デスゲーム99回クリアRTA   作:黒瓜阿礼

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番外編
()()の60回目:ブラッディパイレーツ


 プレイヤーを初めて以降、曜日感覚がなくなって久しい。

 焦った様子の尸狼(シロウ)から電話がかかってきたのは、たしか休日を控えた深夜だった

 

 自身が率いるチーム<密会>へ私を入会させるため、『ブラボー』と言いそうなくらいに褒め殺してきた時とは正反対の声色だった

 

「藍里さん、落ち着いて聞いていただけますか」

 まるで、自分に言い聞かせているようだった

 

 プライドが高いのだろう。

 本人は自身が焦っているとは認めないつもりらしい

 

「ゲーム外で襲撃を受けました。」

 私のように彼女を不審がる人物が他にいてもおかしくはない、とは思った

 

 しかし、殺傷せんとまで敵意を向けられるところは想像に難かった。

 胸の内に、理解できないものへの好奇心が湧き起こる

 

「全く、何をどう考えたら、あんな馬鹿げた真似ができるのか」

 

 愚痴を吐きながら伝えられた要件は、やはり『加勢してくれ』というもの

 

 自分が入会した彼女の率いるプレイヤーチーム<密会>には、相互補助が基盤の1つにある。

 今回の一件が相互補助の範疇に入るのは間違いないのだが――

 

「籠城戦になっているんですか?」

 そうでもなければ、藍里(アイリ)が到着する前に戦闘は決着してしまうだろう

 

 藍里の住むアパートから尸狼の邸宅まで行くには、十分に遠出と言って差し支えない距離があるのだ

 

「いま向かっている新しい隠れ家で、そうするつもりです」

 その直後、思いついたように「とにかく人手が欲しい!」という絶叫にも近い要請が付け加えられた

 

 それを聞いた藍里は、尸狼が自分を<密会>に誘いにきた時のことを対比させるように思い出す

 

 大家がプレミアムっぽい雰囲気を出そうと頑張っているアパートが、本当に高貴な住宅に見えてくるほどの()()()()雰囲気を纏っている背の高い女性だった

 

 挨拶もそこそこにゲームの起源について記された江戸時代のチラシを見せられ、それと共に99回クリアで貰える<達成者特典>の話を聞かされる

 

 ゲームの参加歴でいうと、藍里は現役最古参に近い。

 顔見知りも少なくないはずだが、<達成者特典>の話なんて一度も聞いたことがなかったので、そこは少し疑っている

 

 説明が済むと、彼女の十八番なのだろう褒め殺し攻撃が始まった

 

 『素晴らしい戦績です』だの『あなたのような人をずっと探していた』だの『あなたのような()()()人とお近づきになりたい』だのと口説き文句が続けざまに飛んできた

 

 藍里が機嫌を良くすることはなく、反対に警戒心を強めたのだが、実際には断らなかった。

 『あなたがいないとできないことがある』と言われたのが、入会の決め手だった

 

 目の前の殺人ゲームに取り憑かれた人物が、何をしようとしているのか関心を抱いたのだ

 

 その感性が自分にないものだったというのが関心の正体であろう、と藍里は認識している

 

 それからは度々(たびたび)、<密会>の本拠地である尸狼の邸宅に赴いた

 

 自身のプレイ経験について話す見返りに、文字を使わないコミュニケーションの取り方や特殊な忍び足ができる<歩行術>を教えて貰った。

 殺人ゲームに懸けられた凶気に触れるという体験は得難いものだ

 

 珍しいことを挙げると、鷹三(タカミ)というプレイヤーが操るカラスが懐いてくれた。

 今まで不潔な害鳥としか思っていなかった生き物にも可愛いところがあったのだ

 

 <密会>には、幽鬼(ユウキ)もいた。

 陣営こそ違ったが、同じ<キャンドルウッズ>の生き残りとして交流のあるプレイヤーだ

 

 以前、教えてくれた99回クリア以外にも目標ができたと言う。

 共にスキルを磨き、命をかけずに競い合う経験を中学卒業以来にできたのを印象的に覚えている

 

 幽鬼の新しい目標になったというプレイヤーには、とても興味を惹かれた

 

