BlueArchive ―唯なる運命の特異点―   作:匿名

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Episode6 立ち込める暗雲

ブラックマーケットから帰還したアビドス対策委員会の面々は、奪取した書類を突き合わせ、驚愕の事実に直面していた。

 

「なっ、なにこれ!? 一体どういうことなのっ!?」

 

セリカが激昂して机を叩く。現金輸送車の集金記録には、アビドス高等学校から788万円を回収した直後、カタカタヘルメット団へ「任務補助金500万円」を提供したという、耳を疑うような履歴が残されていた。

 

「ということは……私たちのお金を受け取った足で、ヘルメット団のアジトに補助金を届けていたってことだよね!?」

 

セリカの指摘に、アヤネが血の気の引いた顔で応じる。任務、という言葉の重み。それはヘルメット団の背後にカイザーローン――ひいてはカイザーコーポレーション本社が深く関与していることを示唆していた。自分たちが汗水垂らして返済している金が、そのまま学校を襲う犯罪者の活動資金に充てられていた。その救いのない循環に、一同は絶句した。

 

「この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない」

 

シロコの冷静な、しかし冷徹な分析にヒフミも同意する。話がまとまりかけた頃、セリカがふと思い当たったように声を上げた。

 

「もしかしたら、あのフォンって人もカイザーのスパイだったのかも」

 

しかし、ホシノは即座に首を横に振った。

「いや〜、それはないかな〜。わざわざカイザーのスパイが私たちの銀行強盗に手を貸す理由がないしね。捕まえたいならその場でいくらでもチャンスはあったはずだし」

その道理に皆も納得し、ひとまずフォンを「利害の及ばない第三者」として位置づけることにした。

 

やがて別れの時が訪れ、一同はトリニティへと帰るヒフミを見送るため校門へと集まった。

 

「みなさん、色々とありがとうございました」

「変なことに巻き込んでごめんなさい、ヒフミさん」

 

ノノミの謝罪に苦笑いで応えつつも、ヒフミの表情は決意に満ちていた。

「カイザーコーポレーションが反社会勢力と繋がっている事実上の証拠を手にしました。戻り次第、この事実とアビドスさんの現状をティーパーティーに報告します!」

 

だが、その言葉にホシノはどこか遠い目をして呟いた。

「まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけどねー」

驚くヒフミを宥めるように、ホシノは続けた。巨大な学園の首脳部が、これほどの大規模な利権の動きを把握していないはずがない。知っていて、動かない。それが政治というものだと、ホシノの言葉は暗に示していた。

 

「そ、そんな……知っているのに、みなさんのことを……」

 

ヒフミの純粋な義憤はもっともだ。しかし、このキヴォトスにおいては、生徒会はもはや一国の行政機関に等しい。利がないと判断されれば、困窮する他校は切り捨てられる。もし支援を受けたとしても、その「貸し」によってアビドスがコントロールされるリスクもあるだろう。ホシノは、自身の経験からくるその冷徹な現実を、後輩たちに諭すように語り聞かせた。

 

「でもホシノ先輩、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか? 本当に助けてくれるかもしれませんし……」

 

「うへ〜、私は他人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってねー」

 

おどけるホシノの横顔は、一瞬だけ深い闇を湛えたように見えた。「万が一」を想定せずに楽観した結果、アビドスが今の惨状に至ったことを、彼女は片時も忘れていないのだ。

 

重苦しい空気になりかけたが、最後はいつもの彼女たちらしい挨拶が交わされた。

「いやぁー、ファウストちゃん、お世話になったね」

「そ、その呼び方はやめてください!」

 

ホシノとノノミに弄られ、顔を赤くするヒフミ。その様子をアヤネが優しくたしなめる。

 

「とにかく……これからも大変だとは思いますが、応援しています。それでは、みなさん、またお会いしましょう」

 

手を振りながら去っていくヒフミの背中を見送り、私たちはまた、戦利品と苦い真実を胸に帰路へとついた。

 


 

次の日の朝、私が対策委員会の教室に入ると、ホシノがノノミの膝枕で横になっていた。

 

「おはよー先生」

「先生、おはようございます。今日は早いですね?」

 

「うん、昨日の件もあって早めに来たんだけど……。ホシノは相変わらずリラックスしてるね」

「うへ〜、ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよー。私だけの特等席だもん」

 

