5分といえど1人で掃除屋の波を乗り切った、
それは俺にとって果てしない成果だった。
掃除屋はこの世界に来た当初から恐怖の対象だっだ。
それに打ち勝つことは確実に強くなっていることの証明であったのだ。
達成感と興奮が冷めない俺は直ぐにカーリーに模擬戦を挑んだ。
「お前、そんなボロボロの体で無理するな」
「頼む、今なら出来るんだ
なにか掴めかけてるんだ。」
「……はぁ、わかった
やるからには本気でやるが
だが少しでも危ないと判断したらすぐ止めるぞ。」
渋々といった様子で了承するカーリー。
しかし構えた途端ガラリと雰囲気が切り替わり強者特有の威圧感を放つ。
「感謝するぜ、いつだって真剣に向き合ってくれて」
「私が好きでやってるだけだ」
俺も数歩下がり適当な石を拾い上げ武器を構える。
「開始はこれが地面に落ちたら」
「わかった」
軽く投げると石は弧を描きながら落下する。
石が床に落ちた瞬間、カーリーは瞬きより早く間合いを詰め
そのまま突進してくる。
「まさか初手にそれかよ!!」
ギリギリまで引き付け紙一重で避ける。
まるで大型自動車のような体当たり、
並のやつならそのまま轢かれてお陀仏だろう。
しかし、これで終わりな訳はなく攻撃は続く。
回避されるとカーリーはその場で己を軸に回転し突進の勢いを1部乗せた横切りを振り返りざまに放つ。
直前の回避で体制がまだ立て直せておらず回避は不可能、
迫る攻撃は死を予感させる。
それが刺激となり、掴んだ。
世界は掃除屋との戦闘時のようにスローにとなる。
スローの世界でカーリーの攻撃に下から武器を滑り込ませ
掬うように打ち上げた。
「…ッ!」
以前までなら防げたがパワー負けして大きな隙を晒していた攻防、
それを切り抜けた事にカーリーは驚愕の表情を浮かべる。
その隙にすくい上げられたことで無防備になった腹部を蹴りつける。
「ぐっ」
「このまま追撃……を」
転倒を狙った蹴り、
そこまでいかなくてもせめて怯むと思ったしかし、その判断は甘かった。
カーリーの鍛え抜かれた腹筋は俺の蹴りを受け止めてしまった。
「えっ、冗談でしょぉぉ!?!?!」
お返しとばかりに振り下ろされる縦振り。
避けるも流すもできない片足立ち、それでもどうにか受け止める。
ガンッと衝撃が武器を伝わり手に響いた。
思わず手放しそうになるも耐え抜く、しかしこの攻撃は2段構えだ。
「い"ってぇ!!!」
初段より力の籠った2段目、
流すことのできない衝撃がモロに手にかかり武器が吹っ飛ばされていく。
素手になり無防備な俺にトドメを刺すためカーリーは突きの構えをとる。
「やっば!!!」
全神経を集中し攻撃を見極める、
周囲はさらにスローとなり迫り来る脅威に備える。
経験上、来るのは3連突き。
3発だ、3発避ければ僅かだか隙ができる。
その間に武器を拾い体制を立て直す。
まず1発目、身体を大きく捻り躱す。
肩を僅かにかするが問題はない。
2発目、体を大きくかがめ避ける。
これまた背中を掠めるが痛がってる暇はない。
かがみながら土を掴み次に備える。
最後、3発目
気を引き締めろ、
避けてこの土を顔に投げれば武器を拾うぐらいの隙を作れるはず。
迫る突きを注視し身構える。
「ここだ…ぁ"!?」
完璧なタイミングを見極め、体を動かしたハズだった。
突如として頭痛、目眩、そして全身に酷い倦怠感が襲いかかり身体は硬直し、スローとなっていた世界は当倍速へと戻っていく。
「あ、おい!」
動かなくなった体は高速の突きをモロにくらう
当たると思っていなかったのか思わず声をあげこちらに向かってくるカーリーを眺めながらスっと意識を失った。
10分ほど経ったか?
意識が戻り飛び起きるとアパートの寝室で寝かせられていた。
頭痛などは相変わらず続いており酷い気分だ。
正体不明の苦痛にあえいでるとカーリーが少し心配した様子で入ってくる。
「調子はどうだ?」
「最悪、
ニトログリセリン飲んだみてえにひでえ気分」
「飲んだことないだろ」
どうにも頭を使いすぎたようだ。
周囲がスローになるタキサイキア現象。
原理としては極度の恐怖や興奮、
死に瀕した際などに脳の処理速度を一時的にあげることで起きる。
一時的、つまり本来長時間続くようなものじゃない。
それを無理に長時間行ったのだ。
相当な負荷が脳にかかっているこではないか。
これからは使用に注意を払っていかないといけないな。
「「……」」
き、気まずい。
心配してくれていたのに無理言ってやった結果この有り様だ。
ひじょーに気まずい。
「おい」
「はい!!
