迫り来る攻撃を大槌でいなし、いなし、いなし
できた隙に力強い一撃を叩き込む。
自身から攻撃を仕掛ける際はナイフに手を掛けを相手に二択を強い一瞬思考が固まった所を切り裂く。
手札が増えたおかげか体感時間の圧縮を有効に使えている気がする。
そんなこんなで、プレゼントのナイフの試運転として戦っているのは掃除屋だ。
以前のバカアホパワーレベリング以降定期的にこのトレーニング続けている。
その効果は目に見えて現れており、耐え切れる時間が5分、10分、15分と増えており。
初めてから1年、現在は25分もの時間掃除屋の波を捌き続けることが可能となった。
そして本日遂に
「うっしゃぁぁぁ!!!!
遂に30分間耐えきったぞどんなもんじゃ!!!!」
本日また記録を更新する。
俺は喜びのあまり疲労と体感時間圧縮の影響でフラフラになりながらも走り回る。
毎度時間を伸ばす度に脳内麻薬ドバドバた。
当然だが、1度はじめたら途中で止めることはできない。
家に戻ろうと扉を開けた瞬間やつらが流れ込んでくるからだ。
その為、時間を伸ばす判断は慎重にしなければならない。
今の俺の実力は常にギリギリ生き残れる程度。
ペース配分をミスったら=死なのだ…よくこんな特訓1年も続けてこれたな俺。
ともかく細心の注意を祓いながら時間を増やしていのだ。
だが、毎回初回は恐ろしい。
掃除屋の波を捌きながら終わるまであと何分だ、
体感圧縮は残り何秒使えるか、あと何発貰ったら動けなくなるか。
そういった物が混ざり合い、自身に迫り来る死の恐怖を押さえ込み切り抜けた後の達成感や安堵感などが入り交じって終わったあとはハイになる。
今まさにその状態、
鼻歌歌いつつアパートの部屋まで駆け抜け扉に飛び込む。
「っしゃあ、生き残ってやったぜ!!
どんなもんじゃクソッタレの掃除屋共がよ!
このまま強くなって最初から最後まで戦い抜けるようになってやら!」
玄関でぶっ倒れながら叫んでいるとタオルが飛んでくる。
「夜なんだから静かにしろ
早く風呂入ってこい、掃除屋の体液まみれだぞ」
「あ、悪い」
カーリーは毎回俺があのバカアホ特訓に出かける度に帰りを待っていてくれるのだ。
どうにも心配をかけてるようで本当に申し訳ない。
だが辞めるつもりはない、無茶してでも強くならないと相棒としてお前の隣に立てないんだ。
シャワーを浴び、汗やら掃除屋の体液やらを洗い流しす。
一緒に傷の確認を行い綺麗に洗い流してから処置を行う。
「あ、これは縫わないとだな」
風呂から上がり大きな傷の処置を終える頃になると朝の5時を過ぎており外では太陽が差し込んでいる。
カーリーは俺の帰りを確認した途端寝てた。
俺も寝るとしよう、どうせ今日は仕事ないんだ。
酔っぱらいのようにフラフラ寝室に向かい、布団にぶっ倒れ気を失う。
この特訓の後いつもこうだ。
数時間、十分な睡眠を取ると意識が浮上する。
時計を見ると13時半、時間を伸ばしたせいかいつもより1時間以上寝ていたようだ。
飛び起きてリビングへ向かうとカーリーが昼飯を用意して待っていた。
あ、冷めてますねこれ。
「随分よく寝てたな」
「悪い、作ってくれてたのに」
「今回から時間伸ばしたんだろ?
なら仕方ない、それより早く食べるぞ」
席に着き食事を始める。
テーブルには山盛りの野菜炒め。
ひと口食べると濃いめの味付けが口に広がり米が欲しくなってくる。
そういえば、誕生日のガーリックライス以外で米食ったことねえな。
米食いてなぁ、でもここら辺には米売ってねえからなぁ。
遠出して買うか?
あ、でも炊飯器ねえしなぁ…
まずいぞ、考えたら余計に食いたくなってきた。
米……米
「相談があるんだがいいか?」
「カーリーも米食いたいよな……あ」
「……おまえは何を言っているんだ?」
「悪い、なんでもない
えっと、相談だっけ?」
「あぁ、お前最近フィクサー業も安定してきたろ?」
「あー、まあ一応、
家賃やら税金やらで取られても十分余裕ある稼ぎになってきたよな。
いやぁ、切り詰めて切り詰めてやりくりしてた頃が懐かしいぜ」
数年前まで今日食う飯の金もなくて死に物狂いで働いてた頃からだいぶ成長したもんだ。
「私もそれなりに余裕ができてきた。
そこでだ、
私達はこれまでこのアパートの人達に数え切れないほどお世話になってきただろ?
