個性:奇跡を起こす程度の能力   作:弱小妖怪

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なるべく文章量の削減を試みたのですが、一万字を超えたので二話に分割します。


現人神はかく語りき 上

 東風谷早苗という生徒は怪しい。日常的に目出し帽で銀行に出入りする人間くらい、とびっきりに怪しい(反って怪しくない)

 

 それが、雄英高校教師陣の所感である。

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 雄英高校一年A組を担当する相澤は、上司である根津校長と共に電車に揺られていた。USJでの負傷によりミイラマンになっていた相澤だが、一週間リカバリーガールの処置を受けたことである程度の脱皮に成功。未だに体は軋むけれど、そこそこの活動には耐えれるくらいには回復した。

 

 

 さて、今日の日付は日曜日。公務員ならば休日に指定されているはずの日だが、雄英は”自由”な校風が売り文句。それは教師だって例外ではないようで、現在も業務の真っ最中である。一週間前の襲撃事件の始末、そして一週間後の雄英体育祭の準備により毎日忙しくてたまらない。

 とはいえ、相澤は好き好んで教職に就いている身だから、文句なんてものは一切ないのだが。

 

「相澤先生!? どうしてここに!?」

「やあ、私もいるのさ!」

「わあ、根津校長だ!」

 

 それでも学校外で受け持つクラスの女子の集団に遭遇すれば、多少は辟易としてくるものだ。バスの停留所に照り付ける陽光と、最近の重なり続ける疲労とが相まって眉間にも皺が刻まれる。

 ひょっこりと捕縛布から顔を出した校長に歓声が挙がるが、こいつら、休日とは言え気を抜き過ぎてはいやしないか。

 

「きっと目的地は君たちと同じなのさ!」

「先生方も守矢神社に? 何というか、少々意外ですわね」

「守矢神社には神が住むなんて噂を聞くからね。一目見てみたいと思ったのさ」

「…………神様?」

 

 さて、校長はそう巫山戯たことを言っているが、残念なことにそこに嘘偽りは一切含まれていない。事実として、本日は神なる存在を観光しに向かっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 話は地球が半回転する程度の時間を遡る。

 

 先日のUSJ襲撃事件により、雄英高校は体育祭の開催も踏まえて警備を強化する方針を打ち立てた。となれば、放課後は連日会議に会議で大忙し。

 先日も当然ながら会議をしていたのだが、基本的には雄英体育祭の詰めと警備の詳細が主題となるにも関わらず、その時だけは少しばかし毛色が違った。

 

 ところで、人が健康を保つためにはどうすればいいのだろうか。怪我をしないよう交通事故に気を付け、階段では急がず、殴り合いはもっての外──なんて、それだけでは片手落ちとしか言いようがない。人を真に蝕むのは病の方だから。

 

 学校だって同じである。警備を強化し、襲撃に備えるだけでは足りない。内憂を撲滅し、外患に抗ずる──それでこそ、万全の体勢は確立される。

 

 当然のこととして怪しい人間が雄英に在籍しているのを放置するわけにはいかないのである。

 

「次の議題は件の調査について、進展の共有なのさ。これを見てもらえるかな」

 

 場所は会議室。革張りの椅子に浅く腰かけた根津校長が卓上のパソコンを操作すると、スクリーンに映るは──

 

「やっぱ東風谷のことか~。この一週間注視してきたけどよ、普通に良いヤツだったぜ? あんま疑いたくねえな」

「救助ポイント最多獲得、USJでの奮闘───善性の存在であることは疑うべくもないだろう。だが、善人が悪でない保証はない」

「それでも東風谷がいなきゃ、俺らの不手際のせいで大勢生徒が死んでたかもしれねえんだ。快いものじゃねえだろ」

 

 東風谷早苗。現在の雄英高校の悩みの種にして、紛糾の原因。

 襲撃事件を犠牲者なしで乗り越えることが叶ったのは彼女の功績であるが故に、誰しもが相応の感謝を抱いている。同時に、教師の不手際で生徒を危険に晒すという最大最悪のタブーを犯したことへの自戒も。

 

「はいはい、静かにおし。今は義理も人情も割り切りな。あの子に不審な点が多いのは翻らないんだよ」

 

