デスゲーム99回クリアRTA   作:黒瓜阿礼

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78.5回目:ウルフ・コンフリクト(裏)

 その女が現れたのは、ゲーム参加の迎えが来るまで暇だったので散歩に出かけた夜だった。

 贔屓のコンビニで7段アイスを購入し、ご機嫌だった時に声をかけてきたのだ

 

「こんばんは、百合さん」

 

 正直に言えば、ちょっとビックリした。

 足音もなければ、気配もしないのに、自分の目に映ってはいる

 

 幽霊かと思った。ちょっと怖かった

 

尸狼(シロウ)と申します。先日のゲームでもお会いしましたね」

 

 会った記憶はない

 

 白と黒が入り混じった名前の通りに狼のような髪をした女だ。

 身長は高いが正面戦闘でも勝つのは自分だろう、と百合は癖で戦力差を測る

 

 警戒を緩めず、百合はどうやって自分を突き止めたのか尋ねた

 

「少し特殊なルートを使いました」

 説明してくれそうな声色ではなかった

 

「今日は取引の提案をしに来たのです」

 その代わりにあった言葉がこれだった

 

 提案を要約すると、尸狼の率いる<密会>と呼ばれる組織への入会についてだった

 

 <密会>はプレイヤーたちがそれぞれ持っている独自技術を集め、洗練したものをグループ外のプレイヤーに教育という形で提供することで界隈の人材を支配することを目的としている

 

 百合が入会して殺人技術を提供すれば、引き換えに技術の提供があると持ちかけてきた。

 しかし、ご高説の端々(はしばし)に殺人鬼である親友たちへの嫌悪が見え隠れしていたのを百合は見逃さなかった

 

 同じ殺人鬼である百合に声をかけたのも、クリア回数が現役最多である以外に大した理由はないのだろう。

 殺人技術は自らの親友の方が何枚も上手であることを百合は知っていた

 

「いやです、かえります」

 満足に返事も聞かないうちに、その場を去った

 

 百合はイライラするために散歩していたわけではないのだ。

 親友へ尸狼についての愚痴が混じった情報共有のチャットを送って、エージェントとの待ち合わせ場所へ向かった

 

 

 

 

 ストレスは女を追っ払った直後のゲームで発散できたので、百合はしばらくの間、そんなことがあったのも忘れていた

 

 事態が動き始めたのは百合の仲間である萌黄(モエギ)に、<キャンドルウッズ>で弟子入りしていた櫛枝(クシエダ)ちゃんから、あるプレイヤーの動向を聞いてからだった。

 先日やった伽羅(キャラ)への報告に、代わりに応えてくれた形である

 

 プレイヤーネームは<幽鬼>。

 伽羅が珍しく殺さなかった相手であり、犬猿の仲でもある。

 百合は会ったことがないが、見た目がよく似ているらしい

 

 70回オーバーの高ランクプレイヤーであり、近接戦闘もいけるそうだが、これだけなら特に危険視する理由は見つからない。

 問題は彼女が櫛枝ちゃんに<密会>へ参加しないかと勧誘したことにある

 

 これは百合に気取られずに接近できるような技術を持つプレイヤーの集団に、半ば敵対関係にあるプレイヤーが参戦しているということである。

 欲しい人材は何が何でも口説き落とすという評判の尸狼が、百合を勧誘する時だけ、あっさりと引き下がったのも幽鬼の参戦が理由かもしれない

 

 それ(すなわ)ち、幽鬼は百合と同等クラスの戦力になるということだ。

 伽羅一派――特に百合は、将来的に邪魔になる素質を持ったプレイヤーは殺害しておくべし、という風潮を界隈に生み出した

 

 <密会>も、それに沿()った行動を取って来ると考えるべきだ。

 何か対策を打たなければゲーム内はもちろん、ゲームの外でも攻撃を受けるだろう

 

「連絡ありがとう。皆は家にいる?」

『あ、はい! 何か伝言ですか?』

「ちょっとマズい状況かもしれないから、全員で話し合いたい」

 