だから、恩返しがしたいんだ」
なるほど、今の稼ぎなら全然余裕はある。
無理の無い範囲でやって見るのもいいかもしれない。
「具体的にはどんな?」
「稼ぎから生活費なんかを差し引いて、残ったお金をあげようと思うんだ」
「金……かぁ」
食べ物、酒、嗜好品。
それらなら問題はない。
だが金となるとそうはいかない。
人は金が関わると変わってしまうのだ。
金銭関係が原因の事件は現代日本でも頻繁に起こっているだろう。
それが都市の人間ともなれば……
「それはちょっと…」
「皆、私の家族みたいなものだから
少しでもいい生活が送れるようになってもらいたいんだ。」
「……わかった、そうだな
俺もあの人達には今よりいい生活して欲しい。」
家族、そう思うのは俺も同じだ。
みんな俺達を妹や弟、人によっては娘や息子のように接してくれている。
あの人達なら裏切られることもないだろう。
そうだ、きっと大丈夫。
「ひとまずは、渡す人を決めよう
俺達も全員に一気に渡せるほど金がある訳じゃないからな
……まずショーンのおっさん
あと、グース姉さんとかどうだ?
あの2人には特に世話になってし。」
「あぁ、私もその2人がいいと思っていたんだ。」
「決まりだな」
そうと決まれば各自の稼ぎから出し合う。
合計で100万眼、現実の通過だと日本円で10万程。
誕生日パーティやらで出費がかさんだせいか今あるのはこれぐらいか。
「これぐらいかな、明日にでも2人を呼んで渡そうか。」
「あぁ、急な提案だったのに了承してくれて助かった。」
「気にすんなよ、俺もいずれ何かしようも思ってたからさ。」
2人で分けて1人50万眼、
それだけでは生活は劇的に変わることは無いだろう。
けれど少しは生活の足しになるはず。
「なあ、2人は喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくれるさ」
「だよな!」
翌日、午前10時
人を呼んでも問題ないように軽く部屋の掃除を行ったあと2人を呼びに行く。
まずは扉を出てすぐ隣、ショーンおじさんの部屋だ。
「おっさーん、ショーンのおっさーん」
「んだぁ?朝からうるせえな
おっ、ラックか!
どうした、今日はたかりに来ても何もねえぞ?」
「何言わずに来て、これ強制ね」
「は?ちょ、おま、引っ張るな」
有無を言わさず連れ出し次は階段を上がり、
俺達の上の階のグースお姉さんの部屋の前に行く。
「姉さーん、グース姉さ〜ん
いますか〜?」
「あら、ラック
ちょうど夕食の残りわけに行こうと思ってたの
いいお肉手に入ったのよ」
「お、マジですか!
あざっす!
それはありがたく頂くとして、今日はお話がありまして
家に来て貰えますか?」
「え、話?
まあ、いいけど」
「じゃあ、着いてきてください
そんなに時間は取らないんで」
「わかったわ
……行く前にひとつ聞いていい?」
「なんです?」
「なんでショーンさんヘッドロックしてるの?」
「やだな姉さん、仲良く肩組んでるだけですよ〜」
「ん"ん"ん"ん"(離せコラァァ!!!!!!!!)」
黙って着いてこないショーンおじさんを強引に引き連れながら俺達の部屋に向かう。
扉を開けるとカーリーがお茶を用意しながら待っていた。
「連れてきたぜ」
「ありがとうラック」
「ささ、姉さんおすわりください
あ、おっさんはここね」
「扱い違くね!?」
騒ぐショーンおじさんを座らせ軽い談話を始める。
「いやぁ、よく来てくれました。」
「時間を撮らせてすみません
おじさん、お姉さん」
「それはいいけどよぉ、こんな今日は朝からどうした?」
「そうねぇ、急に私達2人を招くなんてね?
何を企んでいるの?」
「別に悪いことじゃないっすよ〜」
まあ、いきなりは怪しむよな、
この前もアパートの住民が1人殺されて路地にばら撒かれていた。
変に疑われないうちに本題に入るとしよう。
「今日は昔からお世話になったふたりにささやかな贈り物があります」
「昔から私達に食べ物や飲み物を分けてくれてありがとうございました」
「「どうぞ受け取ってください」」
2人の前にお金を入れた茶封筒を置く。
「え、なにこれ」
「なんだ……?