私はなんと言っていいか分からなくなり、苦笑して誤魔化した。

 

「先生もどうですか〜? ほら〜、どうぞ〜」

ノノミは私を迎え入れるかのように腕を広げるが、私は即座に固辞した。

 

「ダメだよー。ここは私の場所なんだから、先生はあっちの座り心地の悪そうな椅子にでも座っててねー」

ホシノにそう言われ、私は大人しく席に着いた。その後、ノノミから「今度、誰もいない時にしましょうね、先生」と耳元で囁かれたが、私は渋い顔をして沈黙を守るしかなかった。

 

ノノミの膝の上から起き上がったホシノとノノミの会話を聞くに、どうやら今は各々好きなことをしているらしい。ホシノに何をしていたか問えば、案の定ゴロゴロしていたとの答えが返ってきた。

 

「うへ〜。とにかく先生も来たし、他のみんなもそろそろじゃない? そんじゃ私ゃこの辺でドロン」

ホシノはそう言い残し、教室の扉へ向かう。

 

「あら先輩、どちらへ?」

「うへ〜、今日おじさんはオフなんでね。適当にサボってるから、何かあったら連絡ちょーだい、ノノミちゃん」

 

ふらりと教室を出ていくホシノ。ノノミ曰く、またお昼寝をしに行ったようだ。

 

「それにしても、ホシノ先輩も前から随分変わりました!」

 

その言葉をきっかけに、私はノノミから以前のホシノについて詳しく聞くことにした。時折彼女から感じる、あの重々しい空気の正体を知りたかったのだ。

 

「今はいつも寝ぼけているような感じですが……初めて出会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」

 

「……その『何か』について、詳しく聞いてもいいかな?」

 

「何に追われていたかというと……んと、ありとあらゆることに、と言いましょうか。聞いた話ですが、以前アビドス最後の生徒会長だった先輩がいたそうで。とても頼りない人で、その人が去ってからは、すべてをホシノ先輩が引き受けることになった……と」

 

ノノミは、以前のホシノなら他校との繋がりなど持とうとしなかっただろうと語り、「先生のおかげです」と微笑んだ。その言葉は嬉しかったが、それ以上にノノミの話は、ホシノの心の重荷を解く重要な鍵であると確信させた。

 

(前の生徒会長がいなくなって、すべての責任を背負わされたからなのか……? いや、もっと何か……)

 

頭をフル回転させてみるが、決定的な情報が足りない。私はひとまず、これ以上の推測を棚上げすることにした。

 

一方その頃――。

アビドス高校の校門前には、ピンク色の長い髪をなびかせた小柄な少女、小鳥遊ホシノの姿があった。彼女は周囲を鋭く警戒しながら、どこかへ向かって歩き出す。

 

ホシノが辿り着いたのは、キヴォトス某所にあるビルの、ある一室だった。

ブラインドカーテンが下ろされたその部屋は、わずかな光も差さない暗闇に包まれている。

 

「これはこれは」

 

部屋の奥、窓を背にして立っていた人影がこちらを向いた。

ホシノの表情は、先ほどまでの柔らかいものとは一変していた。目は鋭く細められ、全身から張り詰めた警戒心が立ち昇っている。

 

「お待ちしておりましたよ。暁のホル……いや、小鳥遊ホシノさん。いやいや、キヴォトスにはまだ馴染めていなくて。こちらへどうぞ、ホシノさん」

 

現れたのは、カイザーPMC理事のオフィスにいた、あの異形の黒服の男だった。

黒服はホシノをソファへと誘うが、彼女はその場に立ち尽くしたまま、憎悪を込めて男を睨みつけた。

 

「……黒服の人、今度は何の用なのさ?」

 

「……ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の『神秘』をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

 

黒服は不敵に笑い、デスクに肘を突いて手を組んだ。

 

「提案? ふざけるな!! それはもう……!!」

 

ホシノが今までに見せたことのない激しい怒声を上げる。それを黒服は冷徹になだめるが、その言葉には隠しようのない毒が含まれていた。

 

「……お気に入りの映画の台詞がありましてね。今回はそれを引用してみましょう」

 

男は前のめりになり、暗闇の中でホシノをじっと見つめた。

 

「あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。興味深い内容ですので、どうかご清聴ください」

 

黒服はクックックッ……と喉を鳴らし、ホシノと対峙する。

それは、一人の狡猾な「大人」が、逃げ場のない「子供」を追い詰める、残酷な商談の始まりだった。

 