 百合は「今から向かう」とだけ付け加えて電話を終わらせる。

 元々、今日は伽羅家へ遊びに行く予定だった。

 持っていたカフェの箱を中身が崩れないように抱え直し、地面を蹴った

 

 

 

 

 いつもは殺した後の処理について話し合うことが多いが、今回は違う。

 どう殺すのか話し合うことになった。

 生理的欲求に従って殺しをしてきた一派にとっては異例なことである

 

 百合のlお気に入りのカフェで買ったプリンをつつきながら、あれこれおしゃべりを楽しむついでに結論を出した

 

 効率は求めず、楽しいやり方で殺そう。

 イラつく相手を殺す時は、それが一番である。

 結局いつもとやることは変わらなかった

 

 どうせならパーっと賞金を使って派手にやろう、という戦略が採択される

 

「銃って買えるんですっけ?」

 派手、と聞いて火薬を思い浮かべた百合が発言した

 

「普段ゲームで使うような拳銃だったら毛糸(ケイト)さんというプレイヤーに聞けますよ」

 自らも弟子を抱えるようになって、一派の中で一番の社交性を身につけた萌黄が言い添える

 

「じゃあデートしちゃおっか」

 伽羅は自らの頭脳の素早い回転を咀嚼することなく発言するのが常だった

 

「デートですか……?」

 萌黄が反応する

 

「うん。最近ごろつきが銃持って入ってきたから、そいつら殺そう」

 最近、速さを売りにした雑な殺し屋が外国から入ってきていた

 

 その殺し屋たちを殺して銃を奪ってしまおう、というのが伽羅の提案だ。

 この場にいる誰かと遊びに行くことを伽羅は『デート』と言う

 

「いいね。僕は賛成」

 両腕に刺青を入れたプレイヤー<紫苑(シオン)>がコロッケを頬張るついでに言った

 

「…」

 百合のイタズラで延々と倒置法で縄文時代の話を聞かされ、イライラが抜けきらない日澄(ヒズミ)も無言の肯定を返す

 

「どこにいるんだろ。適当に依頼かけて誘き出せばいっか」

 百合が自問自答する。

 その答え以外に案も出なかったので、話は日程を決める段階に移った

 

 

 

 

 隣県の市議会議員の秘書たちを狙わせることになった

 

 詳しく知っている街ではないが、トンズラこきやすい立地で狩ることにした。

 殺しても議員本人ほどニュースにはならなくて、恨みを買っていても不思議ではなさそうな人選をしたつもりだ

 

 決行は当然だが夜にした。

 接待帰りで疲れているところなら狙いやすいと説明を受けたので、それを了承した形である

 

 一派は決行場所の近くで萌黄に調達してもらった拳銃を持って待機する。

 比較的威力が低い銃ではあるが、ゲームで採用されていることから分かるように人を殺す威力は十分にある

 

 住宅街での殺しの依頼にしたので、殺し屋たちは目立ってしまう防弾チョッキなどを着用していないはずだから、奇襲をかければ数分で全滅させられるだろう

 

 一般人が近くにいるのに銃を持ち出すことは考えにくい、という指摘があった。

 しかし伽羅曰く、隠滅しやすいように車に積んだままにしている場合が多いとのことだった

 

――カシャン!

 

 消音器に抑えられた銃声がベッドタウンに何度か響いた

 

 死体運びは殺し屋たちの乗ってきた車を使わせてもらうとしよう

 

 奪った銃は櫛枝ちゃんの運転してきたミニバンに積めたので、回収は容易だった。

 伝統派の殺し屋相手だったら、こうはいかなかっただろう

 

 

 

 

 いつも通りに死体を隠して伽羅家のあるマンションに向かう。

 あとは銃を持って<密会>を襲撃すれば万事解決だ

 

「そういえば、どうやって殺しに行くんですか?」

 信号に捕まった櫛枝ちゃんが眠気覚ましに質問した

 

 車内に動揺が広がった。

 そんなこと誰も思いついていなかったのである

 

「やばい……どうすっかな」

 

 尸狼から<密会>の本拠地を聞いていれば、それで話は済んだが聞いていない。

 やったこともない特定作業をする必要がある

 

 エージェントに頼んでも望みは薄いだろう

 

