“……我々は覚えている、ジェリコの古則を。”
…接続パスワードを承認。
「シッテムの箱」へようこそ…。
―――『私のミスでした』
柔らかな声に、私はゆっくりと目を開いていく。
どうやら電車に乗っているらしい。座席に腰掛けているはずの体は、小刻みに揺られている。
声のした方へ視線を向けると、向かいの席に真っ白な服をまとった少女。光に遮られ、その顔ははっきりと見えない。ただ、違和感だけがやけに鮮明だった。白い服の一部が、赤く染まっている。足元には、赤い液体がぽたり、ぽたりと滴っていた。
だが、そんな異様さを意に介す様子もなく、彼女は再び口を開いた。
―――『私の選択……そして、それによって招かれた、このすべての状況。この結果に辿り着いて初めて、あなた方の方が正しかったのだと悟るだなんて……』
その瞬間、脳裏にノイズが走った。
見知らぬ女性が、私に拳銃を向けている。――そんな、あり得ないはずの映像が浮かぶ。
―――『……今さら図々しいですが、お願いします』
何を?と問い返そうとした。しかし喉はひくりとも動かず、かすれた声すら出てこない。
―――『きっと、この話は忘れてしまうでしょう。それでも構いません。何も思い出せなくても、あなたはきっと、彼とは異なる選択ができる…』
彼女の声は、過去を振り返っているようでもあり、未来に微かな希望を託しているようでもあった。
―――『あなたは、かつて私に言いましたね。“何か一つでも歯車が増えて……減って……狂ってしまえば、予測していた未来とは違う運命を歩むことになる。その先が、良くても悪くても”――と』
彼女は続ける。
―――『あなたが生きるこの世界は、そんな世界です。何か一つ歯車が違うだけで、運命は大きく変わる。だから大事なのは……経験ではなく、選択』
彼女はわずかに微笑み、優しい瞳でこちらを見つめた。
―――『責任を負うということについても、話したことがありましたね。あの頃の私には理解できませんでしたが……今なら、わかります』
そう言って、彼女は苦笑する。
その直後、私の視界がゆっくりと濁り始めた。
―――『大人にとって代わらなければならなかった、あなたの責務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心の重さも』
意識が次第に遠のいていく。
それを察したのか、彼女は再び、穏やかな微笑みを浮かべた。
―――『……ですから、私が信じる“友人”であるあなたなら……この“捻れて歪んだ先の終着点”とは、また別の結果を導けるはずです』
まぶたが重くなる。必死に抗うが、意識は抗いがたく沈んでいく。
―――『そこへ辿り着く選択肢は、きっと見つかります』
―――『だから、どうか……先生を…彼にとって、とることのできない選択で、彼を支えてあげてください』
「―会長っ!!」
なぜその言葉がその言葉を最後に、私の意識は完全に闇へと溶けていった。
「(―んぱい!先輩!起きてください!!ミコト先輩!!)」
私の体を誰かに揺らされるのを感じるとともに、私は少しずつ意識を取り戻していく。
瞼をひらこうとすれば、光が入ってくるため、自分の背中についている翼で顔に影を作る。
光が遮られたため目を少しずつ開くと、目元にかかっている自分の朱色の髪を横に流し、柔らかな声で私の名前を呼ぶ方をちらりと見る。そこには同じ連邦生徒会調停室で働く、後輩であり上司のアユムちゃんが私のほうを見て、肩をゆすっているのがわかった。
「んー、あともう少し…」
「起きられましたか?
その声を聴いた途端、寝かけていた意識が即座に覚醒する。
がばっと勢いよく体を起こすと、目の前にいたのは、私の同期兼友人、我らが連邦生徒会の主席行政官―七神リン。
彼女の額には怒りを表すようにしわができており、メガネのレンズによって光が反射しているため目は見えないが、それが彼女の怒りをより表しているように私は感じた。
「り、リンちゃん…?もしかしなくても、怒ってるよね?」
「いえ、ただあきれていただけです。本当によい上司を持つことができてよかったと、あなたはアユムに感謝した方がいいですよ、それとリンちゃんではありませんからね」
「は、はーい…」
「はぁ…それでは、会議の続きを行わせていただきます」
そういって、彼女は会議室の前のほうに戻っていった。
(そういえば、私は会議に呼ばれて、会議が始まるとすぐぐらいに寝ちゃったんだっけ?やべ、今日の議題聞いてないや)
本来、会議は連邦生徒会長の招集により開催されることが多いが、今回は主席行政官の要請により、連邦生徒会幹部が招集された。
そういったことがあるときは大体問題ごとが起きた時なので、防衛室かうちが動かされる。私は話を聞いていなかったことを悔やみつつ、アユムちゃんに議題とここまでの流れを聞こうとした―。
「昨日発生しました、連邦生徒会長失踪についてですが―」
リンちゃんの声を聴いたわたしは体を硬直させた。
(―会長が、失踪?)
