混乱させてしまい申し訳ありません
主に淡姫との戦闘シーンを2000字ほど加筆しています
百合と
情報共有を兼ねて
先日の<密会>襲撃以来、銃に魅了されていた伽羅一派に反対する者はおらず、契約は好意的に受け入れられた
食べ終わったピザの箱を処分していた百合に、片付けは任せてくれ、と嬉しい申し出があった
百合はお言葉に甘えて
百合が自宅にいる時はオンラインでFPSをやるが、こういう時は別だ
「◯リオやろー!」
「…」
百合の誘いに日澄は拒否の意思を示さなかった。
この場合は7割くらいの確率でOKの意味である
「紫苑さんもきてよ」
「ああ」
テレビゲームで紫苑の右に出る者はいない。
特有の不文律にも詳しかったし、楽しみ方も心得ている。
一緒なら難しいテレビゲームでも楽しくなるのだ
前回の続きのステージをセレクトした。
横スクロールの画面に3人のキャラクターが出現した
現実ではソファに紫苑、床に女の子座りした日澄とうつ伏せに寝転がった百合という構図だ。
キッチンの方から
飛んだり跳ねたりしながら敵を踏み潰して、
順調にステージをクリアしていき、一行はついにボスの城へと辿り着いた
ここは画面下部が一面マグマのステージだ。
百合はイタズラを思いつく
百合が
持ち上げた日澄のキャラクターをマグマの中へ投げ込んだのである
「おい…!」
「^_^」
「……w」
日澄は怒りを示してみるが、謎の愛想笑いが返ってきただけだった
「ぐえ!」
寝転がってプレイしていた百合の尻が掴まれた。
日澄の仕返しである
日澄も丸くなったな、と百合は思う。
前に同じことをした時は髪の毛を引っ張るくらいのことはしてきたのだ
「なんの!」
「まだやるのか!」
諦めずに近づいてくる百合に、日澄が反撃した。
踏み潰した敵の甲羅がクルクル回転しながら百合へと迫る
「よっ!」
迫り来る甲羅を飛び越えて日澄へと接近する
「来るな」
日澄は甲羅を避けたジャンプの着地隙を狙って、百合を捕まえた
「あ〜!」
一瞬の迷いもなく、百合の分身はマグマの中へ投げ込まれた
お互いに1回やり合ったところで、自然に手打ちとなった。
日澄が百合のイタズラにもルールがあることを知っていたためだ
百合はイタズラをした側とされた側で、被害状況が同じくらいになるように調節している
叩かれたくてイタズラをしてくる変態か、と当初は思っていた。
だが、何度もやる内に友人関係を継続させるためにフラストレーションが溜まらないようにしているらしいと分かった
食事にイタズラすることはない、というのも日澄が百合を刺し殺さない理由の一つである。
紫苑は容赦なくタバスコをかけてくるが、百合はやらないのだ
そこまで考えた日澄は、夕食のパイナップルピザは悪意なくやった可能性に思い至り、身震いした
日澄は反撃しておかないとマズい気がした
「1週間はイジるからな」
「!?」
◇
ゲームをクリアして2周目に入ったところで、キッチンの片付けが終わった。
◯ノピオの操作を伽羅に預けた百合は、片付けのお礼にコンビニへ夜食を調達しに行く
ラムネを人数分とホットスナックを適当に、との要望だった。
百合は人数を計算してみた
伽羅、萌黄、日澄、紫苑、櫛枝、樺子が家にいる6人。
買い出しに来ているのが自分を含めて
合計
「!」
――自分以外に人の気配がある
百合は視界を確保するために、スマホのライトを掲げた。
何かしていないと落ち着かないので、四方八方にライトを向けてみる
思い返せば今日一日中ずっとそうだった。
誰かに
誰だ?
<ブラッディパイレーツ>の時に海に落とされたはずの彼女が生きていたのか?
「いるのは分かってる! 隠れてないで出てこい!」
生まれて初めて口にしたセリフが真夜中の住宅街に響きわたった
周囲に灯りが点いている家は見受けられない。
だが、間違いなく人がいる
しかし、恐ろしい相手だ。
殺人鬼である自分が、殺意の
叫んだのは失敗だったかもしれない
「なんで……」
深いスリットの入ったチャイナドレス風の少女が闇の中から現れた。
百合は知らないが、<密会>に所属していた
完全に姿を現したわけではないらしい。
夜であることを除いても、彼女を捉え続けるのは困難だった
「何が目的だ?」
百合は威圧的な印象を与えるように尋ねた
「……お前らが先にやったくせに!」
自分がおかしい、と思われたのが少女は頭に来たようだ
百合は相手が冷静さを失った隙に思考を回転させる
『先にやった』と言うくらいだから、目的は復讐と見ていいだろう。
見たところ本人は大きな怪我をしていないようだし、仲間の仇討ちというのが正確なところか
ゲームで負かした相手というのはないだろう。
ゲーム中の百合は普段よりも神経が働いているので、これ程に気配を隠せるプレイヤーがいれば必ず見つけているし、忘れてもいないはずだからである
少女は舌打ちと共に話を仕切り直した
「単刀直入に言う。
(! 生き残りがいた…!?)
