綾小路の友達 作:初期小路おもろすぎて
◇
さて、学校生活も二日目。だが、特にこれといって特筆すべきところも無い。
初回授業ということで殆どが説明のみであったし、先生達は想像していたよりずっとフレンドリーで過ごしやすかった。クラスメイト達も居眠りや私語は殆ど無く、真面目に説明を聞いていたし、特に心配は要らないだろう。
そのまま何事もなく時間は過ぎていき、気づけば昼休み。
クラスメイトはそれぞれ席を立ち、恐らくは食堂に向かうのだろう。
俺も座る場所が埋まってしまう前に向かおうか。そう思い席から立ち上がったタイミングで声がかかった。
「あ、沙羅式君。今からご飯?」
入学初日で殆どのクラスメイトと仲良くなったBクラスのリーダー的生徒。一之瀬帆波だ。
「そうですね。今から食堂に向かおうかと思っていましたが、どうかしましたか?」
「今からみんなで一緒に食堂に行こうって話してたんだけどさ、良かったらどうかな? 昨日の親睦会には来れなかったみたいだし。あ、もちろん先約があるなら無理にとは言わないよ。もし良かったらってだけだから」
ふむ、昼食のお誘いというやつか。確かに、昨日の放課後に開催された親睦会には行けなかった。二度も断ってしまうと付き合いの悪いやつ、と認識されてしまい、これからは誘われなくなってしまうかもしれない。
それに、クラスメイトの顔と名前はまだ一致していない人間の方が多い。ここは有難く、その誘いに乗らせてもらおう。
「なるほど、そういうことなら是非」
「ホント!? 良かった〜。ああは言ったけど、正直断られちゃったらちょっと寂しかったからさ! じゃ、早速行こ! みんなはもう行ってるから!」
「ええ、分かりました」
そう言って前を歩く一之瀬さんの後ろに着いていく。
クラスメイトと昼食を共にするとは、なんとも学生らしいではないか。怪しいところが複数あるというところを除けば良い学校だと言える。
「あ、そうだ。沙羅式君」
「どうかしましたか?」
「えっとさ、沙羅式君って他のクラスの生徒に仲の良い子って居る?」
「あー、はい。まあ居ますけど、それが何か?」
「にゃはは、前から思ってたんだけど、そんなに畏まらなくていいって! これから三年間同じクラスなんだし!」
「……そう? 分かった。ならそうしようかな」
「うんうん!」
ある程度口調を崩せば、彼女は満足そうに何回か頷いた。
おかしいな、俺の調べた限りでは、初対面からタメ口などで馴れ馴れしく接する人間は嫌われやすいという結論になったんだが。なんか不評だな、この喋り方。
……まあ、それ自体はこれから修正していこう。
「えーっと、それで。他のクラスに仲の良い子が居たら何かあるの?」
「あー……えっとね、それ自体は特に何かある訳じゃないんだ。ただ私が沙羅式君のこと知りたいなって思って聞いただけだから」
「なるほど。そういうことか」
なんと、彼女は自らこちらの事を知りたいと思ってくれたらしい。これが優しさ、というやつか。
「そーなの。他の子達とは昨日の間にある程度お話はできたんだけど、沙羅式君は放課後すぐにどこか行っちゃったじゃん? だから話す機会が無くてさ」
「あはは……それについては申し訳ないと思ってるよ。ちょっと調べたいことがあってね」
「調べたいこと?」
「うん。まあ個人的なことだから、気にしなくていいよ」
「そうなの?」
「そーなの」
その後、お互いの好きな物とか趣味だとか、他愛もない話をしていれば、段々と廊下を通る人の数が増えていく。恐らく、食堂に近づいているのだろう。
昨日も思ったことだが、やはりこの学校は広い。それなりの時間話していたと思うが、それでようやく食堂に着くか、といった具合だ。
もしかしたら、食堂へ行くより自炊して弁当を作った方が良いのかもしれない。……うん、明日はそうしてみよう。何事もやってみるのが大事だ。
「うーん……あ、居た居た。あっち、みんな席とってくれてたみたい!」
「そっか、助かるね。……お、颯と神崎だ」
Bクラスの団体の方に目を向ければ、今の所クラス内でよく話す二人を見つけた。しかし、颯はともかく神崎まで居るとは驚きだ。大勢で居るのはあまり得意でないないタイプに見えたんだが。
「よっ。千聖も来たか」
「まあ、そう何度も誘いを断るのは悪いと思ってね。タイミングは丁度良かったし。というか、僕からすれば神崎がこの場に居る方が意外だね。こういう大勢で居るのは苦手だと思ってたよ」
「ああ。それについては間違っていない。最初は柴田に強引に連れてこられたが、俺自身としても、こういったことには慣れた方がいいと思ってな。最終的に自分の意思で参加した」
