BlueArchive ―唯なる運命の特異点―   作:匿名

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今回からアビドス編
新キャラでるよ


Story of ABYDOS
Episode1 アビドスへ行こう


キヴォトスに先生が赴任して数週間。

当初の混乱もようやく落ち着きを見せ、シャーレの仕事に慣れてきた先生は、人手不足を補う当番制の導入もあって「3日連続徹夜」という不名誉な記録の更新を免れていた。

 

そのため、ある程度余裕が生まれたこともあり、先生はリンちゃんに言われていた各地の問題に奔走することになるらしい。

 

ちなみに、シャーレ設立時にはクロノススクール等の記者から執拗な取材攻勢を受けたが、対外的な不安要素を考慮し、連邦生徒会に籍を置く私がその多くを引き受けていた。中にはリンとの同期という立場を利用して「キヴォトス全土の権力掌握を企んでいるのでは」と邪推する不届きなマスコミもいたが、それらには「丁重」に対処しておいた。

 

私自身が深く関与しすぎるのは得策ではないが、先生の補助役を務めることについては、あらかじめリンちゃんにも承諾を得ている。

 

 

 

 

そして現在―

 

「…」

「えっと…まだいらっしゃいませんね。あっ、こちらお茶です〜」

「…ありがとうございます」

 

私の胸元で固く結ばれた両腕。その上で、右手の人差し指がメトロノームのように正確な時を刻んでいる。その冷徹な規則正しさが、この場の温度を静かに奪っていく。

 

(遅い!!あまりにも、遅い!!)

 

こう私が思っているのは、本来ここにいるはずの先生がまだ来ていないことにある。

先生はアビドス高校へ武器などの補給要請に応えるため、数日前にシャーレを出発したはずだった。

当然今日私が到着する頃には着いていると思っていた。「道に迷う」だの「備蓄が足りない」だのといった事態は、出発前にあれほど念押ししたのだから無いはずだと信じたい。

それが今これであるため、私の中には焦りと怒りが渦巻いていた。

 

え?じゃあ私がなぜ先生より先に着いているのかって?

そんなもの決まってるじゃないですか。私に付いているこの翼で飛んできたんですよ。

そんなことみんなできない?トリニティのパワー担当とかゲヘナ最強ならできるんじゃないですか?

 

何はともあれ…先生が恐らく遭難していることはたしか…

一応アビドス高校周辺に羽根を何枚か飛ばしているもののこれはどうしたものかと、一度落ち着くためにズズズッと音を立てて、冷たいお茶を飲むと、乾いた喉に潤いが戻り、少し冷静さを取り戻す。

 

(とりあえず、渡すべき物は渡しておくか…)

 

私は机にコップを置いて、給仕してくれたノノミさんに胸ポケットから取り出した一枚の紙を手渡した。

「えっと…こちらは?」

「そちらはアビドス高等学校への補助金、及び弾薬等の支給に関する通知書です。一応私が持ってきた弾薬が今回支給する分の中に含まれているので、こちらは自由に使っていただいて構いません」

そう言って机の上に置いた中くらいの大きさの収納箱にはびっしりと弾薬の箱が敷き詰められていた。

「うわぁ…すごい量…」

「そう…ですね。予想していたより多く支給されているようです」

さっきの人とはちがう猫耳の付いた黒髪の生徒、セリカさんとメガネをかけた耳の長い生徒、アヤネさんは箱の中身を見て、思わず呟いた。

 

「ところで、シャーレの先生が訪問されると聞いていたのですが…あなたがシャーレの先生?ではないですよね?」

「あぁ…おそらくは…もうすぐ来ると思いますよ」

 

私はそうつぶやき、コップに入った残りのお茶を飲む。

私はこの時点で先生の身がある程度安心な状況にあることをなんとなく分かっていた。

そして、この教室の扉がガラガラガラと開く。

 

「噂をすれば…はぁ…」

 

教室に入ってきたのは白髮に犬耳の付いた少女と彼女の肩にぶら下がっている泥まみれのスーツを着た人物、先生だった。

「ただいま」

「おかえり、シロコせんぱ…い?」

この場にいる全員がシロコと呼ばれた生徒によって担がれている、スーツを着ている人物を2度見する。

(何やってるんだか…)

心のなかで少し呆れるも、もう少しほっておこうとお茶を飲む。

 

「うわっ!何っ!?その担いでるの誰!?」

「わぁ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」

「拉致!?もしかして死体!?シロコ先輩がついに犯罪に手を…!!」

 

(あれ?流れがおかしな方向に…?)