 だからこそ彼女に対する感情は複雑になりがちだが──割り切れと、リカバリーガールは一喝する。

 事実は事実。生徒の未来に優先するものはなし。

 それに、どうしようもなく疑わしい現状を拭いたければ、どちらにせよ潔白を証明する他にない。

 

「予定通り、あたしから話すとするよ。といっても、資料を配布するだけさね。本人から聞けることは粗方確かめたと自負しているよ」

 

 異質なことはあれども、明確に東風谷早苗の異常が発覚した原因──それは、彼女が今もまだ生きていること。

 USJにおけるあの少女の負傷は凄まじく、水面への着弾の衝撃によるものだろうか、骨折は全身に及び、臓器や血管も引き千切られて破裂しており、出血量も致死に至って余りある量で、何なら心臓だって止まっていた。だというのに、彼女は正常に呼吸し、生命活動を続けていた。

 

 死と生が同居する矛盾。

 僅か一日で快癒する神秘。

 

 脳味噌を空っぽにして奇跡だと喜ぶには、些か奇怪に過ぎる。

 

「発言内容は資料を参照しな。塚内の妹に一芝居打ってもらったから、虚偽は含まれてないよ。真偽は兎も角ね」

 

 リカバリーガールは経過観察を理由に東風谷を保健室に呼び出し、嘘発見器の”個性”を持つ塚内真を研修に来た新人という名目で接触させ、いくつかの問診を行った。

 

「再生系の”個性”もしぶとくなるような”個性”も持っていない。回復が早かったのは人智を越えた偶然の仕業か、体質の賜物……脳無と同じように複数個性持ちの線はないのかしら」

「ないのさ。彼女の血を研究施設に運び入れて測定した結果、観測された個性因子は一種類だけ。馬鹿馬鹿しい想定を承知で”個性”が関与しない方法による超人化も鑑みて調べたけどね、唯一の成果は東風谷早苗が非常に健康的な人間だと判明したことのみなのさ」

 

 だからとて、謎が解き明かされるかは別の話。

 リカバリーガールが配布した資料には会話内容の文字起こしが記されており、興味深い内容もしばしば見受けられる。同時に、東風谷早苗の謎を深める内容でもあるが。

 

「脳無が真っ当な人間ではないと判断できた理由も風祝だから……ですか。嘘を吐いているならともかく、本心からの発言だとすると……解釈にも困りますね」

 

 心底から困ったといった面持ちで言葉を零すのは八木俊典。あまりにも道理から外れた発言内容に、知らず細長い顔にも皺が刻まれている。

 

『そういえばあんた、脳無が生きる屍だと見抜いていたそうじゃないか』

『まあ、はい。流石に生者と死者の区別くらいはつきますよ』

『だけどね、生物学的にはあれは生きていた。出で立ちは珍妙であれ、外見から断定できる要素はなかったはずだよ』

『そうですけど……死んだ生物って特有の気を纏うようになるんですよね。穢れというか、何というか……そういうのって、風祝をやってると分かるようになってくるんです。……というか、いつまで触診されるんですか?』

 

「嘘ニハナラナイヨウ誤魔化シテイル可能性モ考エラレルガ……”嘘発見器”ノ誤作動ヲ疑イタクナルナ」

 

 理解不能。ある種、東風谷早苗はその極点にいると言っても過言でない。

 ”嘘発見器”は対象が真実だと思っていることならば、事実と反していても反応しないが──だからとて、彼女の成したことを思えばイカれた宗教家の思い込みで片付けることもできない。

 

 必ず状況に符号する何かがあるはず。

 種も仕掛けもございません。正真正銘のマジックですじゃ通らせない。

 

「個性届はそれっぽく書いただけであり、自分の”個性”に関する認識も曖昧……明け透けに言えばいいってものではないんですけどね……。自分の力が神に由来するものだと思っており、隠す気もないという点は戦闘訓練の記録通りですか」

 

 だから、当然”神”の正体も暴き、現実に、常識に落とし込まねばならないのに──

 

「はぁ……考えれば考える程、本当に僕たちの想像の及ばない超常が関わってるとしか思えなくなるんですよね」

 