 ゲームでは容赦なく殺してくるくせに、ゲーム外では嘘のように手厚い保護をプレイヤーに受けさせてくれる。

 プライバシーの保護も重厚だ

 

 そのため、尸狼が百合に接触できたのは、ちょっと信じられないことなのだ

 

「あの、お気を悪くされたら申し訳ないんですが……」

 またも櫛枝がファインプレーをしてくれた

 

「プレイヤーの方って、何かしら事件を起こしてる方が多いじゃないですか。ニュースを調べたら出てきたりしないでしょうか……」

 自信なさげな態度とは裏腹に、彼女の功績は多大なものだった

 

「それだ! プレイヤーネームは本名もじってるからイケるよ!」

 興奮して早口になった百合が車の外にも漏れそうなデカい声で喜びをあらわにした

 

 総出でネット検索をかける。

 「尸」は人名に使えない漢字だと萌黄が教えてくれたので、人名漢字である「狼」と読みである「シロウ」で検索した

 

 数分後、サッカーチームのコーチがボコられたニュースが見つかった。

 匿名掲示板で犯人の本名が晒されている

 

 その苗字に百合は見覚えがあった。

 ここから車で何十分か移動すると、その苗字を冠した会社がゴロゴロあるのだ

 

「ぃやったぁ〜〜〜!!! これで殺せるーーー!!!」

 

 車が伽羅家についてからも数十分間スマホに齧り付いていた百合たちは、解放感にしびれた

 

 ここまで分かれば、あとは()で探す

 

 <キャンドルウッズ>だけでプレイヤーを引退し、今は伽羅家で使用人をやっている樺子(カバネ)なら顔は割れていないだろう。

 彼女に任せればよい

 

 企業グループだけあって、お偉いさんも多いので同姓の表札はいくつか見つかるだろうから、あとは変装して張り込めばチェックメイトだ

 

 その間に百合は闇市で()()()()を購入してくる。

 法律を守って手に入れたかったが、年齢制限に引っかかってしまったのだ

 

 

 

 

 望遠鏡を覗きながらの張り込みに数時間。

 チャットルームに樺子から報告が上がった。

 ついに尸狼が家に入っていくところを捉えたのだ

 

 決行は今夜だ。

 適当な空き地に集合して、銃を装備した伽羅たちに()()()()の荷台に乗り込んでもらう

 

 運転は無免許の百合だ。

 普通免許は持っているので致命的な事故は、多分、きっと起こさずに済むだろう

 

 ぶっちゃけノリでやっている。

 普段から怒りで人を殺すような少女がデカい車の運転を我慢できるわけないのだ

 

 アクセルを踏むこと数分、モダンな建物が運転席のフロントガラスに映った。

 百合はグループ通話に向かって(とき)の声を上げる

 

 前向きに突っ込むと衝撃で運転者が気絶する可能性があるとアニメでやっていたので、荷台の方からバックで壁に向かってアクセルを踏んだ

 

――ベキベキベキベキ!

 

 バック走しながら適当にハンドルを切って家の壁を粉々にする。

 伽羅たちから運転が荒い、とクレームが飛んできたので百合は庭先にトラックを違法駐車した

 

 トラックの荷台を開け、銃撃部隊の参上だ。

 尸狼邸に銃声と空薬莢が床を転がる音が響き渡った

 

「あはっ、テレビゲームみたいだ!」

 マシンガンの強烈な反動で伽羅の機嫌は直ったようだ。

 撃っていない百合まで楽しくなってくる

 

「はははははは!!!!!!」

 紫苑は小柄な体躯の全体重をかけて銃のリコイルに逆らい、トリガーハッピーしていた

 

「…!」

 日澄の笑顔を百合は初めて見た。普段から笑わせてやりたいな、と思う

 

 リロードなんて練習していないので、ワンマガジン撃ち切ったら銃は辞めた。

 第2ステージは接近戦だ

 

 家具が少なかったのか、暴れた割には瓦礫が少なくて歩きやすそうだ。

 伽羅一派は邸宅内に土足で雪崩(なだ)れ込んだ

 