 

便利屋68のオフィスには、重苦しい空気が漂っていた。勢いよく扉を開けて入ってきたムツキを迎えたのは、げっそりと疲れ果てた様子のアルである。

 

「うわっ、ビックリした! アルちゃん、徹夜でもした?」

ムツキの問いに、アルは「ううん、ちゃんと寝たわ……」と力なく答えるが、その顔色はとても安眠を得た者のそれではない。

 

ソファに座っていたカヨコが「まさか昨日の闇賭博のせい?」と尋ねるが、アルは首を振って否定した。昨日、彼女は単独でブラックマーケットの闇賭博場「デスポット」へと乗り込んでいた。帰還した際のアルは汗にまみれ、半ば放心状態に近い様子であったが、苦悩の原因はそれだけではないようだ。

 

「じゃあ、社長、何か悩みでもあるの?」

カヨコが重ねて問う中、ムツキは作戦の再確認を口にする。

「計画はしっかり立てたじゃん? 人をこれまでの2倍雇って、地の利を生かせる戦場にアビドスを誘き出す」

「ハルカは爆弾を設置しに、朝早く出かけた。計画では、爆弾を数十か所埋設したゾーンでアビドスをコテンパンにするって感じだよね」

 

そこへ事務所の扉が開き、爆弾設置の任務を終えたハルカが帰宅した。「ただいま戻りました」と告げるハルカを、カヨコは「お疲れ様」と労う。

 

部下三人が談笑する傍らで、アルは深い溜息を吐いた。ムツキはアルのデスクに寝そべるようにして、その顔を覗き込む。

「なぁに死にそうな顔してんの? 昨日の依頼のお金もあるし、それこそ依頼主から手付金をもらって、それを資金に充てればよかったじゃん」

 

しかし、アルの信念は揺るがない。

「……手付金はもらわない。それがうちの鉄則よ」

カヨコが「手付金をもらうと、クライアントの命令に従わざるを得なくなるからって理由だっけ?」と補足すると、アルは誇らしげに胸を張った。

「その通り。華麗に仕事を終えてから依頼料を受け取る。昨日のは少しイレギュラーではあったけれど……この順番が崩れたら、私たちが追求するビジョンは達成できないの」

 

ムツキがわざとらしく「ビジョンなんてあったっけ?」とからかうと、アルは大声で反論した。

「あるわよ!! 法律と規律に縛られない、ハードボイルドなアウトロー! それが便利屋68のビジョンでしょう!! クライアントの依頼も同じ。それが私たちを縛り付ける足枷になることもある。だから依頼料は、絶対に成功報酬として受け取るの」

 

理屈を並べるアルに対し、カヨコは苦笑しながらも真剣な表情に戻った。

「そこまでプレッシャーを感じてるなら、全部投げ捨ててゲヘナに帰るのも手だよ、社長」

その言葉に、アルは冷や汗を流して激しく動揺する。「ぷ、プレッシャーだなんて言ってないわよ! ただ……ちょっとだけ」

 

ムツキは現実的な問題を口にする。「うーん、今更帰るのは無理なんじゃ? 風紀委員の奴らが黙っちゃいないよ? ブラックマーケットにも最近は風紀委員会の子が巡回してることもあるらしいし」

 

「風紀委員会……か」

カヨコの目が鋭くなる。彼女の脳裏にあるのは、ゲヘナ学園の最高戦力である風紀委員長・ヒナの存在だ。

「確かに風紀委員会は私たちを目の上のたんこぶだと思っているけど……。今の私たちは、やつらから逃げてきたわけじゃない。そもそもうちの風紀委員会がキヴォトス最強と言われる理由は、ヒナの存在があるから。戦力の大半を彼女一人が担っていると言っても過言じゃない。百人力という言葉を体現しているような人」

 

カヨコは淡々と分析を続ける。

「言い換えるなら、ヒナ以外の風紀委員は大したことないってこと。計画さえきちんと練れば、十分勝算はある。いつか相まみえることになるだろうから、ヒナ抜きの風紀委員会なら、今アビドスにかけてる労力を考えれば難なく戦えるよ。逆に言えば、アビドスはそれぐらい侮れない相手ってこと。生徒の数が少ないことが最大の弱点だけどね」

 