「そっか。随分と真面目だね、神崎は」
「な〜。もっと楽に考えていいと思うけど」
「颯の方はもう少し真面目になった方がいいと思うよ。今日の先生の説明、少し寝そうになってたでしょ」
「うぐっ。痛いところ突いてくるな……」
……ふむ。どうやら他のみんなは先に注文は済ませている様だ。であれば、俺もさっさと頼んでこよう。
「じゃ、僕も何か頼んでくるよ」
「ああ」
「あいよ〜」
「沙羅式君、一緒に行こ〜」
「あ、ああうん。そうだね」
俺が席から離れたタイミングで、これから注文をしに行くらしい一之瀬さんが話しかけてきた。もちろん断る理由は無いので構わないのだが、颯。羨ましいものを見るような目で見てくるのはやめてくれ。気まずい。
「う〜ん、何頼もっかなぁ。沙羅式君は決めた?」
「そうだね……。ん?」
頼むものを決めるため、メニューを端から端まで舐めるように……とまではいかないが、よく見ていれば、一つ、気になるものがあった。
山菜定食だ。それ自体は特に不思議なところがある訳では無い。ただ、気になったのはその額。ゼロポイント、というのは引っかかった。
そういえば、昨日のコンビニやスーパーでもゼロポイントで購入できるものが置いてあった。
救済措置、の様なものだと思う。ポイントが無くなってしまった生徒に対する。
……ふむ、救済措置が必要な程、貰えるポイントが減る可能性がある、か。なるほど、なるべく節約しておいた方が良さそうだ。
今でさえ額は十万程。毎食の出費もそうだが、娯楽にも使うとなると、ポイントは足りなく……。あー、忘れてた。そういえば生徒会長から馬鹿みたいな額貰ったんだったな。
……ま、まあこれからの事を考えれば、節約の癖を付けておいて損はない。予定外の収益であったし、このポイントはなるべく使わない方針で行こう。うん。見なかったことにする。
「どうかした?」
どうやら、注文しない俺を不思議に思ったのか、一之瀬さんがこちらの顔を覗き込みながらそう聞いてくる。
うーん、これがあざといというやつか。しかし、どうにも不快感のようなものは感じない。これが、顔面偏差値の暴力。
「ああ、なんでもないよ。じゃあそうだな、俺はこの山菜定食を食べてみようかな」
「え、それゼロポイントのやつでしょ? あんまり美味しくないって噂聞くよ? ……もしかして、ポイントに困ってるとか? 少しなら貸してあげられるよ?」
「いやいや、ポイントに困ってるとかはないよ。単純に、味が気になったんだ。もしかしたらお世話になるかもしれないしね」
「……そっか。じゃあ私も食べてみよっかな〜」
「美味しくないって噂じゃ?」
「にゃはは、そう言われたら逆に気になっちゃうよね〜」
「ま、まあ止めはしないけど」
そんな会話をしながら、山菜定食を二つ分注文する。もちろん、二人前食べる訳じゃない。一之瀬さんの分だ。
提供までに、そこまで時間はかからなかった。出されたものは簡素というかなんというか。わざわざ好んで食す人は居ないだろうな、という印象を感じさせるものだった。
とはいえ、白米や味噌汁などは付いているので、定食としての形は成している。これがタダ、というのなら充分だろう。
「なんというか、簡素、だね」
一之瀬さんもそう呟いている。その感想が出るのも仕方ない。頼み直した方が良いと思うが、どうやら彼女にその気はなさそうだった。
クラスのところに戻り席に座れば、一之瀬さんは隣に腰掛ける。……違うんだ、颯。たまたま、成り行きでこうなっているだけなんだ。だからこっちをそんな目で見るのはやめてくれ
「いただきます」
「い、いただきます……」
若干の気まずさを感じながらも、添えられている山菜を一口。
……うん、まあ、これは。
「「普通、だね……」」
思わず反応が被る。だが、本当にそれしか形容ができない。良くも悪くも普通。可もなく不可もなく、また食べようと思えば食べれるような味だった。
だが、先程も言ったようにゼロポイントでこのクオリティのものが食べれるなら充分だろう。うん、ある程度はこれで過ごしても問題無さそうだ。
「う〜ん、私は嫌いじゃないかな。沙羅式君はどう?」
「うん、僕も嫌いではないよ。毎日これ、と言われると微妙な顔になるけど、一週間の内に何回か、くらいだったら全く問題はないかな」
「ね〜。これがゼロポイントかぁ。……ねぇ、沙羅式君」
「……何かな?」
会話の途中。ふと、真剣な顔になり一之瀬さんはこちらに視線を向けてきた。思わず食事の手を止め、彼女の話を聞く体制になる。
