自身を探す男達の声が聞こえ咄嗟に隠れる。
大柄なエプロンをつけた男とやや細身の男
大柄な方には見覚えがある。
どうやら先程の男が仲間を連れて追ってきたようだ。
咄嗟にゴミ山の中に身を隠す。
「居ねえじゃねえか」
「おかしいな、確かにこっちから声が聞こえたんだがな」
「聞き間違いじゃないのか?
裏路地のガキがそんな周りに聞かれるような声をあげるわけがねえ」
「しかしよぉ、もしかしたら巣に住んでたガキかもしれねえぜ?」
「それこそなんでこんな所にいるんだよ
まあ、あんな血色のいいガキは裏路地じゃあ見たことねえ
ありゃあ毎日3食食ってた人間だな
そこらのガキより遥かにいい味が出そうだ」
「今度の食事会のメインを決めかねてたんだ
まさかこんなにうってつけの食材がいるなんてな」
「あぁ、なんとしても捕らえるぞ」
どうやら、先程の男が仲間を連れて探しに来たようだ
いい味?よく分からないがこいつら人食ってるのか?
少なくとも
「なんでこんなところに子供が、保護しなきゃ」
って善意で動くまともな大人という訳では無いな。
おそらく捕まったら良くて死亡、悪くて活き造り…な訳ないよな。
少なくとも確実に殺される。
絶対見つからないよう息を殺しゴミに埋もれていると不意に男達の視線がこちらに向く。
「居た!やっと見つかったぜ!」
ずかずかとゴミ山に近づいてくる。
「手間取らせやがって!あの場から逃げなければこんな所まで来る必要無かったのによぉ!」
ゴツゴツとしたデカイ手がゴミ山に侵入し隠れていた彼を引きずり出す。
「や、やだ、離せ!やめろォォォ!!!」
捕まり、地面に押さられ、腕を後ろ手に縛られかかえられる。
大人の力に子供の腕力なんて無力。
必死の抵抗も虚しく連れていかれる。
こんなにもあっさりと彼の人生はここで終了。
このまま連れていかれ惨い最期を迎えるのだろう。
「おい、このガキじゃねえぞ!!」
「あ、マジだ
全然聞いてたのと違うな、どこにでもいるガキだ」
「かぁ〜、あれを見たあとだと不味そうだぜ
こりゃ煮込みだな」
「パイナップルと一緒に煮て見ようぜ」
「そうだな、質が悪くても調理法次第で化けるぜぇ」
そういいながら最初の目的を完全に忘れ、
目の前の無関係の子供を持って去っていく男達。
段々とその背中は見えなくなっていった。
「あいつら、俺の事忘れてやがる」
男達が連れていったのはたまたま同じゴミ山に隠れていた別の子供。
「マジでバレたのかと思ってビビったわ、しかし、まさか別の子供がいたとは
……悪いことしたな」
彼がいなければ見つかること無かったのだ
悪いことなんて軽く言えるレベルではないのだが
今の彼に他人を気遣う余裕はない。
「……あいつら、きっとまた来る」
今は手に入った食材に夢中になってる。
けれど、目当ては俺だ
また、ここに探しに来る。
次は見つかるかもしれない。
「……どうする
命乞い、NO
奴らが聞き入れるメリットない。
交渉、NO
こちらから出せる交渉材料なし同じくメリットなし。
逃亡、NO
奴らから逃げきれたとして、
夜のあれから隠れられる場所なんて今から探しても見つけられると思えない。
となると、生き残るためにはやつらを倒して。
ここら一帯の安全を確保する。
いや無理だァァ!!!」
頭を抱えながら転げ回る。
まず武器がない。
そして単純に基礎スペックの時点で桁が違う
大人と子供が戦って勝てるわけが無い。
奇跡でも起こらなきゃどうにもなない。
それが起きたとして相手は2人もいる
まだ他にもいるかもしれない。
残念ながらそんなに奇跡を何度も起こせるわけがない。
無理ゲーである。
だが、ここで無駄うだうだ言って時間を消費したらそれこそ助からない。
「なにか、使えるもの
なんでもいい、探せ!」
周囲にあるもの全部ひっくり返しながら使えるものを集める。
「ビニール、使える
紐!確実に使える!!
よく分からないヘドロ!もうこの際使う!