アルは表情を崩さぬまま、「……いえ、今更ゲヘナに戻るという選択肢は無いわ」と告げた。しかし、その直後には胃に穴が空きそうな重圧に耐えかね、再び大きな溜息を吐いた。

 

「……一体何がひっかかってるの?」

困惑するカヨコを見かね、ムツキが皆で食事に行くことを提案した。「ラーメン屋にする? 柴関?」

カヨコから「また?」と呆れられるが、ムツキはバイトのセリカと鉢合わせないように行けば大丈夫だと笑う。こうして四人は、アルを元気づけるために再び柴関ラーメンへと足を運ぶのだった。

 


 

柴関ラーメンの店内に、ムツキの弾んだ声が響く。

 

「きたぁ! いただきまーす!」

「ひ、ひとりにつき一杯……こんなに贅沢してもいいんですか?」

 

慣れない贅沢に戸惑うハルカに対し、柴大将は豪快に笑って応えた。「アビドスさんとこのお友だちだろう。替え玉欲しけりゃ言いな」

 

その喧騒から少し離れたカウンターの端には、紫色の髪を垂らした少女、レイの姿があった。彼女は黙々とラーメンをすすり、どんぶりの中の麺をすべて平らげると大将に声をかける。

 

「大将、替え玉かためで頼める?」

「はいよ、ちょっと待ってな」

 

手際よく麺を湯がく大将を眺めながら、レイは差し出された替え玉をスープへと投じた。

「嬢ちゃん、前も来てくれたろ? 珍しいねぇ、アビドスに住んでる子じゃないだろうに」

 

大将の問いかけに、レイは一度水を口にして喉を潤してから答える。

「いい店だからまた食べたいと思っただけだよ。あとは昨日、アビドスのところの子にお世話になってね。それのお礼ついでさ」

 

その会話の背後では、便利屋の面々も食事を始めようとしていた。

「こんなに美味しいのにお客さんがいないなんて」

「場所が悪いんじゃない? 廃校寸前の学校の近くだし」

 

カヨコとムツキがそんな会話を交わし、ムツキが麺を口に運ぼうとしたその時――隣に座っていたアルが突如として机を叩いた。

 

「友達なんかじゃないわよぉーー!!」

 

驚いたムツキの箸から麺がこぼれ落ちる。アルはそのまま立ち上がり、困惑する三人を指差して叫んだ。

 

「分かった!! 何が引っかかっていたのか分かったわ! 問題はこの店よ!! 私たちはハードボイルドなアウトローとして仕事をしに来てるの! なのにこの店はどう!? お腹いっぱい食べられるし、あったかくて親切で、ほんわかしたこの雰囲気! ここにいると、毒気が抜かれて仲良しになっちゃう気がするのよ!!」

 

「それに何か問題ある?」と首を傾げるムツキに、アルはさらに声を荒らげる。

「ダメに決まってるでしょ!! 私が一人前の悪党になるには、こんな店は要らないのよっ!!」

 

カヨコが「落ち着いて、他の客もいるから」と嗜めるが、興奮状態のアルには届かない。

「黙りなさい! 私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの! こんなホッコリ感じゃない!!」

 

一気にまくし立てたアルが机の水を豪快に飲み干すと、その様子をじっと見ていたハルカが、どこか陶酔したような表情で呟いた。

 

「それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」

 

不穏な言葉にムツキとカヨコが戦慄する。

「起爆装置? なんでそれを……」

「ハルカ、ちょっと待っ……」

 

その頃、食事を終えていたレイは、肌を刺すような言いようのない嫌な予感に襲われていた。一刻も早くこの場を離れるべく、懐から財布を取り出して会計を急ぐ。

 

大将の無骨な手に、お釣りとなる小銭を落とそうとしたその瞬間――。

 

「シャリン」という硬貨同士が触れ合う涼やかな音に、不吉な「カチッ」という無機質な機械音が重なった。

 

直後、すべてを白く塗りつぶすような猛烈な閃光が「柴関ラーメン」の店内を飲み込む。しかし、爆風の衝撃が建物を粉砕し、すべてを無に帰すその一瞬前、レイの体は空間の歪みに吸い込まれるように捻れ、細くなっていった。彼女の姿は、破壊の光が到達するよりも早く、その場から完全に消失していた。

 

刹那、アビドスの静寂を無惨に切り裂く凄まじい轟音が、砂漠の空へと鳴り響いた。

 