「食堂のこれとか、コンビニの無料商品とか。こういうのを見ると、やっぱり昨日沙羅式君が言ってた、貰えるポイントの減少、っていうのは間違いないと思うんだ」
「そうだね、あの時点では半信半疑だったけど、今は九割方合ってると思ってるよ」
「うん。これからのことを考えると、もしかしたら貰えるポイントがゼロになる、っていう可能性もありえると思ってる」
頷く。
ここは俺も同意見だ。可能性は恐らく低い。まともな学生であれば、そこまで評価を落とすことは殆どない、と思う。
だが、低いといっても可能性はある。警戒するに越したことはない。
「だから、ポイントはなるべく節約する必要がある。いざと言う時に引き出せる様に、クラス貯金のようなものを作っておく、っていうのもアリかな」
「アリ、だと思うよ。ただ、それは今やると反発のリスクがあるね。まだ実際に貰えるポイントが減った訳でもない。やるとしても来月、結果が出てからだろうね」
「……うん、私も同じ意見。にゃはは、やっぱり沙羅式君に相談して良かったよ。同じ意見って分かって安心した」
「あはは、信頼してもらえてるみたいだけど、僕はそこまで大した人間じゃないよ。そういう相談なら、そうだね……。神崎とか良いんじゃないかな?」
「あ、神崎君には昨日の内に相談してみたんだ。そしたら神崎君が、沙羅式君に相談してみたらどうか、って言ってたからさ。まあ、元々君には相談しようと思ってたんだけど」
「そっか、なるほどね」
う〜ん、少し困ったことになったな。
信頼してもらえるのは有難い、これは間違いなく本心だ。けど……正直言って、毎回こういう相談を持ちかけられるのはめんどくさい。彼女達には悪いが、俺はそこまでできた人間じゃない。自分が良ければ何でも良いと思っているタイプだ。
であれば、だ。これからは、昨日みたいな目立つ行為はやらない方がいいのかもしれない。気をつけよう。
◆
さて、放課後。今日は特にやることもない。このまま寮に帰る途中で明日の弁当用の食材を買って帰ろうか。
と考えていた時、配布された端末が震える。見れば、メッセージでは無く電話。清隆からだった。
「もしもし? どうかしたか?」
『その、なんだ。今から暇か?』
「特に予定はないけど」
『もし良かったらでいいんだが、部活動の説明会に行かないか?』
「部活……。ああ、今日の昼のやつか」
昼休みの放送で、確か五時から体育館で説明会、とか言ってたな。
意外だ。まさか清隆が部活に興味を持っているとは。
しかし、どうするか。正直俺は部活動に興味も無ければ入る気もない。う〜ん……清隆には悪いが、ここは断ろう。
「悪いな、部活に興味はないんだ」
『そ、そうか。……そうか』
「というか、意外だな。お前部活に興味あったのか」
『いや、それについてはあまり興味はない。今の所入る気も無いしな』
「? だったらなんでだ?」
『ま、まあ良いだろ。そういう気分だったんだ』
「……そうか。深くは聞かん」
『……そうしてくれ』
「あ、そんな友達ができなかった清隆君に提案だ」
『おい』
「俺は初の試みとして弁当を作ろうと思うんだ」
『ほう、手作りというやつか』
「ああ、そこでだ。お前も弁当を作らないか?」
『俺がか?』
「そうだ。勝負といこうぜ、清隆。どっちが弁当を上手く作れるか」
『……いいだろう。条件は?』
「特にない。常識の範囲内のポイントで作ってくれ」
『分かった。明日でいいか?』
「もちろん。じゃ、また明日」
『ああ』
そこまで話して、通話を切る。
よし、これで審査員として誰か適当な人を呼べばあいつも人と話す機会になるだろ。あいつ見た目は悪くないのになぁ、テンションがちょっと変だから残念なんだよな。勿体ねぇ。
ま、勝負は勝負だ。負ける気はさらさら無い。早速寮に帰って練習だ。
「千聖〜、部活の説明会行くか〜?」
電話を終えたタイミング。教室の入口の方でクラスメイトと話していた颯から声をかけられる。
有難い誘いではあるのだが、先程清隆に言った様に部活に興味は無い。それに、清隆との勝負で手を抜く訳にもいかないのでな。悪いが断らせてもらおう。
「悪いね、今日は帰るよ」
「そか。じゃ、また明日な〜」
「うん、また明日」
そう言って、手をヒラヒラと振りながら颯は去っていく。
さて、俺もそろそろ帰ろうか。そう考えたところで、今度は後ろから肩を叩かれる。
「や。良かったら一緒に帰らない?」
一之瀬さんだ。正直意外な人間だった。彼女なら部活動の説明会に顔を出すのではないかと思っていたが……。
「いいけど、説明会には行かなくていいのかな?」