武器になるもの、この際意思でもガラス片でも」
がむしゃらに探していると路地の一角に物資が少しだが積まれていた。
「……妙にあるな」
漁っていると寝床と僅かだが衣服と食料を見つけた。
「服のサイズからして、子供のか……あ、さっき連れていかれた子のか」
あの子には悪いが貰っていこう。
他に有用な物資はないかと漁ると1本だけかなりボロボロのナイフを見つけることができた
「よし、これがあればまだ何とかなるかもしれない
急いで迎え撃つ準備を整えよう」
布で包み、無くさないよう懐にしまい込み
他の物資も両手に抱え走る。
迎え撃つ場所は昨日隠れた隙間のある路地
「よし、ここなら他に行くより道がわかる
ここに簡単な罠を作って各個撃破、それしかない
早速設置を始め……やばっ!!!」
罠を仕掛けるのに最適な場所を決めるため周囲を見回す
そして、それが目に入る。
ガスマスクと防護服の群れ、掃除屋である。
どうやら物資集めに夢中になり
時間が頭の中からすっぽ抜けていたようだ。
現在裏路地の午後3時13分、『裏路地の夜』である。
「やばいやばいやばい!!!」
目に入った瞬間物資をできる限り隙間に投げ込んで自身も飛び込む。
何も入ってなかった前日に比べものが多い今、昨日よりも浅い位置で止まっている。
「くっそ!こんなことなら物資は捨てれば、いや、ダメだ
明日無事に見つからず逃げ切れる保証はない!
絶対手放したらダメだ!
くっそ、頼む見つかるなよ」
こんな浅い位置では最悪奴らの手が届くかもしれない
その時は確実終わりだ。
天に祈りながらやつらが通り過ぎるのを待つ。
1時間ほどたったであろうか徐々に目の前を通り過ぎるやつらの数が減ってきていた。
もうすぐこの時間の終わりが近づいているのだろう
今回も何事なく済むことに安堵のため息を吐く。
「はぁ……ヒッ!」
しかし、そんな簡単には終わらない。
何故ならガスマスクの赤いレンズが隙間から覗き込んでいたからだ。
ガッ!ガリガリガリガリ!!!!!!!!
彼を見つけたのは他の掃除屋より大型の個体
その巨体が隙間の奥にいる彼を取り出そうと身体を隙間にねじ込ませている。
幸いなことに、その巨体のお陰で彼までその腕が届くことはない。
しかし、腕に着いた刃は別だ。
刃の先は僅かに彼に届き、掃除屋は彼を引きずり出すために腕を突き刺す。
「あ"あ"くっそ!いって!
やめろ!俺はカニじゃないんだぞ!諦めて帰れよ!
カニスプーンみたいに突っ込みやがって!」
刃の先は彼の体を容赦なく傷付けた。
皮膚を浅く切り裂く程度だが数が増えれば出血死だ。
拾ったナイフを使って必死に防御する。
しかし、ロクに争いなどしたことない彼の防御なんてたかが知れている。
それでも、必死に防ぎ続ける。
その攻防を10分?20分?
正確にはわからないが続けていると。
ある時を境にピタリと止んだ。
「やっとかよ」
現時刻午前4時34分、『裏路地の夜』の終わりである。
「今回も、いき、のびた……」
血と汗でボロボロになりながらもふらふらと隙間から這い出でる。
そのまま、罠の準備を始める。
物資を引きずり出し、使えるものを結び仕掛ける。
仕掛け終わると物陰に身を隠しながら体を休める
約2日間、不眠不休の状態で心身ともに傷つき続けた体は限界を迎えていた。
「今日中にどうにか安心できる場所見つけねえと……
あ、やつらの拠点使おう
多分足跡とか辿れば着くだろ
食い物と、寝床
……あの化け物は建物壊したりしないよな
そういう生態なの……か?