友人の失踪の知らせを聞いた私は、リンちゃんのほうを見る。私と目が合った彼女は少し悲しそうな感情を瞳にだけ写し、すぐに元の様子に戻る。
「連邦生徒会長の進めていた連邦捜査部『シャーレ』の部室地下にて、連邦生徒会長の残した文書とオーパーツと思われるタブレット端末が見つかりました。文書については筆跡鑑定の結果、本人の筆跡とも一致しております。また、フィデス連邦審判学院の運営、並びに最高審判官の任命についてはすでに―」
そこからの流れは、お察しだ。そもそもサンクトゥムタワーの制御権が連邦生徒会長にあるため、業務がそもそも滞っており、会議で話はまとまらなかった。
ただ、連邦生徒会長代理として主席行政官がその任を担うことになることや、司法の正常な運用自体はできているほか、その他のこととしては、シャーレの処遇に関しての文書にそれに関する内容が書かれていたため、スムーズに済んだのだが――。
「連邦矯正局からの脱走者七名…キヴォトス各自治区組織からの治安悪化に対する説明要求、そしてシャーレの先生…ね、どうするの?リンちゃん…」
「どうするもなにも…連邦生徒会長が呼んだと書かれていたシャーレの先生という人を待つしかないでしょう。それまではどうにか、人海戦術でどうにかしましょう。」
現状の問題を連邦生徒会長代行を表す腕章を通した彼女にどうするのかと問うが、返答はやはりその場しのぎの策、だがこれしかないのだということは私もわかっていた。
「…分かった」
私はもはや正常に機能していない連邦生徒会の行政官執務室にてリンちゃんの机に乗っかっている書類を拾い上げながらそう言った。
連邦生徒会長失踪から数日間は本当に大変だった。
ずっと仕事をしているリンちゃんに少し休んではどうかと言うも首を振って拒否された。
なので遠慮なくアユムちゃんと結託(無理矢理巻き込んで)して、リンちゃんを仮眠室に放り込んだ。
行政官室に残った書類の内容のほとんどは治安悪化によるものばかりであり、同じような内容ばかりなこともあってみるのは読むのもつらくなってくる。
途中でリンちゃんから書類を渡され、私のサインを書くように言われることも多々あった。
そのたびに、「またサインだよぉ〜!!」といったのは何度かは片手で数えられなくなってからもうわからない。
書類が一通り片付くころには、各行政委員会も巻き込んでことにあたった結果 、私たちは満身創痍になっていた。
ある夜にリンちゃんにおごってもらった焼肉が過去一でおいしかったのを覚えている。
その数日後のことだ…
連邦生徒会長の命でキヴォトスに訪れた大人がやってきた。
そう―
「だから!!何度も言ってるでしょ!!連邦生徒会長を早く出しなさい!」
「ですから!!現在連邦生徒会長は諸事情により席を外しているといってるでしょ!!それしか用がないなら帰ってくださいよ!!」
連邦生徒会ロビーにて私、鳳月ミコトはリンちゃんから
これでも私は、連邦生徒会随一の仕事サボり魔ではあるが、自分の仕事自体は即座に仕上げ、その後にサボっているという、他人からすればとても質の悪い人物である。
ゆえに、我が同期である七神リン氏はいう。
―――「あの人は自分の仕事”だけ”は完璧にしますが、それ以上に問題を抱えていますので―」
これに関してはかなり遺憾であるので、のちにリンちゃんと言い合い(私が一方的に文句を垂れてただけではあるが…)になり、連邦生徒会長にいさめられたっけ…。
なんてこんな回想を挟んでいる場合ではない。
「ですから皆さん、落ち着いてください!銃をおろして!」
なんとかこの事態をリンちゃんがくるまでに収集しなければ――と、わたしが思っていたのもつかの間……
「ちょっとまって、代行!!見つけたわ、早く連邦生徒会長を呼んできて!」
「ちょっ!?押さないでくださいってユウカさん!」
自体収束の前にリンちゃんが来てしまったことに気づいた彼女らは次々とリンちゃんのほうに詰め寄りに行く。それを何とか抑えようとするも、その行動はかなわず気づいたときには床に臥すような体制になっていた。
(くそぅ、”羽”さえあれば、どうにかなったのに―洗濯なんてしなきゃよかった…)
私は今存在しない翼の存在を惜しみながら、リンのもとへと体をはいずって向かおうとする。
そして、彼女の足と思われるものに右手でしがみついた。
「リン…ちゃん。よかった、来てくれて…、私、もう、む り…」
疲れ果てた声で私はその足に縋りつく。だがしかし、ここで私は違和感を覚えた。
リンちゃんの足の感触ではない。いつも履いているタイツのさらさらとしたものではなく、ごわごわとした感触…まさか…。
「えぇっと…大丈夫?」
そう真上から声がした。その声はまるで男性のもの、このキヴォトスでなかなか聞かない”大人”の”男性”の声…その方向にギギギと音が鳴りそうなほどぎこちなく顔を向けた。