うわっ!結構入ってるな」
2人は恐る恐る中身を確認し目を見開いた。
まあ、こんな所で金を受け取るなんて思っても見たかっただろうからな。
「こんなに、いいの?」
「もちろん、
お姉さんには色んな料理を何度もわけてもらっていたから」
「おいおい、どれだけ羽振りいいんだ?」
「いやいやいや、日々の少ない稼ぎからどうにか捻出したんだよ!」
「おぉ、そうか
なんか、わりぃな」
「気にすんなよおっさん、
この金でなんか買いな……服とか
今着てるのだって5年ぐらい着続けてるし。」
「お姉さんも、最近調理器具を買いたいと言ってたじゃないか
余裕がなくて買えなかったものを買って欲しい。」
2人は金と俺達を交互に皆がら少し考えたあとにこやかな笑顔を向けてきた。
「ありがとうカーリー
このお金は遠慮なく頂かせてもらうわ」
「この前までこーんな小っちゃかったのによ
お前からこんなことされるようになるなんて思わなかったぜラック
俺も遠慮なく使わせてもらうわ」
金を渡したあと、2人を玄関で見送り一息つく。
「……喜んでくれたな」
「……そうだな」
俺達は向き合いハイタッチをした。
「成功!成功!大成功!
よっしゃこの調子でみんなに配っていこうぜ」
「あぁ、その為にも」
「おう!稼ぐぞ!!」
その日からの仕事は身が入った。
週に1件だったのを2件に増やし、
より危険で報酬の高い仕事を選んだ。
そうして稼いだお金をアパートの住民に分け与えていった。
下の階に住むザップお兄さん、2つ隣のエバおばさん、斜め上に住んでる性別年齢不詳のピッツさんとネールさん。
ひと月かけてアパート全員に配り終わると少しずつだが変化が見られた。
ショーンおじさんは服がボロボロだったものから変わっていた。
昨日はグース姉さんが新品の調理器具を買っているのを見かけた。
他にも壊れた家具を買い直している人、今まで手の出せなかったお酒を買ってる人、夕食を1品増やしたなど話す人。
アパートの住民達の生活は僅かだが向上していた。
充実してるとは言えないが微かに余裕が見て取れる。
俺達の目論見は完全に成功しているようだ。
「よかったな、みんな日々の暮らしが少しづつだけど変わっているぜ」
「あぁ、協力してくれたお前のおかげだ」
「よせやい、稼ぎはカーリーの方が多いんだ」
俺達は成功を祝してカップ酒で乾杯していた。
「マジでよかったな
みんな笑顔が増えてるぜ」
「あぁ、この調子で頑張っていこう」
「おうともよ!
もっと強くなって都市悪夢とか都市の星なんかもこなせるようになって
みんなに観光旅行プレゼント出来るようになるまで稼いでやるぜ」
「それなら私に勝てるようにならないとな」
「チョットナニイッテルカワカラナイナ」
たわいない会話の後、
翌日の仕事に響かぬよう早めに切り上げて床に就く。
この時まではこの充実した日が続くと思っていた。
本当、この時まで思っていたんだ。
眠りについてからしばらくして、
不意に息苦しさを感じ目覚めると後ろ手に拘束され床に転がされていた。
カーリーのイタズラか、それにしては悪質と思いながら周りを見回すとカーリーも隣で縛られていた。
カーリーはこちらに見向きもせずただぼーっとしておりその顔は酷く悲しげだった。
カーリーの視線の先にはこんなことをしでかした犯人が俺達の部屋をやたらめったらひっくり返して何かを探していた。
「どこ!?どこ!?どこにお金あるの!!」
この強盗、どうやら動悸は金のようだ。
半狂乱になりながら探し回っている。
この様子だとこちらを意識してないだろうが念の為強盗に気が付かれないようにしながら周囲を探る。
パッと見強盗はこの部屋に1人だけ。
隣の部屋からの音から察するにあと4~5人いるだろうか。
武器はいつも居間に置いており手元にはないが幸いなことに強盗はこちらに背を向けている。
(拘束はボロい縄で縛るだけ、金の隠し場所を入ってから必死こいて探す。
全部杜撰で計画性を感じられない、突発的な犯行か?