「 みんな落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ!体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを…。」

「いったん落ち着くのは君たちだよ!?」

ミコトは心の声が漏れてしまい、ハッと我に返った。

 

シロコと呼ばれた彼女は困った顔をして、彼女たちの前でその大人を降ろす。

「いや…普通に生きてる大人だから。うちの学校に用があるんだって」

「え?死体じゃなかったんですか」

「拉致したんじゃなくて、お客さん?」

「そうみたい…。」

“あはは…一応生きてはいるよ…”

砂まみれになった服を払って立ち上がった。

少しみすぼらしい先生の姿を見て、彼女たちは何故こんなところに来たのかと疑うような目で見つめる。

 

「わぁ、びっくりしました。一人でも珍しいのに二人もお客様がいらっしゃるなんて、とっても久しぶりですね。」

「そ、それもそうですね。」

黄色いパーカーを着た生徒が言った言葉にここに居るアビドスの生徒はみんな苦笑いした。

「でも大人の人の来客の予定ってありましたっけ?」

 

そういわれて、彼女たちにこの大人が誰なのかを説明していなかったことに気づく。

「この人が、『シャーレ』の先生ですよ。」

“えっと…こんな格好で申し訳ないけど、私が『シャーレ』の先生です、よろしくね。”

 

私の言葉に一同は私と先生を交互に見て、先生の方で止まって目を大きく見開いた。

「れ…連邦捜査部シャーレの先生!?」

「わぁ!ほんとに支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん」

「はい!これで…連邦生徒会から弾薬や補給品の援助が受けられます!」

 

そう会話する後ろで私が、先生と目線を合わせる。

(“ごめん、遭難した”)

(知ってます。なにをしてるんですか本当に…あれだけ言ったのに)

そんなことを互いに視線や表情から読み取って会話していた。

 

「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと…あれ?ホシノ先輩は?」

「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる。」

 

そう言って黒髪の猫耳のついた生徒は教室から出ていった。

“ところで…ミコトはいつ来たの?”

「ついさっきですよ。まったく…ほんとに遭難するなんて、冗談じゃないですよ。」

 

そう言いつつ私は自身の持ってきたカバンから袋を取り出し、それを私に手渡す。

「着替えです。シャーレに置いてあった予備のスーツを持ってきたので、後できがえ…」

ダダダダダッ!

 

同じ破裂音のような音が連続して聞こえ、私の言葉が遮られると同時に教室の窓が割れる。 

 

 

〈✱〉

 

 

ミコトが着替えを私に渡すと同時に、対策委員会の活動する教室の窓が割れた。

その瞬間、私の体は下へ引っ張られ、強制的にしゃがみ込みされた。

顔を上に上げると、白いコートと朱色の髪が前にあった。

恐らくミコトが私を飛んでくる銃弾から私たちを守ったのだろうとわかる。

「皆さん、大丈夫ですか?!」

「は…はい、さっきのは、銃声?まさか!」

 

私がちらりと机から顔を出して、割れた窓から校庭を見ると、大勢のヘルメットを被った生徒らが銃を片手にこちらに近づいてくる。

「あれが手紙で言っていた…暴力組織ってやつですか…」

「うん、カタカタヘルメット団。あいつら…性懲りも無く!」

 

…間違いなくミコトも同じことを思っただろう。

 

((名前もうちょっとどうにかならなかったの!?))

