綾小路の友達   作:初期小路おもろすぎて

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4.

 

 

 ◇

 

「それは……どういうつもりだ?」

 

 驚いた様子だったのも束の間、神崎はこちらへと懐疑的な視線を向けてくる。

 ……ふむ、どうやら誤解されている様だ。そうだな、さっきのは俺の言い方が悪かったし、一先ずその誤解をとくことから始めよう。

 

「ああ、別に協力しないって訳でもないよ? クラス全体で決めたことには従うし、何か僕に協力できることがあったらしよう。裏で僕の考えを伝えることも構わないさ」

「……。なるほど、あくまでも表立って行動することはしない、ということか」

「そうなるね。正直言うと、僕目立つの嫌いだからさ。クラスメイトにはもう仕方ないで割り切ってるけど、他のクラスとかと何かあった時、僕の名前は出さないでほしいんだよね。その方が楽だから」

「あ〜そっか。うん、分かった。にゃはは、一先ず安心したよ。もしかしたら見限られたかも〜って思っちゃった」

「あはは、そんな訳ないさ。Bクラスは居心地が良いからね。……さて、とりあえず、今後どうするかはある程度話し合ってしまおうか」

「ああ、そうだな」

「うん。今のうちに方針くらいは決めておきたいね」

 

 話題を切り替えた先は、今後について。

 これからAクラスを目指すのであれば、とりあえずみんなで協力して頑張ろう。などという楽観的な考え方はできない。

 これからクラスをどう運用していくのか、という考えが必要になる。

 

 もちろん、Aクラスを目指さないというのであれば、こんな会議も全く必要が無いんだが……態々こちらに話を振ってきた時点で、それはないだろう。

 

 であればだ。どの様に上を目指すのか、ということが重要になってくる。

 

「質問。二人はみんなでAクラスを目指したい?」

「可能であるなら、それに越したことはないだろう」

「うん。私も、クラスメイトみんなでAクラスに上がって、みんなで卒業したいかな」

「……なるほど」

 

 意思は固そうだ。このクラスのリーダーである二人がその考え方なら、これはBクラス全体の方針ということになる。

 犠牲を出さず最も優秀な者に、か。随分甘い考えだが、神崎も言っていた様に、それができるに越したことはない。

 

 仕方ない。犠牲は出さない方向で考えよう。……となると、これから出てくるであろう退学者をどう対処するかも重要だ。

 退学者云々については放課後、星之宮先生に聞きに行ってみようか。他に気になることもある。

 

 さて、方針は決まった。後はクラスの運用方法だ。

 正直言ってしまうと、このクラスは他クラスと争う事を想定した場合、弱い。

 

 もちろん成績は優秀だ。良い奴らも多いし、協調性についても問題ないだろう。……だが、それだけだ。

 よく言えばバランスの良いチーム、悪く言えばなんの取り柄もないチーム。それが現状のBクラス。

 

 そして何より、リーダーである一之瀬帆波の存在が大きい。

 ここ一ヶ月間で分かったが、彼女は裏表のない素晴らしい程の善人だ。本来であれば褒められるべきその性質も、他者と争うという場面では寧ろ足枷になってしまうケースが多い。

 

 だからこそ、彼女はリーダーとして相応しくない。しかし、かと言って現状Bクラスを彼女程纏められる人間は居ない。

 

 なんとも難しい問題だ。

 ……まあ、他クラスの現状に詳しくない今現在の評価ではある。もしかしたら、そんな彼らでも問題なく対処できる程度のクラスである可能性も無くはない。

 

 ああいや、ダメだな。Dクラスに清隆が居る時点でダメだ。あいつと敵になった場合、このクラスじゃ太刀打ちできない。

 なんであいつDクラスなんだマジで。なんで俺と同じクラスじゃねぇんだよあいつふざけやがって。

 

 おっと失礼。まあとにかく、今現状でそこまで後のことを考える必要はない。とりあえず、目下の問題である中間試験だろう。

 

「よし、まあBクラスの方針は『脱落者を出さずにAクラスを目指す』で良いわけだけど、中間試験をどうしようか」

「それについてだが、クラス全体で勉強会を行うべきだと考えている」

「その心は?」

「単純だが、CPtの為だ。現状で低い点数を取ってしまっている生徒を放っておけば、被害を被るのは俺たちだ。だからこそ、成績下位者の点数を底上げした方がいいと考えた。それに、教えるという行為は効率的な復習方法でもある。この辺りを考慮して、クラス全体での勉強会は合理的だ」