『あんた、個性届けはどうしたんだい。エネルギー弾のことなんか載ってなかったよ』

『あー。あれ、何回も突き返されるのが面倒で適当に出しちゃったんですよね。内容も覚えてないです』

『馬鹿だね、それで不利益を受けるのは自分だよ』

『と言われましても、私も自分の”個性”のことをあんまり理解してないですし』

『理解なんていらないよ。ただ出来ることを羅列しな』

『でもねえ、天地を操るのは神様の御力で……まあ多少は独力でも出来ますけど、それでも”個性”とは言い難いですし。身体強化や弾幕だって精々が才能でしょう? どっちかと言えば私という存在そのものの方が……いや因果関係からすると奇跡を……いやまあ何でもいいんですけど、やっぱり”個性”じゃないものを”個性”として書くのはやる気が起きないんですよねー』

『あんたねえ、”個性”じゃなければ一体何だっていうんだい』

 

 狂気に触れている者は知らず知らずのうちに狂い出し、狂者を理解せんとする者は必然的に狂気に堕ちるように。

 東風谷早苗という少女はあんまりにも純粋で、素直で、裏なんてこれっぽちも感じさせないから──劇毒となって教師達に襲いかかってくる。

 

「それで、こっちは東風谷早苗の身元調査なんだけどね」

 

 そこに記載される内容も、やはりまあ目を疑うもので。

 

 

 

───

──────

─────────

 十年前(五歳時)に祖父母の元へ移住。両親にも当たるが、絶縁を表明し、東風谷早苗に関する一切の話を拒絶したため原因は不明。

 その後、守矢神社の風祝としての活動を開始する。この守矢神社は地域住民も存在を把握していない忘れ去られた神社である。

 次二年以内に守矢神社へと移住。一人暮らしを開始し、八年前の祖父母の死後も続行。同時に小学校への登校頻度が激減し、布教活動に邁進する様子が散見される。

 以後暫くは頑張っている子供として地域住民からも心配されつつも愛されていたが、連続殺人事件の犯人として逃亡中の『毒雨』ナイトフォグ被害者の治療、また守矢神社に侵入した当該ヴィランの撃退を機に熱心な信者が俄かに増加し始める。

 その後も台風からの作物の保護、生き別れた兄弟との縁結び、旱魃時の雨乞い、廃トンネルの悪霊祓い、東北地方を中心に水稲に壊滅的被害を齎した未知の伝染病──後に個性事故と判明──の抑制など、様々な奇跡によって信仰を獲得し、ネット上でも都市伝説として評判を集める。尚、これらは信者からの証言を元に記述しているため、真偽の程は不明。また、ネット上で流布されるものも含め、守矢神社との関連性が見られる奇跡の一覧はp12に後述する。

 ただし、この信仰に関して、守矢神社の祭神は八坂加奈子、洩矢諏訪子の二柱とされるが、信者の間では東風谷早苗を現人神として祀る傾向にある。

 三年前、最寄りの中学校に進学するが一年次の四月、五月、六月に計四十八日登校後、欠席を続ける。担任を務めていた教師によると、真面目な良い子だったが、宗教的な言動が多かったため生徒からは避けられる傾向にあったとされる。この学校は守矢神社から直線距離にして8.7km離れており、守矢神社の宗教圏の外に位置する。

 一年前、神のお告げにより雄英高校ヒーロー科の受験を決心。無事合格し、今年四月に入学。

 

2. 守矢神社について

───

──────

─────────

 

 

「八坂加奈子、洩矢諏訪子の実在を示唆する言動が頻繁に見られるが、この二柱と思しき存在は確認されていない……か。はぁ……あまりに不審過ぎて、返って怪しくなくなってきたね。この奇跡の全てが事実とすれば……いや、証拠が伴っているものだけであっても実現するには途轍もなく大規模な組織が裏にいないと無理だよ。それも壊滅的なコスパの安っぽい悪巧みに労力を注ぎ込む癖に、自分たちの影は完全に隠し遂げる残念な組織が」

「全く現実的じゃないね。それこそ、東風谷の言い分が全て真実だと仮定するより現実的じゃない」

 

 畢竟、現実的じゃない、道理に適わない、あり得ない、それが成り立つはずがない──そういった否定へと収束してしまう。

 

 勿論、怪しいところは多分に含まれる。一部だけを切り取れば、まさにヴィランによる洗脳事件そのものだ。

 

 だが、同時に。東風谷早苗の発言も含め、これらの条件を満たせるナニカは果たして存在するのか──?