 

「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけないで、起きて!」

教室の扉を勢いよく開ける音とともに教室の中に滑り込んできたのは先程ホシノという人を連れてくるといった生徒とピンク色のロングヘアの生徒だった。

 

「むにゃ…まだ起きる時間じゃないよ〜。」

「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方はシャーレの先生とシャーレの部長さんです。」

「ありゃ〜そりゃ大変だね…。あ、先生に部長さん?よろしく〜、むにゃ…」

「ど…どうも」

 

ミコトはその生徒の態度からか、かなり動揺した様子でそのホシノという生徒にあいさつした。

「先輩、しっかりして!出動だよ!装備持って!学校を守らないと」

「ふわぁ…おちおち昼寝もできないじゃないか〜、ヘルメット団めー」

 

ふわふわとした様子で言う彼女が武器を持つ頃には他の生徒らはほとんどが武器を構えていた。

「すぐに出るよ。先生たちのおかげで、弾薬と補給品は十分。」

「はーい、みんな出撃です☆」

「みんなちょっとまって!」

 

そう言って教室から出ようとする彼女たちをミコトは制止した。

「どうかした?」

「おそらく廊下にも多数の敵がいると思います。数では圧倒的不利かつ閉所での戦闘はかなり苦戦が強いられます。」

「じゃあ…どうすれば…」

 

彼女たちがミコトのほうに意識を向ける。

一体どうするのかと沈黙が訪れたとき、ミコトは隣にいる私を自分の前に持ってくる。

 

「先生なら、この戦況を打開できます。なぜなら、生徒を導く先生ですから。ね?先生?」

 

ミコトは笑顔で私の方を向く。それと同時に彼女たちの顔も私の方を向いた。恐らく自身が戦闘にでたくないのか本音なのだろうが、私もこれに乗る。

 

“うん、もちろん。指揮は任せて!”

私が彼女たちにそういうと、「うん、よろしく。先生」とシロコが言うと、他の生徒らもそれに続くように頷いた。

「私は銃を持ってないので、今回はサポートという形でいますね〜」

そう言って彼女は大きな羽を広げて任せなさいと言わんばかりの迫力を見せつけた。

“それじゃあ…出撃!”

そういうと同時に彼女たちは教室から飛び出していった。

 

 

 

「皆さん、お疲れ様でした!」

「ただいま〜」

「アカネちゃんもオペレーターお疲れ」

 

戦闘を終えて帰ってきたアビドスの生徒たちが続々と武器を置いて、椅子に座る。

あの後、郊外までカタカタヘルメット団を退却させ、その後の追撃のためにヘルメット団の基地に攻撃、大方のカタカタヘルメット団の戦力を削ぐことに成功したようだ。

 

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです。」

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中出来る。」

「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるね!ありがとう、先生!この恩は一生わすれないから!」

 

私はこそばゆいのを隠すように頬を少し掻いて、“そこまで言われるようなことしてないよ”と苦笑しながら言った。

そしてふとセリカの言ったことのある部分が気になる。

 

“借金返済って?”

 

そう私が言うと、セリカは手で口を覆い、その口からは、あっ…という口を漏らした。

するとアヤネと「そ…それは…。」と少し言うのをためらうように私から目線を逸らした。

 

「ま、まって!!アヤネちゃん、それ以上は!」

セリカがアヤネを制止すると、ホシノが腕を枕にしつつ、顔を上げた。

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

「か、かと言って、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

「別に罪を犯したとかじゃないでしょ〜?それに先生は私たちを助けてくれた大人だしね」

 

ホシノがセリカをなだめるように説得すると、横のシロコも頷く。

「ホシノ先輩の言う通りだよ、セリカ。先生は信頼していいと思う。」

「け、けど!先生も結局は部外者だし…」

「確かに先生がパパッと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生しかいないじゃ〜ん?悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよ〜?それとも何か他にいい方法があるのかな〜、セリカちゃん?」

「う、うぅ…」

 

ホシノの言葉にセリカは一瞬たじろぐも言われっぱなしにはなるまいと再び口を開く。

「で、でも!さっき来たばっかりの大人でしょ!今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!?」

 

セリカは机に手を置いて身を乗り出すようにホシノに抗議する。

「この学校の問題は、ずっと私たちだけでなんとかしてきたじゃん!なのに今更大人が首を突っ込んで来るなんて…私は認めない!!」

そう言い放ち、セリカは私の横を足早に通り、教室から出ていってしまった。

 