そこにいたのは、以前写真で見た、件の…シャーレの先生といわれていた先生、その人であった。
「………」「………」
このとき、私たち2人の目が合うが、2人の口から音が出ることはなかった。
私は何事もなかったかのように立ち上がり、服についた汚れを払って、リンちゃんの後ろに帯同した。
よし…セーフ
「って!なんで何事もなかったように戻ってるんですかあなたは!?」
…セーフではなかったようだ。そう言われて始めて身体のうちから熱がこみ上げてくる。
ユウカさんをこのときほど恨むことは一生ないだろうと思った。
「…うるさい方は無視して、話を進めましょ?ね?リンちゃん」
「…そうですね、そうしましょう。」
…なんだよ。なんでそんな面倒なものを見るような目をするんだよリンちゃん。
―とまぁ…色々ありながら、シャーレの先生には現在のキヴォトスの状況やこの場にいる人たちの説明などをした。
…決して先ほどの失態をごまかす目的ではないことを先生には重々理解してほしい。
「ですのでいまから、先生をそこにお連れしなければなりません」
そういってリンちゃんが通信端末を取り出して、どこかに連絡をする。画面の文字を見るに連絡するのはモモカちゃんだったようだ、がなぜか嫌な予感がしている。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど。」
『シャーレの部室?…あぁ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ?」
—よし逃げよう。 私はすぐにそう思った。
モモカがデリバリーが来たのを理由に通話を切ったのを背に私はロビーから脱出しようと、扉に手をかけようとしていた—
「どこへいかれるのですか?」
「あ、いや、これは逃げようとしたわけじゃ…そう!デリバリーが届いたって言ってたじゃん?私もモモカちゃんに頼んでて—だから…」
ガシッっとつかまれているため、下手に逃げることはできず私は引きつった笑顔を見せることしかできない。
「申し訳ないですが、お昼をいただくのは、もう少し先にしていただけませんか?」
背後にゴゴゴ…と効果音でもついているかのような圧力に屈した私は首を無言で縦に何度も振る。
現在連邦生徒会に突撃してきた彼女らにも
「それではいきましょうか?ミコトさん?」
「嫌だぁ!行きたくなぁい!!」
私はそう叫んで引きずられながら現場対応に駆り出されることになってしまった…。
「ほーんと、なんで私が駆り出されてるんですかねぇ…。一応連邦生徒会幹部ですよぉ?」
私は目の前でユウカさんやハスミさんが前線をとてつもない速度で進めているのをシャーレの先生の隣でぶつぶつと文句を言いつつ戦闘の様子を見ていた。
私いらなかったよなぁとは思うものの、先生の護衛の任のために駆り出されたのだろうと無理やり納得するようにした。
(…にしても、この規模の反乱が内輪もめで乱戦状態にならないのは妙だな…。とかんがえると、おそらくこの規模を統括している人物がいる)
そんなことを考えつつ、もう少しでシャーレオフィスにたどり着くというところで、私の通信端末にリンちゃんからの着信があった。
先生にも通信を聞いてもらうようホログラムを先生にも見せる。
「はいはい?どうしたんだいリンちゃん?」
『リンちゃんでは…この際もういいです。今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。』
「―誰だったの?」
『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。』
「ワカモって、あのSRTのFOX小隊がやっと捕まえたとかいう、あの狐坂ワカモ?」
『はい。いま送付した資料はワカモについてのものです。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気をつけてください。』
やはり背後に司令塔はいるとは思っていたが、破壊の権化ともいわれる狐坂ワカモとは思わず、私は右手を口元に当てて考える。先生はわかったといって、再び戦闘を行っているユウカさんたちの指揮を行っている。
ユウカさんのバリアを前衛に各々が後衛、補助など多彩に攻撃を加えていっている様子をみているととても感心せざるを得ない。
先生自身も少し不安な様子ではあるが、それでもなぜか自信があふれているようであった。
その様子を見て、あの夢の内容を突然思い出し、先生の行動に危うさを感じてしまった―。
『ワカモとの接敵を確認、先生、注意してください。』
”わかった、みんなたのんだよ!”
