当に何も知らない生徒なら、態々連れ回すとは考えにくい」

「まあ、そうですね」

「おい、否定してくれ」

「遅いだろ、随分」

「そういうことだ。そのポイントについては、お前達の好きにしろ。先程も言ったが、ご褒美だ。それと……お前達、生徒会に興味はないか?」

「申し訳ありませんが」

「無いな」

「即答か。まあ良い。書記の席は空いている。気が変われば声をかけに来い。歓迎するぞ」

 

 そう言い残し、生徒会長はその場を去っていった。どうやら満足してもらえたらしい。

 

「……ま、とりあえず帰るか」

「そうだな。少し疲れた」

 

 ……そういえば、Dクラスで会った子と生徒会長って同じ苗字だな。兄妹とかかな? 

 

 






1話だから真面目な感じで進みましたが、これから途中にあった綾小路君と沙羅式が適当に話すことが多いと思います。

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