デスゲーム99回クリアRTA   作:黒瓜阿礼

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2回目:ミノタウロスラビリンス(裏2)

 <ミノタウロスラビリンス>のクリアから一週間後。

 ついに専属となったエージェントとビデオ通話をしながら筋トレをこなす日々を過ごした

 

 新居での生活にも慣れてきた頃、百合は件のキャラメル色の長髪をしたプレイヤーとの待ち合わせ場所に向かっていた

 

 普通、自分が絞め落とした相手と友達になろうとは思わないが、デスゲームのプレイヤーは総じて()()ている。

 百合も、その例外ではなく久しぶりのお出かけにウキウキしてすらいた

 

 待ち合わせ場所に指定したカフェは、現住所から徒歩で行ける距離にある

 

 相手の交通負担は、あまり考えていない。

 ゲーム会場までの移動に半日以上かかっている様子はなかったので、プレイヤーは物理的距離が近い者同士で対戦させられている。

 というのが百合の予想だった

 

 交渉が決裂した場合に備えて土地勘のある場所にしておきたかったというのもある。

 人を殺せる相手に会うのに、何の備えもしないことは未来の仲間相手であってもできなかった。

 内臓が飛び散っている光景に直面したのは彼女が初めてだからだ

 

 しかし、彼女を見下すような気持ちは持っていなかった。

 何人も殺している自分に返ってくるからである

 

 単にゲームで勝利するためなら、他プレイヤーをああも引き裂く必要はない

 

 その事実から百合は、彼女と自分は殺人という行為の捉え方が似ていると考えていた。

 ただ、首を一捻りすれば落ち着く百合に比べて、彼女は怒りが長続きするタイプのようだが、会うのを躊躇する要因にはならなかった

 

 目的のカフェの前に伽羅色の長髪をした背の高い女性が立っていた。

 体の前に交差させた手でリュックサックを持っているせいで、立派な()()の存在が強調されている

 

「こんにちは。お呼び立てして、すみません」

「いいよ」

 ぶっきらぼうな言い方だったが、本当に気にしていないようだ。

 純粋な子どもの言葉を聞いた時のような気持ちになった

 

 改めて名乗った百合に、彼女は自分は伽羅(キャラ)だと返した。

 伽羅というのは格の高い香木の名前だったことを思い出す。

 身勝手だが期待感を刺激された

 

 生まれて初めて個室の予約というものをした百合は、緊張しながら店員に名前を伝えた。

 本名である。

 これをもとに、ゲーム外で伽羅が何か仕掛けてくるようなことはないと思った

 

 繁華街の喧騒が嘘のように聞こえない部屋に通された

 

「静かだね」

 伽羅が呟くように言う

 

「雑音が多いとイライラしちゃうんで」

 店選びを褒められたと思った百合が、謙遜を交えて応えた

 

 カビ臭くない落ち着いた調度品に囲まれている席だった

 

 一般常識で言えば百合が部屋の奥、つまりは上座で、伽羅が下座――百合よりも脱出しやすい席に着いた。

 これは百合が行った無言の配慮の結果である

 

「手紙と重なる話ですが、今日は協力プレイのお誘いに来ました」

 その直後に「乱暴な誘い方をして申し訳ありません」と続けた

 

「ううん、一眠りしたらスッキリしたから」

 『一眠り』には含みを持たせていなかった。

 本心のようだ

 

「そうでしたか」

 

 しばし無言の時間が続いた。

 沈黙は伽羅のメニュー表を開く音で破られた

 

「特製アイスティーか。こういうの好きなんだ? 熱いと面倒だよねぇ」

「……そうなんです! せっかく買ったのに待たされるのが嫌で――」

 ホットドリンクの悪口大会が始まった直後に、店員が注文を取りに来た。

 特製アイスティーと、適当にプリンを2つずつ注文する

 

 適当に、とは言ったが百合はこのカフェのプリンが大好きだった。

 小学生くらいまでは祖父母の家へ遊びに行く(たび)に、テイクアウトしておいてくれたプリンに飛びついていた

 

 ドリンク以外のメニューについて触れたのをきっかけに話題が移った

 

「食べにくいやつ嫌いです」

「クロワッサンとか? あれはボロボロ落ちやがるからなあ」

「わかります!」

 プリンはスプーンで(すく)いきれなかった部分が器に残るのが汚くて嫌いだ。

 ここのプリンは昔ながらのものだからか少し硬いので、そういった事態に陥らない所を百合は好んでいる

 