「そうだね。……一之瀬さんさえ良ければ、この案はもう決定でもいいと思うんだけど、どうかな?」

「うん、良いと思うよ。それに、まだクラスに馴染めていない子も居るし、交流の場って意味でも勉強会は良い案だと思う」

「よし、じゃあ中間試験の対策はそれと……あと、過去問だね」

「過去問?」

「うん。さっき色々考えてたけど、やっぱり過去問があった方が効率が良いと思うんだ。出題傾向もある程度把握できるしね。多分、先輩たちに頼めばくれる人は居ると思うよ」

「なるほど。ならそれもだな」

「……ま、正直中間試験についてはこの位でいいと思うよ。別にみんなの成績が悪かった訳じゃない。普通に勉強すれば点数は取れると思うし、過去問があるなら尚更だ」

「そうだね〜。っと、そうだ。クラス内貯金についてなんたけど」

「ああ、それもあったね。……うん、やってもいいんじゃないかな? 一先ず、みんなに話してみてからにはなるけど、この学校のシステムが明かされて、クラス間での対立も視野に入ってきたんだ。乗ってくれると思うよ」

「そうだな。実行するなら今が丁度いい」

 

 と、そこまで話したタイミングで鐘が鳴る。

 一限目の予鈴だ。それなりに時間はあったのだが、どうやらもう使ってしまったらしい。

 しかし、話し合いについては一段落ついた。特に問題は無いだろう。

 

「予鈴だね。そろそろ戻ろうか」

「ああ。クラスの皆についてはこちらから話しておく。前に立って話すのも嫌いだろう?」

「その通り。頼むよ、神崎、一之瀬さん」

「もちろんだ」

「……む〜」

 

 神崎は了承を示してくれたが、一之瀬さんがフグみたいに頬を膨らませ、明らかに不満気な表情だ。

 可愛らしい、とは思うが。何か機嫌を損ねる様なことでもあったのだろうか。

 

 それとなく、神崎に視線を向けるが、首を振るだけ。

 

「えーっと、どうかした? 一之瀬さん」

「むっ……それ、それだよ紗羅式君!」

「それ?」

「呼び方! 神崎君だけ呼び捨てで私にはさん付けじゃん!」

「あ、あ〜」

 

 なるほどそれか。……いや分かるか!? そんなこと気にしてると思わないだろ! 心配して損したわ! 

 見て! 神崎もちょっと驚いてるよ! そんなことか、みたいな顔してるよ! 

 

 いや、まあ別に呼び方にこだわりがある訳でもないし、本人が望むなら呼び捨てにしようか。

 

「分かったよ、一之瀬」

「うんうん、それで良いんだよ紗羅式君」

「……」

「……」

 

 もう一度、神崎の方を見る。女の子って難しいな。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 そして、放課後。

 どうやら今日から勉強会を始める様で、HRが終わったあとは皆でどこかへ行ってしまった。

 

 俺はと言えば、協力すると言ったその日から既に不参加である。

 もちろん許可はとったし、納得もして貰えたが、それはそれとして申し訳ないことをした。後日何かで返させてもらおう。

 

 と、そんなことを考えていれば目的地に着いた。ノックを数度し、名前を名乗ってからその扉を開ける。

 

「すみません、星之宮先生はいらっしゃいますか?」

 

 やってきたのは職員室だ。もう少しすれば定期考査週間が始まってしまうため、職員室に入れるのは今日くらいなのだ。

 だから、別に勉強会を断りたかっただとか、そういったことはないんだ。だから許してくれ……。

 

「はいは〜い。あれ、紗羅式君だね、どうかした?」

 

 呼びかけてから程なくして、奥の方から星之宮先生が姿を表す。

 飲み物を手に持っており、休憩中だったことが分かる。申し訳ないことをしてしまった。出直した方が良いだろうか。

 

「えーと、休憩中でしたか? であれば後日出直しますが……」

「いやいや、確かに休憩中ではあったけどやること無かったしね、気にしなくていいよ〜」

「そうでしたか? であれば、遠慮なく」

「うん。それで、どうかしたの〜?」

「実は、少し質問がありまして」

「そうなの? ん〜どうする? 場所は変えた方が良いかな?」

「そうしていただければ」

「おっけ〜。じゃあちょっと来てね〜」

 

 そう言って職員室の外に出ていった先生の後を追う。然程時間はかからず、数十秒も歩けばその場所に着いた。

 扉を無造作に開け、中に入っていく先生の後にこれまた着いて入っていけば、中にあったのは簡素な長机と椅子が二つ。

 

 促されるまま扉側の椅子に座り、反対側に座った星之宮先生と向かい合う。

 

「さ、ここなら人の目を気にしなくていいよ。何が聞きたいの?」

「ああ、今後を見据えて聞いておこうと思いまして。退学処分を取り消す為に使用するにはどれほどのPPtが必要なのか、というのをお聞きしたくて」

「ふむふむ、なるほどねぇ。う〜ん、難しいね。状況にもよるんだけど……PPtについては、多分二千万が目安かな。場合によってはCPtも必要だし、もしかしたらPPtも上乗せされるかも」

「ふむ、なるほど。一先ず二千万が目安、と。ありがとうございます」

「それで〜? まさかそれだけ、って訳じゃないでしょ?」

「ええ。まだ質問はありまして。自分が望むクラスへの異動で使用するポイントについてお聞きしたく」

「……ふ〜ん」

 

 おっと、俺を見る目が変わった。

 興味、好奇心から……警戒、不安か? 