その場にいるメンバーがワカモとの接敵により警戒を強める一方で、私は”別のこと”に注意を割いていた。
そんなことをしていると私のほうにも銃口が向くので、先生に当たらないようにはしつつ、手持ちに持っていたハンドガンでなんとか制圧する。
ちらりとワカモのほうを見れば、うまく戦闘ができているようで、ワカモは分が悪くなったのか、後方へ飛びのいた。
さすがは七囚人、そんなもんでは捕まらないよね。
「わたしはここまで、あとは任せます」
そう言い残して、ワカモは敵陣の奥の方へと走っていった。
「逃げられてるじゃない!追うわよ!」
「いいえ、生半可な行動をしてはいけません。」
ユウカさんがワカモの後を追っていこうとするのをハスミさんが止めた。
「ハスミさんのいうとおりですね~ユウカさん。私たちの目的はあくまでも、シャーレの奪還ですから、そっちを追うのはヴァルキューレの仕事ですよ」
「…うん、まぁいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないものね。」
私たちの静止を受けて、ユウカさんは納得した表情をして、「罠かもしれないし…」といいつつ、シャーレの部室のあるビルへと足を進めた。
そして先生が彼女らについていこうとするのを、先生の着ていたスーツの肘の部分を引っ張って、引き留める。
「どうしたの?」
「さっきから先生が私よりも前に行くから引き留めたんですよ。先生は私たちと違って銃弾一発でも命に関わるんですから、もう少し身の安全を確保した行動をしてくださいよ?」
「…わかった」
先生にこういったのにもまぁ一応理由はある。
この先にある“とんでもないもの”から先生を守るにはこうするのが一番なのだ。
「よし!建物の入口まで到着!」
そうユウカさんが言うと同時に、ガガガガ―という大きな機械音がその場に響き渡った。
その音のする方を見ると、見るからに大きな機体と砲台を併せ持つ兵器、戦車が私たちの方に近づいてきていた。
「なるほど…トリニティの正規戦車と同じ型のものかー面倒だね。」
「不法に流通されたものに違いないわ!」
「まぁ十中八九PMCに流通されてたものでしょうね、まぁ破壊しても構いませんよ?連邦生徒会側としては。てなわけで頼みますねー?」
人任せにしないで!!と戦っているみんなには言われたが、あいにくそれも難しい状況であるのが現在。
ワカモの奇襲も警戒しないといけないし、何よりシャーレのビルが倒壊するような事態になればかなり面倒なことになる。
そんなことを考えていると…シャーレのオフィスの玄関からなかへと入っていったワカモに一瞬気を取られてしまったその時だ。
「ただやられてるわけにはいかねぇよ!!」
そう叫ぶような声が耳に入ってきた、その反響を掻き消すようにとてつもない爆音が耳に届く。
その瞬間目の前には戦車から発射されたであろう鉄の塊がこちらに向かって放たれていた。そして、目の端に見えるのは人影、シャーレの先生が私の前に割り込んで来ようとしてきている様子だった。
(な、なんで先生が…!?)
