伸ばしたその手は空を切る   作:普通の凡人

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パワーレベリング

前回から1年ほど経過した。

あれからさらに仕事をこなし順当に強くなった俺とカーリーは5級フィクサーとなった。

仕事は順調、

月一で大怪我するが強化施術を受けてからは回復も早くなり快適だ。

2年間使用していたナイフは元の状態があまりよくなかったこともあり、つい先日折れてしまったため、買い替えることにした。

たまたま見つけた工房で大槌を購入した。

今まで壊れかけのナイフで防御してたのがおかしかったんだ。

大型の武器に変えたことで格段に防御しやすくなったし、

武器自体を盾にも出来るのでだいぶ戦略の幅が広くなった。

あ、ちなみに工房を畳むために閉店セールを行っていたようでだいぶ安く購入できた、やったぜ。

あと半年程したらもしもの時の為の貯金が出来て生活が安定するだろう。

たまに合同で仕事をする同業者と比べても死の危険があることを除けば順風満帆な生活を遅れてると思う。

しかし、最近いくつかの悩みがある、

どうも、カーリーに追いつけないのだ。

フィクサーの等級は同じ、けれど実力は1段は低い。

食らいついていこうと鍛錬の時間増やしたりしてるが追いつく所か引き離されている。

もっと実戦経験積みたいがフィクサーと言えどそう毎日戦闘がある訳でもない。

似た系統の悩みだが戦い方のせいか多対一が苦手だ。

頭数揃えられて一気に来られると防ぎきれずに押し込まれてしまう。

俺の先方は一対一前提の動きな為、相手が多いと今ひとつ噛み合わず動きに遅れがでてしまう。

1つピースの欠けたパズルのように噛み合わないのだ。

この先更に強くなる為にはこれは課題だ。

 

特に最近は実力がついてきたから簡単な依頼ならひとりでこなすことが増えた。

この課題を解決しないといつか死ぬだろう。

現に月一の大怪我の原因は八割それだ。

そして、今日もその日だった。

 

重い体を引きずりながらアパートにたどり着く。

どうにも散々な依頼だった、盗品の捜索だったのだが探しているうちに料理人達の多いエリアまで行ってしまい広いところで囲まれ叩かれ全身痣だらけだ。

朝から動きっぱなしだったのもあり、すぐにでも横になりたい。

時刻は16時半、カーリーはまだ帰ってきてないようだ。

 

「今日の食事の当番は……俺か

今作ったら……冷めるな。

申し訳ないが、帰ってきたら暖めて食べてもらおう。」

 

簡単な学生の夜食みたいな料理を作りラップを掛けて置いていく。

もうダメだ、疲れた。

時刻は17時

 

「かなり早いがもう横になろう。」

 

布団へ入るとすぐに意識がまどろみ気絶するように眠りについた。

 

十分な休息を取り、目が覚めるとまだ暗かった。

時計を見ると午前4時、今はちょうど裏路地の夜真っ最中だ。

大軍の走る音がよく聞こえてくる。

掃除屋か

3年前、まだ何も知らなかった頃

危うく殺されかかったのは今では良い思い出だ。

……そうだ、

多対一の訓練、やつら(掃除屋)を利用してみるのはどうだろう。

やつらは毎日やってくるし、馬鹿みたいに数が多い。

練習台としてはピッタリではないか……まあ、馬鹿みたいに数が多いから工夫しないと訓練以前に普通に死ぬが。

いつかと同じくように時計を扉の前に置き外へ出る時を見計らう。

今日は初回だから10分…念のため5分にしよう。

掃除屋が去る5分前、武器を片手に意を決して飛び出した。

飛び出すと時間終了間際なのか20~30体の掃除屋が一斉に襲いかかってきた。

 

「って多い!?

前はこれぐらいの時間だともっと少なかっただろ!?!」

 

流石に一斉に襲ってこれず5~10体ずつだがそれでもめちゃ多い。

とりあえず5分耐えれば終わる、

攻撃やカウンターなんかは一切考えず、今は防御に全神経を注ぐ。

 

「もっとちゃんと考えてやればよかった!!

ちっくしょう!深夜テンションでやらかした!!!

やってやるわ!」

 

一斉に向かってくる掃除屋の刃を防ぎ、躱し、受け流していく。

しかし、全てに対処することは今の実力的に不可能

防御を抜けた攻撃が着々と身体に傷をつけていく。

 

「あぁ、ちっくしょう!

痛え!数多すぎ!!

俺のバカ!!

やってやんクソが!!!」

 

傷つきながら、防ぎ方の最適解を探す。

向かってくる攻撃を見極め、防ぐ順を思案し実行する、

視野を広げ、音を感じ、匂いを強く吸い込み、伝わってくる振動を肌で感じる。

そうして五感をフルに使用し敵の来る方向を察知していく。

しかし、実力的に限界があった。

数が多すぎて全て防ぐにはこちらの手数が足りない。

掃除屋は波となって迫ってくる。

その波には容赦なく、ラックの身体を押し流した。

 

「やべ、しくった……」

 

死を意識した。

どうにか3年生きてきて結構いい暮らしになってきたのに、

こんなことで死ぬなんてな、馬鹿な真似したな俺。

周囲に目をやるとあらゆるものがゆっくりに感じられた。

タキサイキア現象だったか?死にひんした時脳の処理速度が一時的に引き上げられ周囲がスローモーションに感じる……だったか?

あぁ、やっぱ死ぬのか俺。

段々とここ3年の思い出が頭の中に浮かんでくる。

走馬灯ってやつだな

色々な光景がショート動画のように次々に頭の中を流れていく。

最悪な始まり、隣人との些細な会話、質屋の老婆のぼったくり

ロクな思い出がない中、ひとつ、眩しい記憶が流れ込んだ。

 

「カーリー……」

 

死ねない、そう思った。

ふと、攻撃が届かなくなった。

スローな世界で、波に飲まれながらも身体は動いていた。

生き残るため、あの人ところへ帰るため、無意識のうちに動いていた。

防ぎ、躱し、踏みつけ、受け流し、押し返す。

死に物狂いで掃除屋を押し退けていく。

そうしていくと掃除屋の波からはじき出されるように脱出できた。

全身余すことなくボロボロだがまだ倒れられない。

掃除屋達は飛び出したラックを再び飲み込もうと団子となりながらこちらへ突撃してくるのだ。

 

「……よしこい!」

 

今の攻防で、1つ、何かを掴んだ。

足りなかったパズルのピースがピッタリハマり、

自分の中でなにかが完成した感覚を覚えた。

掃除屋達へ向き、武器を構える。

再び世界はスローモーションになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きるとラックの姿が見つからない。

昨日私が帰る時には既に寝ていた彼がどこにも見当たらない。

寝る時には確かに姿は確認している。

私が寝てる間に外に?

嫌な予感がする、

最悪な光景が頭に浮かんで外に飛び出すと以外にも近くにラックは居た。

手足を切られてされて地面に転がってるというのことはなく、路地の真ん中で立っていた。

無事と言うには全身傷だらけでいたが、生きてはいる。

最悪な結末を辿ってはいないことにホッとしながら声をかけに行く。

 

「おい、ラック

なんでこんなありさまになっている」

 

声をかけるとラックは無言のまま道の端を指さす。

そこには掃除屋の残骸が山積みとなっていた。

 

「お前、まさかこんなことする為に夜外へ出たのか?」

 

呆れながら向き直すと満面の笑みでピースを突き出している。

 

「カーリー、俺

もっと強くなれるよ」

 

ラックはそうキラキラとした目で子供のようにはしゃぎながら話すのだった。

 

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