腹減った……からあげ、とんかつ、らーめん
山盛りの白飯
あぁ、ダメだ腹減ってくる
なんでこんな目にあってんだ俺は
これしくったら、死ぬよな
……絶対、生き延びてやるクソが」
眠らないようボソボソと独り言を呟き頭を回しながら
ターゲットの男達が現れるのを待つ。
「今日こそは見つけるぞ」
「あぁ、本当は昨日のうちに見つけるべきだったがなぁ」
「てめえが違うガキに夢中になってるからだろ!」
「そんな怒るなよ、お前もノリノリだったじゃないか」
身を伏せ、攻撃のタイミングを見計らう。
「おい、なんかあるぞ?ガキが置いたものじゃないか?」
「ん〜?あんなもの昨日はあったか?」
「バカかお前
こんな所あんなの置いても掃除屋が持ってくに決まってんだろう
あれはガキが建てたものだ」
「それもそうか、でもなんであんなもの建ててんだ?」
「それは……俺が知るわけないだろ!!
とにかく調べるぞ!!」
そこに置いてあったのは棒を地面に立て
ビニールをかけただけの簡素な案山子。
男達の注意を引くために作った罠のひとつ。
まんまとかかってくれた。
「んだこれ、ただのビニールじゃないか」
「なーんだ、なにか罠があるのかと思ったぜ」
「ガキが一晩で作れるわけねえだろ」
「それもそっか〜、いやぁ、警戒して損しザシュッ
が、ぇ?」
周囲への警戒を解いていた大柄な男
その男へ彼は飛びつき無防備な首にナイフを突き立てた。
手に肉に突き刺す嫌な感覚が伝わってくる。
(よし、このまま確実に1人やる!!!)
確実に殺すため、突き刺さったナイフを持てる力を全て使い引き、首を切り裂く。
その反動で地面に落下し背中を打ち付ける。
「だっ!いっ……てぇ」
「てめえ!!!!!なんつうことしやがる!!!!!」
片割れをやられた細身の男は怒りのままに彼を蹴り飛ばし壁に叩きつける。
「かはっ!!!」
「てめえ!やってくれたな!!!やってくれたな!!!
てめえはとにかく苦しめて、苦しめて苦しめて!!!
生きてきたこと後悔させながら調理してやるよ!!!」
そういいながら怒りのままに彼を何度も何度もケリつける。
蹴られる度に身体のあちこちから骨が軋み
時より折れる音が聞こえてくる。
「はぁ……はぁ……くぞが
クソガキが!楽に殺しはしねえぞくそが!」
「……死んで、たまるか!!!!」
息を切らしながら怒鳴り散らすために攻撃を辞める男
その隙を突きすねを蹴る。
「い"っ!!!!でぇぇぇ!!!」
「はは!弁慶ですら弱点の
弁慶の泣き所だ!!!!
効くだろ!!!!!」
予期していない誰もが痛がる部位への一撃
その痛みに堪らず脛を押さえて蹲る。
しかし、視線は決してこちらか外さない。
これでは攻撃しても通じないだろう。
ならばここでとる最善の行動は
「じゃあ!次はぶっ殺してやる!」
逃げること
「あ、ちょ
待てやごら!!!!」
一瞬呆気に取られた男だが、すぐに後を追う
全身ボロボロの身体にムチを打って走っている彼は
普段より遥かに遅い。
ただでさえ大人と子供の歩幅の差があるのだ
スタートに差があれど、すぐに追いつく
「逃げ切れると思うな…よ?」
追いついたと思った男は、手が届く直前で前のめりに倒れる。
何事かと足元を見ると足首の高さにロープが張られていた。
「こんな初歩的な罠に俺が……ヒッ」
男が最後に見た光景は血走った目の子供がナイフを振り下ろす姿だった。
そのナイフは首を何度も、何度も突き刺した。
男が死んで動かなくなっても突き刺した。
死んでから数分後、ようやく動きを止め。
ブルブルと手が震えナイフを落としながらへたり込む。
腹の奥からは吐き気が込み上げて何も食べていないからか胃液が口から零れ落ちた。
冷静になった頭がようやく状況を飲み込み始めたのだろうか。
彼は、サイコパスでもなければ前世殺人鬼でもなんでもない。
ただの一般人だった。
初めての人殺し、そのショックはあまりにも大きいのだ。
「ふぅ……ふぅ……くそ、なんでこんなことしてんだ俺は
ちくしょう、しに、たく……ねえ」
突如として意識が遠のいてくる。
2日間の不眠不休、極度のストレス
そして、先程の暴行。
それは、子供である彼の意識を彼方まで飛ばすのは容易だった。
彼はそのままその場に倒れ伏す。
ここは裏路地、ここは23区
それは、確実な死を意味していた。