デスゲーム99回クリアRTA   作:黒瓜阿礼

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2回目:ミノタウロスラビリンス(裏1)

 百合は初めてのデスゲームをクリアした

 

 会場は何十年か前に捨てられた神社を改造したと思しきものだった。

 百合は(バチ)が当たるのではないかと、自分が死の瀬戸際にいたことを忘れて無駄なことを考えた

 

 現実から離れたことを考えてしまうのは、今まで縁がなかった高級車の優雅な揺れに身を預けているからだろう。

 競技じみたものを突破して、(のり)のきいたスーツに身を包んだ美人に高級車で送迎されている点だけ見れば、百合は立派なVIPである。

 少しソワソワしている

 

「<シュラインパニック>のクリア、おめでとうございます。」

「…ありがとう、ございます」

 初対面の時とはうって変わって教育を受けたと思われる祝いの言葉に、百合は緊張で喉が締まるような錯覚を覚えながら返事をした

 

「あの暴れっぷりを見るとぉ、長いお付き合いになりそうですね〜」

 かしこまった口調が元に戻ったのにつられて百合の緊張も(ほぐ)れる

 

「はい、何回でも参加したいです」

 百合は久しぶりに心からの気持ちを口にした

 

「何回! 百合さんがやる気なら、そのお話もしましょうか〜!」

 助手席から放たれた『何回でも』という言葉にハンドルを握っているエージェントが食いついた

 

「ゲームにご招待した時は申し上げなかったのですが、2回クリアするとエージェントが専属でつけるのですよ〜!」

 身寄りがなくなった百合にとって、人との繋がりは恋しいものだ。

 百合は生涯ひとりぼっちで過ごすことは流石にないだろうと楽観視していた

 

「私はスカウトからサポートまで一括でやっているから、このまま専属になると思いま〜す!」

 妄想の中の自分は厳かに人生の友を迎えていた。

 が、現実では()()()()のような喋り方をしていて、(ツラ)が良いせいで腹を立てるのが難しい女が寄ってきた。

 

「…頑張ります」

 今度は半分くらいが本心だった

 

 車が獣道を抜けた

 

「回数の話で言ったら、<三十の壁>は外せませんね!」

 この人は自分の話を押し付けるアッパー系のコミュ障なんじゃないか、と百合は思った。

 元々は常連プレイヤーだったと言っていたし、どこかズレた人なのは間違いないと百合は心内で結論を出した

 

「それまで順調だったプレイヤーさんが30回目付近で急に死んじゃうジンクスというか、呪いみたいなものがあるんですよ〜!」

 ハンドルから離した手をワタワタさせながらエージェントはお喋りを楽しんでいる

 

「百合さん信じられますぅ!?」

 疲れている時は代わりに喋ってくれる人が近くにいるのは、意外と居心地が良いのだなと思う

 

 しばらく半ば一方的な会話が続き、百合は一言謝ってから眠くなってきてしまった、と伝えた

 

 

 

 

 機密保護を兼ねているようだが、『お疲れですよね』と再び渡された睡眠薬を服用すると、目覚めた時には自宅の布団の上だった

 

 今、自分の体を支えている布団は出かける前にしまったはずだが、デスゲームを開催し自宅を突き止められる組織なら、そのくらいは朝飯前なのだろう

 

 寝転んだまま伸びをすると、枕元にある何かに腕が当たった。

 眠い目をこすりながら見てみると透明なビニールに包まれたコスプレ巫女服が置いてあった

 

 エージェントの説明にあったクリア特典だろう。

 再び着る機会は絶対にないが、コレクションするのは楽しそうだ

 

 布団の上で日課のストレッチを済ませ、物干しに布団を乗せて朝食の準備に取り掛かった

 

 電子レンジで米が温まるのを待つ間にスマホでエージェントに案内されていた裏口座を確認してみると、ゲーム前と比べて300万円増えていた。

 非現実間で痺れたような錯覚を感じた

 

 生活費に使うにしても多すぎる額だ。

 散財しようにもプレイヤーだとバレないようにという厳命があったので、近所に噂されるような使い方はできない

 

 ならば、ここは一つ引っ越しでもしてみよう、と百合は決心する。

 まだ先ではあるが<三十の壁>への対策も、ボロアパートよりはやりやすくなるだろう

 

 まずは朝食を済ませてしまおう

 