「セリカちゃん!?」

「私、様子を見てきます。」

出ていってしまったセリカを追ってノノミも教室を後にした。その後の1秒はまるで30秒あるのかという程教室の空気は冷え切っていた。

 

“…えっと、私のせいでごめんね”

「ううん、先生のせいじゃない。気にしないで」

シロコはそういってくれるが、やはり自分たちの抱える問題を誰かに話す、協力してもらうということは難しいことだと分かっているため、無神経につついてしまったことをもう一度みんなに謝った。

 

“さっきの…借金について教えてもらってもいいかな?嫌なら言わなくても大丈夫だから”

私がそういうとホシノは首を横に降って、話すよと私に言った。

「えーと、簡単に説明すると…この学校には借金があるんだー。まぁ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で…9億ぐらいあるんだよねぇ〜。」

“9お…!?”

 

私は予想よりもはるかにとてつもない額に目が出そうになる。

「…正確には、9億6235万円。アビドス…いえ、私たち『対策委員会』が返済しなければならない金額です。これが返済できなければ、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。」

 

そのような話を聞いていてもやはり、約10億の借金を抱えた彼女らがその借金を返せるかと言われれば、誰でもNOと言うだろう。

その結果…

「そして私たちだけが残った。」

 

「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実はすべてこの借金のせいです。」

 

もはや桁が大きすぎてどれぐらいの規模がわからない。

シャーレの保有する預金を見ればそれぐらいはあるのだろうが、なにせお金の管理はミコトに任せているため、よく知らない。

それに、その借金に伴ってアビドスの危機がすぐ近くに迫っている状況…もはや別の国にいるかのようだ。

 

ここにミコトがいればわかりやすく説明してくれるのだろうが…。

ん?そういえば…

 

“ごめん、話を折るようで申し訳ないんだけど…ミコトは?”

「あぁ〜、シャーレ長官ちゃんはなんか予定があるとかで先に帰っちゃったよ」

 

先に帰っちゃうんだよね…。まぁミコトに仕事を押し付けて私もここにいるから、人のことは言えない。

“あぁ、ありがとう。そういえばいないなと思って。ごめんね、話を戻そうか。その借金について、もう少し事情を詳しく聞ける?”

 

そういって、アビドスがなぜ借金をする事態になってしまったのかについても説明してもらった。

数十年前にアビドス郊外で起こった砂嵐で至る所が砂に埋もれてしまい、それに対処するために巨額のお金を貸してくれる金融機関がなかったため、悪徳金融業者から借りたというのがことの始まりらしい。そこからは利子によってブクブクと膨らんでいって現在に至るということだ。

何ともまぁ、大人の世界の闇をまじまじと感じさせられる。

 

「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので手一杯でろ弾薬も補給品も、底をついてしまっています。」

「実はこの前もこの借金に関してフィデス連邦審判学院の弁護士の人に相談しに行ったんだけどねー、『この契約自体は完全に適法な契約だから、訴訟しようとしても棄却される、訴訟できたとしても敗訴する可能性が高い』って言われちゃったからねー」

「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて。」

「…まぁ、そういうつまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは、借金返済に全力投球出来るようになったってわけ〜。もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくてもいいからね〜。話を聞いてくれただけでもありがたいし。」

「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない。」

 

彼女たちはそう言うが、ずっと誰かの助けが欲しかったのだろう。彼女らだけで抱え込んでいたこの問題を共に何とかしてくれる大人がいなかったのだろう。だから、そのような言葉が出てくるのだ。だから…

 

“私も対策委員会の一員として、一緒に頑張るよ。もちろん、対策委員会の皆を見捨てて戻るなんてことはしないよ”

私は生徒たちの前で堂々とそう言う。

 

「そ、それって…。」

その言葉の意味を理解した彼女は目を輝かせる。

「あ、はいっ!よろしくお願いします、先生!」

「へぇ、先生も変わり者だね〜。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて。」

「良かった…『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私たちも希望を持っていいんですよね?」

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない。」

“うん。きっとそうだよ。私やミコトも皆に協力するから”

「わ〜、頼もしいねぇ」

 