 プレイヤーネームは百合というらしい。

 幽鬼によると、自らのプレイ方針である<利他>と正反対のプレイをする殺人鬼一派の中心的な人物で、自分にそっくりな見た目をしているとのこと

 

 名前の通り幽霊のような雰囲気をした幽鬼が目標に掲げる99回クリアと、瓜二つだという殺人鬼の存在に、そそられなかったといえば嘘になる

 

 最近、プレイヤーたちの間で蹴落とし合いが目立つようになったのも、彼女の妨害戦略が流行しているからだという。

 不意打ちをして即死させるのが常套手段だというので、藍里は先手を取られないように<歩行術>を鍛えることにした

 

 <密会>のメンバーたちと訓練できれば、それが一番なのだが、尸狼邸への引っ越しが済んでいなかった

 

 間に合わせの訓練として通行人相手に<歩行術>を試そう、と思いついたのが先刻のこと。

 深夜(ゆえ)に人通りがなく、収穫が得られなかったので家に戻ろうとした時に尸狼から電話があったのだ

 

 車に乗り込むと言って電話が切られてしまい、襲撃者が誰なのかは聞けなかった

 

 が、少し前に交渉が失敗したばかりだという百合が犯人と見て間違いないだろう。

 藍里のゲームで鍛えられた異常なものに対する嗅覚が、そう告げていた

 

 ただ結果を聞くのを待つことはできなかった。

 仲間を助けようという気持ちもないではなかったが、念願叶って殺人鬼に会えるという高揚感の方が大きい

 

 藍里は贅沢にタクシーを使って尸狼が向かうと言っていた隠れ家の近くまで移動することにした

 

 隠れ家まで、あと数百mというところまで来たところでタクシーを止めてもらう。

 何万円か支払い、タクシーを飛び出して目的の山へ走った

 

 山の麓まで来た時、見覚えのあるカラスが藍里に向かって鳴いた。

 夜なのに起きていて、藍里に見覚えのあるカラスといえば、鷹三のカラスの他にはない

 

 カラスに案内されるように何台か車が通った跡を辿っていくと、ボロボロになった小屋が姿を表した

 

 小屋の前には、いつもゲーム会場まで送迎してくれる黒い高級車があった。

 エージェントが何人も集まっていた

 

 黒服たちの中には尸狼のエージェントの姿もある

 

「…………もう終わりましたよ」

 憔悴した様子でエージェントは話しかけてきた

 

 間に合わなかったようだ

 

 <防腐処理>があるために、プレイヤーの死体は普通のやり方で処理できない。

 エージェントたちが集められたのは運営お決まりの隠蔽作業のためだろう

 

「藍里様、お願いがございます」

 他のエージェントたちから離れたところに藍里を連れてきた尸狼のエージェントが囁いてきた

 

 藍里は、このエージェントが尸狼とキスをするところを何度か見かけていた。

 『お願い』というのは、やはり襲撃者――百合たち一派への復讐だった

 

「私にできることでしたら、何なりと協力いたします。ですから……どうか……」

 

 やぶさかではない、と藍里は思った

 

 自分は尸狼邸に常駐していなかったので、百合に顔は割れていないだろう。

 自分だけなら安穏と暮らしていける藍里が頷いたのは、ゲームに参加し続ける理由と全く同じだった

 

 ――凶気に触れてみたい

 

 ビジョンを持たずともクリアを重ねられていたプレイヤーが、ついに目標を手に入れた

 

 

 

 

 尸狼のエージェントから<密会>が集積したプレイヤーたちのスキルについての資料を受け取り、ゲームが格段にクリアしやすくなった

 

 数百回分のクリア経験を吸収した藍里は、プレイヤー独自の心理が読めるようになった。

 これまで自分の経験だけで先読みしていたのが、今や未来予知だ

 

 自分のエージェントから渡された睡眠薬を飲み、いつも通りゲームへ参加する。

 普段なら硬い床の感覚と共に目覚めるのだが、今回は違った

 

 建築物にはありえない()()があった。

 寝ている間に罠が起動したかと身構えるが、潮の匂いに動きを止められる

 