伽羅一派が殺した<密会>のメンバーは
1人につき1億円の賠償金だと言っているのだろう。
治安悪化によって相次いだ凶悪事件で、その相場は上がっていた
「
淡姫が99回クリアの達成者特典を盾に迫る
ゲームの運営は、大規模なデスゲームを使った違法賭博の元締めでもある。
百合はゲーム参加を繰り返すうちに周辺業界とも知り合い、裏社会の一大勢力だと察していた。
6億円どころか、6兆円でも動かせるだろう
百合は達成者特典のことを98回クリアに辿り着いた時に総支配人から聞かされていた
「…………」
百合は考える
<密会>では技術交流を行っていたという話だ。
目の前の襲撃者は、藍里が行っていた百合の超感覚をすり抜けられる高速移動の本来の持ち主だろう
あのプレイヤースキルの凶悪さは身に染みていた。
形勢不利を悟った百合はスマホライトの光源に隠して、仲間たちに応援を要請するメッセージを送ろうと――
――掲げていた百合のスマホが弾かれるように、手から飛んでいった
「仲間は呼ばせないぞ!」
淡姫は自らの隠密が狙撃で破られてしまうことを、幽鬼との模擬戦で知っていた。
この一手によって淡姫が有利な状況は維持される
「るらぁっ!」
しかし
淡姫が叫び終わった直後には、その音源へ向けて百合のヤクザキックが放たれていた
暗闇の中でも目立つ白いローファーが華奢な腹に食い込んだ
「っ…! ……舐めるなよ!」
百合が手応えを感じたのも束の間、周囲の全てが暗闇になった
淡姫が気配を消して奇襲を狙い始めたのだ。
この<歩行術>の本家には百合の<殺気感知>も通じない
「……!」
声を出すことは
百合には淡姫が近くにいるのかすら分からないのだ
普段の超感覚が通じないなら、科学に頼る他あるまい。
百合は久しぶりに
舌打ちを何度も繰り返す。
このクリック音の反響を聞き、周囲の状況を認知できるのだ
思ったとおりだ。
いくら気配を消せても、肉体まで消しているわけではない。
「がぁはっ!」
百合の頬に――確かではないが――蹴りが叩き込まれた
無論、百合は自らの位置を変えながら
(逃がしてもらえるか…!?)
攻撃の瞬間に殺気が放たれたのを百合は認識していた。
視界が確保できていれば、高速移動相手でも勝負できる確信がある
百合はスマホが壁に当たった音の発生位置を覚えていた。
飛びつくようにスマホを拾い上げ、暗闇に慣れてきた僅かな視界を頼りに駆け出した
狙ってやってきたのだろう、今宵は新月だった。
夜闇に目が慣れるのは期待できそうにないので、場所を変えなければ明るい視界の確保は期待できない
走りながらスマホを数秒だけ起動し、目的地までの道のりを暗記した。
これくらいのピンチは何度も切り抜けてきたのだ
久しぶりの痛みにフラつきながらの逃走は
無音で移動できる<歩行術>を百合は習得できていないのだ
「逃がさないぞ!」
車を盾にして投擲されたコンクリートブロックを避けながら、百合はエージェントにメッセージを送信する
[プレイヤー襲撃GPS見て]
雑な文章だが長い付き合いである彼女なら、その意図を察してくれただろう。
百合は返信を待たずに移動を再開する
走りながらの
風を切る音、自らの呼吸音などに邪魔された
だが、道の真ん中に
十中八九、追跡してくる淡姫だろう
百合は角を曲がるついでに追っ手の姿を視界に収めようとしたが、無理だった。
暗闇の中にいながら、こちらを認識し迫ってきていた
どのような方法を使っているのか、淡姫は街灯のない暗闇でも視界を確保できているらしい。
百合の急所へ向かって正確に行われる投擲攻撃が、それを証明していた
背後からの
これで戦闘条件はイーブンに戻せた
少し遅れて駆け込んできた淡姫は、なんと
(出た〜〜〜〜〜!!!!!)