なんでしょうかすみません!」
「……?
なんで謝っているんだ?
それより、昨日までとは別人のような動きで驚いた。
見つけた時の掃除屋の残骸といい何かあったか?」
「あ、えっと
夜目覚めたあと外に飛び出して掃除屋相手に対多数訓練してました。
はい」
「へぇ、つまり
思いつきで危険を考えずに無茶な事を私に知らせずにやったと」
「え、あ
はい、そうです」
どうも怒ってるみたいだ。
まあ、自分でもかなり馬鹿なことしたと思ってる。
どう考えても死ぬ確率の方が高かったろうし、
掃除屋の数が後5体多ければ俺はここにいなかっただろう。
「わるかっ「だがかなりの成果があったみたいだな」
えぁ、まあ、見ての通りです」
「私は初手で終わりにするつもりだったんだが
お前負傷してたし長引かせないようにな、
まさか避けられて追撃まで防がれ、
あまつさえ反撃を受けるなんて思いもしなかった
たった1日でかなり上達したな」
これは予想外、まさか褒めてくれるなんて。
実感はあったが師匠のような存在のカーリーに褒められる、
うん!正直めちゃくちゃ嬉しい。
「だが威力不足だ
もっと鍛えろ」
「あ、はい」
まあ、軽く跳ね返されたからな
結構本気でやったんだが…
てかそこらのネズミなら吹っ飛ばす勢いで蹴ったのに硬すぎ。
「そういえば、
最後に反応が遅れてたがどうしたんだ?」
「あー、実は任意で体感速度変えられてさぁ
切り替えた瞬間周囲がスローモーションになるんだよ
それが急に途切れた、
昨日習得したばかりだからまだまだわからないけど多分時間切れ?
なんだと思う」
「そうか、その力かなり有用な能力だが」
「分かってる、多用する気は無い
これが無いと戦えなくなる訳にいかないからな」
「それならいい、
検証が必要だろ、時間がある時に言えばいつでも付き合うぞ」
「助かるわ〜」
次の日からこの力について、カーリーと色々試した。
まず継続時間、1度の戦闘で使えるのは万全の体調で2~3分
それを超えれば脳が限界を迎え強烈な倦怠感と頭痛吐き気を引き起こし戦闘継続が困難となる。
しかしその前に使用を停止し約1時間の休憩と糖分などを摂取すると再度2~3分使用が可能。
次に分かったことは体感時間。
これは任意である倍率の程度のコントロールができるようだ。
倍率は上がるほど継続できる時間は減っていき、
最大まであげれば使用可能時間は1分にまで縮まる。
倍率は最低10分の1、
最大100分の1まで体感時間を引き延ばせることが分かった。
なんか条件付きでT社の金持ち達になった気分だ。
あとひとつ、これは当たり前なのだが。
脳の処理速度が上がったところで身体を動かす速度は上がらないということだ。
これは身体を鍛えていけばいいし、
反応速度は遥かに上なのだから先に動けば間に合う。
これらの検証を行いながらここ1週間カーリーと組手を続けていた。
初回は散々だったが段々とこの力の使い所を身につけた。
基本負けるがそれは時間切れによるもので、
使用中は攻撃を全て受け止めることができるし、
以前より攻撃の合間を見極め易くなりカウンターも洗練されて言った。
おかげか5回に1度、カーリーに勝利できるようになった。
以前からの悩みであった俺とカーリーとの間にあった差がようやく埋まったのだ。
なんて思っていたら。
半月後、
無慈悲にもカーリーの攻撃速度が俺の防御速度を上回った。
マジふざけんな……
意識は追いつくのに身体は追いつかなくてじわじわと守りを突破された。
ほんとめっちゃ怖かった、迫り来る攻撃に腕が段々追いつかなくなる。
ゆっくりとゆっくりとカーリーの痛い一撃が目の前まで近づいてくるんだ。
体感速度がスローな分恐怖倍増だよ。
俺の命懸けの特訓の成果はカーリーの順当な成長に負けたのであった。
まただ、また引き離された。
ちくしょう!絶対また追いついてやる!