「いいのいいの! 今の所は部活に入るつもりはないから。他の子達は説明会に行くらしいから、今日一人なんだ〜」
「そう? まあ、そういうことならいいんだけど。じゃ、行こうか」
「うん」
そうして、彼女と二人、肩を並べて歩き出す。そこそこの人数が説明会に向かっているのだろう。昨日の帰り道より、人は少なかった。
「あ、そうだ。途中でスーパーに寄りたいんだけど、良いかな?」
「もちろん大丈夫だけど、何か買うの?」
「うん。明日のお弁当の食材を買っておこうかなって」
「え、沙羅式君って自炊するの?」
「いや、した事はないんだ。やってみようかなって思っただけ」
「へぇ〜」
一先ず許可はとれた為、買い物の為に最初に目に付いたスーパーへと入る。
う〜ん、とは言っても俺にこれといった知識はない。弁当は彩りが必要だ、というが……。美味しければいいんじゃないのか? 難しい。ここは一之瀬さんにも意見を仰いでみよう。
「一之瀬さん」
「どしたのー?」
「お弁当での定番メニューって、何かある?」
「定番かぁ。う〜ん、まあ卵焼きとかはよく入ってると思うよ?」
「卵焼き、なるほど」
「後はそうだなぁ〜。煮物とか? 家のお弁当にはよくほうれん草のおひたしとか入ってたよ。あ、あとからあげ! お弁当に入ってると嬉しかったな〜」
「ふむふむ。じゃ、そこら辺を買っておこうかな」
……一之瀬さんが居てくれなかったらちょっと危なかったな。思ったよりも俺は常識がないらしい。やっぱり入学前二週間程度じゃ常識を学びきるのには足りなかったか。
「……よし、こんな感じかな。あ、一之瀬さんアイス食べる? 付き合って貰ったお礼ってことで、ここは奢るよ」
「ホントに!? じゃ、お言葉に甘えちゃおっかな〜」
彼女が選んだアイスも加えて、材料込み込みで大体千五百ポイント程。まあこんなものか。ほうれん草って思ってたより高いんだね。
会計を済ませ、袋に入っていたアイスを二つ。一之瀬さんと俺の分を取り出して、彼女が選んだ方を手渡す。
「わーい! ありがとね!」
「いいよいいよ。今日は助かったし。さっきも言ったけどお礼ってことで」
手に持ったアイスが溶けないように、少し急いで食べながら、その後は何処かに寄るでもなく、他愛もない会話をしながら寮へと戻った。
自室に戻ってからは料理の練習、となった訳だが……。
「むっず! なんだこれ!?」
大変難しかった。やはり、初めてやることはどうしても上手くできない。才能が無いのは分かっていたが、ここまで難しいとは。
しかし、やらない訳にはいかない。清隆には負けられないのだ。
そんな決意を持ち、夜まで練習を重ね、翌日。対決の日となった。
時間は昼休み、学校の屋上。審査員は一之瀬さんにお願いした。彼女は既に俺達両方の弁当を食べ終わっており、結果を悩んでいる様だった。
緊張が走る。頬を汗が伝う。一秒が何倍にも引き伸ばされているような感覚を感じながら、待つ。
そして、その一言が告げられる。
「う〜ん……。よし、決めた! 今回の勝者は……沙羅式君!」
結果は、俺の勝利。
「うおおおお!!!!! 勝ったァァァァァ!!!!!!」
思わず叫び声が出る。めちゃくちゃうるさいと思う。しかし、許して欲しい。それだけ嬉しいのだ。
いやマジで嬉しい。なんつーか久しぶりに勝った気がする。こいつ強すぎんだよな、初見以外の分野じゃほぼ勝てない。だからこそ嬉しい。勝ったぞ俺は!!!!!!
「俺の勝ちだ清隆ァ! どうだ見たかおい!!」
「くそっ! 何故負けた!? 昨日は帰った後寝る前までずっと料理の練習をしていたんだが!?」
「バカめお前! 俺はお前が部活の説明会に行ってる間にも練習してたんたよ! そこが俺とお前の違いだバーカ!!!」
「お前煽り方が子供すぎるぞ!?」
「いーんだよお前にだったら。他の人にはやら────」
そこで、ふと思い出す。
そういえば、この場には俺と清隆以外にも人間が、審査員を頼んだ一之瀬さんが居た、ハズ。
ギギギ、と音がなりそうなくらいぎこちなかったと思う。しかし、そんな事を気にする余裕も無く、恐らく一之瀬さんが居る方に顔を向けた。
「にゃはは。沙羅式君と綾小路君って仲良いんだね」
「──ッスー。……忘れて下さい」
やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ一之瀬さん
「千聖……」
やめてくれ。そんな憐れむ様な感じで肩に手を置かないでくれ清隆。
……料理は当分いいかな。ははっ。
あー、しんど……。
一之瀬さんと仲良く()なれたみたいですね、良かったです。