幼い頃の乙骨憂太と折本里香は静かな町でよく一緒に遊んでいた。
二人は近所の砂場を第二の家のようにして、毎日笑い声を響かせていた。砂を手に取り、城を作ったり、道を作ったり。
里香はいつも元気いっぱいで、憂太は少し内気ながらも、そんな彼女の笑顔に心を許していた。
ある晴れた午後、里香はいつものように砂場に現れた。彼女の小さな手には、家からこっそり持ち出した母親の形見である結婚指輪が握られていた。
銀色のリングは、幼い彼女の手には少し大きかったが、それでも大切そうに輝いていた。
「憂太、これあげる」
里香は砂だらけの手を差し出し、指輪を憂太の掌に置いた。憂太は不思議そうにそのリングを見つめ、首を傾げた。
「これ……どういう意味?」
里香は少し照れくさそうに、しかしはっきりとした声で答えた。
「結婚指輪だよ。大人になったら、里香と憂太は結婚するの」
その言葉に、憂太の幼い顔が真剣みを帯びた。彼は指輪をじっと見つめ、それから里香の目を見つめ返した。
「……本当に? 里香ちゃん、僕と結婚してくれるの?」
「うん。本気だよ」
里香が頷くと、憂太はゆっくりと指輪を自分の細い指にはめた。少しゆるかったが、彼はそれを大事そうに握りしめた。
その日の午後、憂太は里香の手を引いて、町はずれにある古い廃墟へと連れて行った。
そこは昔、華やかな結婚式場だった場所だった。今は壁が崩れ、屋根が破れ、蔦が絡まる寂しい建物になっていたが、憂太は以前にそこで聞いた話や本で知った結婚式のことを覚えていた。
薄暗い会場に入ると、埃っぽい空気が二人を包んだ。憂太は里香を中央に導き、幼いながらも一生懸命に、覚えていた祝詞を一つ一つ唱え始めた。
声はまだ高く、震えていたが、真剣そのものだった。最後に、彼は里香の両手を握り、彼女の目をまっすぐに見つめて言った。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、死がふたりを分かつまで。愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
里香は微笑み、はっきりとした声で答えた。
「愛します。死が二人を分かつまで」
すると憂太は、幼い胸を張って、堂々と宣言した。
「いいや、死んでも離さない。天国でも、地獄でも、来世でも。僕はリカちゃんと共に歩むよ。僕の人生をリカちゃんに捧げる」
里香の目が少し潤んだ。彼女も同じように、強い意志を込めて返した。
「リカも、憂太に全部をあげる。生きているときも、死んだ後も、全部、全部、この愛に誓って」
二人は指輪を通じて、心の底から互いの全てを捧げる契約を交わした。それは子供の戯れなどではなく、純粋で一途な、絶対的な約束だった。
次の日、里香は交通事故に巻き込まれた。道路を歩いていた彼女を、制御を失った車が激しく襲った。
憂太はすぐ近くにいて、その惨状を目の当たりにした。里香の体は無残に傷つき、意識は急速に薄れていった。
病院のベッドで、里香は弱々しく息をしていた。憂太は彼女の手を必死に握りしめ、涙をこらえながら叫ぶように言った。
「里香ちゃん。死なないで。生きて。僕が必ず生かしてみせる。僕の全てを懸けて」
里香は苦痛に顔を歪めながらも、優しい微笑みを浮かべ、か細い声で囁いた。
「私も憂太のこと、愛しているよ。私の全部あげる……」
その言葉を最後に、折本里香は息を引き取った。
享年11歳。
人間としての里香は、この世から去った。しかし、ここで理の例外が発生する。
二人が交わした「互いの全てを捧げる」という完全な同意と、乙骨憂太の呪いの才能、そして互いの一途な愛が強く互いを縛り合った結果、強大な呪いが誕生した。
里香の魂は、死を拒絶する憂太の強い願いによって、特級過呪怨霊へと変貌した。
それは呪いの女王と呼ばれるべき存在――真っ白な異形の怪物。
一つの目が不気味に輝き、巨大な体躯に鋭い歯を並べた、恐ろしくも美しい怨霊だった。
こうして、二人の幼い純愛は、永遠の呪いへと姿を変えた。
憂太は里香を失った悲しみの中で、彼女を「生かそう」と縛り続け、里香は怪物に身を堕そうとも愛する者の傍らに留まることを選んだ。
その後の運命は、二人をさらに深く、複雑に結びつけていくことになる。