 

柴関ラーメンの向かいに立つビルの屋上。そこには、先ほど店内で会計を済ませようとしていたはずの少女、レイの姿があった。彼女は眼下で無惨に瓦礫の山と化した店の跡地を見下ろしている。

 

「まったく……やつの遺産のおかげで助かるとは癪だが……それにしても随分とやらかしてくれたな、便利屋。ハハッ…」

 

彼女は首から下げた、禍々しい赤色の宝石のようなものがはめ込まれたペンダントを弄りながら、低く、愉悦に満ちた笑い声を漏らした。かつてゲヘナ学園から学籍を抹消された彼女にとって、その宝石は死地から自身を救い出した未知の力の源であり、同時に複雑な因縁を象徴するものだ。

 

(アビドスの教室に仕掛けた盗聴器を聞くに、爆発には気づいているらしいが……詳しいことはわからないな)

 

レイは懐から取り出したカラスマスクを顔に覆い、感情の読み取れない無機質な姿へと変貌した。そのまま灰色に染まりゆく空の下、屋上に佇み、爆発の余波が広がるアビドスの街並みをじっと凝視し続ける。いよいよ動き出したあらゆる勢力の思惑、対策委員会の面々や先生、そして対峙したばかりの便利屋68の動向を冷徹に見極めるかのように、彼女の視線は暗く沈んでいた。

 

「これでいいのか…?ミコト…」

 


 

ラーメン屋のあった場所に立ち込める煙の中に、人影が浮かび上がる。

 

「うわぁ、建物がなくなっちゃったよ?」

「ケホッ……これは一体……」

 

ムツキとカヨコが辺りを見渡すと、そこには正気を失って放心状態となっているハルカとアルの姿があった。アル自身、この状況への理解が追いついていない様子だったが、そこへムツキが歩み寄り、声をかけた。

 

「……アルちゃん……マジで? マジでぶっ潰しちゃったの?」

 

ムツキに問いかけられ、アルは事の重大さに気づいたようで顔から血の気が引いていく。しかし、ムツキはそんなアルの肩を軽く叩き、満面の笑みを浮かべた。

 

「情に絆されるからって、あんなに優しくしてくれたラーメン屋さんをぶっ飛ばしたの? やるじゃーん!? これぞまさに、血も涙もない大悪党! そんじょそこらのザコには到底できない鬼畜の所業! 悪人中の悪人じゃん!」

 

アルは曖昧な返事しかできず、今はただムツキの言葉を耳に入れることしかできなかった。

 

「これがハードボイルドなアウトローってやつだね!! すごいよ、アルちゃん! 見直したよ!」

 

その言葉で、アルは無理やり正気に戻った。ムツキの言葉に乗っかるように、精一杯の悪辣な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「とっ、当然でしょう! 冷徹無比! 情け無用! お金さえもらえれば何でもオッケー! それが便利屋68のモットーよ!!」

 

「そういうことだったのね!!」

 

アルの宣言を遮るように、すぐ側から怒鳴り声が響いた。そこにはホシノを除くアビドス対策委員会の4人と先生の姿があった。セリカはかつてないほど激昂し、他のメンバーも冷徹な視線で便利屋を睨み据えている。

 

「大将の無事を確認できました! 幸い軽傷だったので、近くのシェルターに案内済みです!」

 

アヤネの報告を聞き、セリカはさらに語気を強める。

「……ってことは、心置きなく大暴れしてもいいってことね? あんたたち、許さない。絶対に許さないから……!!」

 

対する便利屋のメンバーも、即座に戦闘態勢に入った。カヨコは傭兵たちを呼び出し、防衛線を構築する。アルは内心の動揺をひた隠し、自らのプライドを守るためにアビドスへと言い返した。

 

「……そっ、そうよ!! これで分かったでしょう、アビドス! 私がどれほどのアウトローなのかを!! さぁ、いざ勝負!! かかってきなさいよ!」

 

アビドスの前衛三人は、無言で銃のリロードを済ませ、鋭い視線を向ける。

 

「……覚悟はいい!?」

「それはこっちのセリフよ!! 真のアウトローが何か、思い知らせてやるわ!!」

 

アビドス対策委員会と、便利屋68。全勢力が激突する市街戦が幕を開けた。

その裏で―動きだしたものにも気づかずに…。

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