 小鍋で温めた作り置きのカレーを、レンジの中から取り出した米と一緒に皿に出す。

 ちゃんと「いただきます」と言う。

 レンジで温めた米が熱すぎて食べられないのに腹が立ち、皿ごとカレーを破壊する。

 作り直し、適温に冷めるまでスマホで筋トレ用のマシンについて調べる

 

 順調な時の2倍強の時間をかけて朝食を済ませると、百合は荷造りをした。

 今はもう誰も住んでいない祖父母の家に行くのだ

 

 プレイヤーを続けるためなら細かい法律関係のことは、便宜を図るとエージェントに言われていた。

 神社のある山一つを10分程度しかかからない一度切りのゲーム用に改造するくらいだ。

 超法規的な活動ができるというのも頷ける

 

 百合が気にするのはゲームと金のことだけで良いようだ。

 その金というのも300万円の賞金――『百合さんは美人さんなので次からは、も〜っと貰えると思いますよ〜』――に加えて持ち家である祖父母の家なら家賃がかからない。

 本当にゲームのことだけ考えていれば良いことになる

 

 百合は新居の掃除をさっさと済ませるとスポーツ用品専門のサイトで、鍛えたい筋肉用の筋トレ道具を全て購入した。

 今度はエージェントに電話をかけ、引越しとホームジム計画について話す

 

 エージェント達の中でも彼女はプレイヤーへのサポートが手厚い方(本人談)だという話に嘘はなかった

 

 急な連絡だったのにも関わらず法手続きやデスゲーム界隈で主に備品の調達をこなす<調達屋>へのトレーニングルームの床の補強依頼をあっという間に終わらせてしまった

 

 裏社会は"表裏一体"という言葉があるように、実はかなり身近な存在だったようだ。

 その日の夕方にはホームジムが完成していた

 

 百合は無骨だが清潔な金属たちが新居の地下にズラリと並ぶ光景に、ゲームへの意欲が刺激された

 

 ゲームへの招待は2週間おきに来てもらうことになっていた。

 あのエージェントの勧めを受けた形である

 

 2回目のゲームまでに一通りマシンを試しておこう

 

 百合はバーベルを握った。

 軽くなった財布が、その重量を際立たせる

 

 

 

 

 筋肉の鍛錬だけではゲームを勝ち抜くのには不十分だろう。

 そんなことを思いついたのは新居の近くにあるコンビニを物色している時だったか

 

 百合はエージェントの車に乗り込み、スイッチが入ったのか、考え途中だったことを思い出していた

 

(先輩や情報交換相手を見つけた方がいいかもしれない)

 百合は2回目のゲームへ連れていかれる車内で眠りに落ちながら、勝利への嗅覚を働かせていた

 

 目が覚めた時、百合は1回目とは打って変わって日の光が一筋もない泥臭い床に転がっていた。

 自分の体が上等な布団のような感触の布に包まれているのを認識した

 

 自分が着せられた服を確認する。

 トーガをイメージすれば、それが近い

 

 飛び起きて周囲の索敵を行う。

 スタート地点には罠がない、というのが不文律であるが百合はそれを知らない。

 寝返りを打った拍子に落とし穴に落ちてしまうことがないように設計されているのだ

 

 少し離れた場所に毛糸の玉が落ちているのを見つけた。

 あの距離感には覚えがある。

 百合が寝ている間に蹴っ飛ばしたものに違いない

 

 クリアを焦らせるようなタイマーも、迫り来る罠もなかったので少し考え事をした

 

 デスゲームでは()()()()()が用意されている、というのがエージェントから得た情報の一つだ

 

 自分が着せられているトーガ――正確には原型となった古代ギリシャのパルラだろう――と、プレイヤーに配布されたと思しき毛玉から何かテーマになりそうな昔話がないか脳を働かせる

 

 数秒後に思いついたのは、ギリシャ神話のミノタウロスだった

 

 ミノタウロスという牛頭の怪物が彷徨(さまよ)う迷宮に生贄として飛び込んだ英雄テセウスがミノタウロスを討伐し、迷宮に垂らしておいた毛糸を目印にして脱出するという内容だったはずだ

 

 推測が正しければ今回のクリア条件は前回と同じく"脱出"だ。

 この毛玉は1回目で配布された護符と同じようにプレイヤーが使用する"アイテム"なのだろう

 

 単純な迷路なら左手法を使うことで簡単に突破できるが、ゲームはショービジネスで開催されている。

 ならば簡単には攻略できない設計のはずだ。

 恐らくは原典の神話のように毛糸を使わなければゴールに辿り着けないようになっているはず――

 

――ダァン!