 事前に聞かされていたゲーム名は<ブラッディパイレーツ>。

 名前から海賊がコンセプトのゲームだと予想していたが、船に乗せてまで、そのストーリーを遵守するとは想像だにしなかった

 

 衣装のベルトに備えられた海賊らしいサーベルとピストルの位置を直すと、藍里は周囲を確認し始めた

 

 目覚めた場所は帆船の甲板で、藍里と似たような格好をした数十人の少女たちが雑魚寝状態で転がっていた。

 これだけなら、他のゲームと特別に変わったところはないが、藍里の好奇心をくすぐるものはあった

 

 甲板の向こうは、地平線まで広がる大海原だった。

 目覚めた少女たちも、その光景に圧倒されているようだ

 

 プレイヤーたちが起き上がったのを見計らって、オウムのロボットが人を小馬鹿にしたような機械音声を流し始めた。

 今回のルール解説役だろう

 

 クリア条件は、キーアイテムの<財宝>を他の海賊船から奪い、港へ持っていくこと。

 当然、こちらの<財宝>は奪われないようにする必要がある

 

 他にあった説明は、船員と食料の売買やら船の動かし方などだった。

 ゲーム全体の参加人数は質問しても答えて貰えなかったので、長期戦も想定して動いた方が良いだろう

 

 オウムが飛び去ったので、セオリー通りに自己紹介だけ済ませる。

 初心者は2、3人だけだったので安心した

 

 どうやら藍里以外は30回未満のプレイヤーばかりのようだ。

 これは、藍里が過少申告した参加回数よりも(なお)少ない数である

 

 こうなっては普段(ふだん)目立たないように心がけている藍里も、表に出ていくしかない。

 集団心理は尸狼の遺した資料にも事例が少なかったので、試してみたいと思ったのもある

 

 数分話し合って、藍里()()が指揮を取ることで合意した

 

 藍里が海賊団の()()()()コスチュームだったら、舐めてかかるプレイヤーを説得するのは骨が折れただろう。

 ド派手なミニスカ海賊だったことに、ちょっぴりだけ感謝した

 

 船長は手始めに周辺の索敵を命じた。

 自分たちの<財宝>がどこに配置されているかはもちろん、オウムが飛び去った方向に港らしきものがあることも確認できた

 

 船の操縦に慣れておきたい、というのもあるので港へ向かってみることにした

 

 航海中に、藍里は自分たちの船が現代船よりも遅く進んでいることを体にかかるGから推測できた

 

 この速度だと駆け抜ける戦法は得策ではない。

 敵が疲弊したところを狙える待ち伏せが有効だろう、と次の指示を考えた

 

 目的地の港には大砲が何門か設置されているようだ。

 よく不正防止のために用意されているタレット銃の立場に当たるものと見て間違いない

 

 大人しく元の海域へ戻ることにする。

 船の帆はハリボテであり、実際はモーターで動いているので、こういう小回りは利かせられるのだ

 

 何十分かタラタラと海を進んでいくと、正面から別の海賊船が現れた

 

 目の良い者に確認させると、止まる意思はみられない、とのことだった。

 <対戦型>ゲームの真骨頂――殺し合いが始まるのだ

 

 敵は甲板の端で拳銃を構えている。

 こちらを銃撃で一掃するつもりだ

 

 木製の海賊船に盾にできるような物はない

 

 配布されたフリントロック式拳銃に、発射された弾丸の姿勢を安定させるライフリング加工は見受けられなかった。

 敵船は、この命中精度の低さを数で補うつもりだ

 

 予想通り、船をこちらに横付けして一斉射撃してきた。

 これに対して急ごしらえだが、同じ戦法を返せたのは大きい

 

 いつも使っているトカレフ拳銃よりも火薬が燃えた時の煙が多い。

 こんなところにまでこだわっているのか、と感心しつつ藍里も引き金を引いた

 

 銃声が()んだ

 

 <防腐処理>の綿は、どちらの船にも多く散らばっているが死んだ者は少ないようだ。

 しかし、戦える状態にはないだろう

 

 腕や脚を怪我しているプレイヤーが多く、継戦は厳しい。

 そんな状況をどこ吹く風と、敵船から鉤爪ロープが飛んできた

 

