綾小路の友達   作:初期小路おもろすぎて

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綾小路清隆の独白

 

 

 ◇

 

 初めてあいつの事を認識したのは、オレが四、五歳程の時だったか。

 何故認識したかと聞かれれば、そいつだけ他とはかなり違っていたからだ。

 

 少なくとも、片手で腕立て伏せをしながら、もう片方の手で教本を持ちながら読んでいるやつを、オレはそれまで見た事がなかった。

 その様子があまりにも不思議で、思わず見つめてしまう。

 

 そんなオレに気がついたのか、そいつの方から声がかかる。

 

「何? なんか用?」

「……何をしている?」

 

 思わず、聞き返した。

 すると、そいつは腕立て伏せをしながら

 

「効率的なトレーニング。暇だったからやってる」

 

 そう言った。暇だったから。そんな理由で、こんな馬鹿げたトレーニングをするやつなんて見た事がない。

 正に、未知との遭遇。それまで感じたことのない様な強い興味がオレを襲った。

 

「お前もやるか? 中々悪くないぜ」

 

 人から何かを誘われる、というのは初めての経験だった。なにせ、ここに居る人間は自分のことで手一杯だ。他人に気をかけている余裕もなく、オレだって今回声をかけたのはたまたまだ。

 

 ただ、こいつには興味が湧いた。付き合ってみるのも一興か。

 

「……分かった。やってみよう」

「お、お前ノリ良いな。他のやつとは違う」

 

 それはこちらの台詞だ、そう言おうとしたところで、目の前に手が差し出された。

 思わず、手を差し出してきた奴の顔を見てしまう。

 

「沙羅式千聖だ。お前は?」

「……綾小路清隆」

「そうか。よろしく清隆」

 

 そう言いながら向けられた視線は、これまでの大人達から向けられるものや、同じカリキュラムをこなす子供から向けられるもの。そのどれにも当てはまらないものだった。

 

 そこで一つ、気がついた。

 そうか、こいつは。こいつは、自分があるんだ。

 他のやつらとも、ましてやオレとも違う。明確な自己、自分だけの価値観を持って、今を生きている。

 

 それが、その生き方が、今まで言われるがままに生きてきたオレからしたら、あまりにも羨ましくて。オレは────。

 

「────ああ、よろしく、千聖」

 

 オレは、そいつの手をとった。

 その手には少し汗があり、多少の不快感を身体は覚えたが、オレの心は、これからへの期待で胸が踊っていた。

 

 そして、その期待は間違っていなかった。

 千聖と出会ってからは、これまでの退屈が裏返るかの様な感覚だった。

 

 ある時はどちらかがどちらかに教えを乞い、ある時はその逆。またある時は対等な人間として高め合い、ある時は優劣をつけるために死に物狂いで相手を叩き潰す。

 

 これまでとは似ても似つかない、この白で塗りつぶされた空間に色が重なっていく様な、そんな感覚。

 

 一日一日が酷く長い、昨日も今日も明日も、何も変わらない平坦な日々から、何もかもが新鮮で、昨日も今日も明日も、毎日が一瞬で過ぎ去っていく様な日々に変わっていった。

 

 言い過ぎだ、と思うかもしれないが、当時のオレからすれば大袈裟でもなんでもない。文字通り、革命が起こった様な気がした。

 

 いつからだろうか。知識としては持っていた、友人という関係。それに憧れていた。いつか、肩を並べて日々を過ごせる様な、くだらない事を言い合える様な、そんな関係。

 

 あいつとの、千聖との関係は、正にそれだった。

 誰になんと言われようと関係ない。オレとあいつは、間違いなく友人なのだ。

 

 いや、友人という言葉すら生ぬるい。そう、オレとあいつは友人すら超えた関係、つまりは親友なのだ。絶対に、多分、間違いない。

 

 これで、あいつがオレのことをただの同期だ、とか思っていたらどうしようか。真面目に泣くかもしれない。

 ……まあ、それは一旦置いておこう。

 

 そんな日々を過ごしていたある日。唐突に、それが終わろうとしていた。

 

 オレ達が過ごしていた施設、ホワイトルーム。その稼働が中止となったのだ。

 父である綾小路篤臣はその対応に追われており、こちらにまで意識を割いている余裕はない。だからこそ、やつの元から離れるには、絶好のチャンスだった。

 

 あの男の執事である松雄も、オレ達の境遇を哀れみ、外へと出れるように手引きをしてくれている。このまま行けば、オレは少しの間ではあるがあの男の手から離れることが出来る。

 

 ……だが。

 千聖がどう思っているか、オレには分からない。あそこに居た時も、外に出たいという話をしていたことは無かった。

 

 だからこそ、もしかしたら。オレが外に出ようと誘ったところで、断られるかもしれない。

 もちろん、オレは俗世に強い興味を持っている。だが、それでも。千聖が一緒でないのなら、外に行ったところで意味はあるのだろうか。満足などできるのだろうか。

 

 ……いや、分かりきっている。満足なんてできない。隣で、肩を並べて歩けるあいつが居なければ意味はない。

 だからこそ、あいつが残ると言うのなら。あいつが、あの男の元に居ると言うのなら、オレも────。

 

 そんな覚悟を持ち、意を決して、あいつに聞いてみることにした。

 オレにとっては、これからを左右する、これまでで一番大事な問い。話し終わってから、少しの間ではあったが、あいつは顎に手を添えうんうんと唸っている。

 

 一秒が何倍にも引き伸ばされているような感覚を感じながら、あいつからの答えを待つ。そして、その時は訪れた。

 

「う〜ん、なんつーかさ。残りたい訳なくない? だってあそこ何もないじゃん。お前が居たからそこそこ楽しかったけど、そりゃ外に行けるんだったらそっちの方がいいよ」

 

 あいつは、当然だ、といった様子でそう話した。

 どうやら、要らない心配だった様だ。その言葉を聞き、安堵からかため息が零れた。

 

「何、もしかしてホントに外に出れるとか? ……なんてな、そんな訳ねぇか! ははっ! まあお前も夢を持てたってのは良かったよ。実現不可能というところに目を瞑ればな! がはは!」

「出れるぞ」

「……ん?」

「松雄が準備をしてくれていてな。お前が望むなら、オレたちを逃がしてくれるそうだ」

「……えーっと、マジ?」

「マジだ」

「ホァ?」

 

 そこで、これまで見てきた中で一番の間抜け面をあいつは晒していた。今思い出しても笑えてくる程に、最高の。

 

 そしてなんやかんやあり、オレたちは高度育成高等学校へと通うことになった。

 また、それに伴い、これからのカリキュラムで学ぶハズだった処世術などについても急遽学ぶことになったが……まあ、あいつには敵わなかった、とだけ言っておく。

 

 流石、オレの親友だ。

 

 

 

 

 

 そして当日。千聖と別のクラスになってしまった事実を知り、その日の気分は最悪なものになってしまった。

 初日から先が思いやられる展開だ……。

 






なんとも駆け足でしたが、まあ過去の振り返りなんてこんなものでしょう。本筋は高育に入ってからなので……。

初期小路を見てる感じ、本来の綾小路君は結構ユニークな性格をしていると思っています。ただ、それを塗り潰すような教育を施された、というだけで。なので、考え方を塗りつぶされる前に変な奴と会っていたら、綾小路君も変な奴のままなんじゃないかな、と思いました。

その結果がこれです。今回で分かったと思いますが、沙羅式君は結構バカです。一話のは大分繕ってますね。いつか壊れるんじゃないでしょうか(適当)



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