 

 ああ、なるほど。俺が別のクラスへの異動を希望する可能性か。

 

「ご心配なく。クラスの異動は考えていませんよ」

「今のところは、でしょ?」

 

 おっと、中々鋭い。

 

「あはは、まあそれはさておき、どうなんです? 何ポイントかかりますか?」

「……ま、いいけど。でも、出来るのが当たり前、みたいに言うね〜。そんなこと出来ません! って言われたらどうするの?」

「有り得ませんよ。先生本人が仰っていたじゃないですか。ポイントで買えないものはこの学校にないって」

「優秀な生徒、っていうのも行きすぎると考えものだね〜。降参。そうだね、クラス異動に必要なポイントは二千万ポイント。退学を回避する為に必要なポイントと同じ」

「───なるほど」

 

 ふ〜む、となると……Aクラスに確実に行くには八千万(・・・)くらいか。

 あ〜……う〜ん。まあ行けないこともない、か。やるかどうかは別として、頭に入れておこうか。

 

 よし、聞きたいことはこの位かな。うん、悪くない。

 

「ありがとうございました。聞きたいことは以上です」

「そう? 力になれたなら良かった。……ねぇ、一つ聞いていい?」

「構いませんよ」

「君はさ、Aクラスを目指すつもりはある?」

「いえ、別に」

 

 正直言って、俺がAクラスで卒業するメリットはない。どのクラスで卒業しようが、結局行き着く先は決まっている。

 

 であれば。俺がこの学校でやることは決まっている。

 

「なら、君はここで何がしたいの?」

「何も。出来ることなら何もしたくありません。今こうして動いてるのは後々の為ですので」

「……そう、分かった。ごめんね〜? 変なこと聞いちゃって」

「お気になさらず。では、僕はこれで失礼します。今日はありがとうございました」

「はいは〜い。何かあればまた来てね〜」

 

 ヒラヒラと手を振ってくれる星之宮先生にお辞儀をしてから部屋を出る。聞きたいことは聞けた。なら次……ああ、いや。別にいいか。

 

 過去問についても今日の内に動いてしまおうと思ったが、そこら辺は一之瀬や神崎がどうにかしてくれるだろ。

 

 となると、今日はもうやることはないな。

 言うだけ言って今日は帰るか。

 

 一応人目に付かない場所へと移動してから端末を操作し、一番上にあった連絡先へと電話をかける。

 

『───もしもし?』

「よ、悪ぃな急に電話して。今大丈夫か? 清隆」

『構わないぞ。どうかしたか?』

「ああ、思退学回避に必要なポイントと、クラス異動に必要なポイント。ここら辺を聞いてきたから一応共有しておこうと思ってな」

『そういうことか。それで、どうだったんだ?』

「どっちも目安のポイントは同じ。大体二千万だ。退学についてはここから多少上乗せや、CPtも必要になるかもしれないが、クラス異動については二千万で固定なハズだ」

『なるほど。……なら、一先ずそれを目標にするか』

「ああ。俺としては、八千万までいければ御の字だ。……で、そっちはどうだ? 何かあったか?」

『そうだな……。早くも内部分裂の危機、と言ったところか』

「はっや」

 

 内部分裂て。まだ入学してから一ヶ月程度だぞ? どんだけ仲悪いんだよDクラス。

 

「まいいや。なんかあったら相談しろよ。バカにするから」

『教えたくなくなったが……。分かった。相談はさせてもらう』

「おう。じゃ、急に連絡して悪かったな」

『構わない。また学校で』

「うい」

 

 そこで通話を終わらせ、端末をポケットにしまう。

 

 にしても、改めて特殊な学校に来てしまったものだと思う。

 清隆は随分と楽しそうだが、俺からすれば正直困る。退屈しないのは良いが、面倒臭いことに変わりはない。できることなら何事もなく卒業させて欲しいが……同学年に清隆が居る時点で難しいだろう。

 

 ……ま、なるようになるだろ。そんな事より、とりあえず今日のご飯をどうするかだ。

 和食、イタリアン、中華─────。中華、アリだ。

 

 よし、今日の夜は中華にしよう。

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