そんなことを考えている間に私の体は先生の手によって後ろに突き飛ばされようとしていた。
そして、私をかばって先生が前へと立ちはだかる…。
そして、先生は重症を負う、そんな未来を誰もが予期したところだった。
…だが、そんなことをこの
ドゴォォォン!!というとてつもない轟音とともに、その場には煙が立ち込めていた。
その様子を見ていたユウカらは絶句しており、銃を撃つのも止め、その光景を立ち尽くしてみているだけだった。
「お、おい。やべぇ、やっちまったぞ!?」
「うるさい!!うろたえるな!!これであのよく分からんやつが消えたんだ、これでどうにかな―」
そう正気に戻った彼らの前を何かが横切る、その何かはまっすぐに、戦車の下へと転がっていく。
そして、先ほどの轟音と引けをとならいほどの音が鳴った、それと同時に戦車が吹き飛んだ。
それに驚いている何人かの不良生徒の頭が何かに跳ね飛ばされたように弾かれて倒れた。
「君たち…敵の情報はしっかりと確保しておくべきだよー、まぁ私が前線に出るのなんてほとんどないけど…」
その瞬間、それが手榴弾、しかも対戦車用のものであると確信し、同時に誰が投げたのかも、その場の誰もが分かり、立ち上がる煙に視線を向ける。
煙が晴れると、驚いた様子で私のほうをその場の全員が見ているのが分かる。
あの状況、二人ともただでは済まないほどの威力をうけて、なぜ傷一つないのか、その答えはすぐわかった、それは…私と先生の周囲を漂う、無数の赤色の羽によるものであると。
「ミコト…これは?」
「話はあと、ひとまずは…パブリックエネミーを制圧しましょうか」
周囲を漂っていた羽根は次々と整列するように私の背中に向かって飛んでいき、次第に一対の大きな剛翼へと成っていく。
私は羽根に運ばせてきた白色の制帽を被り、ピストルを構える。
「キヴォトスの平穏のため、連邦生徒会調停室副室長としてあなたたちを制圧させてもらうよ」
私がピストルのトリガーを引いたのを合図に再びシャーレ奪還戦は始まった。
シャーレビルの奪還というミッションを完了した私は万が一のこともあるため、先生をビルの中に先にいれて、リンちゃんの到着を待っていた。
「お待たせしました。」
「ヘリでとは…別に迎えに行ってもよかったんだよ?」
ヘリから降りてきたリンちゃんに対して私は背中の翼を少し羽ばたかせていうも、とても怪訝な顔をされた。
「いえ、あなたの移動は危なっかしいのであれっきりにしたいですね」
「いや…人運んでは初めてで…ごめんて」
私がワタワタと言い訳を並べようとする様子をみて、ため息を吐いた彼女は私を置いてシャーレのビルへと入っていく。
「先生ー?大丈夫ですかー?」
「…うん、大丈夫だよ」
シャーレビルの地下に降りてきた私たちは先にいた先生に話しかけるが、少しぎこちなさを感じる返事をした。
(こりゃなんかあったな…)
そう口には出さないものの先生の様子から察したが、まぁこの際どうでもいいと思い聞かないことにした。
「…そうですか。ここに、連邦生徒会長が残したものが保管されています。」
リンちゃんは先生の横を通って、地下室の奥のあるものを取り、先生にそれを差し出した。
「…受け取ってください。」
“これは…タブレット端末…?”
「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残したもの。『シッテムの箱』です。」
「『シッテムの箱』ってことは…あの、オーパーツの?」
そう私が言うなり、彼女は私に驚きの表情を見せた。
まるで私が覚えているはずがないと言わんばかりの表情に、私は圧をかけるも、目線を逸らされてしまった。
「コホンッ…そうですね、普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。
製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みすべてが不明。
連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生のもので、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと遺した文書の中で言っていました。」
「私たちじゃあ起動すらできなかったものだけど、もしかしたら先生なら起動できるかもってところだと思うよ。
まぁ、そうじゃない可能性もあるわけだけどね。」
私たちが先生にそういうと…とてつもなく悩んだような表情になってしまった。
(いや、ほとんどここに来て間もない人にはあまりにも重い!
いやでもなぁ…連邦生徒会長が言ってた通りなら…もうどうにでもなれー!!)