その後、私は対策委員会の顧問として正式に就任し、しばらくアビドスに滞在することを決めた。

そんな中ノノミを撒いたセリカは、教室の前で私たちの会話を盗み聞きしていることに私は気づかなかった。

「…。ちぇ…。」

そう呟いてセリカは教室の前から去っていった。

 

“…そういえば、アビドスに滞在するってノリで決めちゃったけど、泊まる場所きめてないや…どうしよう”

そう悩んでいるとシッテムの箱からアロナの声が聞こえる。

「そんなこともあろうかと、アビドスの市街地にあるホテルの一室をすでに予約しています。」

“おぉ!やはり持つべきものはアロナだね”

 

私がアロナを褒めると心なしか…というかヘイローの形が明らかに調子に乗っている形になり、フフンとドヤ顔をするアロナを脇に、通知をみていると一件通知がきていた。それはミコトからだった。

 

『アビドスにて滞在する可能性も加味して既にシャーレの方の業務は終わらせ、仕事を振らないようリンちゃんにも連絡しています。私も暇があればそちらに顔を出すので、対策委員会の生徒たちをよろしくお願いします』

 

やはり持つべきものはミコトだったかもしれないな…と心のなかで思った。

アビドスの皆と共に学校を後にした私は次の日にやることを考えながら、帰路についた。 

 

 

〈✱〉

 

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

私は背中の大きな羽を羽ばたかせて、ある場所に向けてアビドスの上空、雲海を泳ぐような高度で尾羽を靡かせて飛行していた。

地上から見た人には何が飛んでいるがわからない程度の高度で私を認識することはできないだろう。

 

「いやぁ、今日は早く終わって良かったなぁ」

 

しばらく徹夜ばかりで会いに行くことがなかったため、今日こそはと密かに考えていたのだが、まぁあまり公に会うことはできないため、このような上空で追ってこれないようにしている。

なぜなら、その場所はブラックマーケットのある一角にあるからだ。

 

私は少し古びた建物の前に降り立つ。正面には『NightClub Deathpot(ナイトクラブ デスポット)』というネオンを無視して私は側面にある錆びついた階段を上る。

一歩一歩歩くほどに金属音がハシゴ全体に伝播し、とてもうるさく感じる。

私が最後の階段に足をかけたとき、扉の奥でドォン!!という強烈な発砲音、おそらくショットガンと思われる咆哮が響く。

「はぁ…相変わらず物騒だね」

 

私は苦笑いしながら、錆びたドアノブに手をかけた。

重い鉄扉を蹴るようにして開けると、硝煙とアルコールの刺激、そしてその奥に潜む血生臭い「におい」が鼻を突いた。

開業前の薄暗いクラブを見下ろすキャットウォークを抜け、さらに奥の扉を開く。

 

そこでは、巨大な机に大柄な男がうつ伏せで沈んでいた。周囲に飛び散る鮮血。

見慣れた凄惨な光景の中、机の向こう側に座る「妙な仮面」の人物が声をかけてきた。

「…プレイヤーかい?やるんなら、免責同意書にサインしな」

血に汚れた書類がテーブルに投げ出される。

 

「悪いけど、私はやめておくよ。てか私ってわかってて言ってるでしょそれ」

「…正直君とやるのは私としてもあまりやり合いたくはないね。少し待っていてくれ、このチャレンジャーを片付けてくる」

 

そういって片手でその大柄な男を持ち上げれば、その大男の体からはとてつもない出血の後が大量にあった。

おそらく先ほどのショットガンの音的に、負けたんだろうと察し、彼自身も今にも死んでしまいそうであったが、私はそれを無視して、そのまま扉から出ていくその不気味な人物を見つめた。

しばらくすると、バチィィン!!というスパーク音が響き、不機嫌な足音とともに「彼女」が戻ってきた。

 

「ほんとにレイの神秘の能力は便利だねぇ、ショットガンを撃って仮死状態でとどまるどころか、あの状態の人を電気ショックだけである程度蘇生するんだから」

「…その翼を持っててよくいうよ、君」

 

突き放すような不機嫌な声を出しながら、彼女は顔を覆っていた仮面を脱ぎ捨てた。結び目から解放された青紫の長い髪が肩に零れ落ち、毛先の赤紫色が薄暗い室内で鮮やかに跳ねる。それと同時に、髪色と対になるような二色の瞳――オッドアイが、じろりと私を捉えた

