個性:奇跡を起こす程度の能力   作:弱小妖怪

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序章:入学
個性把握テスト


「遂にここまで来ましたね」

 

 巨人の利用でも想定しているのだろうか、首が痛くなるほど見上げないと天辺が見えない扉の前で私は幾ばくかの感慨に耽っていた。

 

 雄英高校のヒーロー科。

 ここを志望することを決断した日のことも、昨日の御夕飯くらい明確に思い出せる。

 

 確か、一年程昔、夢の中に見慣れた神様──というか諏訪子様が出てきて「ゆーえー高校のひぃろぉか? とかいうのに行くと吉事に恵まれるかもしれないよ」とかおっしゃられたのだ。

 私はビビッときた。これは、古典で頻出する夢のお告げというやつだと! あるいはサブカル定番のプロローグにおける謎夢だと!

 

 私は浪漫を愛する系の女子中学生であり、守矢の神に仕える風祝。

 明らかなフラグを踏んでおきながら目を背けるのは、東風谷早苗の名に廃るというもの。

 

 当然のこととして、その翌日には進路を固めていた。

……だから別に、浅はかなノリと勢いというわけではない。ヒーロー免許があれば個性を自由に使えて便利だし、社会的信用も稼げるし、雄英出身の箔は金策に使えるし。他にもほら、色々あるもの。富士の山も目じゃないくらい立派で、マリアナ海溝よりも深い理由が。

 

 それに、そもそも諏訪子様のお告げに逆らうこと自体があり得ないもの。

 

 それはさておき、決断の後には過酷な日々が待っていた。

 雄英高校のヒーロー科は入試倍率300倍の狭き門。隙間に入り込むためには偏差値79の試験を突破しないといけない。

 

 理系科目は趣味が高じたおかげで余裕だったけども、社会に至っては小学校の教科書を持ち出す羽目になって……。

 自分で課したとはいえ、勉強漬けの日々はトラウマになりそう。

 

 でも、社会はまだ許せる。許せた。知っていく内に多少は好きになったし、仕事が暇な時に歴史探訪旅行もしてみたりしてね。

 

 しかし! 英語だけは許せない!

 あんなの、日本生まれ日本育ちの日本人が習得できるような言語じゃねえですよ。

 

 私が読める英語はゲーム英語だけよ。

 

 

 

 でもそれでも私は関門を乗り越え、ここに立っている。

……え、実技試験? 幼少の時分に相伝の秘術をマスターした私が苦戦するわけないじゃないですか。

 でも、巨大ロボットはとっても素敵だったわ。

 

 爆発を連鎖させながら鈍重なパーツが落下して、腹まで震わす地響きを立てながら崩壊する様は特に格好良かったわね。うん、あれには様式美が継がれる所以がよく表れていた。

 つい、おお!って歓声もあげちゃったし。

 

 まあそんなのはどうでもよくて、さっさと教室に入りましょうか。

 

…………ほう、ほうほう。

 

 席はほとんど埋まっている。

 日本トップの名門高校だから優等生然とした人ばかりが集まるものと思っていたけれど、想像と実態は中々合致しないようで、むしろ癖の強い見た目をしている人ばかり目に入る。

 

 とりあえず、私の席は……と。

 

 東風谷のこは……廊下から数えて二列目、後ろから二番目ね。

 

「おはよう!」

 

 声をかけてきたのは隣の席の人。四角い眼鏡に七三分けの髪型と、如何にも委員長といった風貌だ。むむむと記憶を思い返してみると、同じ試験会場にいたような気がしないでもないような。

 

「おはようございます」

 

「俺は飯田天哉だ。よろしく頼む」

 

「私は早苗。東風谷早苗です。よろしくお願いします」

 

「ああ。ところで東風谷君。君は入試の構造に気付いていたのか?」

 

「入試の構造……? あー、それはですねえ。私も吃驚しました。まさか救助が評価されるなんて思ってもいませんでしたから」

 

 自己紹介をすると、共通の話題だからだろうか、話が入試での出来事に移っていった。

 レスキューポイント。試験会場では説明されず、合格通知で明かされた秘密の加点制度にはさしもの私も驚いた。

 

「そうか。しかし、ヴィランを討つこともヒーローの職務だが、その本質は人を助けることだ。合否が懸かった場面で打算無しに人助けを行えるのなら、きっと君は素晴らしい人間なのだろう」

 

「判りますー? そんな貴方におすすめの神様がいるのですが──」

 

 それでも制度の恩恵にあやかれたのは、私に信ずる神がいればこそ。

 だから勧誘してみたのだが──

 

「すまないが、怪しい宗教勧誘は断っている」

 

「はー!? 怪しくないですよ!」

 

 本社は百年以上昔に幻のように消えてしまったらしいが、それでも一族が代々信仰している神様なのに……。

 

 いや、でも、それも仕方のないことかもしれない。私も今までの布教経験から悟ったことがある。

 恐怖や忌避は未知から生じるのだと。

 

 神性を剥奪する程に暴かれていけないが、畏れ敬う程度には知られないといけない。

 ならば、私がすべきことは一つ!