 存在したとしても、それだけの力を持つ組織が甚大なコストを投じて僅かな信者と雄英高校への内通者を作るだけだなんて無意味な行為をするだろうか──?

 

「私は可能性は三つに絞られると思っているのさ」

 

 前置き短く、根津校長は口を開く。

 

「まず、東風谷早苗の信仰は誰かに唆されるでもなく自発的に目覚めたものであり、その信仰の程度は非常に甚だしく、また、無自覚ながらも条件次第では全能を為す”個性”を持っている」

 

 一つ目は、希望的観測と共に。

 

「次に、東風谷早苗の背後には信仰を唆した何者かがおり、それは効率を無視するだけの愉快犯的性質を備え、また、全能に等しい”個性”を持っている」

 

 二つ目は、AFOのような──しかしヤツとは絶対的に異なる何者かを想定し。

 

「最後は、うん。とても奇妙なことに東風谷早苗の信仰対象は存在し、彼女の振るう力も、あらゆる謎も、なべて神様の仕業。この世には”個性”とも異なる超常が存在していて、我々が想像していたよりもファンタジーだったって説さ」

 

 三つ目は、我ながら可笑しな発言だと、苦笑を漏らして。

 

 いや、そもそも。それだけの事象を為せる”個性”を持っているのなら、人だろうと神だろうと些細な違いというものか。

 

気の抜ける現人神(デウス・インカルナートゥス)か、少女に執着する変質神(デウス・ペルウェルスス)か、正真正銘の神様(デウス・ウェールス)か、その三択というわけだね」

 

 どれも同じくらい荒唐無稽で、同じくらいの可能性を持つ想定だ。

 

「正気ですか? いくら”個性”が超常と言えど、あくまで身体能力の一つ。そんな巫山戯た力が存在していいはずが──」

「──君も彼女が常識で測れない手合いであることには気付いているだろう? 人間は”個性”の神秘さえも解き明かせていない分際で、全てを常識の範疇に押し込めようとする習性があるね。受け入れたまえよ、あるがままを」

 

 故にこそ、根津は告げる。

 

「明日、守矢神社で春祭りが執り行われるそうだね。折角だから奇跡と──可能なら神様も観光してこようと思うんだ。相澤くん、一緒に来るかい?」

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 さて、バス停から生徒達と行動を共にすることしばらく、相澤は守矢神社の近辺にまで到着したのだが……

 

「なんか、思ってたより人多いね?」

「私たちが想像しているようなものじゃない、小さな祭りとか言ってたのになあ……」

 

 車がすれ違うのもやっとな道に、先の方まで列を成して車が停まっている。駐車場が見当たらないとは言え行儀の悪い行為に、知らず相澤の眉間に皺が寄る。

 元々狭いにも関わらず、より制限された小路はたくさんの人でごった返していた。

 

 けれどそれは、大規模な寺社で開催される行事事とはまた違った雰囲気を醸している。

 浮ついてはいれど、決して軽薄ではなく。

 纏う衣服も実用的なものなれど、そこはかとなく真新しい綺麗さを伴っている。

 

 和やかに、されど緊張を帯びて数十の人間が進行する様はある意味シュルレアリスム的で。

 その全員が山中に呑まれていく光景は、精神衛生にも負荷を与えてきそうだ。

 

「……校長」

「案外人も少ないのさ。やっぱり立地が悪さをしていそうだね。車でも公共交通機関でも絶妙に来訪し難い、困った場所なのさ」

「でも多過ぎたら多過ぎたで神社のキャパを超えそうだし、これくらいが丁度良い気もするね」

「ははは! ワンマン経営の難なのさ」

 

 だというのにこの校長ときたら、和やかに生徒と談笑しやがって。

 相澤が一人警戒を続けているが馬鹿みたいではないか。

 楽しむことにこそ重きを置いているのではと邪推をするのも無理はなかろう。

 

 

「わあ! 雰囲気が全然違う! ちゃんと山道じゃなくて参道になってる!」

「駄洒落かしら?」

「梅雨ちゃんに賛同しとく?」

「さあん、どうだろ」

「流石に無理があるでしょ……」

 