 ポニーテールを揺らしながらロープの上を走ってくるプレイヤーがいた。

 百合だ

 

 したっぱたちの黄色い声を背負いながら、不安定な足場を進んでくる。

 目立ちたがりめ、と心中で悪態を吐いてみた

 

 無傷でいられたのは自分だけのようだ。

 小手調べに、もう少し引きつけたら最後の弾丸をお見舞いしてやろう

 

 そう思った矢先に何かが顔に向かって飛んできた

 

 銃弾だったとしても頭なら首を振るだけで避けられる。

 しかし、訓練を積んだ藍里の体は条件反射的に<歩行術>を発動させていた

 

 命の危機が迫った時は時間がゆっくりになる。

 泥の中で泳ぐように緩慢な動きしか体感的にはできない

 

 が、微調整を利かせられたおかげで<歩行術>の精度は過去最高だった。

 ベットに飛び込むよりも簡単に、百合の死角へ入る事ができた

 

 殺人ゲームの常連である殺人鬼だ。

 普通よりも死の気配に敏感だと考えた藍里は、察知しても回避が難しい腰を撃つことにした

 

 黒色火薬に弾かれた弾丸は宙を走り、吸い込まれるように百合の腰を粉砕した

 

 甲板の端に殺人鬼は倒れた。

 鞘から引き抜いたサーベルを振り上げ、百合の首元へ迫る

 

 ――()った!

 

「やらせるなぁっ!!」

 

 背後から別の海賊がサーベルを投げつけてきた。

 咄嗟に刀身で攻撃を弾く

 

 応援が続々とロープを伝って乗り込んできていた

 

 百合を仕留めに動いたことが、ここで裏目に出た。

 ロープから離れてしまったために、橋の役割を果たしているロープを切り落としにいけない

 

 反撃して、何人かは戦闘不能できたが多勢に無勢だ。

 ジリジリと船の端に追い詰められていく

 

 藍里は自らの眼前に迫る攻撃を視界に収めた。

 この一撃は不安定な足場では避けきれない、しかしガードするとバランスを崩して良くない落ち方をしてしまうだろう

 

 人間は肉体の反射によって水に落ちただけでも気絶する場合があり、運が悪ければそのまま溺死することもあるのだ

 

 仕方なく、藍里は自分から海へ飛び込んだ

 

 

 

 

 海賊たちが去ってから何とか船に這い上がる

 

 負け惜しみを言うつもりはないが、さっきの戦いは()で負けたと思う

 

 運は本来なら不確かな力のはずだが、あまりにも都合の良いタイミングだった

 

 仕込みがあったのか?

 いや、戦力があるなら、わざわざピンチになる理由はないはずだ

 

 ――ここに答えがある気がする

 

 状況が彼女が絶体絶命になるものではなかったように思える

 

 もう一度、よく思い出してみよう。

 仲間が割って入ってきた時の百合の笑顔に、(こと)が上手く運んだ時の愉悦感のようなものはなかったかもしれない

 

 アクション映画でヒーローのピンチに仲間が駆けつけてくる。

 そんな盛り上がる展開を目にした時のような、遊びの笑顔だった

 

 何となく分かったかもしれない

 

 殺人ゲームに賞金や暴力の矛先を求めて参加したプレイヤーは、腐るほど見てきた。

 それ以外は幽鬼のような例外を除いて、惰性でやっている者ばかりだと思っていた

 

 百合は違う。

 百合にとって、これは正真正銘()()()なのだ

 

 楽しむ者に努力する者は勝てない。

 どこかで聞いた言葉を思い出し、藍里は目の前が明るくなったような錯覚を覚えた

 

 藍里は<ブラッディパイレーツ>をクリアした

 

 

 

 

 ゲームを終え、異動してきたばかりのエージェントに送迎された我が家の前で、私を待っている人物がいた

 

 変だな、と思う

 

 藍里はゲームの古参でこそあれど、友人は少ない。

 今や、ごく一部のベテランでなければ自分を知ってすらいないはずだが……

 

――待っていたのは果たして、あの()()()()プレイヤーだった




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