 

こここそが、キヴォトスで最も狂った賭場。

ロシアンルーレット等の「命」をチップにしたゲームが夜な夜な繰り広げられる、非公認クラブ

「Deathpot」である。

ここのオーナー兼ディーラーを務めるのは、ゲヘナ学園3年、法条(ほうじょう)レイ。

私の友人の一人であり、私の野望に携わる協力者の一人だ。

私は部屋に漂う硝煙を追い出すように手で顔の横を仰ぎながら、血のついた椅子を避けて、比較的綺麗なソファへと腰を下ろした。

 

「レイにこれを見てほしいんだよねぇ」

私は血の付着していないソファを選んで腰掛け、ある雑誌のページを開いて差し出した。

「なんだ?『 名探偵 天城(あまぎ)ベル 難事件解決 』?。これがどうかしたのかい?」

「そっちじゃないよ」

 

そう言ってミコトはレイの持つ雑誌のある部分を人差し指で指し示した。

そこには『カイザーコーポレーション傘下企業の隠ぺいが原因か!?』という文言があった。

「この事件の背後にカイザーがいる。前々から怪しいと思ってはいたけれど、この機会に本格的に情報を集めたいんだ。連邦捜査部として大っぴらに動けば警戒される。だから、君のコネクションを貸してほしいんだよ」

 

私がそう言うと、ふむ…と彼女は赤い何かがこびりついている椅子の背もたれに背中を預ける。

「言っておくが、私は風紀委員会から指名手配中の身だ。最近はブラックマーケットの巡回も厳しくなっている。これ以上面倒に巻き込まれるのは君としても困る、断らせてもらおうか」

彼女は私に雑誌を押し付け、シッシッと手で追い払うような動作をした。

 

「相変わらず冷たいなー。せっかく、レイが今一番欲しがっている『エサ』を持ってきたっていうのに」

 

私は押し返された雑誌を指先で弄びながら、わざとらしくため息をついて見せた。彼女の性格だ、ただの「お願い」で動くほどお人好しではないことは百も承知。

 

「……エサ?」

 

レイのオッドアイが、疑わしげに細められる。私はその視線を真っ向から受け止め、不敵な笑みを浮かべた。

 

「そう。レイ、君がこの店で『死』を切り売りしているのは、単なる金稼ぎのためじゃない。もっと根源的な……『命を懸けた選択』に触れたいからだよね? ならば、これを見てから判断してよ」

 

私は雑誌のページの端をめくり、あらかじめ挟んでおいた一枚のボイスレコーダーをテーブルに置いた。再生ボタンを押すと、ノイズ混じりの中に、重々しく、しかし冷徹な機械音が響く。

 

『――アビドス砂漠における“発掘”の進捗は?』

『順調です。カイザーの重機を回せば、じきに“あれ”に辿り着けるでしょう。生徒たちの借金は、もはやただの目隠しに過ぎません……』

『そうか…ゲヘナの例の遺物についても頼んだぞ』

 

音声を切る。レイの顔から余裕が消え、射抜くような鋭い光が宿った。

「これは……」

「カイザーが狙っているのは、ただの土地や金じゃない。アビドスの砂の下に埋もれた、失われた『オーパーツ』。……どう? 私が独自に掴んだこの情報の先、君の非公認クラブでもお目にかかれないような、最高の『命懸けの盤面』が見られると思わない?」

 

私はソファに深く背を預け、翼をゆったりと広げた。

 

「連邦生徒会は動けない。でも、君ならブラックマーケットの闇カイザーの喉元に手を伸ばせる。……これも全部、私たちの野望のためのことだから…ね?」

 

沈黙が流れる。硝煙の匂いと、レイの静かな殺気が混ざり合う。

やがて、彼女は低く、喉を鳴らすようにして笑い始めた。

 

「……ハッ、本当に君は……最悪な友人だね、ミコト。でもそれじゃだめだね…賭けるなら対価(チップ)が必要だ」

 