 

 ぞろぞろ蟻のような行列が出来ている山道。

 木組みとロープによってそれなりに整備された道の両脇には幟が連なっている。妙に達筆な筆跡で記された字は、守矢神社、五穀豊穣、安全祈願、商売繁盛、八坂大神、洩矢大神と様々。

 

 さり気なく、それでいて注意深く周囲を観察しながら山中に足を踏み入れ──瞬間、明らかに変化した空気はどう受け止めればいいのだろうか。

 

 不浄と清浄、俗境と霊境、現世と幽世。

 三途の川が此岸と彼岸を別つように、透明で茫漠とした空気一枚を隔てて世界が変わった。

 

 ああ、全く合理的じゃない。不条理極まりない。

 

 一転、誰しもが黙り込んでしまって。梢のざわめきと小鳥の鳴き声が、ひしひしと耳朶を打つ。

 

「あれ? 皆どうしたの? 置いてっちゃうよー?」

 

 いや、誰しも……というわけではないようだ。

 

「葉隠……あんた、何ともないの?」

「ん? うん! めっちゃ神聖ーって感じするよねっ。ほらほら、こんな鳥肌立ってる! ぞっわーって!」

「私の毛も逆立ってるのさ! 普段より大きく見えないかい?」

「おお! そこはかとなくもふもふだ!」

 

 二人、透明人間と校長だけが朗らかに冗談を口にしている。

 相澤は自分の頭が固いことを自認している。学生時代から悪友達に幾度も指摘されてきた。

 

 だが、だからとて──こいつらの順応速度は頭が柔らかいとかそんな次元じゃないだろと合理を切り捨て感情に身を委ねてでも文句を言いたい。

 この二人は決して愚かにヒーローとヴィランの戦闘に近付く愚衆のように軽々な思考はしていないはずだ。真っ当に受け止め、かくあるものだと理解し、畏れも抱いた上での──それはそれ。

 

 割り切るにしても限度があると知れ。いや、マジで。

 

 

 

 そんなこんなで幟に囲われた参道を十分かニ十分程も歩けば、踏み固められた道に石階段が現れた。

 苔や草こそ生えてはいないものの、欠落や罅が目立つ様子は時の流れをひしひしと感じさせる。

 

「山道然り、よく手入れが行き届いているのさ。安全面に気を配るなら改善すべき点も多いけどね、一人で維持し続けているなら相当なものなのさ」

「守矢神社の石段、段数は四百と数十だっけ? 流石に毎日は無理だけど、毎週掃き掃除してるって言ってたね」

「四百!? 学校の階段が一階あたり二十段くらいだよね。その二十倍かあ……」

 

 幾度も曲がりくねりながらも遥か先まで続く石段は参拝客の体力をどっと奪うが、ここにいるのはプロヒーローとその卵。

 常緑樹に彩られ、涼やかな風が肌を撫でる参道をえっさほいさと登り詰め、やがて磨き上げられて仄かに艶めく石造りの鳥居を潜れば──そこは守矢神社。

 

 遅咲きの桜が満開に咲き誇る境内の──その拝殿の手前には信者達が詰めかけていて。

 拝殿の内には、敷かれた茣蓙に正座する風祝の少女と、数人の人影が。

 

 とりあえず一行は手水舎で清めを行うと、信者たちの方へと向かい。

──と、同時に東風谷が()の知らせでも受け取ったのだろうか。ばっと振り向くとすったかたーと駆け寄ってきて。

 

「丁度良いところに! でも八人は多いですし……根津校長と相澤先生と……あと、透ちゃんもですかね。貴方達は中に連行です!」

「ええ!?」

「なら、お言葉に甘えてお邪魔するのさ」

 

 何だかんだで三人だけが拝殿まで連れていかれ。

 

「掛け巻くも畏き伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 御禊祓へ給ひし時に生り坐せる祓戸の大神等 諸の禍事 罪穢有らむをば 祓へ給ひ清め給へと白す事ことを聞食せと 恐み恐みも白す」

 

 急転直下、東風谷早苗の涼やかな声が、澄んだ空に響き渡った。

 

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