もちろん、真夜中という非日常が百合に妖怪を錯覚させただけである。
実際は頭部に何らかの機器を装着しているだけなのだった
淡姫はレンズが中央に1つだけ配置された暗視ゴーグルを装備していた。
そのゴーグルは、そうと知らない者が見れば、一眼レフのカメラを頭にくっ付けたように見えるだろう。M○Sのアレだ
「…! それは…!」
百合は、その機械に見覚えがあった。
「暗視ゴーグル。あなたには価値が分からなかったみたいだけど」
淡姫が懐かしむように応えた
尸狼が藍里に語った『火事場泥棒』の正体は、報復手段を確保した淡姫だったのだ
百合が牽制目的で足元に転がっていた小石を淡姫へ蹴りつけた。
公園までの道中で散々にやられた
投石を高速で避けた淡姫の身体は、宙に溶けたかのように見えなくなった
しかし、元祖<歩行術>の高速移動も殺人鬼相手では意味を
攻撃の瞬間だけは気配を消せず、姿を現わすしかないのだ
その一瞬の隙で十分だった。
淡姫の突撃に百合がカウンターアタックを決める
「…!」
僅かに漏れた悲鳴が百合の耳に届く
後手に回らされるのは業腹だったが、勝てるなら何でも良い。
殺人鬼は武士よりも卑怯な生き物である
――いま思えば、これは淡姫の打った布石だったのだ
いくら気配を隠しても、公園に飛び散った防腐処理の
淡姫の表情こそ見えないが、確実にダメージは蓄積している
更に数回の攻撃を跳ね返すと、ついに元祖<歩行術>を保てなくなった淡姫が姿を現した
いつものように首を折ってトドメを刺そうと百合は近づくが――
――百合が殺気に似た
コンセントで感電した時の何倍も大きい痺れと痛みが、百合の全身を駆け抜けた
淡姫はスタンガンを隠し持っていたのだ
これは伽羅一派が殺害した<密会>の一員である
ゲーム内に持ち込めないか試作された超小型の物だったのが、百合が察知できなかった要因だ
いくら殺人鬼といえども、肉体の制約を破る魔法の持ち主ではない。
抵抗らしい抵抗もできぬまま、百合は公園の泥の上に倒れた
「あ……がっ……が……」
感電の痺れで動かせない口から悲鳴が漏れる
デスゲームのプレイヤーの致命的な弱点。
それは
ゲーム中は手元の情報から、あらゆることを推測して動く。
だが、実戦では全てが闇の中だ
百合はスタンガンだけでなく、銃を持った相手も殺してきた。
想定外への対処は殺人鬼として身につけているはずだった
(油断した…! 近づきすぎた…!)
人は自らのスキルに絶対の自信を持つものである。
百合は殺人術を、淡姫は元祖<歩行術>を
勝負の決め手になったのは、淡姫が自らの持つ最大の武器を
人生を懸けて築き上げたスキルを捨てる。
それは壮絶な自己否定に他ならない
「あいつらの仇だ…!」
友のため。
それが淡姫を空観に立たせた
「死ね!」
――お待ちを
痛みに震えながらナイフを振り上げた淡姫を止める者がいた
「百合さん。99回目のゲーム、<継承戦>へ招待しに参りました」
そこには殺したはずの尸狼が立っていた
「皮肉なものですね。ゲームに逃げられて負けた私が、あなたをゲームへ逃がす立場になるなんて」
確かに喋っているし、息遣いも聞こえる。
幻覚だったら、こうはいかないだろう
「尸狼…!?」
未だ声を出せずにいる百合と同じ感情を淡姫が漏らした
「お久しぶりです、淡姫さん。連絡ができず、申し訳ありません」
尸狼は銃撃でスマホが壊れたこと、淡姫の住所も知らなかったために手紙も出せなかったことを伝えた
「もっと
2人が会話を続ける隙に、百合は公園の泥で感電の火傷を冷やして回復を図った
尸狼は淡姫を
「百合さん」
「99回目のゲームは少々、特殊でしてね。半強制的にご参加いただくことになります」
それが本当ならゲーム外では非常に優しい運営にしては異例なことである
尸狼が「総支配人の代替わりが起きかねない以上、周辺業界含めてゲーム界隈が丸ごと動くためです」と付け加えたので、百合は納得した
「送迎を出す日時をお伝えしますので、コンディションを整えておいてください。一緒に参加するプレイヤーは、後ほどエージェントに伝えていただけますか?」
タイミングよく百合のエージェントが公園の入り口に乗りつけた。
百合は了解の返事だけして、睨みつけてくる淡姫を尻目に車へ乗り込んだ
百合は痛みからくる溜め息を吐いた。
エージェントは運営の息がかかった病院へ向かってくれている
痛みがある時は自分の命を脅かすものについて考えて、気を逸らすのが百合の癖になっていた。
プレイヤーの職業病である
生き延びることはできたが、百合に恨みを持つものは淡姫以外にも大勢いる。
いつか対処が追いつかなくなり、ついには殺されてしまうのは想像に
殺人鬼は崖ぎわに立っているのだ。
いずれは足元を
殺人から足を洗い、隠遁するしかない。
だが、人殺しの快感がそれを許さない
加えて言うなら、集団の瓦解は個人から始まるのが常である。
多対一の戦いで百合は常にそれを狙ってきたので、よく分かる
身勝手な臆病さが愛する仲間たちを危険に晒してしまう
――天高くから全てを支配できるデスゲームの総支配人に、その活路がある
ならば道は一つ
「死亡遊戯で飯を食うんだ…!」