「そうだねぇ…じゃあ一つだけ。」

私は声を潜め、レイの眼光を真っ向から見据えた。

「今度、詳しい日程についてはあとで話すけど、空崎ヒナさんが出張でゲヘナを不在にする。そして、今アビドス高校には、シャーレの先生がいる…」

 

それを聞くなり、レイの表情が一変する。

「……はぁ、なるほど。ゲヘナの指名手配犯――便利屋68がブラックマーケット付近に最近姿をだしているという情報は掴んでいたが。まさか、お前……これを狙ったのか?」

 

「いいえ? まったくの偶然ですよ。でも……」

前髪を掻き揚げ、私は不敵に微笑む。

「この数多の好機、すべてを利用しない手はない。そう思いませんか?」

 

レイは天井を見上げるようにして息を吐く。そして、再びあの奇妙な仮面を手に取った。

「いいだろう、その賭け……乗ってやるよ。カイザーの化けの皮を剥いだ先に、一体どんな地獄が待っているのか。私のこの眼で、確かめさせてもらうとしようか」

 

「交渉成立だね。……あぁ、そうそう。あまり派手にやりすぎて、ヒナちゃんを本気で怒らせないようにね? 流石の私も、彼女が相手だとフォローしきれる自信ないからね」

 

私は満足げに立ち上がり、出口へと向かう。

 

「そうだ、ミコト。例の調べ物だが……容疑者が割れたよ。お前の言っていた通りの奴だ」

そうレイが言うのを聞き、私は目を細める。

「……予想通りですね。驚きもしませんが、考えなければならないことが増えたのは、実に厄介です」

扉を開け、外に出る。

空は血のような赤に染まり、白銀の月がその存在を強めていた。

 

「さて、ここからは私の仕事…。謀略の続きと行きましょうか。」

 

バサッと背中の翼を大きく広げる。それによって生まれた風圧は周りの木々の葉を大きく揺らし、足場もギシギシと音を鳴らした。

「っとその前に、カイザーのことについてかなぁ…。こっちのほうが厄介そうだし、向こうは話でも通しておいたらまぁなんとかなるでしょ」

「なんとかなればいいがね」

「そうだね…。じゃ!またお邪魔するよ」

私は翼を羽ばたかせて、空へ上昇していく。ぼそっと「二度と来るな」と聞こえたのは気の所為だったことにしよう。

私は翼を羽ばたかせて、闇夜へと消えていった。

 

 

〈✱〉

 

 

「はぁ…まったく」

 

風に青紫の髪をなびかせながら、レイは屋上で独りごちた。

つい先ほどまで「嵐」のようなミコトがいた余韻を噛みしめるように、オイルライターでタバコに火を灯す。

「はぁ……まっず……」

 

レイは指先に挟んだタバコを錆びた鉄柵の縁で叩き、赤く染まった空を睨みつけた。口内に広がる独特の苦味は、彼女が普段好む「生」の刺激とはまた違う、ひどく現実的で、それでいて厄介な事守の予感を孕んでいる。

 

ミコトが置いていったボイスレコーダーの音声。アビドスの砂漠に眠る「オーパーツ」、そしてカイザーの影。さらには空崎ヒナの不在と、アビドスに集結しつつある「役者」たち。

 

「偶然なわけがないだろうに。あの”トリニティの大鳥”が……」

 

レイは苦笑しながら、先ほどミコトが指し示した雑誌の誌面を思い返す。

『名探偵 天城ベル 難事件解決』。

ミコトは「そっちじゃない」と言ったが、このおいていったレコーダーも、その時に記録したものだろう。

キヴォトスの表と裏、その境界線で踊る者たちの糸が、特異点に向かって収束していくのを感じる。

 

「……ま、賭け金(チップ)は受け取った。あとはどう転ばせるか、だね」

 

レイは最後の一吸いを終えると、短くなった吸い殻を金属の床に踏みつけた。




今、緊急で書き込みをしております。
今回の7thPVを見て、わたくしは戦慄しました。
連邦生徒会周りが、ついに更新される…だと…?

それによってこれからのストーリー展開に少しテコ入れをする可能性が出てきて、絶望しております。
引き続き投稿してまいりますので応援よろしくお願いします。
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