……まあいい、全部殺してから考えよう)
俺は音を立てないよう慎重に拘束を解き立ちあがる。
まだこちらには気づいていない、余程金探しに夢中なようだ。
抜き足差し足と細心の注意をはらいながら強盗の背後まで近づく。
「え……あ!」
流石にここまで近づけば気がつくか。
まあ、シ協会みたいな本職じゃないからしかたない。
でも、もう遅いね。
振り返る前に俺の両手が強盗の頭に届いた。
「や、やめ!ラッ」
「ま、待てラック!」
そのまま強盗の首をペットボトルの蓋を開けるように180°捻じ回した。
「ふぅ……鍵を閉め忘れた覚えは無いんだがな……あ?」
捻じ回したことにより強盗の顔が露になる。
その顔はよく知った、俺達が最も信頼を置く人のひとりであった。
「なんで、どういうことだ?
グース姉さん?」
何かの間違いだと何度も確認する。
頭の向きを戻し、かかった髪をどかし、
口から溢れた体液を拭い顔を見る。
何度見ても上の階に住んでいたグースお姉さんに違いなかった。
わけがわからない、想像もしていなかった犯人の正体に頭は混乱し身体の力は抜け床へへたり込む。
「なんで、なんでねえさんが
うそだ…いや…でも…ちがう…
あの人はここの住民の中でも特にやさし……
おれがころし…た?
あぁ…かーりー…おれがころしちまった…」
自分ひとりでは状況の整理が全くできなくなった。
大切だった人に裏切られその人を自らの手で殺したという事実。
最悪だ、この世界で生きてきた中で1番最悪だった。
しかし、最悪な事は続くものらしい。
「おい、でかい音したがなんだ!
金はあったか!」
グースお姉さんの亡骸が床に落ちた音で気がついたのか扉を開けてナイフを持った男が入ってくる。
その男も、俺達にとって身近な人だった。
「ショーンのおっさん…あ、そうか」
グースお姉さんの亡骸、縛られたカーリー、
そして入ってきたショーンおじさんそれらを交互に見る。
頭の中で様々な想いや感情が渦巻いていくうちに不意にカチッと噛み合う。
あぁ、俺達はこいつらに裏切られたんだな。
そう確信した。
そこからは早かった。
「てめぇぇぇぇ!!!!」
俺はただショーンおじさんに突っ込んで行った。
ナイフを持ってるとか、その後はどうするとか
そんなことは何も考えず怒りに任せて突進した。
「ラックてめぇ!ぐげぇ!?!」
向かってくる俺の左肩にショーンおじさんは手に持ったナイフを突き立てた。
しかしそんな程度でその勢いは止まらず、ショーンおじさんの体は突進をモロにくらい部屋の外まで吹っ飛び壁に叩きつけられた。
「てめぇ!裏切りやがって!
俺達を!!カーリーを!!裏切りやがって!!!!
絶対にぶっ殺す!!!!!!」
壁に叩きつけられ床に倒れたショーンおじさんに馬乗りになり力の限り殴りつける。
殴り返されようが、未だ手に持ったナイフで反撃を受けようが意に介さず、渾身の力を込めて殴り続けた。
5発、10発、20発と殴るうちにおじさんの抵抗は弱まり、40を超えた辺りで力無く横たわり呻き声を上げるのみになった。
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…痛え…」
殴るのを一旦やめる、不意に痛みを感じると同時に怒りで熱くなっていた頭がサーっと冷めていく。
おじさんを見下ろすとボコボコに膨らみ血塗れとなった顔は恐怖に染まっていた。
今、トドメを刺そうとしていたのだがその顔を見てしまった途端身体が硬直し息が詰まった。
不意に罪悪感と自身の行為に対しての嫌悪感がふつふつと湧き上がってくる。
なぜなんだ?裏切られたのはこちらなのに。
ガンッ
突然衝撃が走る、
後頭部から鈍い痛みを感じ身体は前のめりに倒れた。
すぐに立ち上がろうとするも視界が揺れ立ち上がれない。
強い衝撃による脳震盪だ。
揺れる視界のなかどうにか後方をを見ようともがくとそこには俺が殺した2人以外のアパートの住民たちが列をなして立っていた。
そのまま数秒、ショックで沈黙した。
まさか、全員に裏切られるとは思ってもいなかった。
列の先頭には下の階のザップさんがおり、俺の大槌を振り上げていた。
恐らくトドメなんだろう、大槌はゆっくりと俺に迫ってくる。
タキサイキア現象、どうやら死が迫ってきているようだ。