なんて投げ出すこともできないため、ある程度の支援は行いますよ、とそれなりに安心出来るように声をかけた。
「…では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています。邪魔にならないよう、離れています。あとそういえば…ミコトさん」
「ん?何?」
「今のうちに話しておくことと、書類をお渡しします。行きますよ。」
「えっ?なんで今?いやまぁ出るけどさ。」
そう言い、わたしたちは地下室の階段を上っていく。
シャーレの部室の地下には、シャーレの先生となるだろう人だけが残された。
「…ねぇ、ほんとにやるの…?リンちゃん、これ?」
私はリンちゃんから手渡された書類の束をヒラヒラとさせ、今にも崩れそうな笑顔で尋ねた。
「えぇ、あなたにとってもよいものとなると私も思っていますが?」
「いや、それとこれとは話が違…「もうすでに契約自体は交わしていますから」そーなんだよね!!やってくれたよねほんとにさ!!」
シャーレの部室に響き渡るような声量で声をあげる私とは対照的にリンちゃんはいつもどおりの冷たーい対応をしつつ、先生の元へと戻っている。
先ほど連邦生徒会の方から連絡があり、サンクトゥムタワーの制御権が回復した旨を聞いた私たちは先生に報告へと向かっているのだ。
「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね。
お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく。」
そう言われた先生は少し複雑そうな表情をしていた。やはり生徒同士がこうして争い合うのが気がかりなのだろうかと私の勝手ながら思った。
だがそれよりも早急に先生には却下していただきたい案件がある。
「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようですね。では、後はこの『鳳月ミコト』さんに聞いてください。」
「ちょっと待てぇ!!」
私の声に驚いた先生の身体が少し跳ねてしまったが、私はそんなことを気にせずリンちゃんの肩をガシッと掴んで目を合わせる。
「どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたかじゃないよ!なんで私がこんなことをしなきゃいけないの!?てかほんとにやるの?!」
わたしは手に握っているシャーレのエンブレムか表紙に書かれた書類を彼女につきつける。
「何故と言われましても…これは連邦生徒会長のご意向です。それに先ほども入部届へのサインがあるのは確認したでしょう?」
「そのうえでいってんの!ちゃんと本人の許可とれよ君たちは!!」
私たちがそう言い合っていると先生の制止が入り、一度私はリンちゃんから離れてその辺に置いてあった椅子に座った。
“あの…どういうことか、説明してもらってもいいかな?”
いまいち状況をつかめずにいた先生のため、リンちゃんはもう一部用意していたシャーレの書類を先生に渡す。
「…全て丸投げというのは良くなかったですね。では、改めてご説明します。こちらは本日より連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに入部し、部長として就任していただく、鳳月ミコトさんです。」
“…え?ほんとにどういうこと?”
「そうですよね、普通そういう反応になりますよね。」
わかりますよと言うようにうなづいている。
「シャーレの概要についてはその書類の通りですので、お読みください。」
そう言われた先生はパラパラと書類の内容を流し見していく。
おおよその内容について説明すると、連邦捜査部シャーレの顧問である先生には『他の自治区での戦闘行為が認められる』『誰でも強制的に入部をすることができる』といったことがかかれており、同時期に“キヴォトス憲章”草案を作ったであろう連邦生徒会長が直々にこのような組織を作ったとは思えないほどの超法規的機関である。
これには流石に
そして…私はさらにある項目をみて、私が思わず拳に力を入れる。そのせいで、資料の端をグシャリと音を立てて、クシャクシャになる。
「ちょっと待って…。『連邦捜査部の部長の任に就くものを、
「はい、そう言うことになりますね。」
リンちゃんはなにに驚いているのだろうかと言うような表情で私をみるも、それにカチンっときた私は思わず壁を殴り、ドンッ!という鈍い音がその場に響いた。
「そういうことになりますね、じゃないんだよ!?そこをちゃんと言えって言ってんの!!そ!れ!に!連邦生徒会の方はどうするのさ!?」
「連邦捜査部と連邦生徒会は規定上両立できないので、連邦生徒会を辞めて頂くことになるかと」
「冗談じゃないよ!」
私の今にも殴りかかりそうな様子をみて、先生が仲介に入ったため渋々ではあるものの、私は不満を顔に出しながら、ドスンッと乱暴にそこら辺にあった机のうえに座る。これがせめてもの彼女への抗議である。
「なにを気になさっているかは分かりませんが、ご安心ください。あなたのやっていた仕事は全て私が一時的に引き継ぎますので」
「いやそれはそれで問題だから。リンちゃん、あなたいつか死ぬよ。」
「えぇ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ。」
リンちゃんがヘリで連邦生徒会へと帰っていったのを見送った私たちは、シャーレの前にて先程共に戦った生徒らにあいさつをする。彼女たちも各々自身の所属する学校へと連絡を終えたようだ。
「ワカモは自治区ににげてしまったのですけど…すぐ捕まるでしょう、私たちはこれで。あとは担当者に任せましょう。」
「…まぁおおよそね。あとは連邦生徒会にまかせてほしいな」
私は少し複雑な心境でそういうと、ハスミさんもそれに賛同してもらった。
彼女らも先生に連絡先を共有し終わると、学園への帰還の用意をし始めていた。
「お疲れ様でした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
“みんなお疲れ様、ありがとうね”
「えぇ、急な救援要請に応えてくださったこと。連邦生徒会を代表して感謝します」
先生に続いて私も一応お礼だけはしておいた。まぁまだ連邦生徒会として所属しているわけだし…ね?