 

「では、守矢の神様の崇高さを語ってあげましょう!」

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 歴史を交えることで興味を惹く作戦で挑んだけれど、新しくクラスメイトが入ってきた段階で挨拶に行くと言って逃げられてしまった。

 残念無念。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の───」

「思わねーよ! てめーどこ中だよ端役が───」

 

 ぶっ殺すとか聞こえたのは気のせいということにしておいて、時計を見ると長針が6に迫っていた。チャイムが鳴るのは八時半だろうから、丁度いい頃合いだったのかもしれない。

 

 駆け込むようにして残りの二人もやって来て、駆け寄った天哉さんも交えて教室の入り口で話し始めた。そう時を置かずに定番のチャイムも流れて、入り口からぬっと寝袋に包まった小汚いおじさんが……

 

 むむ、不審者?

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 なるほど、先生。それなら安心……安心かしら?

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね。早速だが、体操服(コレ)来てグラウンドに出ろ」

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 先生によると、個性把握テストなるものを行うらしい。

 勿論、入学式もガイダンスもすっ飛ばして。

 

 言い分としては「雄英は自由な校風が売り文句で、それは先生も然り」とのことだが、あんまりにも自由過ぎるものだから誰も言葉が出ないようだ。

 

「なるほど、ここでは常識に囚われてはいけないのですね……」

 

「東風谷」

 

「……っ、はい!?」

 

 ふと独り言を漏らしたら、聞き咎められたのだろうか、先生に名前を呼ばれてしまった。

 

「中学の時ソフトボール投げ何メートルだった?」

 

「えーっと、二十と……何メートルでしたっけ?」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」

 

「なんだそんなことですか。わかりましたー」

 

 よかったよかった。ただ投げるだけでいいらしい。

 

 霊力を巡らせて強化した体を躍動させ、秘術で豪風を引き起こす。

 髪が激しく靡き、砂埃もどうっと舞い上がる中、ボールは風の箱舟に乗り空の彼方に飛んでいき。

 

 長い沈黙の後、ピピっという音と共に先生の持つ端末機に889.3mと表示された。

 

 どうやら地球の重力から逃がしてやることは出来なかったらしい。残念。

 

 一泊を挟んで、どっと歓声があがる。

 現代社会において自分の能力を全力で振るえる機会なんてそうないから、面白そうだと期待する声が多い。

 

 しかし、それが気に障ったのだろうか、地獄から響くような声音で恐ろしい宣告がされた。

 

 即ち、トータル成績最下位のものは除籍処分にすると。

 

 普通ならば耳に届いた瞬間に嘘だと断じれるような発言ではある。

 けれど、この発言の主は寝袋に包まったまま教室に登場し、身嗜みに気を遣うこともなく、合理性と校風を盾に親も楽しみにしていただろう入学式をボイコットする常識外れな人だ。

 

 ここまで明確な個性差別をするわけないと切り捨てることも難しい。

 

 戦慄せざるを得ない。

 もしも疑似的な危機的状況に追い込むための方便ならこの先生は一流の役者であり、そうでないならかなり危ない人だ。

 

 ここで一つだけ確かなことがあるとしたら、私が最下位を取ることはないということだけだ。

 

 私の能力は厳密に言えば個性ではない可能性が高い。それどころか秘術は兎も角、霊力に関しては全人類が普遍的に持ちうる類の力ではないかと疑ってすらいる。

 とはいえ、適当にそれっぽいこと書いて個性届けを出し、何事もなく承認されている。

 

 だから、この力も社会的に見たら個性であり、しかも体力テストでも腐るどころかしっかりばっちり輝いてくれる。

 

 

 つまり、私は順当に優秀な記録を残していき──途中で無限記録騒動や指破壊事件があったり、ボール投げの記録も大幅に更新したりしつつ最後の種目である持久走にまで辿り着いた。

 

「わっはー! 風が気持ちいいですねー!」

 

「聞こえませんわー!」

 

 グラウンドに引かれたラインに沿って空を飛ぶ私の直下、バイクで轍を刻み込む百さんにハイになったテンションに任せて声をかけたのだけれど、返答は無常にも聞こえないとのこと。

 それはエンジンの音が煩いというより、風切り音に声が搔き消されることが原因なのだろう。

 

「それなら……あーあー。聞こえますかー!」

 

「聞こえますわー!」

 

「風が気持ちいいですねー!」

 

「ええ! そうですわね!」

 

 空を飛ぶ機会なんてたくさんあるけれど、いつだって生身で飛翔することの気持ちよさは変わらない。流石に古代から人類が憧れ続けるだけはある。

 

「ところで! 東風谷さん? はどのようにして飛んでらっしゃるのですか! 風を操る姿はお見かけましたが、それほどまでに自在に飛ぶのはハードルがあまりにも高いと思いますのー!」

 

「あはは! 個性は現代に残る最後のファンタジーですよ! 貴女だって物理法則に喧嘩を売りまくってるじゃないですか! なんで物体を創造できるんですかE=mc^2はどうしたんですかヤダー!」

 

 そうやって和やかに会話したりしつつ、持久走も終わりを迎え。

 あっという間に結果発表を迎えた。

 

「トータルは単純に各種の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 問題は、これでクラスが十九人になるのかどうかだけれども……

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 流石に大丈夫だったようだ。

 入学早々クラスメイトを見送る羽目にならなくて一安心。

 

 ちなみに順位は当然一位だった。




外の世界に現存する守矢神社は一社だけ。
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