 

 ゲームのルールを考察していたら、近くから雷が落ちた時のような音がした

 

 百合が様子を(うかが)おうと曲がり角から音の方向を伺うと、顔に強い風を感じた。

 反射的に身を引っ込める

 

 すわ罠かと思ったが、矢が飛んできたわけではなかった。

 風の正体はさっきの音の原因による風圧だったのか

 

 今度は慎重に音の発生源へと近づく。

 壁の途中に切れ目があり、そこには白い綿が1人分モコモコと詰まっていた

 

 プレイヤーだ。

 罠に挟まれて死亡したのだろう

 

 壁を観察すると綿が詰まった所のすぐ近くにも切れ目がある。

 この切れ目を見つければ、どこの壁が動くか見分けられそうだ

 

 壁が動くのは、左手法による攻略を封じると同時にトラップの一種としての働きも持つのだろう

 

 原点の神話で垂らしておいた毛糸を使って脱出したことを考えると、毛糸が垂らされている通路では今のように壁の罠が発動しないかもしれない

 

 ここまで考察できれば上々だ。

 そろそろ体を動かしたくなってきた

 

 百合は壁の松明に照らされた地下迷宮を進む

 

 

 

 

 毛玉から一度でも取り出した毛糸は巻き取って再利用しても、再び壁の移動を停止させる効果を発揮させることはなかった。

 空気の流れ方の変化で出口に近づいているのは分かっていたが、これでは毛玉の残量が心許ない

 

 新しい毛玉が設置されていなかったので、百合は他プレイヤーから奪い始めた。

 前回、自分の代わりに年下の少女を怪物の生贄にした時よりもさらに強い爽快感が百合を支配する

 

 背後からなら誰でも殺せる自信がついていた。

 姿勢を崩せれば、正面からでも頸椎を破壊できる。

 衣装の邪魔な裾を破ってロープを作り、絞殺するのに使うなんて方法も編み出した

 

 毛玉が足りない苛立ちを叩きつけてやる快感に、動悸と指先の震えが止まらなかった。

 娘さんの首を折った指先の熱が、全て体の芯に集まってくるような気がした

 

 アドレナリンに突き動かされて走り回っていると、奇妙なものを見つけた

 

――広間の真ん中に、倒れた少女の腹を開いて内臓を取り出している女性がいた

 

 刃物はなかったはずだ。

 人間を動物のように解体するなんて、どうやれば良いのだろう。

 ……自分が彼女の技術(スキル)に興味を惹かれていることに気がついた

 

(ちょうど仲間が欲しかったんだよね)

 

 百合は抱き締めるような気持ちで、少女を解体している女性の首に飛びついた。

 そのまま数分の間、自分の鼓動と女性の鼓動が重なるような錯覚に酔う

 

 気絶させた彼女を担いで、すぐそばのゴールへと走った

 

 階段に彼女を横たえてから、はたと気づいた。

 このデスゲームの運営の秘匿主義は凄まじい。

 ゲームの外でエージェントを通じて連絡することはできないかもしれない

 

 百合はダメもとで自分の衣装を千切って作ったメモ用紙に、壁を壊して手に入れた砂のインクで手紙を書いた

 

『突然のお手紙失礼します。私は貴女と同じくプレイヤーをやっている百合と申します。

今回は協力プレイのお誘いをしたく、お手紙を差し上げました。

つきましては、下記の通りにゲーム外で待ち合わせをしたく存じます。』

 

 その下に、内緒話ができる個室付きのカフェの店名と住所、待ち合わせ日時を書いて手紙を完成させた

 

 彼女の傍の床に手紙を置いてみたが、どこかで発動したらしい罠の風圧で飛ばされてしまった。

 巻き上げられた布を回収して、手紙の置き方を少し考える

 

(ここにしてやろっと)

 

 イタズラを兼ねて、その深い胸の谷間に折りたたんだ手紙を挟んだ。

 起きた時に怒られると思ったので逃げる

 

 クスクス笑いながら百合は地上への階段を登ってゲームをクリアした




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