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。」
ハスミさんもこの場を去っていくと、同じ学園のスズミも頭を少し下げてこの場を去っていった。
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください。」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」
そう言い、二人も自身の学園への帰路へとついたのだった。
私たちが彼女らの見送りを終えるなり、先ほど訪れたばかりのシャーレの執務室に入った。
なんとシャーレには親切に連邦捜査部長室なんてものもあるらしいがほとんどそこにこもり切るようなことにはならないように先生とこの執務室で仕事をするようになるだろうなぁと想像する。
少し疲れたのかソファに座り込んだ先生に下のエンジェル24で買ったお茶を渡す。先生は私にお礼を言うと、ペットボトルの飲み口に口をつけて、ゴクゴクと喉を鳴らし、半分ほどまで一気に飲みきってしまった。
落ち着いた様子に戻った先生は私に問う。
“ミコトが本当に嫌なら、私から彼女に言おうか?”
そう言われるも、私は首を横に振る。
「いえ、結局連邦生徒会では仕事という仕事はないですけど、それでも自分がやりたいことが好きにできる環境じゃなかったですから、そういう意味でも、彼女らは私をシャーレ長官として推薦したんだと思います…。」
“…にしてはすごい嫌そうだけど?”
そう先生に言われ、私は飲んでいたペットボトルを机に力強く置いた。
「えぇそうですよ!!だって明らかに仕事多いじゃないですか!!しかもそこまでいらない権力までつけてきて…」
私がため息を吐くと、先生はその様子をみてクスクスと笑う。
気持ち的にも楽になったのだろうと思った私は、先ほどリンちゃんにもらった書類の紙の1枚を先生の前におく。
そこには、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E長官任命書』という一番上の文字に署名欄には『鳳月ミコト』と記入されていた。
“…これは?”
「先生のサインを書いて、連邦生徒会に提出してください。それで、私は正式に連邦捜査部として活動することができますので。」
そう言った私は先程と打って変わり、先生からしてみればもはや清々しい様子だっただろう。
“ということは…ミコトはシャーレの部長になるってこと…だよね?”
「まぁ、これも仕事ですので。リンちゃんにはサボり魔だとおもわれているでしょうけど、私これでも必要以上にやらないだけで、割り振られた仕事は完璧にこなすので!」
私は鼻を高々と伸ばし、フフンと鼻を鳴らした。
「まぁですから…これからよろしくお願いしますね、先生」
“うん、よろしくね。ミコト”
そういって、私たちは握手を交わす。これから活動していく中で、おそらくパートナーとなるだろう私たちの関係が今始まったのだ。
「ところで…先生の荷物におもちゃがたくさん入ってるんですけど…ちゃんと自室にしまっておいてくださいね…?」
“うっ…まさかもう私の趣味がバレるとは…幻滅してない?”
「幻滅するほど関係性もないので…、まぁそういうのにお金使いすぎるとかはやめてくださいねー」
“…さて、仕事しようか”
「無視するのやめてくださいねー」
先生がこのキヴォトスにきて、これからどのようなことが引き起こっていくのか…私にはそれが一切わからなかった。が…
「よろしくお願いします、先生」
何かが、確実にいい方向に行くのだろうという、そんな予感がした。
トリニティ総合学園、夜が明けたばかりの日光が体育館を出てすぐの庭園を照らす。そこで、その空間にいる人全員に届くような怒鳴り声がある人物から上がった。
「あなたには!!
その人物、ミコトは目の前にいる大人―先生の手に自分の銃を握らせて、銃の銃口を自分の腹に突き付けさせてそういった。
――この物語を知るのは、まだ先のことだがね
はじめまして、匿名です。
この作品はpixivにてマルカメとして投稿していた作品のリメイク版です。
この作品はブルーアーカイブというゲームの二次創作作品です。オリジナルキャラクター、ストーリーの改変が多少ありますので、ご注意ください。
最後に、これからもどうぞ応援等、よろしくお願いいたします!