巨大なクレーターの中心で、乙骨憂太は灰色の空を見上げていた。周囲はすべて消え失せ、焼け焦げた大地だけが残っている。
彼は静かに息を吐き、胸の奥で後悔を抑えていた。その時、空間がわずかに歪んだ。
突然、銀髪の男がクレーターの縁に現れた。
黒い目隠しをし、軽やかな笑みを浮かべている。
乙骨憂太はゆっくりと立ち上がり、穏やかな声で問いかけた。
「誰ですか?」
男は肩をすくめて答えた。
「一言でいうとテレポートだよ。びっくりさせちゃったかな」
乙骨憂太は首を軽く傾げた。
「現れた方法を聞いているわけじゃないんですけど」
「いやぁ、これ凄いことやったね。しかも君の呪力じゃない。そっちの式神単体の呪力だ。お互いに魂を縛りあって、式神としている上で、双方の同意が成されている……くくっ、珍しいものを見たよ」
乙骨憂太の黒い瞳がわずかに細まった。
「僕達の事が分かるんですか?」
「わかるよ、最強だからね」
「最強、関係あります?」
乙骨憂太は小さく息を吐いた。
童顔の表情に、いつもの冷静さが戻っていた。
「僕達はこれから別の場所へ行く予定なんです」
「へー、なんの為に?」
「社会貢献の方法を考えるため、ですかね。意図しないとはいえ、大勢の方を殺してしまったので、その人たちが無駄死にではないと納得できるだけの貢献をしないと駄目だと思うんです」
男は笑みを深めた。
「真面目にイカれてるね。罪悪感や後悔はないの?」
「残念だとは思います。僕のせいですし。だからこそ前向き、今を生きている人のために頑張りたいです」
乙骨憂太は少し申し訳なさそうに言った。
「死んだ当人より、遺族やその人達が暮らす社会に善いことができたほうが贖罪の意味があると思います」
男は軽く手を叩いた。
「そっか、わかった。良い仕事知ってるよ。君達みたいな特殊な力を使う集団が、無辜の市民を守る仕事。僕はこれでもすごいから紹介してあげるよ」
乙骨憂太の目がわずかに輝いた。
「本当ですか!?」
「でも条件が一つ。僕と本気で戦うこと。実力が分からないと困るから」
「わかりました」
男はにやりと笑った。
「なら戦闘開始だ。赫」
瞬間、男の指先から赤い輝きが放たれた。
それは呪術界御三家・五条家相伝の生得術式「無下限呪術」だった。
術式反転「赫」——指向性を持つ強力な衝撃波。発散の力が、空間をねじ曲げて乙骨憂太とリカに向かって襲いかかった。
爆音が響き、二人とも吹き飛ばされた。大きなダメージが体を貫き、骨が軋み、血が噴き出した。乙骨憂太は地面に倒れ、死の淵を彷徨った。
視界がぼやけ、息が荒くなる。しかしその瞬間、本能的に彼は反転術式を会得した。
不足した人体を瞬時に回復させ、傷を塞ぐ。彼は立ち上がり、リカに向かって叫んだ。
「全力だ! リカッ!!」
白い一つ目の巨大な怪物が咆哮を上げた。
「ああああ!!」
五条悟は楽しげに笑いながら空中に浮かび、遊ぶように攻撃を繰り出してきた。一方、リカは本気で暴れ回り、特級加重怨霊の狂気をむき出しにする。
乙骨憂太はその傍らで冷静に動き、リカをサポートしながら戦場を駆け回った。
乙骨憂太は息を整え、黒い瞳を五条悟に据えた。童顔の表情はいつも通り穏やかだったが、その奥に静かな熱が宿っていた。
傍らには白い一つ目の巨大な怪物――特級加重怨霊リカが、牙を剥き出しに低く唸っている。五条悟は空中に浮かび、黒い目隠しの下で楽しげに笑った。
「もっと加速していこうか」
彼は軽く指を鳴らした。瞬間、無下限呪術が発動する。術式順転「蒼」が空間を歪め、青い輝きがリカに向かって収束した。引力の力が怪物を引き寄せ、地面を抉りながら巨大な体をねじ曲げようとする。
「リカッ!」
乙骨憂太が叫ぶと同時に、リカが咆哮を上げた。
「ああああ!!」
リカの巨体が暴れ、狂気じみた力で「蒼」の引力を引きちぎった。白い腕が振り回され、クレーターの壁を粉砕しながら五条悟に迫る。だが五条の周囲では「無限」が展開され、リカの拳は永遠に届かない距離で止まった。
五条悟はくすくすと笑いながら指を軽く振った。
「これを理解しないと、勝てないよ?」
術式反転「赫」。赤い衝撃波が発散され、リカの胸を直撃した。怪物が大きくのけぞり、血のような呪力が飛び散る。
乙骨憂太は即座に動き、リカの背後に回り込んでサポートした。彼の身体はすでに反転術式で回復を終え、高い性能で五条悟の攻撃を予測しながら動いていた。
「僕の番だ」
乙骨は冷静に呟き、リカの巨腕を足場に跳躍。強化された身体能力で五条悟の死角を突く。拳に呪力を込め、打撃を放つ。だが五条は悠然と身を翻し、無限の壁で攻撃を無効化した。
「はい、残念」
「んっ!?」
五条の声はまだ遊び半分だった。彼は高速で移動しながら「蒼」を連発。青い引力が乙骨とリカを引き寄せ、拘束しようとする。
リカは感情のままに暴れ、巨大な爪で空間を切り裂きながら抵抗した。一方、乙骨憂太はリカの横を駆け、冷静に指示を飛ばす。
「リカちゃん、右から回り込んで! 僕が正面から抑えるよ!」
二人のコンビが息を合わせた。リカの狂気が爆発し、白い巨体が五条悟を包囲するように突進。五条は笑いながら「赫」を放ち、衝撃波でリカを吹き飛ばすが、乙骨憂太が即座に反転術式でリカの傷を癒し、再び前線に送り出す。
(蒼と赫はただは優先度は低い。問題は攻撃が届かない透明なバリア。エネルギーによる壁じゃなく、別のルールで現象が起こっている……学ばせてもらいます)
戦いは激しさを増した。五条悟の無下限呪術がクレーター全体を支配し、青と赤の光が交互に閃く。リカの咆哮が響き渡り、地面が何度も揺れる。
乙骨憂太はリカの影に隠れながら、冷静に戦況を観察し続けていた。時折、彼の瞳に深い熱がよぎる。
「リカちゃん、合わせて!!」
乙骨の声が響くと、リカがさらに暴走を加速させた。巨大な怪物が五条悟に肉薄し、爪と牙で無限の壁を叩き続ける。一方、五条は相変わらず遊ぶような笑みを浮かべながら、術式を操って二人を翻弄した。クレーターに響く爆音と咆哮。
乙骨憂太とリカのコンビは、死力を尽くして最強の男に挑み続けていた。そして遂に、最強の身体に攻撃が届く。
その現象に、五条悟は笑う。
「領域展延……! 今の戦いで会得した、すごい成長速度だ。だけど、それならそれでやりようはあるんだよね」
五条悟は呪力による身体能力と、体術の技能で乙骨憂太を一瞬で叩き伏せて、意識を奪った。
五条悟は消えるリカを見届けながら言う。
「まだまだ発展途中。だけど将来性あり。合格」
薄れゆく景色のなかで、乙骨憂太はその声が聞こえた。