「失礼します」

 店員が注文した物を持ってきた。

 自分がカフェにいる理由を思い出した百合が話題を戻す

 

「ねぇ、伽羅さんもゲームは続けるでしょ?」

 百合は待ちかねたように尋ねた

 

「うん」

 短い返事だ。

 だが、こちらを遠ざけようとしてのものじゃないことは、もう知っている。

 口数が少ない人なのだろうか

 

「やめられないよ、あれは」

 ニンマリ、という擬音が連想される蠱惑的な笑みだった

 

「同感です」

「ああ、ならやっぱり、首が折れてたのは百合さんか」

 どうやら百合が通り過ぎた後の死体を見かけたらしい。

 『やっぱり』と言ったのは、同じ匂いがする相手を嗅ぎ分けていたということか

 

「私は、もっと虐めてやりたくなるけど」

 不思議そうにしている

 

「まだ試していないからかもしれません。手応えがあるので、それに甘んじてしまいます」

 

 エージェントの“腕前が近い者同士で組まされる”という説明が事実ならプレイヤーとしての歴は殆ど変わらないはずだ。

 しかし、殺人に関しては百合よりも伽羅の方が堪能なようだった

 

「実は伽羅さんに、()()()()ことを教えて欲しいんです」

「いいよ、教えてあげる」

 殆ど間を置かない返答。まさに二つ返事だった。

 百合はくすぐったいような気持ちでお礼を言った

 

 実はエージェントにプレイヤーとしての講師をつけてもらえないか、1回目が終わった時点で打診してはいた。

 しかし、月謝は驚きの50万円!

 

 一般的な習い事に覚えのある百合は最初に金額を聞いた時、かなり驚いた。

 が、1回のゲームで得られる賞金が初回であっても300万円ということ、そして何より伝授される内容が言葉通り命懸けで発見されたものであることを考えると、真に驚くべきは金額の安さである

 

 そうは言っても、プロに頼むより頼れる先輩に聞きたいのが心細い人間心理だった。

 百合の悩みは晴れた

 

「食べよっか」

 伽羅の仕切りでアイスティーに口をつけて一服した。

 皿の上から硬めのプリンを取り外すような気持ちで掬い上げ、喉へ流す

 

 2人がプリンを食べ終わった時に伽羅の方から提案があった。

 それまで会話は途絶えていた。

 二人とも食べることに集中したかったのだ

 

「弟子と一緒に暮らしてるんだけど、百合さんもどう?」

 なんと、シェアハウスというやつだろうか

 

 ゲームの外で殺しをすれば、当然だが死体を処分する必要がある。

 数十キロの人目に触れさせられない物体を運ぶとなると、連携は必須なのかもしれない

 

「そうしたいんですが、祖父母の家に思い入れがあって……」

「そっか」

 笑顔だった。何も気にしていないようだ

 

「じゃあ2週間後に、人殺しに行くからおいで」

 伽羅は視線を百合に合わせ直してから誘った

「ぜひ!」

 

(予定立てて殺すんだ……)

 

 八つ当たりで人殺しをしているのには違いない。

 気になるのは日を跨いでも怒りが持続するのか、それとも(あらかじ)め発散する機会を作っておくのかということだ。

 百合の内臓が飛び出ていないことを考えると後者だと思われるが、「生意気なブスがいるんだ」という付け足しから前者だと判断した

 

「どこ住んでるの? 車だけど」

「この近くです。でも、伺いますよ」

「ご近所さんだったんだね。じゃあ、XXってマンションまで来て」

 

 伽羅は窓の向こうに(そび)える高層マンションを指差して言った。

 近場だろうとは予想していたが、ここまでとは思わなかった。

 あのマンションなら百合の家から5分とかからない

 

「そうだったんですね」

 百合は愛想が抜けきらない笑い声を上げてから返事をした

 

「美味しかったね」

 僅かに残っていたアイスティーを飲み干した伽羅が()()()のムードを作る

 

「そうですね」

 百合はホクホクとした気分で相槌を打った。

 もう解散となるのは名残惜しいが、また遊べるのなら我慢できる

 

「もしかしたらゲームで会う方が早いかもね」

 伽羅が無邪気な笑みを浮かべて言った

 

「来週には出るので、そうかもしれません」

 百合はエージェントに勧められた参加周期について付け加えて、発言の意図を補足した

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

 伽羅の家へ向かう途中で、百合の家に辿り着いた。

 ここでお別れだ

 

「またね。殺し以外でも遊びにおいで」

 百合は笑顔だけで答えた。

 伽羅が愛想笑いだと誤解することはなかった

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