 4つの死体が見つかった。

 駆け付けてくるだろう警察に<防腐処理>の綿を見られるとマズいので、脱出用のミニバンのトランクへ押し込んだ

 

 事前の調査によれば、これで残っているのは尸狼と幽鬼の2人だけだ

 

『尸狼と幽鬼が逃げています! 車です!』

 周囲の索敵を頼んでいた樺子がグループ通話に向かって叫んだ

 

 樺子が叫び終わらないうちに、萌黄がミニバンを邸宅の玄関に横付けした

 

「行きましょう!」

 何だか物足りなかった百合は無傷の古い本が落ちていたのでいただくことにした。

 けっこうくさい

 

『山の方に向かっています! 信号無視です、信号無視!』

 樺子から続けて報告があった。

 慌てているが、伝えるべき情報はしっかり伝えてくれるので、これは可愛げだった

 

「あのボロ小屋か?」

 紫苑が行き先を予想する

 

「ナビに登録しておいてよかった〜!」

 できる萌黄を皆んなでチヤホヤした。

 こういう時、天井に余裕があれば胴上げするのが一派のお約束になりつつある。

 百合が自分にやるように無理強いしたのが始まりだ

 

 山道をゴトゴト走った先に目的地の小屋はあった

 

 残っている銃を全部使い、追いついてきた樺子も一緒に伽羅一派で総攻撃をした!

 

――バババババババ!!!!!!!

 

 撃ち尽くしたが、殺気は未だに2人分残っている

 

「は〜〜〜」

 伽羅が満足げな溜め息を吐いた

 

 みんな疲れているようだ。

 屋内戦の一番槍は余力のある百合が頂くことになるだろう

 

 百合はイタズラを思いつく。

 自らのエージェントに裏口座の金で隠蔽処理を頼むと同時に、()()()()()()()()()()()()

 

「ゲーム参加をエージェントに表明しました! いま私を攻撃すれば運営を敵に回しますよ!」

 もちろん満面の笑みを携えて叫んだ

 

 意味が分かった一派はニヤつきながら行方(ゆくえ)を見守る。

 好きにやらせてくれるようだ

 

 動揺している今が最大のチャンスだ!

 百合は殺し屋から奪ったミリタリーナイフを両手に二刀流で握り締めて、廃屋へ飛び込んだ

 

 最初に見つけたのは尸狼だった。

 何やら頭を抱えていたが、生きてはいたのでナイフの二連撃を左右それぞれの頸動脈へお見舞いし、葬った

 

 幽鬼は小屋の裏口にいた

 

「圏外!?」

 どうやら百合と同じようにゲームへ参加して避難しようとしていたらしい。

 先ほど百合のスマホは通じたので、きっと萌黄あたりが気を利かせてくれて妨害電波が出ているのだろう

 

 その僅かな隙を見逃さず、スマホを持つ手に向かってナイフが吸い込まれるように飛んでいった

 

 しかし、ナイフを当てられた指は義指であった。

 硬い素材に刺さることは叶わず、ナイフは地面に落ちる

 

 すかさず幽鬼はナイフを拾い、百合に向かって構えた。

 急襲は一騎打ちの様相を呈していた

 

 幽鬼に逃走の意思はなかった。

 怒りがある。何なんだお前は。ぶっ殺してやる

 

 そう思っているのが目線だけで百合には伝わってきた

 

 互いに示し合わせたように相手の急所目掛けて飛びかかった。

 鬱蒼とした森をナイフの閃きが照らす

 

 踊りのような戦いだった。

 ――舞い散る木の葉のような連続攻撃

 ――必殺のナイフを囮にした起死回生の拳

 ――武器を失い、原始的な武器で喰らいつく表情の輝き

 

 決着は背後に仲間がいる心強さを持っていた百合の勝利に終わった。

 怪我を負ったのは<三十の壁>以来だったことを、ふと思い出した百合は、こう言いたくなった

 

「…グッドゲーム」




裏話
百合は一撃で首の骨を折って殺害することが多い。
遺体に損傷が少ないと加工して販売するサイドビジネスがやりやすいので、運営は助かっている。
隠蔽に協力してくれたのも、その功名から
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