なぜだろう、抵抗する気力が湧いてこない。
家族同然と思っていた人達全員からの裏切り。
俺の中でなにか、折れてしまった。
無気力に床へ這い蹲いながら辺りに目を向ける。
(あ、エバおばさん包丁持ってるな、うちの物じゃん
ピッツさんは金属パイプか、普段使いしてるのかな
ネールさんは…カーリーの大剣持ってる、許せねぇ)
迫る攻撃を前に妙に冷静な頭で住民達を1人、1人と見回す。
希望が潰れた人間はこうも落ち着いて死を受け入れられるんだな。
そう思いながら目を瞑った。
「ラック!!!!!!」
声か響き、赤い影が視界の端から飛び込んで俺に覆いかぶさった。
大槌はその背中で受け止められ俺には届かなかった。
影を見上げると黄色く美しい瞳がこちらを覗き込んでいた。
そこには怒りの籠った表情をしたカーリーがいた。
「おまえ…」
「少し待ってろ、すぐに終わらせるから」
カーリーは背中に受けた大槌をものとせず立ち上がると住民達の方へ向き直るとそのまま突撃していく。
「え?」
それがザップさんの最後の言葉だった。
顔に放たれる強烈な左フック、
人並外れたカーリーの膂力から放たれたそれは先頭にいたザップさんの横顔へ直撃、骨の折れる音共に壁へ飛んで行った。
カーリーはそのまま流れるように遺体となったザップさんから俺の大槌を奪い取り後ろにいたエバおばさんとピッツさんの頭に振り下ろす。
2人は反応出来ず頭が潰れながら肩にめり込む。
最後尾にいた事でカーリーの間合いから外れていたネールさんは急いで大剣を振り上げる。
しかし、常人の膂力であの大剣振るなどカーリーには遅すぎたようだ。
振り下ろされ前に懐へ踏み込み片手で手首を掴むことで振り下ろしを止める。
「離せ、それは私の大切な物だ!」
もう片方の腕で腹に一撃を叩き込んだ。
肉が弾けるような音と共に口から赤黒い血が溢れ出る。
恐らく内臓が破裂したのだろう、膝から崩れ手からは大剣が滑り落ちる。
その大剣は自ら持ち主へ戻るようカーリーの手に滑り込む。
カーリーはそのまま軽く振り、そして上げ振り下ろした。
一瞬の静寂の後、頭から真っ二つになり床へ散らばった。
「……カーリー」
今の攻防の間に少し回復したので立ち上がりカーリーに駆け寄る。
カーリーは俺が駆け寄るのなんて位にもせずただ住民たちの遺体を見下ろしていた。
その背中からは悲しみが伝わってくる。
「な、なぁ、カーリー
あ、怪我とかしてないか……?縛られてたところ跡になってたりしないか?
俺は部屋の片付けとかしておくからさ……
お前は、休んでていいぞ」
絶対に今かけるべき言葉はこれじゃないだろう、
違うのだろうが今の俺には言えず、何か口実をつけて離れようとした。
けれどカーリーは俺の服を掴み引き止める。
「まて、ラック
すこしまて、
今は……ここに居てくれ」
その声は弱々しく、とても彼女から発せられたものは思えなかった。
その声に逃げる気持ちは消し飛び、とぼとぼとカーリーの隣に座る。
カーリーは住民達を見下ろしながらぽつぽつと話す。
「なあ、私達、いや、私は何か間違えたのか…?
私はただ、いい暮らしをして欲しかった。
みんなを守りたかった。
ただそれだけなのに。
ここに居るどの人もみんな、
昨日まで顔を合わせれば笑顔で挨拶するような仲だったのに…
誰よりも喪う痛みを知っている人達なのに……
お金が関わった人間はこんなにも……卑しい欲望の塊に変貌してしまうのか?」
ぽつりぽつりとカーリーは話し出す。
怒りと悲しみ、そして落胆の入り交じった言葉を吐き出す。
次第にその声は震え、涙が頬をつたう。
「……あいつらがやらかしたんだ。
目先の利益に目をくらませ、
みんなを助けたいというお前の善意を裏切り俺達を襲った。
お前は何悪くない。」
「そうか、そうだといいな」
俺のその言葉を聞いたカーリーはそう答えると隣に座り俺の肩に身体を預けて眠ってしまった。
緊張の糸が解けたのだろう。
俺はその身体を受け止めながら死体を眺める。
これが都市の人間、金の為にこんなことした彼らに嫌悪感が湧く。
「どれだけの金を積まれようと、どんな事があろうと、
カーリーだけの味方でいる。
お前たちのような卑しい人間になってたまるか」
そう強く心に誓いを立てたのであった。